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7. 私の新しい婚約者
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陛下に認められて、私は正式に公爵家の養女となった。お披露目は、婚約が成立してからになる。
公爵があわよくば潰そうとされたクレマティス様の婚約は、そのまま継続されることになった。
そのためにボルサ伯爵家がかなりの金額をつぎ込んだという噂があるので、お金で解決したのだろう。
けれどクレマティス様の立場はかなり弱くなり、婚家の居心地は悪いものになる。それこそ愛人を作られても、そちらに先に子どもができても文句も言えないくらいに。
そして1か月後、トルゴード王国からジェンシャン様が婚約のためにいらっしゃった。かなり急なのは、騎士団で計画されている魔物討伐の合間となると、今しか動けないかららしい。
私のドレスはレリチアと、公爵家にも付いてきてくれた侍女のジニアが相談して作らせていた。私がほとんど関わらなかったのは、センスがないからではなく、ドルゴードの公用語の復習が忙しかったからだ。
「初めまして、ナスターシャ嬢。ウィロウ公爵家の次男ジェンシャンです」
「お初にお目にかかります。グローリ公爵家次女のナスターシャです。お会いできて光栄です」
公爵家の応接間で、顔合わせだ。あちらはジェンシャン様と侍従。こちらは、お義父様、お兄様、レリチアと私、それにトルゴードも一緒に行ってくれることになった侍女のジニアだ。
ジェンシャン様は、顔の左半分に金属でできた仮面をつけていらっしゃる。目の部分が空いているので、視力はあるのだろう。
けれど、仮面をつけていても、かなりのイケメンだとわかる。お義父様の調査では人間性に問題ないらしいのに、なぜ国内で婚約者が決まらないのだろう。
自分の思考にはまって、不躾に眺めていたようだ。
「傷が気になりますか?」
「いえ」
「二人きりの時にお見せしましょう」
「眼球が傷つかなかったのか気になっただけですので、お忘れくださいませ」
私の答えを聞いて場が固まった。
国内で婚約者が決まらない理由の候補を脳内で挙げていたために、返答を間違えてしまった。
「傷の有無にかかわらず素敵でいらっしゃいます」
「ジェンシャン殿、娘はこのように少し変わっておりまして、申し訳ございません」
「その反応は初めてですよ」
やってしまった。
慌てて令嬢としての模範回答をするも、遅かったようだ。逃亡してしまった猫を被りなおして澄ましてみるが、初手で手痛いミスを犯してしまった。
ジェンシャン様は笑って許して下さったが、令嬢としてあるまじき失態だ。
お兄様が笑いをこらえていらっしゃる。レリチアは扇で顔を隠しているから、きっとその裏で笑っているのだろう。
「せっかくですので本音で話しましょう。うわの空でいらっしゃいましたが、何か気になることでも?」
「……」
「ナスターシャ、お言葉に甘えて聞いてみなさい」
本当に聞いていいのだろうか。
まあすでにマイナス100点くらいはされているはずなので、今更だな。
「なぜ国内で婚約されるお相手がいらっしゃらなかったのかと疑問に思っておりました。公爵家と縁を結べるならという方はたくさんいらっしゃると思います」
「貴女はどういう理由だと思われたのでしょう?」
「……男性がお好きでいらっしゃるとか」
他に考えられなかったのだ。お義父様の調査でそれも分からないはずはないと思うが、騎士団という男所帯の中だと友情として隠せたりするのだろうか。
実は同性の恋人がいるのに親に言えず、縁談を勧められて困るというBLがあったと記憶している。この世界、同性の愛人を囲っている貴族も少ないがいるのだし。
「あははっ。いやっ、これはっ、予想外すぎて、くくっ」
「ナスターシャ、失礼だ。謝りなさい」
「申し訳ございません」
やはり駄目だったようだ。これでマイナス1000点はいったかもしれない。
お義父様は呆れていらっしゃるが、ジェンシャン様はお腹を抱えて笑っていらっしゃるし、侍従の方も手で顔を覆って後ろを向いている。お兄様もこらえきれずに笑い声が漏れている。
もうどうにでもなれ。
ジェンシャン様はひとしきり笑ってから、本音でと言ったのでこちらも本音で話そうと、教えてくださった。
「おっしゃる通りだよ。傷など気にならないと寄ってくる女性は公爵家と縁を結ぶことだけが目的で、私の顔を見ないようにしながら媚を売ってくる。そういう対応に疲れてね、もう生涯独身でいいかと思っていたんだ。確かに騎士団には男性同士で付き合ってる者もいるけど、私は経験ないなあ」
「失礼いたしました」
「今回は母が乗り気で話を進めてしまったので仕方なく腹を括ったのだけど、貴女となら楽しくやっていけそうだ」
なんだかよく分からないが、合格点が出た。
ジェンシャン様は次男でいらっしゃるので、白い結婚になって、男性の愛人を囲っていただいても構わなかったのだが、違ったようだ。ちょっと妄想が先走ってしまった。
