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2年目 タイロン編
8. ドラゴン探し
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ドラゴンこそ幻獣の代表格だ。
ちなみに人が言う幻獣と、分類上の幻獣には差異がある。
人が言う幻獣は、たまたま魔法が使える動物。小さくてまだ正体が自分でも分かっていなかった頃、オレは幻獣だと思われていたけど、その時の幻獣はこれ。食パンくんもそう。
でも種族として幻獣と呼ばれるのは、神様が目的をもって作った魔法が使える獣。どちらかというと精霊に近い存在。オレがドラゴンを幻獣って言うときはこっちでもある。
別にテストに出ないから忘れていいよ。
さて、この先の村にドラゴンの伝説がある。今年の食い倒れツアーに出る前、オルデキアでちゃんと調べてきたんだ。伝説だけでなく、目撃情報もあるらしい。
チートなら自分で場所がわかるんじゃないかって? もちろん分かるよ。分かるけど、そんなの楽しくないでしょ。やっぱり苦労して探してたどり着いてこその冒険でしょう。答えが分かっているパズルを解いてもワクワクはしない。
まずは伝説の村に一番近いギルドで聞き込みだ。
あんまり栄えていなさそうな小さなギルドに入ると、人もまばらだった。
「この辺りにドラゴンの目撃情報があると聞いて来たのだが」
「ギルドは把握していません」
ギルドの受付の人に質問すると、返ってきた答えには取り付く島もない。そんなことを質問するなという圧力すら感じる。
けれど代わりに、オレたちの近くにいる冒険者が答えてくれた。
「兄さん、悪いことは言わないからやめときな。帰ってきたものは一人もいない」
「使役獣がドラゴンに会いたいと言っているから、会わせてやりたい」
「この狐がか? 一口で食われそうだな。ドラゴンの血を飲んだら強くなれるって言うのは、ただの迷信だぞ」
オレがドラゴンの力が欲しくて会いに行きたいと言っていると思われたみたいだけど、違うよ。ただ、会ってみたいだけだよ。多分人間がオレという神獣に会ってみたいと思うのと一緒。レアキャラには機会があれば会ってみたいでしょ。
それに、確かに丸呑みされちゃう大きさだけど、食べられたりはしない。存在の格で言えば、オレのほうが圧倒的に上だ。神とそれ以外の間には越えられない壁がある。
でも血を飲んだら強くなれるなんて、どういう発想だろう。ドラゴンが強いのは何らかのウイルスのせいで、血を飲んだらそのウイルスに感染するとか? ちょっと怖い想像しちゃった。忘れよう。
気を取り直して、ギルドに情報は期待できなさそうなので、この冒険者にドラゴンの話を聞いてみよう。
こういう時はやっぱり、定番のあれだよね。
『ウィオ、この人にお酒をおごって。それで、ドラゴンについて教えてもらおう』
「酒でも飲まないか。ドラゴンについて聞きたい」
「ありがたいが、この街には昼間から酒が飲めるところはない。兄さん、そんな慣れないことをすると、カモられるぞ」
えー。そういうのは普通、ギルド内に酒場があって、そこで情報交換するんじゃないの?
改めてギルド内を見回してみると、そもそもお酒どころかカフェスペースみたいなところもない。こんな小さなギルドじゃ、なくて当然か。
オレが周りをちゃんと見てないことも、ウィオがこういうことに慣れていないこともバレてしまった。
「まずは、ギルドに宿を紹介してもらえ。そしたら宿に案内するあいだに話してやるから。宿の希望は?」
「食事が美味しくて、風呂がある」
「こんな田舎にそんな宿はないぞ。お忍びの貴族か?」
「違う。使役獣が美味しいものと風呂が好きなんだ」
「兄さん、甘やかしすぎだろ」
呆れられちゃったけど、ウィオはオレのお願いを何でも叶えてくれるし、確かにオレに甘いよね。でもオレはそんなワガママ狐じゃないから。お風呂がなくても文句は言わないよ。
ギルドの受付の人はオレたちのやり取りを聞いていたので、使役獣も泊まることができて食事が美味しいのはこの宿、部屋が広いのはこの宿、とリストを見せながら教えてくれた。表面上は丁寧に接してくれているけど、さっさとギルドから出て行ってほしいという思いが、受付の人の態度に出ている。
ギルドはドラゴンだけでなく、ドラゴンを探す人間にも関わりたくないのだろう。
ギルドだけでなく、この領も、この国も、ドラゴンの存在に気付かないフリをしているように見える。
君子危うきに近寄らず、ってところかな。ちょっかいをかけて本気を出されたら人間には敵わないから、それが最善かもね。
オレたちが宿を聞いている間に依頼で手に入れたものを売っていた冒険者は、オレたちが選んだ宿を確認して、「じゃあ行こう」と先にギルドを出て行った。その彼を、残っているギルドの職員と冒険者が、「貴族らしいぞ」「金持ちの道楽か」と囁きながら、心配そうに見ている。オレたちは使役獣のワガママを聞いてドラゴンを探しに行くお坊ちゃん冒険者で、あの人はそれに付き合わされていると思われていそうだ。
