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8章 ローズモス編
2. アピールポイント
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ローズモスに向けて出発だ。
今回もベイロールにもついてきてくれた王子様とお妃様が一緒に来てくれる。ローズモス方面には浄化が必要な所はほとんどないので、今回は出発から一緒だ。
つまり、王城を出る行列がすごいことになっている。
聖女だけでなく王族、さらに今回ジェン君は騎士ではなくターシャちゃんの旦那様として参加なので宰相子息夫妻も加わって、その護衛とお付きの人がたくさん、持って行く荷物も大量だ。
警護が大変なので開けてはいけないと言われ閉じている馬車の窓の外から「聖女さまー」「王子さまー」と歓声が聞こえる。大行列に、かなりの人が集まってきているらしい。
理沙の絵本と紙芝居の準備は、紙芝居だけを仕上げることにして、旅の途中でなんとか完成しそうなところまで出来ている。
紙芝居はこの世界にないものなので、絵本よりも優先して試作品を作ることになったのだ。絵本は、ここに紙芝居のこの絵が入りますといえば想像できるという判断だ。
絵本も紙芝居も知っている私からすれば、絵本のほうが文章と絵本の比率など想像が難しいと思っていたので、やっぱり細かい打ち合わせが必要だなと再認識することになった。
理沙も旅の時の荷物などを細かく確認していた。
キャリーケースを持たせれば旅と思ってもらえるのは、たとえ自分が使ってなくてもそれがよくある旅のスタイルだと知っているからだ。触れることのできる情報が身分によって異なると、共通認識が作られにくいので、どの層を対象にするかで絵を変える必要がありそうだ。
国境の一つ手前の街で、紙芝居の絵が完成した。
「リサ様、ついに完成されたのですね」
「なんとかギリギリ間に合いました。まだ手直ししたいところはありますけど」
「とても素敵ですわ。これを子どもたちに見せながら、お話を聞かせるのですね」
実演してほしいと言われて、私がやって見せることになったのだけど、このお話の詳細を私は知らない。
「むか~しむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました」
「お母さん、話が違うわよ」
「だって知らないもの」
お妃様がくすくす笑っているけど、高貴な人は笑い方もお上品だ。
「お芝居のように話すのですね。私も子どもたちで練習して、孤児院への慰問の際に披露してみましょう」
そしてやっぱり王族は慰問とかするのね。
「こうしてお城を離れて、お子さんは寂しがっていませんか?」
「それが王族の務めですから」
そういえばロニアが、高位の貴族になるほど親との関係が希薄で乳母に懐くって言っていたけど、王族なんて貴族のトップだから親子関係も私たちが思うものではないのだろう。そもそも政略結婚が普通のようだし。
「王族になって一番大変なことって何ですか?」
「そうですね、やはり常に見られていることでしょうか。不用意な言動が国の評判にかかわりますので気が抜けませんので」
そうよねえ。芸能人だったら自分の評判が下がるだけだけど、王族だと国の評判が下がってしまう。一挙手一投足まで気を遣うでしょうね。
王子妃となることが子どものころから決まっていたから、そういう教育をされてきたそうだけど、実際になってみるとやっぱり大変だったらしい。
でも子どものころから婚約していたってことは、婚姻の自由だけでなく、職業選択の自由がないってことよね。
きっと彼女たちから見れば、大人しくお城で養われることを良しとせず仕事を探そうとしている私たちは特異に映るんだろう。
けれど私たちからすれば、自分の将来を自分で決める権利を奪われていることが気になってしまう。
今のところ、ローズモスから帰ったら私はやることがなくなる。
今も、理沙と一緒に旅をしているけど、理沙のメンタル面を除けば私がいる必要はない。
「ねえロニア、いざとなったら、ロニアに弟子入りして侍女になれるかしら」
「無理ですね」
ばっさりと切り捨てられた。相変わらず遠慮がないけど、納得のいく説明を求めるわ。
「まず、聖女様のお母様に傅かれて問題ない相手となると、聖女様しかいらっしゃいません。リサ様がそれを良しとされると思えません」
「正論だわ」
私は一般人の積もりで仕事を探しているけど、周りはそうは思わないものね。
さすがに護衛もなく本当に一般人として生きていけるとは思っていないので、働く場所はお城の中が誰にとっても平和でしょう。そうなると侍女くらいしか思いつかなかったんだけど、無理そうだ。
転職活動は、自分自身を商品として売り込むものだと聞いたことがあるので、自分を商品として考えると、私のアピールポイントは何になるのか。
未経験で雇ってもらうとなれば、自分にしかできないことというのがアピールポイントだと思うけど、私にしかできないことはなんだろう。
やっぱり自動翻訳されている言語関係になるんだろうか。
「リサ様もマサコ様も働かなくてもいいのに働こうとされるなんて、勤勉ですよね」
「只より高い物はないっていう諺があるのよ」
無償で与えられるものが大きすぎて、後から無理を言われそうで怖いのだ。
