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精霊の愛し子編

28. 今後の対応方針

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 今後のことをお兄さんと話しているウィオを置いて、オレは火の子の部屋にいるお義姉さんのところへ向かった。

「ルジェちゃん、先ほどはありがとうございました」
『ううん、ごめんなさい。まさか手を出すとは思わなくて』
「リュカが火傷してしまうと思って。私も慌てていたのね」
『お兄さんたちが、今後のことを話しているよ』
「ありがとう。でも、リュカが目覚めたときに、そばにいてあげたいの」

 眠る火の子を優しい顔で見守る義姉さんを見て、きっと火の子は大丈夫だと、そう思えた。ウィオも子どものころ、こうしてお母さんに守られていたんだろう。
 もう火傷の痕もないお義姉さんの指先をぺろっとなめてから、親子の邪魔をしないように部屋を出た。

 廊下に出ると、追いかけてきたウィオが待っていた。お兄さんは、一度頭を冷やしたいと言って、自分の部屋に入ったそうだ。

「兄上が、すまない」
『怒ってないよ。お義姉さんに怪我をさせたこと、それで火の子が傷ついたことはオレの落ち度だから』
「そうだが」
『ウィオ、オレはウィオの望みをかなえる。だから、どうしたいか決めてくれれば、その通りにするよ。ウィオがずっと火の子のそばについていたいなら一緒にいる。家でも新しく作る学校でも精霊を排除するならそうする。どうしたいのか、ウィオが思うように決めて良いんだよ。今回はオレが勝手に判断しちゃってごめんね』

 オレはウィオの飼い狐だからね。
 ウィオの肩に飛び乗って、頬にすりすりしていると、胸に抱きなおされた。気持ちが落ち着くように、もふっていいよ。


 オレたちの部屋は離れにあるが、火の子がこの家で暮らすようになってから、本館のほうにも部屋を用意してもらっている。ウィオから離れるのを不安に思う火の子のためだ。
 その部屋で、ウィオに甘えていたら、執事さんがオレたちを呼びに来た。火の子が目覚めて、ウィオにそばにいて欲しいと言っているそうだ。
 ウィオはオレを抱いて、火の子の部屋に急いだ。

 部屋に入ると、火の子はベッドの奥のほうに、身体を小さくして丸まっていた。お義姉さんが呼びかけているけど、決して出てこようとしない。

 まずはウィオが部屋中に魔力を広げて凍らせた。それに気づいた火の子が、恐る恐る顔を上げて、ウィオを見た。
 大丈夫、出ておいで。その声にウィオの差し出した手を取って、おずおずと出てきた。
 けれどお義姉さんのそばには近寄ろうとしない。また傷つけることが怖いのだろう。

「リュカ、悪かった。あのとき、義姉上が手を出すと思っていなくて、火傷させてしまった」
「ちがう、おれがまりょくをおさえられなくて」
「リュカ、俺ではなくて私だ。約束しただろう、暴走したら止めると。でも、リュカが自分で止められると思ったから、私は止めなかった。オリュフェスは私の氷が守っていた」
「リュカ、ごめんなさいね。私が手を出してしまったから」
「はは上はわるくありません」
「そうだな、リュカも義姉上も悪くない。悪いのは約束を守れなかった私だ。リュカは魔力を自分で止められただろう。偉かったぞ」

 あのとき、お義姉さんが火傷したことに驚いた火の子は、魔力を自分で止めた。無意識だったとしても、自分で止めたのだ。それは自信を持っていい。

「え、おれ、私はなにもしてません……」
「あのとき、何を思った」
「はは上がやけどをしてしまうって、火にきえろっておもって」
「それだ。リュカが消したんだ。偉いな」

 火の子は半信半疑だが、ウィオもオレも何もしてない。ウィオが周囲に氷を張っていたけれど、それで火を消すことはできない。あの火は火の子の魔力が燃料だからだ。
 お義姉さんがオレのほうを見たので、オレじゃないよと首を振った。

「リュカ、仲直りに私とハグをしましょう。いらっしゃい」
「はは上……」
「私と仲直りした後は、オリュフェスよ。貴方の大事なものを取り上げようとしたのでしょう。しっかり叱っておきましたから、仲直りしてあげてちょうだい」

 恐る恐るお義姉さんに近づいた火の子を抱きしめたお義姉さんは、弟くんを呼んで、弟くんとも仲直りのハグをさせた。弟くんが目を覚ましたと聞いて部屋に来ていたお姉ちゃんが、それを見て私もと乱入して、三人で団子になっている。
 よし、オレも入ろう!

 みんなでわちゃわちゃしていたら、部屋の入り口でお兄さんがこっちを見ていて、目が合うと深々と頭を下げられた。
 心配しなくても大丈夫だよ。この家族がいる限り、火の子は大丈夫。
 だからウィオ、氷を消して。もふもふ湯たんぽなオレで暖をとる三人にそろそろ潰されそうだから、助けて。


 お兄さんたちは、このまま家の中では魔力の暴走を抑えないで、怪我だけ防ぐことに決めた。
 同時にウィオが魔法の使い方を教えることになった。今まで魔力操作しか習ってきていないが、少しずつ魔法を使う感覚を覚えたほうが、暴走を抑えるのにも役立つだろうというウィオの判断だ。
 オレの力を当てにすることに後ろめたさを感じながらも、火の子の将来のためにお願いします、と頭を下げたお兄さんの横で、ウィオも一緒に頭を下げた。

 ウィオが願うことなら、どんなことだってオレは力を貸すよ。人の道から外れることはちょっと躊躇しちゃうけど、オレはウィオの飼い狐だからね。
 だからそんな風に頭を下げなくていいんだ。
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