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精霊の愛し子編

25. 教会での出迎え

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「かえりました」
「おかえり。リュカ、行きはごめんね。オレのせいで向こうでの日にち、短くなったよね。ごめんなさい」

 水の子が飛んできて、火の子に抱き着いた。どうやら出発時のごたごたについてはちゃんと反省したようだ。
 周りの神官たちも、ウィオに火の子の護衛の感謝と行きのトラブルについての謝罪を伝えている。

「オルデキアでのこと教えて。これからはずっとここにいるんでしょう?」

 その言葉に、火の子がウィオを見た。ウィオは何も言わないので、火の子もどうしていいのか分からず、黙っている。

「リュカ?」
「カイ……、私は……」
「リュカはここにいるよね? ずっと一緒だよね?」

 まずはお部屋に入りましょう、と微妙な空気を感じたお世話係の神官が割って入った。いきなりここで話すことではないだろう。

 オルデキアから運んできた荷物を、神官に託す。ウィオは火の子の部屋に立ち入らないようにしている。そこは、火の子の、オルデキアとは切り離された場所、という線引きだ。
 けれど、部屋にはたくさんのお兄さんが送った荷物があるはずだ。今回も、お披露目の服とは別に日常に使える服をたくさん仕立て、運んできた。それを火の子が着る機会があるかどうかに関わらず用意している。ほとんどの服は、そのまま孤児院の子どもに渡されていると知っていてもだ。

「おじ上、あの……」
「友達なら自分で自分の思っていることを話しなさい。分かってもらえるまで」
「はい」
「また来る」
「はい、ありがとうございました」

 ウィオの場合、突き放しているのか信頼しているのか分かりづらいが、多分信頼しているのだろう。何も考えてない気もするけど。
 オレからの励ましとして火の子の手にすりすりしてから、ウィオの肩に飛び乗った。


 施設長の部屋に招かれたウィオは、お兄さんからの手紙を渡し、火の子がオルデキアに帰って学校に通いたいと思っていることを伝えた。
 お兄さんの手紙には、学園都市のことは書いていない。まだ計画が動き出したばかりで確実ではないからだ。

「しかし、オルデキアでは辛い思いをすることもあると、出発の際におっしゃっていましたよね」
「それでも家族といたいとあの子が望むのであれば、私はその望みをかなえる手伝いをするだけです」
「それはまだ辛い経験をしたことがないからでは」
「いえ、実際に茶会で同年代の子どもに何度か嫌味を言われていましたし、一度はそれで暴走しかけました」
「なぜ、そのようなことを許しておくのですか!」
「それがオルデキアでの現実だからです。それでもオルデキアに戻りたいのか、現実を見せずに夢だけ持たせることはできません」

 生まれたときからここで育ったわけではない火の子をここまで心配してくれる施設長も神官たちも、神子たちのことを考えてくれるいい人だ。ちょっと神子たちに甘いところはあるけど、それはこの国での神子の扱いがそういうものだからだろう。
 けれど、一度魔力を暴走させて人を傷つけた記憶のある火の子は、その経験のないここの神子たちよりも、ウィオに親近感を持っている。その記憶がなければここで神子として生きていくことも選べたのかもしれないが、おそらく神子たちにはどこか根本でなじめないものを感じている。それは水の子に対してもそうだ。
 違和感に気づかない振りをして、このままこの優しい檻の中で生きていくこともできたが、火の子は外に出ることを望んだ。

「将来オルデキアで貴族として生きるつもりなら、オルデキアの学校に通うのも選択肢の一つだと思います」
「そうですが、火の神子様が辛い思いをされるのは」
「そのときはルジェも私もオルデキアに帰ります」

 施設長はウィオが、というよりオレが火の子のそばにいるというのを聞いて、少し安心したようだった。

 火の子は、今回の旅行で成長した。出発時の水の子のこと、恐怖を乗り越えての家族との再会、貴族の子どもたちとのお茶会、ずっと不安だったはずだが、根を上げずに最後までこなした。それは火の子の自信になっただろう。
 そしてお兄さんたち家族の愛情を、温度をもって知っただろう。今まで、手紙や贈り物でしか感じることのなかった愛情を。

 十歳から学校に行くとして、九歳からの一年間はオルデキアで準備が必要だ。多少は国外にいたということで目をつぶってもらえるとしても、貴族の子どもとして最低限の知識は学んでおかないと、階級社会ではトラブルになってしまう。
 火の子が九歳になると、水の子は十二歳で学校に行き始めるので、タイミング的にはちょうど良い。後一年半ここで神子として守られて生活し、それから荒れた海へとこぎだすのも悪くはないだろう。
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