相性も良い様ですので、とお義父様が話をまとめに入っている。ジェンシャン様の気が変わらないうちに婚約を成立させたいという焦りが透けて見えて、大変申し訳ない。
公爵があわよくば潰そうとされたクレマティス様の婚約は、そのまま継続されることになった。
そのためにボルサ伯爵家がかなりの金額をつぎ込んだという噂があるので、お金で解決したのだろう。
けれどクレマティス様の立場はかなり弱くなり、婚家の居心地は悪いものになる。それこそ愛人を作られても、そちらに先に子どもができても文句も言えないくらいに。
そして1か月後、トルゴード王国からジェンシャン様が婚約のためにいらっしゃった。かなり急なのは、騎士団で計画されている魔物討伐の合間となると、今しか動けないかららしい。
私のドレスはレリチアと、公爵家にも付いてきてくれた侍女のジニアが相談して作らせていた。私がほとんど関わらなかったのは、センスがないからではなく、ドルゴードの公用語の復習が忙しかったからだ。
「初めまして、ナスターシャ嬢。ウィロウ公爵家の次男ジェンシャンです」
「お初にお目にかかります。グローリ公爵家次女のナスターシャです。お会いできて光栄です」
公爵家の応接間で、顔合わせだ。あちらはジェンシャン様と侍従。こちらは、お義父様、お兄様、レリチアと私、それにトルゴードも一緒に行ってくれることになった侍女のジニアだ。
ジェンシャン様は、顔の左半分に金属でできた仮面をつけていらっしゃる。目の部分が空いているので、視力はあるのだろう。
けれど、仮面をつけていても、かなりのイケメンだとわかる。お義父様の調査では人間性に問題ないらしいのに、なぜ国内で婚約者が決まらないのだろう。
自分の思考にはまって、不躾に眺めていたようだ。
「傷が気になりますか?」
「いえ」
「二人きりの時にお見せしましょう」
「眼球が傷つかなかったのか気になっただけですので、お忘れくださいませ」
私の答えを聞いて場が固まった。
国内で婚約者が決まらない理由の候補を脳内で挙げていたために、返答を間違えてしまった。
「傷の有無にかかわらず素敵でいらっしゃいます」
「ジェンシャン殿、娘はこのように少し変わっておりまして、申し訳ございません」
「その反応は初めてですよ」
やってしまった。
慌てて令嬢としての模範回答をするも、遅かったようだ。逃亡してしまった猫を被りなおして澄ましてみるが、初手で手痛いミスを犯してしまった。
ジェンシャン様は笑って許して下さったが、令嬢としてあるまじき失態だ。
お兄様が笑いをこらえていらっしゃる。レリチアは扇で顔を隠しているから、きっとその裏で笑っているのだろう。
「せっかくですので本音で話しましょう。うわの空でいらっしゃいましたが、何か気になることでも?」
「……」
「ナスターシャ、お言葉に甘えて聞いてみなさい」
本当に聞いていいのだろうか。
まあすでにマイナス100点くらいはされているはずなので、今更だな。
「なぜ国内で婚約されるお相手がいらっしゃらなかったのかと疑問に思っておりました。公爵家と縁を結べるならという方はたくさんいらっしゃると思います」
「貴女はどういう理由だと思われたのでしょう?」
「……男性がお好きでいらっしゃるとか」
他に考えられなかったのだ。お義父様の調査でそれも分からないはずはないと思うが、騎士団という男所帯の中だと友情として隠せたりするのだろうか。
実は同性の恋人がいるのに親に言えず、縁談を勧められて困るというBLがあったと記憶している。この世界、同性の愛人を囲っている貴族も少ないがいるのだし。
「あははっ。いやっ、これはっ、予想外すぎて、くくっ」
「ナスターシャ、失礼だ。謝りなさい」
「申し訳ございません」
やはり駄目だったようだ。これでマイナス1000点はいったかもしれない。
お義父様は呆れていらっしゃるが、ジェンシャン様はお腹を抱えて笑っていらっしゃるし、侍従の方も手で顔を覆って後ろを向いている。お兄様もこらえきれずに笑い声が漏れている。
もうどうにでもなれ。
ジェンシャン様はひとしきり笑ってから、本音でと言ったのでこちらも本音で話そうと、教えてくださった。
「おっしゃる通りだよ。傷など気にならないと寄ってくる女性は公爵家と縁を結ぶことだけが目的で、私の顔を見ないようにしながら媚を売ってくる。そういう対応に疲れてね、もう生涯独身でいいかと思っていたんだ。確かに騎士団には男性同士で付き合ってる者もいるけど、私は経験ないなあ」
「失礼いたしました」
「今回は母が乗り気で話を進めてしまったので仕方なく腹を括ったのだけど、貴女となら楽しくやっていけそうだ」
なんだかよく分からないが、合格点が出た。
ジェンシャン様は次男でいらっしゃるので、白い結婚になって、男性の愛人を囲っていただいても構わなかったのだが、違ったようだ。ちょっと妄想が先走ってしまった。
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