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8章 ローズモス編
4. お茶会
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「聖女様をこうしてこの国にお招きできること、大変光栄に存じます」
王城に着くと、ローズモス国王が直々に迎えに出てくれていた。
国王といえど、神に遣わされた聖女よりは身分が下になるので、謁見の間ではなくこうして迎えに出ることで、歓迎の意を表すのだそうだ。
トルゴードの時はターシャちゃんとジェン君を通していろいろ打ち合わせた後で、謁見の間で貴族の前で会ったけど、あの時はこちらも住まわせて欲しいという状況だったので、どちらかというと対等な感じでの顔合わせだった。でも今回は、完全に理沙が招待されたので来てあげた、という感じだ。
王様の横には同年代の王妃様、王様よりも少し若い女性が二人、そしてターシャちゃんのお姉さんのお姫様がいる。ってことは、あの二人も側妃なのか。大奥みたいにドロドロしていたりしないのか、他所様のおうちながら気になってしまう。
それにしてもターシャちゃんのお姉さんは相変わらずゴージャス美人だ。
「お母さん、どうしよう」
「どうしたの?」
「ドレスを用意してくれるって言ってたけど、私あの中に入るの嫌よ。花と雑草みたいになりそう」
「大丈夫。私から見れば理沙が一番可愛いから」
「そういう親バカな発言は全く励ましにならないの」
ローズモスの王様とトルゴードの王子様との間でやり取りが行われている後ろで、お姫様の美人っぷりに気圧された理沙が後ろ向きな発言をしている。
今はベールで顔を隠しているから、こそこそ話していても遠くからは分からない。
今回も大勢の前に出るときは理沙の顔が分からないようにしてもらうけれど、小さなパーティーでは素顔を晒す予定なのだ。トルゴードのお城では顔を隠していないので、ローズモスでも隠さないことになっている。
お忍びなどで困らなければ、そこまで神経質に隠す必要はないだろう、という判断だ。
だけど素顔を晒してあの美人さんの中に入るのは、私もちょっと遠慮したい。
挨拶が終わって、滞在中に貸してもらう部屋へと案内されるので、カーラちゃんたちいつもの護衛の人たちに囲まれて歩く。
案内されたそこは、足を踏み入れるのを躊躇するくらい部屋が豪奢だった。
「えっと、ここ、ベルサイユ宮殿?」
「世界遺産みたいね。すごいわ」
ローズモスは芸術や文化でも流行の最先端だとは聞いていたけど、クインスやトルゴードにはない繊細な優美さがある。
「空からの魔物の襲撃に備える必要がないので、窓が大きいのです」
「言われてみれば」
「装飾は、ローズモスが豪華というよりはトルゴードとクインスが質実剛健なのだと思います」
「なるほど」
お部屋の案内についてきてくれたターシャちゃんが解説してくれるけど、ここにきてもやはり魔物なのね。日本の建物が耐震性を重視するのと似ているのかもしれない。
こんな豪華なお部屋でくつろげるほどセレブじゃないんだけど、と思いながらも、やっと馬車から解放されたのでのんびりしたいとベッドに身体を投げ出した。
「マサコ様、マッサージをしましょうか?」
「ロニアも疲れているでしょう。しばらく休んでからお願い」
ローズがお茶を入れましょう、と精力的に動いてくれるけど、やっぱり若いっていいわねえ。
「お母さん、よくここでくつろげるね」
「どんなに豪華でも腰が痛いのは治してくれないもの」
「マッサージしてあげるわ」
寝転がった私の横に座って、理沙が見よう見まねで腰のマッサージをしてくれる。
「聖女様のマッサージだとよくなる気がするわ」
「浄化してみる?」
そう言って理沙は私の腰に向かって祈ってくれた。
ふわっと光がベッドの周りを包んだけど、体調に変わりはないように思う。
「どう?」
「変わらないわね」
ここで効いたなんて言ったら、今後理沙が毎日祈ってくれるかもしれないから正直に言っておこう。
だけど、残念といいながら腰を揉んでくれるその気持ちだけで治る気がするわ。
翌日は、お昼過ぎから王様たちとお茶だ。
こんな部屋では眠れないと言っていた理沙も、疲れていたのかベッドに入るとすぐに寝息を立てて、翌朝までぐっすりと眠っていた。
