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2.5章 護衛騎士の理不尽な日々
8. 処分
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王城に戻ってすぐ拘束され、騎士団の懲罰房に入れられている。
想定していたが、時間をつぶす本くらいは欲しいな。
暇を持て余していたところに、父が訪ねてきた。本来なら懲罰房には騎士団の者以外は近寄れないが、公爵家の権力で入ってきたのだろう。
「フレイグラン、思い切ったことをしたな」
「聖女様が、王太子殿下に襲われたと商人たちがいる前ではっきりと仰ったのです。どうあってもこの国への非難は逃れられません。これが一番傷口が浅くなると判断しました」
「聖女様からお前への感謝の書状が届いた。これでお前のクビが飛ぶことはないだろうが、危ない橋を渡ったものだ」
「マサコ殿は義理堅いですから」
「これで、宰相を追い落とせる。よくやった」
父上は宰相家に取って代わるおつもりのようだ。まあ今回のことで、王太子殿下は廃嫡され、陛下と宰相の求心力は落ちるだろう。
宰相は父への嫌がらせもかねて、俺をマサコさんの護衛に着けたようだが、自分の策に足元をすくわれた形だ。
父上には褒美に本を差し入れてくれるようお願いしたので、すぐに届くだろう。
翌日、騎士団長が呼んでいると、懲罰房を出された。
「フレイグラン、お前の処罰が決まった。3か月の減俸だそうだ」
「そうですか。思ったよりも軽かったですね。降格はされると思ったのですが」
「聖女様の嘆願書があって降格などしてみろ。暴動が起きるぞ」
確かにそうだろう。マサコさんと一緒に市井をウロウロしていたのは、多くの人が見ている。これで俺が降格すれば、王家の評判がさらに落ちるだろう。
「この国は、どこで間違ったんだろうな」
「団長、聖女様とマサコ殿は、この国に来るまで話したこともなかったそうですよ」
「は?乳母じゃなかったのか?」
「聖女様が、召喚陣に吸い込まれるときに怖くて縋り付いたところ、一緒に召喚されてしまったそうです。マサコさんを巻き込んでしまったと、聖女様はとても後悔されていました」
「まさか……」
召喚陣から現れた時から、マサコさんは聖女様を守るように振る舞っていた。だからこそ我々は彼女を聖女様の乳母だと判断したのだ。
けれどそれは乳母としての行動ではなく、ただ突然のことに戸惑う少女を守ろうとした心優しい女性の行動だった。我々が勘違いしただけだ。
そしてマサコさんはそれを利用した。したたかな人だ。
「あの人を侮った時点で、この国の負けは決まっていたということです。宿を始めたのは他国の情報を集めるため、冒険者と仲良くなったのはこの国から逃亡するときに助けてもらうためだったのでしょう」
「最初からこの国を出るつもりだったのか」
「聖女様のお気持ちに沿うようにという彼女の忠告を、ことごとく無視しましたからね」
マサコさんは何度も何度も、召喚されたことに納得している訳ではない、勝手に呼んだのだから配慮しろと訴えていた。
けれど、我々はそれを無視した。聖女なのだから、この国を救って当然だと。
そして、マサコさんが城を出たいと言った時、うるさいやつがいなくなると皆歓迎した。それが未来を見据えた彼女の行動だと疑いもせずに。
この国は、ずっと聖女召喚で難を逃れてきた。だからこそ、聖女召喚が成功すれば聖女様に救ってもらえると、自分たちは努力もせず、聖女様の犠牲の上に胡坐をかいた。
リサ様を含め、過去の聖女様たちはその理不尽に耐えていらっしゃったのだ。
次の聖女召喚は成功しないかもしれないな。
あれから、ミュラさんの宿は、聖女様が開いた宿として繁盛している。
ミュラさんは客に求められるままに、聖女様とマサコさんの話を聞かせている。
けれどそれは、聖女様とその乳母ではなく、ちょっと訳ありのマーサとその娘リーザの話だ。
その話が、普通のどこにでもいる少女が召喚されて王族にひどい目にあわされた、という聖女様像を作り上げた。
「そんな目に合っても、森の近くの浄化はしてくださったんだから、感謝しなきゃねえ」
「ほんとだよ。魔物が減ったのは聖女様のおかげだよ」
聖女様がこの国を見捨てた責任はすべて王族にある。聖女様は悪くない。
それは、ミュラさんからのマサコさんと聖女様への贈り物でもあるが、事実でもあるからこそ、噂となって国中へ、いや国を越えて広がっていく。
「いつかマーサとリーザちゃんが帰ってくるまで、私はこの宿を守らなきゃいけないからね。みんなしっかりお金を落としてくれよ!」
「女将、がめついぞ!」
