上 下
81 / 171
2年目 タイロン編

9. ドラゴン襲来

しおりを挟む
 伝説のある村は、夏の日差しの下で青々とした葉が茂る広大な畑の中にあり、村の周りは木の柵で簡単に囲っただけだ。牧歌的な雰囲気がただよっているけど、今まで通ってきた街や村に比べると、外敵に対して防御が全くされていない。
 ちょうどお昼の時間で、農作業の休憩中なのか、村の中に集まっている人たちがいるので、ドラゴンのことを聞いてみよう。

「ドラゴンの伝説と、ドラゴンがいるという山への道を教えてほしい」
「お前さん、何をしに行くつもりだ。伝説など、この村にはないぞ」

 村人がすごく警戒してるんだけど、普通は、「旅の人、よく参られた。この村に伝わる伝説では~」って語ってくれる場面だよね。
 知らない人に警戒しているんじゃなくて、ドラゴンという言葉に警戒している。ここでもやっぱりドラゴンに会いに行く人は歓迎されないみたいだ。

「この狐は私の使役獣なんだが、ドラゴンに会いたいと言っているので会わせてやりたい」

 ウィオのその答えを聞いて、今度は戸惑いの表情を浮かべた。狐がドラゴンに会いたいっていうのはやっぱり困惑しちゃう理由なのか。
 聞いてみると、この村にはドラゴン退治に行くという冒険者がたまに来て、ドラゴンについていろいろ質問するらしい。でも、この村にドラゴンが現れたというのは、正確にいつとは分からないくらい前のことで、今この村にいる人たちも代々そう伝わっているという話しか知らないんだそうだ。

「ドラゴン様は、この地を魔物から守ってくださっておる。傷つけることは許さん」
「戦うようなことはしない」

 この村に魔物が出ないのは、ドラゴンが守ってくれているからだと思って、崇めているらしい。
 実際は、あの山がちょっと特殊で魔物があまりいないからだと思うんだけど、真実を話して、信仰と夢を潰す必要はないよね。

 この村の人にとってドラゴンは守り神だから、退治するとか生き血を奪うというような迷惑な輩を、ドラゴンに近づけたくないようだ。戦うつもりはないと言っても、信じてもらえない。ただ好奇心で会いに行くには、ハードルが高すぎる相手だから仕方ないのかもしれないけど、本当に傷つけるつもりはないんだよ。

 ちょっと会ってみたいだけなんだよね。どうしようかなあ。
 居場所は探せるけど、山の中の道が分からない。聞いたところで途中からは道がなくなるだろうけど、道がすでにあるところは道を進んで行きたいんだけどなあ。
 行き当たりばったりで行っちゃう? 幸い季節は夏、山の中は過ごしやすい気温だろう。オレは良いけど、オレの好奇心でウィオに道なき道を進ませるのは気が引けるんだよね。

 と思ってたら、向こうから来てくれたみたい。
 山の上に小さく見えていた鳥のような物体が、あっという間に頭上まで来た。速いなあ。
 巨体が空を飛んでるから、村に影が出来て、村人も気づいた。

「お、おい! あれは、ドラゴン様!」
「まさか、この者たちを退治しにいらっしゃったのか?!」

 違うよ。フラグを立てるような不穏な発言は止めてよね。

「ルジェ、どういうことだ?」
『オレの存在に気付いて、向こうから来たんじゃないかなあ。万が一攻撃されてもオレのほうが強いから大丈夫だよ』

 攻撃力ないけど、防御力ならオレのほうが圧倒的に上だから。

 ドラゴンはこちらを窺って村の上空を旋回している。
 ゲームとかで見るドラゴンのまんまなんだけど、なんであの造形にしたんだろう。翼がカッコいいけど、あの体格があんな飾りの翼で浮くわけがない。
 まあここでドラゴンですってひょろ長い龍が出てきても、世界観統一してって言いたくなるけどさ。

 オレが関係ないことを考えている間に、旋回していたドラゴンはオレたちから少し離れた広場に着地した。ズドンっと響いた音と揺れに、かなりの重量があることが分かる。

「ドラゴン様がいらっしゃった……」
「ああ、この村はもう終わりじゃ」

 あれ? この人たち、守り神って言ってなかった?
 大人たちの混乱を他所に、子どもたちが歓声をあげてドラゴンに近づいていく。でも止まって。危ないよ。

『ウィオ、子どもたちを止めて』
「止まれ! 踏まれるぞ!」

 ドラゴンがオレに近寄ろうと、ドスンドスンと走ってきているのだ。巨体に対して足が短いから、走り方がペンギンみたい。

『そこから動くな!』
『大いなる御方の気配を感じ、馳せ参じ』
『だから、動くな! 人間の子どもが巻き込まれる!』

 ドラゴンも子どもも止まらないので、これ以上ドラゴンが動かないように、目の前まで一気に駆け寄った。
 オレの後ろで、ドラゴンを近くで見ようと走る子どもたちを、ウィオが必死に身体を張って止めている。

 あと一歩で踏むというドラゴンの足元すれすれにオレが止まったので、ドラゴンが上げた足をおろす場所がなくなって、よろめいた。尻尾を使って必死で体勢を立て直しているけど、やっぱりその身体バランス悪いよね。そのちっちゃい前足は何のためにあるの。二足歩行なら、前足じゃなくて、手なのかな。

『止まれと言ったのが聞こえなかったのか?』
『申し訳ございません……』

 初対面でオレに怒られたドラゴンがしゅんとしているけど、その図体でやられても可愛くない。
 だいたい魔法で飛んでるんだから、もっとソフトランディングできるだろう。なんで最後に魔法の制御を切って落ちてくるんだ。おかげで地面が揺れたじゃないか。かつて地震の国に育ったオレとしては、許せないぞ。
 ファーストコンタクトは最悪だ。
しおりを挟む
感想 146

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...