トルゴードから用意してきたドレスに身を包んで、お茶会へ出席する。実はランチに誘われたけど、偉い人とご飯なんて緊張するから遠慮したいと言ってお茶にしてもらった。
ランチなどマナーが気になって食べることもしゃべることも出来なくなりそうだ。
「レリチアから聞いておりましたが、本当にお可愛らしい。レリチアと一歳違いだそうですね」
「はい」
王妃様が積極的に話しかけてくれるんだけど、理沙が緊張でカチンコチンになっている。
王様がやけに貫禄があるというのもあるんだけど、王妃様と側妃の二人がいかにも貴婦人という感じで、そこにフランス人形のようなお姫様もいるのだ。視界がとても華やかで、気を抜くと飲み込まれそうだ。
「陛下、聖女様にお庭をご案内してもよろしいでしょうか?」
「そうだね。レリチア、お願いしよう」
理沙の緊張を読み取って、お姫様が理沙をお庭へと連れだしてくれた。
ということは、私がひとりでこの王様たちのお相手をするということだ。
トルゴードの王子様はローズモスの王子様とお仕事の話をしているらしいし、ターシャちゃんは理沙とお姫様と一緒にお庭へ行ってしまった。ジェン君はいるけど、身分的に口は出せないだろうし。
まあ何とかなるでしょう。困ったときは日本人の得意技、笑ってごまかそう。
「マサコ様、この国はいかがですか?」
「広大な農地と、装飾がとても繊細なことに驚いています」
「聖女様のお国では珍しいのですか?」
「私たちの国は山が多いのですが、他の国にはありました。装飾も同じですね」
「聖女様はとても絵が上手だと伺っております。芸術に力を入れたお国だったのですか?」
「望めば指導を受けられる環境はあります」
多分聞きたいのは、理沙の絵本と紙芝居だろう。それは明日、披露することになっている。
トルゴードの聞き取り調査で分かっているけど、下手に答えるとそれは何だと話がどんどん脱線していくので、学校での授業や漫画の文化には言及したくない。
それでふわっとした答えを返したけれど、答えたくないと取られたのかそれ以上詳しくは聞かれることはなかった。
その後は当たり障りのない、トルゴードでの生活について尋ねられたら答えるような形で雑談をしていた。
クインスとベイロールについての話題はおそらく避けてくれたのだろう。
理沙がお庭から帰ってきたところで、お茶会は終わった。
王城に着くと、ローズモス国王が直々に迎えに出てくれていた。
国王といえど、神に遣わされた聖女よりは身分が下になるので、謁見の間ではなくこうして迎えに出ることで、歓迎の意を表すのだそうだ。
トルゴードの時はターシャちゃんとジェン君を通していろいろ打ち合わせた後で、謁見の間で貴族の前で会ったけど、あの時はこちらも住まわせて欲しいという状況だったので、どちらかというと対等な感じでの顔合わせだった。でも今回は、完全に理沙が招待されたので来てあげた、という感じだ。
王様の横には同年代の王妃様、王様よりも少し若い女性が二人、そしてターシャちゃんのお姉さんのお姫様がいる。ってことは、あの二人も側妃なのか。大奥みたいにドロドロしていたりしないのか、他所様のおうちながら気になってしまう。
それにしてもターシャちゃんのお姉さんは相変わらずゴージャス美人だ。
「お母さん、どうしよう」
「どうしたの?」
「ドレスを用意してくれるって言ってたけど、私あの中に入るの嫌よ。花と雑草みたいになりそう」
「大丈夫。私から見れば理沙が一番可愛いから」
「そういう親バカな発言は全く励ましにならないの」
ローズモスの王様とトルゴードの王子様との間でやり取りが行われている後ろで、お姫様の美人っぷりに気圧された理沙が後ろ向きな発言をしている。
今はベールで顔を隠しているから、こそこそ話していても遠くからは分からない。
今回も大勢の前に出るときは理沙の顔が分からないようにしてもらうけれど、小さなパーティーでは素顔を晒す予定なのだ。トルゴードのお城では顔を隠していないので、ローズモスでも隠さないことになっている。
お忍びなどで困らなければ、そこまで神経質に隠す必要はないだろう、という判断だ。
だけど素顔を晒してあの美人さんの中に入るのは、私もちょっと遠慮したい。
挨拶が終わって、滞在中に貸してもらう部屋へと案内されるので、カーラちゃんたちいつもの護衛の人たちに囲まれて歩く。
案内されたそこは、足を踏み入れるのを躊躇するくらい部屋が豪奢だった。