談話室が笑いに包まれる。
その机には、聖女様がお部屋のカーテンにするために購入されたのと同じ柄の布がかけられていた。
想定していたが、時間をつぶす本くらいは欲しいな。
暇を持て余していたところに、父が訪ねてきた。本来なら懲罰房には騎士団の者以外は近寄れないが、公爵家の権力で入ってきたのだろう。
「フレイグラン、思い切ったことをしたな」
「聖女様が、王太子殿下に襲われたと商人たちがいる前ではっきりと仰ったのです。どうあってもこの国への非難は逃れられません。これが一番傷口が浅くなると判断しました」
「聖女様からお前への感謝の書状が届いた。これでお前のクビが飛ぶことはないだろうが、危ない橋を渡ったものだ」
「マサコ殿は義理堅いですから」
「これで、宰相を追い落とせる。よくやった」
父上は宰相家に取って代わるおつもりのようだ。まあ今回のことで、王太子殿下は廃嫡され、陛下と宰相の求心力は落ちるだろう。
宰相は父への嫌がらせもかねて、俺をマサコさんの護衛に着けたようだが、自分の策に足元をすくわれた形だ。
父上には褒美に本を差し入れてくれるようお願いしたので、すぐに届くだろう。
翌日、騎士団長が呼んでいると、懲罰房を出された。
「フレイグラン、お前の処罰が決まった。3か月の減俸だそうだ」
「そうですか。思ったよりも軽かったですね。降格はされると思ったのですが」
「聖女様の嘆願書があって降格などしてみろ。暴動が起きるぞ」
確かにそうだろう。マサコさんと一緒に市井をウロウロしていたのは、多くの人が見ている。これで俺が降格すれば、王家の評判がさらに落ちるだろう。
「この国は、どこで間違ったんだろうな」
「団長、聖女様とマサコ殿は、この国に来るまで話したこともなかったそうですよ」
「は?乳母じゃなかったのか?」
「聖女様が、召喚陣に吸い込まれるときに怖くて縋り付いたところ、一緒に召喚されてしまったそうです。マサコさんを巻き込んでしまったと、聖女様はとても後悔されていました」
「まさか……」
召喚陣から現れた時から、マサコさんは聖女様を守るように振る舞っていた。だからこそ我々は彼女を聖女様の乳母だと判断したのだ。
けれどそれは乳母としての行動ではなく、ただ突然のことに戸惑う少女を守ろうとした心優しい女性の行動だった。我々が勘違いしただけだ。
そしてマサコさんはそれを利用した。したたかな人だ。
「あの人を侮った時点で、この国の負けは決まっていたということです。宿を始めたのは他国の情報を集めるため、冒険者と仲良くなったのはこの国から逃亡するときに助けてもらうためだったのでしょう」
「最初からこの国を出るつもりだったのか」
「聖女様のお気持ちに沿うようにという彼女の忠告を、ことごとく無視しましたからね」
マサコさんは何度も何度も、召喚されたことに納得している訳ではない、勝手に呼んだのだから配慮しろと訴えていた。
けれど、我々はそれを無視した。聖女なのだから、この国を救って当然だと。
そして、マサコさんが城を出たいと言った時、うるさいやつがいなくなると皆歓迎した。それが未来を見据えた彼女の行動だと疑いもせずに。
この国は、ずっと聖女召喚で難を逃れてきた。だからこそ、聖女召喚が成功すれば聖女様に救ってもらえると、自分たちは努力もせず、聖女様の犠牲の上に胡坐をかいた。
リサ様を含め、過去の聖女様たちはその理不尽に耐えていらっしゃったのだ。
次の聖女召喚は成功しないかもしれないな。
あれから、ミュラさんの宿は、聖女様が開いた宿として繁盛している。
ミュラさんは客に求められるままに、聖女様とマサコさんの話を聞かせている。
けれどそれは、聖女様とその乳母ではなく、ちょっと訳ありのマーサとその娘リーザの話だ。
その話が、普通のどこにでもいる少女が召喚されて王族にひどい目にあわされた、という聖女様像を作り上げた。
「そんな目に合っても、森の近くの浄化はしてくださったんだから、感謝しなきゃねえ」
「ほんとだよ。魔物が減ったのは聖女様のおかげだよ」
聖女様がこの国を見捨てた責任はすべて王族にある。聖女様は悪くない。
それは、ミュラさんからのマサコさんと聖女様への贈り物でもあるが、事実でもあるからこそ、噂となって国中へ、いや国を越えて広がっていく。
「いつかマーサとリーザちゃんが帰ってくるまで、私はこの宿を守らなきゃいけないからね。みんなしっかりお金を落としてくれよ!」
「女将、がめついぞ!」
談話室が笑いに包まれる。
その机には、聖女様がお部屋のカーテンにするために購入されたのと同じ柄の布がかけられていた。
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