でも、よく考えたら正解だった。ドラゴンに会いたいのはオレのワガママで、ウィオはそれに付き合ってくれている。あの冒険者さんに迷惑はかけないけど。
ギルドを出て冒険者さんに追いつくと、ギルドの雰囲気が悪かったことを謝ってきた。冒険者さんのせいじゃないし、気にしてないよ。
「ドラゴンを退治してやるから、情報をよこせ、タダで宿に泊めろ、っていう勘違い野郎が来ることがあるんだ。それで、外から来てドラゴンの話をする奴には、みんな警戒するんだ」
「ドラゴンは魔物ではないと思うんだが、ここでは違うのか?」
「この辺りの人間は、魔物だとは思っていないし、退治も望んでいない。寝た子を起こしてくれるな、と思ってる」
ドラゴンが自分を退治しに来た冒険者のついでにこの辺りの街を焼き払っちゃったりしたら、巻き添えもいいところだ。一年に一組以上はそういうのが来るから、ギルドも面倒なのがまた来たって対応になるらしい。
紛らわしい行動をとっちゃったけど、今回はそんなことにはならないよ。
「ドラゴンに会いに行ったものはたくさんいるのか?」
「ここ最近だと、この春挑戦したグループがいたな。生き血を取ってくると大きなことを言っていたが、まだ帰ってきていない。ドラゴンにやられたのか、山で遭難したのかは知らん」
それって単純に見つけられなかったから恥ずかしくてこの街に帰ってこなかっただけじゃない? 見つけていたら、「一矢報いたがどうにもならず、名誉ある撤退を選んだ」とかって吹聴しそうだ。冒険者さんも本当はそう思ってるっぽいよね。
ドラゴンが山のどのあたりに住んでいるのかは、冒険者さんも知らないようだった。
大きな鳥のようなものが山の上を飛んでいるのを見たという情報がときどき寄せられるので、その辺りの山に住んでいると思われているけれど、その場所は簡単に行って帰れる距離ではない。
「伝説のある村に行って聞いてみるか」
「兄さん、あんたは今までの無謀な奴らとは違うようだが、無理はするなよ」
「分かっている」
「狐、会えるといいな」
『キャフッ』
いろいろ教えてくれただけじゃなくて、心配もしてくれて、ありがとね。
きっと会えないと思いながらも、オレの希望を壊さないように応援してくれた冒険者さん、優しいね。
ちなみに人が言う幻獣と、分類上の幻獣には差異がある。
人が言う幻獣は、たまたま魔法が使える動物。小さくてまだ正体が自分でも分かっていなかった頃、オレは幻獣だと思われていたけど、その時の幻獣はこれ。食パンくんもそう。
でも種族として幻獣と呼ばれるのは、神様が目的をもって作った魔法が使える獣。どちらかというと精霊に近い存在。オレがドラゴンを幻獣って言うときはこっちでもある。
別にテストに出ないから忘れていいよ。
さて、この先の村にドラゴンの伝説がある。今年の食い倒れツアーに出る前、オルデキアでちゃんと調べてきたんだ。伝説だけでなく、目撃情報もあるらしい。
チートなら自分で場所がわかるんじゃないかって? もちろん分かるよ。分かるけど、そんなの楽しくないでしょ。やっぱり苦労して探してたどり着いてこその冒険でしょう。答えが分かっているパズルを解いてもワクワクはしない。
まずは伝説の村に一番近いギルドで聞き込みだ。
あんまり栄えていなさそうな小さなギルドに入ると、人もまばらだった。
「この辺りにドラゴンの目撃情報があると聞いて来たのだが」
「ギルドは把握していません」
ギルドの受付の人に質問すると、返ってきた答えには取り付く島もない。そんなことを質問するなという圧力すら感じる。
けれど代わりに、オレたちの近くにいる冒険者が答えてくれた。
「兄さん、悪いことは言わないからやめときな。帰ってきたものは一人もいない」
「使役獣がドラゴンに会いたいと言っているから、会わせてやりたい」
「この狐がか? 一口で食われそうだな。ドラゴンの血を飲んだら強くなれるって言うのは、ただの迷信だぞ」
オレがドラゴンの力が欲しくて会いに行きたいと言っていると思われたみたいだけど、違うよ。ただ、会ってみたいだけだよ。多分人間がオレという神獣に会ってみたいと思うのと一緒。レアキャラには機会があれば会ってみたいでしょ。
それに、確かに丸呑みされちゃう大きさだけど、食べられたりはしない。存在の格で言えば、オレのほうが圧倒的に上だ。神とそれ以外の間には越えられない壁がある。
でも血を飲んだら強くなれるなんて、どういう発想だろう。ドラゴンが強いのは何らかのウイルスのせいで、血を飲んだらそのウイルスに感染するとか? ちょっと怖い想像しちゃった。忘れよう。
気を取り直して、ギルドに情報は期待できなさそうなので、この冒険者にドラゴンの話を聞いてみよう。
こういう時はやっぱり、定番のあれだよね。
『ウィオ、この人にお酒をおごって。それで、ドラゴンについて教えてもらおう』
「酒でも飲まないか。ドラゴンについて聞きたい」
「ありがたいが、この街には昼間から酒が飲めるところはない。兄さん、そんな慣れないことをすると、カモられるぞ」
えー。そういうのは普通、ギルド内に酒場があって、そこで情報交換するんじゃないの?
