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2.5章 護衛騎士の理不尽な日々
4. 不信感
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「パーム、護衛対象から離れるなど何を考えている。しかもそれを報告しなかったな?」
「隊長、何のことですか」
「マサコ殿のことだ。お前が魔物を狩っていたと、複数の冒険者が証言した」
パームは冒険者の嘘だと言っているが、複数の冒険者が示し合わせて嘘を言うとも思えない。彼らに何の利もない。
マサコさんには再度聞いてみたものの、曖昧な笑顔で流されてしまった。答えたくないということだ。
「あんな聖女様に嫌われたおばさんなんか、護衛する必要があるのですか?」
「お前……、相手が誰であれ、護衛対象は護衛対象だ。その基本を忘れたのか。しかも、あの人は聖女様が母親と慕っている人だ。聖女様に知れたら、どうなると思っている!」
「フレイグラン、どういうことだ」
思わず声を荒げてしまったが、ちょうど廊下を通りがかった騎士団副団長に聞かれてしまった。
パームが部屋のドアをきちんと閉めていなかったようだ。もう全てにおいて騎士失格だ。
「パーム、自分で報告しろ」
「護衛対象のマサコ殿が薬草を採取している時に、目を離しました。その時にマサコ殿が魔物に襲われましたが、冒険者も応援に入ったので怪我はありませんでした」
この期に及んでしらを切るつもりか。クビは確定だな。
「そうか。北の森に転属し、鍛えなおしてこい」
「そんな!なぜですか?!」
「護衛対象から目を離すなど、護衛騎士としてあるまじき行為だ。その意味が分からんようだから、鍛えなおしだと言っている」
副団長は、団長に報告して明日には正式に辞令を出すので用意しておけ、と言ってパームを部屋から追い出した。
「で、実際は何があったんだ」
「副団長……」
「聖女様の耳に入ったらどうする、しか聞こえなかったが、怪我がなかったのにお前があそこまで怒るんだ。あいつは何かしでかしたんだろう?」
「マサコ殿から離れ、魔物を狩り、その素材を冒険者に換金させたそうです。申し訳ございませんでした。剣の腕も人当たりもよいため、本性に気づきませんでした。私の落ち度です」
副団長が黙ってしまった。そもそもが護衛騎士としてあり得ないが、さらにその相手が聖女様の乳母だ。正直転属で済むような話ではない。
「今の話は誰にも言うな。団長と陛下には私から報告しておく。北の森の騎士団長には私から連絡して、二度と王都へは戻ってこさせぬ」
「その処分で聖女様は納得されるでしょうか」
「クビにして王都にいられると、逆恨みでマサコ殿に報復するかもしれないだろう」
たしかにそうだ。市井に交じって生活しているマサコさんを狙うなど、簡単なのだ。
「マサコ殿はどう思っている」
「何があったのか聞いても、曖昧に流されました」
「この国への不信感か……」
おそらくそうだろう。
「実際、あの人はどういう人なんだ。宰相閣下は彼女が聖女様から離れることを歓迎しているようだが」
「自分の事を話さないので分かりませんが、常識の違いにはかなり苦労しているように思います。自分が周りから裕福だとみられていることにも気づいていませんでした。持ち物の紙はかなり上質でした。けれど庶民の古着を何の迷いもなく着て、荒くれ者の冒険者とも気軽に話しています。正直よく分かりません。ただ……」
気になることがあるなら確証がなくても言ってみろと言われ、続きを口に出すことにした。
「我々が当然だと思っていることが、聖女様たちにとっては当然ではない、それが理解されないこと対して、かなり不満をもっているように感じます」
彼女の要求は、ただの我儘ではないと今なら分かる。それをないがしろにすることは、この国と聖女様の関係を悪化させる気がする。
かといって一騎士に何かができるわけでもない。
上層部は護衛騎士の不始末をお金で解決することにしたようだ。
これで何が買える?と聞かれて見せられたのは、庶民なら一生あっても稼げないほどの額だ。
そしてそのお金をもらってなお、薬草採取に行くと言っている。
「ねえ、このお金を持って薬草採取に行くの、嫌なんだけど」
「……薬草はもう十分では?」
「いきなりやめると、冒険者たちが心配するでしょ」
「……分かりました。私が持っています」
「よろしくね」
信用してくれるのは嬉しいが、俺に盗まれると思わないのだろうか。思わず聞いてしまった。
「私のことを信用してもらえるのは嬉しいのですが、不用心では?」
「レイ君が本気になったら、私が渡さなくたって持ち逃げできるんだから、一緒よ」
「それは、そうですが……」
「それとも、奪うつもりだった?」
確かにマサコさんを昏倒させて奪うなど、片手でもできる。
