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6章 ベイロール編
3. 恋の予感
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ベイロール王国での初めての浄化のために、王都から移動中だ。
ベイロールは、トルゴードと接する国境とは反対側の湿地のほうに魔物が出る。最初は王都に近い辺りを浄化して様子を見て、その後本格的に湿地へと浄化に行く予定だ。
「聖女様、どうぞお手を」
「あ、りがとうございます……」
ベイロールの第八王子ことマー君王子が馬車に乗り込む理沙に手を差し出している。
装飾された豪華な馬車の前で、仕立てのよいひらひらの服に身を包んだ王子様が手を差し出しているのは、とても絵になる。
理沙は、デイジーちゃんの王子様ごっこにはあんなにノリノリに付き合っていたのに、今は王子様の手を取るのも恥じらっていて可愛い。クインスでの辛い経験の影響はなさそうで、それだけは一安心だ。
浄化にはマー君王子がついてくるそうで、ベイロールの歓迎パーティーが終わったら理沙とは別行動でトルゴードへ帰る予定になっていたトルゴードの第二王子夫妻も同行することになった。多分、理沙がこの国の王子様と言い感じになりそうな雰囲気を察して残ったんじゃないかと睨んでいる。
実は、理沙がもしベイロールへの滞在を希望してもトルゴードは決して邪魔はしないので、その時は相談してほしいと出発前に言われていた。この事態を予想したわけではないだろうけど、この後クインスとローズモスにも行くことになっているし、護衛も含めて調整が必要になるからだろう。
理沙は途中で仕事を投げ出したりする子じゃないので、クインスやローズモスに行かないと言い出したりはしないだろうけど、マー君王子がついてくることになったらややこしそうだ。
「ねえターシャちゃん、あれってやっぱりそうよね」
「可能性は高いかと」
「甘酸っぱいわね」
ターシャちゃんもそう思っているようだ。私たちの会話が聞こえていた第二王子夫妻も頷いているので、誰が見てもそうなんだろう。
「予定を変えることになってしまって申し訳ございません」
「マサコ殿、お気になさらずに。来るときは間に合わず聖女様の浄化を拝見できなかったので、とても楽しみです」
第二王子殿下、笑顔が爽やかだわ。
謝った私に対して、気を遣わないようにと言葉を選んでくれるし、不必要に理沙に近寄ったりしないし、この王子様は信用できる気がする。
理沙が馬車に乗り込んだので、私たちも乗らなければ出発できない。また後ほどと挨拶して、それぞれの馬車へと向かう。
婚約もしていない男女が同じ馬車に乗るのはアウトらしいので、マー君王子は別の馬車だ。
馬車に乗り込むと、理沙が心ここにあらずという感じでぼんやりしていた。
途中で一泊して、今回浄化をする川のそばへと着いた。
マー君王子にエスコートされて、理沙が浄化をする場所として布が敷かれているところまで二人で歩いていく。
ターシャちゃんが理沙のすぐそばに付き添い、その周りをリリーちゃんたち女性騎士が取り囲み、さらにその外側からマー君王子の護衛が囲んでいる。
一泊した離宮でマー君王子は、馬車から降りる理沙に手を差し出し、戸惑う理沙の手を取ったらそのまま部屋までエスコートをして、とかなり積極的だった。これは理沙が落ちるのも時間の問題でしょうね。
私はトルゴードの第二王子夫妻と一緒に少し離れたところで待っている。
「シーダ君、ここの瘴気はどんな感じ?」
「マサコ殿、そのことは内密に」
瘴気を感じ取ることのできるシーダ君が一緒に来ているので、てっきりこの国でも瘴気濃度の地図を作るのだと思っていたけど、秘密だったようで王子様に止められた。
私たちの周りにはトルゴードの護衛がいるのでベイロールの人には聞かれていないだろうけど、うっかり口に出してしまって申し訳ない。
ネットでなんでも調べられる世界にいたからすっかり忘れていたけど、もともと地図は軍事機密だったはずよね。瘴気の分布も国家機密なのかもしれない。
他に言わないほうがいいことがないか後で確認しておこう。
「理沙の準備ができましたよ」
「いよいよですね」
せっかくなので見逃さないように第二王子夫妻に注意を促すと、理沙が跪いて祈り始めた。
理沙が被っているベールがふわっと持ち上がり、理沙の身体から光が四方八方へ広がっていく。見慣れたとはいえ、何度見てもファンタジーで神秘的な美しい光景だ。
「おおっ」
「これは……っ」
周りで歓声が上がっている。冷静なのは、理沙の護衛としてこの光景に慣れている騎士とターシャちゃんだけだ。
立ち上がった理沙のドレスをターシャちゃんが直し、私たちのほうへと促されて歩き始めた理沙に、やっと我に返ったマー君王子が駆け寄った。
「聖女様、素晴らしいです!聖女様は本当に聖女様なのですね!本当に素晴らしいです」
「あ、ありがとうございます……」
理沙の手を取って興奮気味にまくしたてるマー君王子に、理沙が若干身体を後ろに引いた。
それを見てターシャちゃんがマー君王子を止める目的で、まずは馬車へと冷静に誘導しているけど、マー君王子は全く聞こえていないようだ。素晴らしいですと言いながら、理沙に抱き着かんばかりに詰め寄っている。
「聖女様、心が洗われるような体験をさせていただきました。ありがとうございます。お疲れでしょうから、まずは馬車へどうぞ」
見かねてトルゴードの王子様が理沙を迎えに行ってくれた。こちらの王子様も初めて見たはずで、直後は声をあげてはいたけれどすでに冷静に戻っているように見える。