改めてギルド内を見回してみると、そもそもお酒どころかカフェスペースみたいなところもない。こんな小さなギルドじゃ、なくて当然か。
オレが周りをちゃんと見てないことも、ウィオがこういうことに慣れていないこともバレてしまった。
「まずは、ギルドに宿を紹介してもらえ。そしたら宿に案内するあいだに話してやるから。宿の希望は?」
「食事が美味しくて、風呂がある」
「こんな田舎にそんな宿はないぞ。お忍びの貴族か?」
「違う。使役獣が美味しいものと風呂が好きなんだ」
「兄さん、甘やかしすぎだろ」
呆れられちゃったけど、ウィオはオレのお願いを何でも叶えてくれるし、確かにオレに甘いよね。でもオレはそんなワガママ狐じゃないから。お風呂がなくても文句は言わないよ。
ギルドの受付の人はオレたちのやり取りを聞いていたので、使役獣も泊まることができて食事が美味しいのはこの宿、部屋が広いのはこの宿、とリストを見せながら教えてくれた。表面上は丁寧に接してくれているけど、さっさとギルドから出て行ってほしいという思いが、受付の人の態度に出ている。
ギルドはドラゴンだけでなく、ドラゴンを探す人間にも関わりたくないのだろう。
ギルドだけでなく、この領も、この国も、ドラゴンの存在に気付かないフリをしているように見える。
君子危うきに近寄らず、ってところかな。ちょっかいをかけて本気を出されたら人間には敵わないから、それが最善かもね。
オレたちが宿を聞いている間に依頼で手に入れたものを売っていた冒険者は、オレたちが選んだ宿を確認して、「じゃあ行こう」と先にギルドを出て行った。その彼を、残っているギルドの職員と冒険者が、「貴族らしいぞ」「金持ちの道楽か」と囁きながら、心配そうに見ている。オレたちは使役獣のワガママを聞いてドラゴンを探しに行くお坊ちゃん冒険者で、あの人はそれに付き合わされていると思われていそうだ。
でも、よく考えたら正解だった。ドラゴンに会いたいのはオレのワガママで、ウィオはそれに付き合ってくれている。あの冒険者さんに迷惑はかけないけど。
ギルドを出て冒険者さんに追いつくと、ギルドの雰囲気が悪かったことを謝ってきた。冒険者さんのせいじゃないし、気にしてないよ。
「ドラゴンを退治してやるから、情報をよこせ、タダで宿に泊めろ、っていう勘違い野郎が来ることがあるんだ。それで、外から来てドラゴンの話をする奴には、みんな警戒するんだ」
「ドラゴンは魔物ではないと思うんだが、ここでは違うのか?」
「この辺りの人間は、魔物だとは思っていないし、退治も望んでいない。寝た子を起こしてくれるな、と思ってる」
ドラゴンが自分を退治しに来た冒険者のついでにこの辺りの街を焼き払っちゃったりしたら、巻き添えもいいところだ。一年に一組以上はそういうのが来るから、ギルドも面倒なのがまた来たって対応になるらしい。
紛らわしい行動をとっちゃったけど、今回はそんなことにはならないよ。
「ドラゴンに会いに行ったものはたくさんいるのか?」
「ここ最近だと、この春挑戦したグループがいたな。生き血を取ってくると大きなことを言っていたが、まだ帰ってきていない。ドラゴンにやられたのか、山で遭難したのかは知らん」
それって単純に見つけられなかったから恥ずかしくてこの街に帰ってこなかっただけじゃない? 見つけていたら、「一矢報いたがどうにもならず、名誉ある撤退を選んだ」とかって吹聴しそうだ。冒険者さんも本当はそう思ってるっぽいよね。
ドラゴンが山のどのあたりに住んでいるのかは、冒険者さんも知らないようだった。
大きな鳥のようなものが山の上を飛んでいるのを見たという情報がときどき寄せられるので、その辺りの山に住んでいると思われているけれど、その場所は簡単に行って帰れる距離ではない。
「伝説のある村に行って聞いてみるか」
「兄さん、あんたは今までの無謀な奴らとは違うようだが、無理はするなよ」
「分かっている」
「狐、会えるといいな」
『キャフッ』
いろいろ教えてくれただけじゃなくて、心配もしてくれて、ありがとね。
きっと会えないと思いながらも、オレの希望を壊さないように応援してくれた冒険者さん、優しいね。
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