「えっと、ここ、ベルサイユ宮殿?」
「世界遺産みたいね。すごいわ」
ローズモスは芸術や文化でも流行の最先端だとは聞いていたけど、クインスやトルゴードにはない繊細な優美さがある。
「空からの魔物の襲撃に備える必要がないので、窓が大きいのです」
「言われてみれば」
「装飾は、ローズモスが豪華というよりはトルゴードとクインスが質実剛健なのだと思います」
「なるほど」
お部屋の案内についてきてくれたターシャちゃんが解説してくれるけど、ここにきてもやはり魔物なのね。日本の建物が耐震性を重視するのと似ているのかもしれない。
こんな豪華なお部屋でくつろげるほどセレブじゃないんだけど、と思いながらも、やっと馬車から解放されたのでのんびりしたいとベッドに身体を投げ出した。
「マサコ様、マッサージをしましょうか?」
「ロニアも疲れているでしょう。しばらく休んでからお願い」
ローズがお茶を入れましょう、と精力的に動いてくれるけど、やっぱり若いっていいわねえ。
「お母さん、よくここでくつろげるね」
「どんなに豪華でも腰が痛いのは治してくれないもの」
「マッサージしてあげるわ」
寝転がった私の横に座って、理沙が見よう見まねで腰のマッサージをしてくれる。
「聖女様のマッサージだとよくなる気がするわ」
「浄化してみる?」
そう言って理沙は私の腰に向かって祈ってくれた。
ふわっと光がベッドの周りを包んだけど、体調に変わりはないように思う。
「どう?」
「変わらないわね」
ここで効いたなんて言ったら、今後理沙が毎日祈ってくれるかもしれないから正直に言っておこう。
だけど、残念といいながら腰を揉んでくれるその気持ちだけで治る気がするわ。
翌日は、お昼過ぎから王様たちとお茶だ。
こんな部屋では眠れないと言っていた理沙も、疲れていたのかベッドに入るとすぐに寝息を立てて、翌朝までぐっすりと眠っていた。
トルゴードから用意してきたドレスに身を包んで、お茶会へ出席する。実はランチに誘われたけど、偉い人とご飯なんて緊張するから遠慮したいと言ってお茶にしてもらった。
ランチなどマナーが気になって食べることもしゃべることも出来なくなりそうだ。
「レリチアから聞いておりましたが、本当にお可愛らしい。レリチアと一歳違いだそうですね」
「はい」
王妃様が積極的に話しかけてくれるんだけど、理沙が緊張でカチンコチンになっている。
王様がやけに貫禄があるというのもあるんだけど、王妃様と側妃の二人がいかにも貴婦人という感じで、そこにフランス人形のようなお姫様もいるのだ。視界がとても華やかで、気を抜くと飲み込まれそうだ。
「陛下、聖女様にお庭をご案内してもよろしいでしょうか?」
「そうだね。レリチア、お願いしよう」
理沙の緊張を読み取って、お姫様が理沙をお庭へと連れだしてくれた。
ということは、私がひとりでこの王様たちのお相手をするということだ。
トルゴードの王子様はローズモスの王子様とお仕事の話をしているらしいし、ターシャちゃんは理沙とお姫様と一緒にお庭へ行ってしまった。ジェン君はいるけど、身分的に口は出せないだろうし。
まあ何とかなるでしょう。困ったときは日本人の得意技、笑ってごまかそう。
「マサコ様、この国はいかがですか?」
「広大な農地と、装飾がとても繊細なことに驚いています」
「聖女様のお国では珍しいのですか?」
「私たちの国は山が多いのですが、他の国にはありました。装飾も同じですね」
「聖女様はとても絵が上手だと伺っております。芸術に力を入れたお国だったのですか?」
「望めば指導を受けられる環境はあります」
多分聞きたいのは、理沙の絵本と紙芝居だろう。それは明日、披露することになっている。
トルゴードの聞き取り調査で分かっているけど、下手に答えるとそれは何だと話がどんどん脱線していくので、学校での授業や漫画の文化には言及したくない。
それでふわっとした答えを返したけれど、答えたくないと取られたのかそれ以上詳しくは聞かれることはなかった。
その後は当たり障りのない、トルゴードでの生活について尋ねられたら答えるような形で雑談をしていた。
クインスとベイロールについての話題はおそらく避けてくれたのだろう。
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