しかも、1枚くらい抜いたって分からないわよと言いながら、カラカラと笑っている。
潔いと言っていいのか分からないが、そこまで割り切られると複雑だ。
「隊長、何のことですか」
「マサコ殿のことだ。お前が魔物を狩っていたと、複数の冒険者が証言した」
パームは冒険者の嘘だと言っているが、複数の冒険者が示し合わせて嘘を言うとも思えない。彼らに何の利もない。
マサコさんには再度聞いてみたものの、曖昧な笑顔で流されてしまった。答えたくないということだ。
「あんな聖女様に嫌われたおばさんなんか、護衛する必要があるのですか?」
「お前……、相手が誰であれ、護衛対象は護衛対象だ。その基本を忘れたのか。しかも、あの人は聖女様が母親と慕っている人だ。聖女様に知れたら、どうなると思っている!」
「フレイグラン、どういうことだ」
思わず声を荒げてしまったが、ちょうど廊下を通りがかった騎士団副団長に聞かれてしまった。
パームが部屋のドアをきちんと閉めていなかったようだ。もう全てにおいて騎士失格だ。
「パーム、自分で報告しろ」
「護衛対象のマサコ殿が薬草を採取している時に、目を離しました。その時にマサコ殿が魔物に襲われましたが、冒険者も応援に入ったので怪我はありませんでした」
この期に及んでしらを切るつもりか。クビは確定だな。
「そうか。北の森に転属し、鍛えなおしてこい」
「そんな!なぜですか?!」
「護衛対象から目を離すなど、護衛騎士としてあるまじき行為だ。その意味が分からんようだから、鍛えなおしだと言っている」
副団長は、団長に報告して明日には正式に辞令を出すので用意しておけ、と言ってパームを部屋から追い出した。
「で、実際は何があったんだ」
「副団長……」
「聖女様の耳に入ったらどうする、しか聞こえなかったが、怪我がなかったのにお前があそこまで怒るんだ。あいつは何かしでかしたんだろう?」
「マサコ殿から離れ、魔物を狩り、その素材を冒険者に換金させたそうです。申し訳ございませんでした。剣の腕も人当たりもよいため、本性に気づきませんでした。私の落ち度です」
副団長が黙ってしまった。そもそもが護衛騎士としてあり得ないが、さらにその相手が聖女様の乳母だ。正直転属で済むような話ではない。
「今の話は誰にも言うな。団長と陛下には私から報告しておく。北の森の騎士団長には私から連絡して、二度と王都へは戻ってこさせぬ」
「その処分で聖女様は納得されるでしょうか」
「クビにして王都にいられると、逆恨みでマサコ殿に報復するかもしれないだろう」
たしかにそうだ。市井に交じって生活しているマサコさんを狙うなど、簡単なのだ。
「マサコ殿はどう思っている」
「何があったのか聞いても、曖昧に流されました」
「この国への不信感か……」
おそらくそうだろう。
「実際、あの人はどういう人なんだ。宰相閣下は彼女が聖女様から離れることを歓迎しているようだが」
「自分の事を話さないので分かりませんが、常識の違いにはかなり苦労しているように思います。自分が周りから裕福だとみられていることにも気づいていませんでした。持ち物の紙はかなり上質でした。けれど庶民の古着を何の迷いもなく着て、荒くれ者の冒険者とも気軽に話しています。正直よく分かりません。ただ……」
気になることがあるなら確証がなくても言ってみろと言われ、続きを口に出すことにした。
「我々が当然だと思っていることが、聖女様たちにとっては当然ではない、それが理解されないこと対して、かなり不満をもっているように感じます」
彼女の要求は、ただの我儘ではないと今なら分かる。それをないがしろにすることは、この国と聖女様の関係を悪化させる気がする。
かといって一騎士に何かができるわけでもない。
上層部は護衛騎士の不始末をお金で解決することにしたようだ。
これで何が買える?と聞かれて見せられたのは、庶民なら一生あっても稼げないほどの額だ。
そしてそのお金をもらってなお、薬草採取に行くと言っている。
「ねえ、このお金を持って薬草採取に行くの、嫌なんだけど」
「……薬草はもう十分では?」
「いきなりやめると、冒険者たちが心配するでしょ」
「……分かりました。私が持っています」
「よろしくね」
信用してくれるのは嬉しいが、俺に盗まれると思わないのだろうか。思わず聞いてしまった。
「私のことを信用してもらえるのは嬉しいのですが、不用心では?」
「レイ君が本気になったら、私が渡さなくたって持ち逃げできるんだから、一緒よ」
「それは、そうですが……」
「それとも、奪うつもりだった?」
確かにマサコさんを昏倒させて奪うなど、片手でもできる。
しかも、1枚くらい抜いたって分からないわよと言いながら、カラカラと笑っている。
潔いと言っていいのか分からないが、そこまで割り切られると複雑だ。
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