上 下
24 / 89
2.5章 護衛騎士の理不尽な日々

4. 不信感

しおりを挟む
「パーム、護衛対象から離れるなど何を考えている。しかもそれを報告しなかったな?」
「隊長、何のことですか」
「マサコ殿のことだ。お前が魔物を狩っていたと、複数の冒険者が証言した」

 パームは冒険者の嘘だと言っているが、複数の冒険者が示し合わせて嘘を言うとも思えない。彼らに何の利もない。
 マサコさんには再度聞いてみたものの、曖昧な笑顔で流されてしまった。答えたくないということだ。

「あんな聖女様に嫌われたおばさんなんか、護衛する必要があるのですか?」
「お前……、相手が誰であれ、護衛対象は護衛対象だ。その基本を忘れたのか。しかも、あの人は聖女様が母親と慕っている人だ。聖女様に知れたら、どうなると思っている!」
「フレイグラン、どういうことだ」

 思わず声を荒げてしまったが、ちょうど廊下を通りがかった騎士団副団長に聞かれてしまった。
 パームが部屋のドアをきちんと閉めていなかったようだ。もう全てにおいて騎士失格だ。

「パーム、自分で報告しろ」
「護衛対象のマサコ殿が薬草を採取している時に、目を離しました。その時にマサコ殿が魔物に襲われましたが、冒険者も応援に入ったので怪我はありませんでした」

 この期に及んでしらを切るつもりか。クビは確定だな。

「そうか。北の森に転属し、鍛えなおしてこい」
「そんな!なぜですか?!」
「護衛対象から目を離すなど、護衛騎士としてあるまじき行為だ。その意味が分からんようだから、鍛えなおしだと言っている」

 副団長は、団長に報告して明日には正式に辞令を出すので用意しておけ、と言ってパームを部屋から追い出した。

「で、実際は何があったんだ」
「副団長……」
「聖女様の耳に入ったらどうする、しか聞こえなかったが、怪我がなかったのにお前があそこまで怒るんだ。あいつは何かしでかしたんだろう?」
「マサコ殿から離れ、魔物を狩り、その素材を冒険者に換金させたそうです。申し訳ございませんでした。剣の腕も人当たりもよいため、本性に気づきませんでした。私の落ち度です」

 副団長が黙ってしまった。そもそもが護衛騎士としてあり得ないが、さらにその相手が聖女様の乳母だ。正直転属で済むような話ではない。

「今の話は誰にも言うな。団長と陛下には私から報告しておく。北の森の騎士団長には私から連絡して、二度と王都へは戻ってこさせぬ」
「その処分で聖女様は納得されるでしょうか」
「クビにして王都にいられると、逆恨みでマサコ殿に報復するかもしれないだろう」

 たしかにそうだ。市井に交じって生活しているマサコさんを狙うなど、簡単なのだ。

「マサコ殿はどう思っている」
「何があったのか聞いても、曖昧に流されました」
「この国への不信感か……」

 おそらくそうだろう。

「実際、あの人はどういう人なんだ。宰相閣下は彼女が聖女様から離れることを歓迎しているようだが」
「自分の事を話さないので分かりませんが、常識の違いにはかなり苦労しているように思います。自分が周りから裕福だとみられていることにも気づいていませんでした。持ち物の紙はかなり上質でした。けれど庶民の古着を何の迷いもなく着て、荒くれ者の冒険者とも気軽に話しています。正直よく分かりません。ただ……」

 気になることがあるなら確証がなくても言ってみろと言われ、続きを口に出すことにした。

「我々が当然だと思っていることが、聖女様たちにとっては当然ではない、それが理解されないこと対して、かなり不満をもっているように感じます」

 彼女の要求は、ただの我儘ではないと今なら分かる。それをないがしろにすることは、この国と聖女様の関係を悪化させる気がする。
 かといって一騎士に何かができるわけでもない。


 上層部は護衛騎士の不始末をお金で解決することにしたようだ。
 これで何が買える?と聞かれて見せられたのは、庶民なら一生あっても稼げないほどの額だ。
 そしてそのお金をもらってなお、薬草採取に行くと言っている。

「ねえ、このお金を持って薬草採取に行くの、嫌なんだけど」
「……薬草はもう十分では?」
「いきなりやめると、冒険者たちが心配するでしょ」
「……分かりました。私が持っています」
「よろしくね」

 信用してくれるのは嬉しいが、俺に盗まれると思わないのだろうか。思わず聞いてしまった。

「私のことを信用してもらえるのは嬉しいのですが、不用心では?」
「レイ君が本気になったら、私が渡さなくたって持ち逃げできるんだから、一緒よ」
「それは、そうですが……」
「それとも、奪うつもりだった?」

 確かにマサコさんを昏倒させて奪うなど、片手でもできる。
 しかも、1枚くらい抜いたって分からないわよと言いながら、カラカラと笑っている。
 潔いと言っていいのか分からないが、そこまで割り切られると複雑だ。
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...