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精霊の愛し子編

36. 穴掘り楽しいな

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 本日はお日柄もよく、魔法合戦日和です。お天気だよ、やったね!

 今日は土の子に騎士団で土属性の魔法を見せる日だ。つまりは王太子と会う日でもあるんだけど、オレの興味はウィオと部隊長さんの魔法合戦にすべて向いている。昨日から楽しみすぎて、遠足に興奮する子どもみたいになっている自覚はある。
 仕方ないよね、オレがこの世界に自分の正体を自覚して顕現してから十年くらいだし。弟くんとそんなに変わらないんだもん。

 きれいな服を着た土の子の家族は、騎士団の訓練場とはいえお城の隅っこにいるってことで、すでに緊張している。これで王族とか見たらどうなっちゃうんだろう。
 土の子の家族のために一緒に来ている行商人のおじちゃんもいい服を着て、どこかの商会の支店長って感じだ。場違いだと思うのですがと言っているけど、土の子の家族にとっては、ここにいる人たちの中で唯一の以前からの知り合いだから付き合ってあげて。

 土の子に土魔法を見せるために、騎士団の人が土属性の魔法で訓練場の地面を掘ったり均したりしている横で、オレも土を掘っている。
 だって、土が掘ってくれって呼んでいるんだ! ほりほり、ほりほり。

「ちびっこは、何をしているんです?」
「昨日から部隊長との手合わせを見るのが楽しみで、落ち着かなかったんだ」

 副隊長さんごめんね、オレ今、土を掘るのに忙しいんだ。爪でどんどん土がかき分けられていくのが楽しい!

「興奮すると本能が強くなるとか?」
「かもな。ルジェ、そろそろシェリスに怒られるぞ」

 気づくとオレがすっぽり入れるくらいの穴ができていた。つまりそれだけの量の土を掘りだしたわけで、その土が体にかかっている。
 しまった。今日は王太子に会うからってきれいなスカーフをつけてもらっていたのに、穴掘りに夢中になっちゃった。

 怒らないでほしいなーと思いながら執事さんに近づいていったら、一度お屋敷に帰りましょうねと満面の笑みで言われてしまった。
 やだよー。魔法合戦見たいのに。

『ウィオ、水かけて洗って』
「仕方がないな」

 そう言うと、ウィオがばしゃっと水をかけてくれた。バケツの水を一度にかける感じだ。ウィオに少しずつ水を降らせるようなコントロールを求めてはいけない。
 おかげでオレの高性能な毛皮が水をはじいて、あんまりぬれていない。でも表面の土は落ちたはずと思ったけど、執事さんには及第点をもらえなかった。

「坊ちゃま、少しずつかけていただけますか?」
「ウィオラスは苦手でしょうから私が」

 見かねて部隊長さんが代わってくれた。シャワーのように執事さんの手元にだけ水を降らせていく。すごいなあ。
 部隊長さんと執事さんの合体技で、土がついているところを重点的にぬらして洗っていく。
 相変わらず本体ちっちゃいな、って言われているのが聞こえるけど、初めてミディルの森で会ったときに川で洗ってくれた騎士かな。そんなことないよ、だいぶ大きくなったよ。

「リュカ様、部隊長を見習って細かいコントロールができるように頑張りましょうね。ウィオラスは繊細なコントロールが苦手なので、真似をしてはいけませんよ」
「はい!」

 火の子が素直にうなずいているけど、ウィオは副隊長さんの言葉に嫌そうな顔をしている。
 最近すごく表情に感情が現れるようになったよね。いいこといいこと。

 執事さんの風魔法で乾かされて、きれいにブラッシングされて、きれいなスカーフをつけられて、可愛い神獣様のでき上がりだ。執事さんありがとう!
 でもなんでスカーフの替えが用意されているんだろう。オレそんなに信用ないんだろうか。まあ実際必要になるようなことをしちゃったんだけど。

「ルジェ、準備はいいか? 陛下と殿下がいらっしゃっている」
『え?』

 気づくと、すでに観覧席に王様と王太子、それにお父さんとお兄さんたちがいた。どこから見られてたの?

『オレが穴を掘ってたのって見られてないよね?』
「部隊長の水で洗われているくらいからだ」

 よかった。穴掘りに夢中になっている神獣って、オレの可愛いイメージが崩れちゃう。

 気を取り直して、お澄ましして観覧席に向かう。また汚れるといけませんのでって執事さんに抱っこされてるから、オレは歩いてないけど。
 観覧席につくと、お父さんに手渡されたので、お父さんの膝の上にスタンバイだ。

 王様たちは土属性が目に現れている子が騎士団に来るというので視察に来たと説明して、後見になる予定のお兄さんが土の子を紹介して、という儀式めいたやり取りをしているけど、オレは王様の後ろにいる近衛団長さんに尻尾を振ってご挨拶だ。お久しぶりー。今日は近衛団長さんの剣の試合もあるから、頑張ってね。

 挨拶が終わって、緊張で倒れそうになっている土の子の家族を王様たちから離れたところに案内している間に、お父さんから質問された。

「ルジェくん、なんで洗われてたの?」
『ちょっと汚れちゃって』
「穴掘りに夢中になって、土まみれになりましたので」

 ウィオ! ごまかそうと思ったのに、なんで言っちゃうの!
 王様の後ろで近衛団長さんが笑ってるから、王様たちにも聞こえちゃったじゃない。ショック。

 お父さんが王太子をあらためて紹介してくれているけど、オレは穴があったら入りたい気分なので今は無理です。
 ちなみにオレが掘った穴は、土魔法が使える騎士がきれいに均してくれていたので入れない。
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