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2年目 タイロン編
9. ドラゴン襲来
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伝説のある村は、夏の日差しの下で青々とした葉が茂る広大な畑の中にあり、村の周りは木の柵で簡単に囲っただけだ。牧歌的な雰囲気がただよっているけど、今まで通ってきた街や村に比べると、外敵に対して防御が全くされていない。
ちょうどお昼の時間で、農作業の休憩中なのか、村の中に集まっている人たちがいるので、ドラゴンのことを聞いてみよう。
「ドラゴンの伝説と、ドラゴンがいるという山への道を教えてほしい」
「お前さん、何をしに行くつもりだ。伝説など、この村にはないぞ」
村人がすごく警戒してるんだけど、普通は、「旅の人、よく参られた。この村に伝わる伝説では~」って語ってくれる場面だよね。
知らない人に警戒しているんじゃなくて、ドラゴンという言葉に警戒している。ここでもやっぱりドラゴンに会いに行く人は歓迎されないみたいだ。
「この狐は私の使役獣なんだが、ドラゴンに会いたいと言っているので会わせてやりたい」
ウィオのその答えを聞いて、今度は戸惑いの表情を浮かべた。狐がドラゴンに会いたいっていうのはやっぱり困惑しちゃう理由なのか。
聞いてみると、この村にはドラゴン退治に行くという冒険者がたまに来て、ドラゴンについていろいろ質問するらしい。でも、この村にドラゴンが現れたというのは、正確にいつとは分からないくらい前のことで、今この村にいる人たちも代々そう伝わっているという話しか知らないんだそうだ。
「ドラゴン様は、この地を魔物から守ってくださっておる。傷つけることは許さん」
「戦うようなことはしない」
この村に魔物が出ないのは、ドラゴンが守ってくれているからだと思って、崇めているらしい。
実際は、あの山がちょっと特殊で魔物があまりいないからだと思うんだけど、真実を話して、信仰と夢を潰す必要はないよね。
この村の人にとってドラゴンは守り神だから、退治するとか生き血を奪うというような迷惑な輩を、ドラゴンに近づけたくないようだ。戦うつもりはないと言っても、信じてもらえない。ただ好奇心で会いに行くには、ハードルが高すぎる相手だから仕方ないのかもしれないけど、本当に傷つけるつもりはないんだよ。
ちょっと会ってみたいだけなんだよね。どうしようかなあ。
居場所は探せるけど、山の中の道が分からない。聞いたところで途中からは道がなくなるだろうけど、道がすでにあるところは道を進んで行きたいんだけどなあ。
行き当たりばったりで行っちゃう? 幸い季節は夏、山の中は過ごしやすい気温だろう。オレは良いけど、オレの好奇心でウィオに道なき道を進ませるのは気が引けるんだよね。
と思ってたら、向こうから来てくれたみたい。
山の上に小さく見えていた鳥のような物体が、あっという間に頭上まで来た。速いなあ。
巨体が空を飛んでるから、村に影が出来て、村人も気づいた。
「お、おい! あれは、ドラゴン様!」
「まさか、この者たちを退治しにいらっしゃったのか?!」
違うよ。フラグを立てるような不穏な発言は止めてよね。
「ルジェ、どういうことだ?」
『オレの存在に気付いて、向こうから来たんじゃないかなあ。万が一攻撃されてもオレのほうが強いから大丈夫だよ』
攻撃力ないけど、防御力ならオレのほうが圧倒的に上だから。
ドラゴンはこちらを窺って村の上空を旋回している。
ゲームとかで見るドラゴンのまんまなんだけど、なんであの造形にしたんだろう。翼がカッコいいけど、あの体格があんな飾りの翼で浮くわけがない。
まあここでドラゴンですってひょろ長い龍が出てきても、世界観統一してって言いたくなるけどさ。
オレが関係ないことを考えている間に、旋回していたドラゴンはオレたちから少し離れた広場に着地した。ズドンっと響いた音と揺れに、かなりの重量があることが分かる。
「ドラゴン様がいらっしゃった……」
「ああ、この村はもう終わりじゃ」
あれ? この人たち、守り神って言ってなかった?