聖女という身分の価値を一番理解していないのは私たちなのだろう。
今回もベイロールにもついてきてくれた王子様とお妃様が一緒に来てくれる。ローズモス方面には浄化が必要な所はほとんどないので、今回は出発から一緒だ。
つまり、王城を出る行列がすごいことになっている。
聖女だけでなく王族、さらに今回ジェン君は騎士ではなくターシャちゃんの旦那様として参加なので宰相子息夫妻も加わって、その護衛とお付きの人がたくさん、持って行く荷物も大量だ。
警護が大変なので開けてはいけないと言われ閉じている馬車の窓の外から「聖女さまー」「王子さまー」と歓声が聞こえる。大行列に、かなりの人が集まってきているらしい。
理沙の絵本と紙芝居の準備は、紙芝居だけを仕上げることにして、旅の途中でなんとか完成しそうなところまで出来ている。
紙芝居はこの世界にないものなので、絵本よりも優先して試作品を作ることになったのだ。絵本は、ここに紙芝居のこの絵が入りますといえば想像できるという判断だ。
絵本も紙芝居も知っている私からすれば、絵本のほうが文章と絵本の比率など想像が難しいと思っていたので、やっぱり細かい打ち合わせが必要だなと再認識することになった。
理沙も旅の時の荷物などを細かく確認していた。
キャリーケースを持たせれば旅と思ってもらえるのは、たとえ自分が使ってなくてもそれがよくある旅のスタイルだと知っているからだ。触れることのできる情報が身分によって異なると、共通認識が作られにくいので、どの層を対象にするかで絵を変える必要がありそうだ。
国境の一つ手前の街で、紙芝居の絵が完成した。
「リサ様、ついに完成されたのですね」
「なんとかギリギリ間に合いました。まだ手直ししたいところはありますけど」
「とても素敵ですわ。これを子どもたちに見せながら、お話を聞かせるのですね」
実演してほしいと言われて、私がやって見せることになったのだけど、このお話の詳細を私は知らない。
「むか~しむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました」
「お母さん、話が違うわよ」
「だって知らないもの」
お妃様がくすくす笑っているけど、高貴な人は笑い方もお上品だ。
「お芝居のように話すのですね。私も子どもたちで練習して、孤児院への慰問の際に披露してみましょう」
そしてやっぱり王族は慰問とかするのね。
「こうしてお城を離れて、お子さんは寂しがっていませんか?」
「それが王族の務めですから」
そういえばロニアが、高位の貴族になるほど親との関係が希薄で乳母に懐くって言っていたけど、王族なんて貴族のトップだから親子関係も私たちが思うものではないのだろう。そもそも政略結婚が普通のようだし。
「王族になって一番大変なことって何ですか?」
「そうですね、やはり常に見られていることでしょうか。不用意な言動が国の評判にかかわりますので気が抜けませんので」
そうよねえ。芸能人だったら自分の評判が下がるだけだけど、王族だと国の評判が下がってしまう。一挙手一投足まで気を遣うでしょうね。
王子妃となることが子どものころから決まっていたから、そういう教育をされてきたそうだけど、実際になってみるとやっぱり大変だったらしい。
でも子どものころから婚約していたってことは、婚姻の自由だけでなく、職業選択の自由がないってことよね。
きっと彼女たちから見れば、大人しくお城で養われることを良しとせず仕事を探そうとしている私たちは特異に映るんだろう。
けれど私たちからすれば、自分の将来を自分で決める権利を奪われていることが気になってしまう。
今のところ、ローズモスから帰ったら私はやることがなくなる。
今も、理沙と一緒に旅をしているけど、理沙のメンタル面を除けば私がいる必要はない。
「ねえロニア、いざとなったら、ロニアに弟子入りして侍女になれるかしら」
「無理ですね」
ばっさりと切り捨てられた。相変わらず遠慮がないけど、納得のいく説明を求めるわ。
「まず、聖女様のお母様に傅かれて問題ない相手となると、聖女様しかいらっしゃいません。リサ様がそれを良しとされると思えません」
「正論だわ」
私は一般人の積もりで仕事を探しているけど、周りはそうは思わないものね。
さすがに護衛もなく本当に一般人として生きていけるとは思っていないので、働く場所はお城の中が誰にとっても平和でしょう。そうなると侍女くらいしか思いつかなかったんだけど、無理そうだ。
転職活動は、自分自身を商品として売り込むものだと聞いたことがあるので、自分を商品として考えると、私のアピールポイントは何になるのか。
未経験で雇ってもらうとなれば、自分にしかできないことというのがアピールポイントだと思うけど、私にしかできないことはなんだろう。
やっぱり自動翻訳されている言語関係になるんだろうか。
「リサ様もマサコ様も働かなくてもいいのに働こうとされるなんて、勤勉ですよね」
「只より高い物はないっていう諺があるのよ」
無償で与えられるものが大きすぎて、後から無理を言われそうで怖いのだ。
聖女という身分の価値を一番理解していないのは私たちなのだろう。
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