この落ち着きはやっぱり年齢の差かしら。王位継承権の順位も関係ありそうよね。
ベイロールは、トルゴードと接する国境とは反対側の湿地のほうに魔物が出る。最初は王都に近い辺りを浄化して様子を見て、その後本格的に湿地へと浄化に行く予定だ。
「聖女様、どうぞお手を」
「あ、りがとうございます……」
ベイロールの第八王子ことマー君王子が馬車に乗り込む理沙に手を差し出している。
装飾された豪華な馬車の前で、仕立てのよいひらひらの服に身を包んだ王子様が手を差し出しているのは、とても絵になる。
理沙は、デイジーちゃんの王子様ごっこにはあんなにノリノリに付き合っていたのに、今は王子様の手を取るのも恥じらっていて可愛い。クインスでの辛い経験の影響はなさそうで、それだけは一安心だ。
浄化にはマー君王子がついてくるそうで、ベイロールの歓迎パーティーが終わったら理沙とは別行動でトルゴードへ帰る予定になっていたトルゴードの第二王子夫妻も同行することになった。多分、理沙がこの国の王子様と言い感じになりそうな雰囲気を察して残ったんじゃないかと睨んでいる。
実は、理沙がもしベイロールへの滞在を希望してもトルゴードは決して邪魔はしないので、その時は相談してほしいと出発前に言われていた。この事態を予想したわけではないだろうけど、この後クインスとローズモスにも行くことになっているし、護衛も含めて調整が必要になるからだろう。
理沙は途中で仕事を投げ出したりする子じゃないので、クインスやローズモスに行かないと言い出したりはしないだろうけど、マー君王子がついてくることになったらややこしそうだ。
「ねえターシャちゃん、あれってやっぱりそうよね」
「可能性は高いかと」
「甘酸っぱいわね」
ターシャちゃんもそう思っているようだ。私たちの会話が聞こえていた第二王子夫妻も頷いているので、誰が見てもそうなんだろう。
「予定を変えることになってしまって申し訳ございません」
「マサコ殿、お気になさらずに。来るときは間に合わず聖女様の浄化を拝見できなかったので、とても楽しみです」
第二王子殿下、笑顔が爽やかだわ。
謝った私に対して、気を遣わないようにと言葉を選んでくれるし、不必要に理沙に近寄ったりしないし、この王子様は信用できる気がする。
理沙が馬車に乗り込んだので、私たちも乗らなければ出発できない。また後ほどと挨拶して、それぞれの馬車へと向かう。
婚約もしていない男女が同じ馬車に乗るのはアウトらしいので、マー君王子は別の馬車だ。
馬車に乗り込むと、理沙が心ここにあらずという感じでぼんやりしていた。
途中で一泊して、今回浄化をする川のそばへと着いた。
マー君王子にエスコートされて、理沙が浄化をする場所として布が敷かれているところまで二人で歩いていく。
ターシャちゃんが理沙のすぐそばに付き添い、その周りをリリーちゃんたち女性騎士が取り囲み、さらにその外側からマー君王子の護衛が囲んでいる。
一泊した離宮でマー君王子は、馬車から降りる理沙に手を差し出し、戸惑う理沙の手を取ったらそのまま部屋までエスコートをして、とかなり積極的だった。これは理沙が落ちるのも時間の問題でしょうね。
私はトルゴードの第二王子夫妻と一緒に少し離れたところで待っている。
「シーダ君、ここの瘴気はどんな感じ?」
「マサコ殿、そのことは内密に」
瘴気を感じ取ることのできるシーダ君が一緒に来ているので、てっきりこの国でも瘴気濃度の地図を作るのだと思っていたけど、秘密だったようで王子様に止められた。
私たちの周りにはトルゴードの護衛がいるのでベイロールの人には聞かれていないだろうけど、うっかり口に出してしまって申し訳ない。
ネットでなんでも調べられる世界にいたからすっかり忘れていたけど、もともと地図は軍事機密だったはずよね。瘴気の分布も国家機密なのかもしれない。
他に言わないほうがいいことがないか後で確認しておこう。
「理沙の準備ができましたよ」
「いよいよですね」
せっかくなので見逃さないように第二王子夫妻に注意を促すと、理沙が跪いて祈り始めた。
理沙が被っているベールがふわっと持ち上がり、理沙の身体から光が四方八方へ広がっていく。見慣れたとはいえ、何度見てもファンタジーで神秘的な美しい光景だ。
「おおっ」
「これは……っ」
周りで歓声が上がっている。冷静なのは、理沙の護衛としてこの光景に慣れている騎士とターシャちゃんだけだ。
立ち上がった理沙のドレスをターシャちゃんが直し、私たちのほうへと促されて歩き始めた理沙に、やっと我に返ったマー君王子が駆け寄った。
「聖女様、素晴らしいです!聖女様は本当に聖女様なのですね!本当に素晴らしいです」
「あ、ありがとうございます……」
理沙の手を取って興奮気味にまくしたてるマー君王子に、理沙が若干身体を後ろに引いた。
それを見てターシャちゃんがマー君王子を止める目的で、まずは馬車へと冷静に誘導しているけど、マー君王子は全く聞こえていないようだ。素晴らしいですと言いながら、理沙に抱き着かんばかりに詰め寄っている。
「聖女様、心が洗われるような体験をさせていただきました。ありがとうございます。お疲れでしょうから、まずは馬車へどうぞ」
見かねてトルゴードの王子様が理沙を迎えに行ってくれた。こちらの王子様も初めて見たはずで、直後は声をあげてはいたけれどすでに冷静に戻っているように見える。
この落ち着きはやっぱり年齢の差かしら。王位継承権の順位も関係ありそうよね。
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