大人たちの混乱を他所に、子どもたちが歓声をあげてドラゴンに近づいていく。でも止まって。危ないよ。
『ウィオ、子どもたちを止めて』
「止まれ! 踏まれるぞ!」
ドラゴンがオレに近寄ろうと、ドスンドスンと走ってきているのだ。巨体に対して足が短いから、走り方がペンギンみたい。
『そこから動くな!』
『大いなる御方の気配を感じ、馳せ参じ』
『だから、動くな! 人間の子どもが巻き込まれる!』
ドラゴンも子どもも止まらないので、これ以上ドラゴンが動かないように、目の前まで一気に駆け寄った。
オレの後ろで、ドラゴンを近くで見ようと走る子どもたちを、ウィオが必死に身体を張って止めている。
あと一歩で踏むというドラゴンの足元すれすれにオレが止まったので、ドラゴンが上げた足をおろす場所がなくなって、よろめいた。尻尾を使って必死で体勢を立て直しているけど、やっぱりその身体バランス悪いよね。そのちっちゃい前足は何のためにあるの。二足歩行なら、前足じゃなくて、手なのかな。
『止まれと言ったのが聞こえなかったのか?』
『申し訳ございません……』
初対面でオレに怒られたドラゴンがしゅんとしているけど、その図体でやられても可愛くない。
だいたい魔法で飛んでるんだから、もっとソフトランディングできるだろう。なんで最後に魔法の制御を切って落ちてくるんだ。おかげで地面が揺れたじゃないか。かつて地震の国に育ったオレとしては、許せないぞ。
ファーストコンタクトは最悪だ。
ちょうどお昼の時間で、農作業の休憩中なのか、村の中に集まっている人たちがいるので、ドラゴンのことを聞いてみよう。
「ドラゴンの伝説と、ドラゴンがいるという山への道を教えてほしい」
「お前さん、何をしに行くつもりだ。伝説など、この村にはないぞ」
村人がすごく警戒してるんだけど、普通は、「旅の人、よく参られた。この村に伝わる伝説では~」って語ってくれる場面だよね。
知らない人に警戒しているんじゃなくて、ドラゴンという言葉に警戒している。ここでもやっぱりドラゴンに会いに行く人は歓迎されないみたいだ。
「この狐は私の使役獣なんだが、ドラゴンに会いたいと言っているので会わせてやりたい」
ウィオのその答えを聞いて、今度は戸惑いの表情を浮かべた。狐がドラゴンに会いたいっていうのはやっぱり困惑しちゃう理由なのか。
聞いてみると、この村にはドラゴン退治に行くという冒険者がたまに来て、ドラゴンについていろいろ質問するらしい。でも、この村にドラゴンが現れたというのは、正確にいつとは分からないくらい前のことで、今この村にいる人たちも代々そう伝わっているという話しか知らないんだそうだ。
「ドラゴン様は、この地を魔物から守ってくださっておる。傷つけることは許さん」
「戦うようなことはしない」
この村に魔物が出ないのは、ドラゴンが守ってくれているからだと思って、崇めているらしい。
実際は、あの山がちょっと特殊で魔物があまりいないからだと思うんだけど、真実を話して、信仰と夢を潰す必要はないよね。
この村の人にとってドラゴンは守り神だから、退治するとか生き血を奪うというような迷惑な輩を、ドラゴンに近づけたくないようだ。戦うつもりはないと言っても、信じてもらえない。ただ好奇心で会いに行くには、ハードルが高すぎる相手だから仕方ないのかもしれないけど、本当に傷つけるつもりはないんだよ。
ちょっと会ってみたいだけなんだよね。どうしようかなあ。
居場所は探せるけど、山の中の道が分からない。聞いたところで途中からは道がなくなるだろうけど、道がすでにあるところは道を進んで行きたいんだけどなあ。
行き当たりばったりで行っちゃう? 幸い季節は夏、山の中は過ごしやすい気温だろう。オレは良いけど、オレの好奇心でウィオに道なき道を進ませるのは気が引けるんだよね。
と思ってたら、向こうから来てくれたみたい。
山の上に小さく見えていた鳥のような物体が、あっという間に頭上まで来た。速いなあ。
巨体が空を飛んでるから、村に影が出来て、村人も気づいた。
「お、おい! あれは、ドラゴン様!」
「まさか、この者たちを退治しにいらっしゃったのか?!」
違うよ。フラグを立てるような不穏な発言は止めてよね。
「ルジェ、どういうことだ?」
『オレの存在に気付いて、向こうから来たんじゃないかなあ。万が一攻撃されてもオレのほうが強いから大丈夫だよ』
攻撃力ないけど、防御力ならオレのほうが圧倒的に上だから。
ドラゴンはこちらを窺って村の上空を旋回している。
ゲームとかで見るドラゴンのまんまなんだけど、なんであの造形にしたんだろう。翼がカッコいいけど、あの体格があんな飾りの翼で浮くわけがない。
まあここでドラゴンですってひょろ長い龍が出てきても、世界観統一してって言いたくなるけどさ。
オレが関係ないことを考えている間に、旋回していたドラゴンはオレたちから少し離れた広場に着地した。ズドンっと響いた音と揺れに、かなりの重量があることが分かる。
「ドラゴン様がいらっしゃった……」
「ああ、この村はもう終わりじゃ」
あれ? この人たち、守り神って言ってなかった?
大人たちの混乱を他所に、子どもたちが歓声をあげてドラゴンに近づいていく。でも止まって。危ないよ。
『ウィオ、子どもたちを止めて』
「止まれ! 踏まれるぞ!」
ドラゴンがオレに近寄ろうと、ドスンドスンと走ってきているのだ。巨体に対して足が短いから、走り方がペンギンみたい。
『そこから動くな!』
『大いなる御方の気配を感じ、馳せ参じ』
『だから、動くな! 人間の子どもが巻き込まれる!』
ドラゴンも子どもも止まらないので、これ以上ドラゴンが動かないように、目の前まで一気に駆け寄った。
オレの後ろで、ドラゴンを近くで見ようと走る子どもたちを、ウィオが必死に身体を張って止めている。
あと一歩で踏むというドラゴンの足元すれすれにオレが止まったので、ドラゴンが上げた足をおろす場所がなくなって、よろめいた。尻尾を使って必死で体勢を立て直しているけど、やっぱりその身体バランス悪いよね。そのちっちゃい前足は何のためにあるの。二足歩行なら、前足じゃなくて、手なのかな。
『止まれと言ったのが聞こえなかったのか?』
『申し訳ございません……』
初対面でオレに怒られたドラゴンがしゅんとしているけど、その図体でやられても可愛くない。
だいたい魔法で飛んでるんだから、もっとソフトランディングできるだろう。なんで最後に魔法の制御を切って落ちてくるんだ。おかげで地面が揺れたじゃないか。かつて地震の国に育ったオレとしては、許せないぞ。
ファーストコンタクトは最悪だ。
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