美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい

戌葉

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2年目 オルデキア南部編

5. 二つ名

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 宿に帰ると、ウィオが約束通りにお風呂に入れてくれた。石鹸はお屋敷で用意してくれた、オレのお気に入りの香りのものだ。
 去年帰ったときのオレの毛の手触りが、執事さんとしてはダメだったらしくて、今年は行く先に合わせた調合がされたお手入れグッズを渡されている。乾燥しているところでは少しだけオイル多めとか、こういう気候のところではこの石鹸を使うようにと、ウィオに細かい申し送りがされていた。ちなみにウィオもオレも、その違いはよく分かっていないけど、オレの身だしなみには厳しい執事さんの言うことは絶対だ。

 ウィオがオレの毛を丁寧に洗ってアワアワにしながら、怪我をしていないか確認してくれている。大丈夫だよ、あの程度の攻撃は防げるし、怪我もしていないから平気だよ。
 でも魔物のばっちいのがついていそうだから、綺麗にしてね。
 え? 汚れないようにできるんじゃないかって? できるよ。いつもは不自然だからしてないけど、今回はさすがに嫌だったから、魔物のヨダレは防いだよ。だけど、人に洗ってもらうのって優雅な気分になれるから、お風呂はご褒美なの。

「ルジェ、人の都合に付き合わせて悪かった。協力してくれてありがとう」
『どういたしまして。オレも楽しかったよ』
「この街道が通れなくなると、南から王都へ運ばれる食料が止まる。それは避けたかったんだ」

 きっとそれで影響を受けるのは、庶民だ。ご飯が食べられなくなるのは辛い。

『今後も街道の安全は、最優先で対応しようね。なんでも協力するよ』
「どうした?」
『もしオレが王都にいて、魔物のせいでお魚はしばらく食べられないって言われたら許せないから』
「ふふっ。食べ物のためか」

 食べ物の恨みは恐ろしいのだ。美味しいもののためなら頑張っちゃう。


 討伐の翌日、宿の美味しい朝ご飯を食べようと食堂に向かったら、商人がいた。
 商人や馬には被害はなかったけど、護衛の冒険者たちは無傷ではなかったので、二日間ここで休みにしているそうだ。新人治癒術師くんは護衛の冒険者たちの治癒をして、魔力切れでダウンしているらしい。能力以上に頑張っちゃったのだろう。ベテラン治癒術師への道のりは長いと思うけど、応援してるよ。

 ちなみに昨日の夜は、戻ってくるのが遅くなったにもかかわらず、ほかほかの美味しいご飯を宿の人が用意してくれた。お魚は淡白な白身をふんわり蒸してソースをかけたもので、オレにはソースなしだったけど、一緒に蒸した野菜の甘味で十分だった。何より蒸し具合が絶妙でぷりぷりしていて美味しかった。

「氷の騎士様、その狐の使役獣と共に大活躍だったと、噂を聞きましたよ。すでにロボの討伐は終わったとか」
「ああ。ルジェがロボを集めてくれたから、一日で済んだ」

 やった。昨日の今日ですでにオレの活躍も噂になってる。褒めて褒めてー。

「そちらの使役獣へのご褒美に、今夜は特別な魚料理を頼んでおきましたので、楽しみにしていてくださいね」
「すまないな」

 特別な魚料理ってなになに? 夜がすごく楽しみだ。ありがとう!
 嬉しくて尻尾を振っていたら、商人がウィオに断ってオレのことを撫でてくれた。美味しいものをくれるから、もっと撫でていいよ。

「すごく人懐っこいのですね」
「ルジェは人が好きなので」

 オレは小さいときに会った鷹さん以外の使役獣を知らないから、普通がよく分からないけど、確かに鷹さんはウィオに撫でさせたりはしなかった。オレみたいに人懐っこいのは珍しいんだろう。オレ、使役獣としてお仕事はするけど、基本は飼い狐だからね。


 朝食を終えて、あの討伐が依頼になったことの確認のためにギルドに向かうと、ギルド長の部屋に案内された。

「昨日は討伐への協力感謝する。ギルドからの依頼料は他の冒険者と同じだが、領主から謝礼がもらえることになった」
「ありがとうございます」
「その狐がロボを集めたと聞いたが、ロボから逃げきり、魔法や矢も避けるとは、ずいぶんと足が速いんだな」

 オレが魔法の弾幕を潜り抜けたのは、足が速いからということになっているようだ。本当のことは話せないから、そう誤解しておいてくれると都合がいい。
 こういうはっきり答えられないことを言われたとき、オレならあいまいに笑ってごまかすけど、ウィオは何も答えず表情も変えない。必殺、聞こえなかったフリだ。多分本人にそういうつもりはないんだろうけど、言った人がビビって、その話はそれ以上追及されない。
 ギルド長もウィオが答えないと分かったのか、それ以上は聞かれなかった。
 オレにも「神速の狐」とか二つ名がついたりするかな。「氷の騎士」とセットだと「雪の嵐狐」とかかな? カッコいいのがいいなあ。

 その後、おまけのように伝えられた領主からのご招待は、もちろん断ったよ。領主もウィオが応じるとは思っていなかったようで、儀礼的に一応誘ったというのは、ギルド長の口ぶりから分かった。

 ギルド長の部屋を出て、出口に向かってギルドの中を進んでいると、居合わせた冒険者たちから声をかけられた。

「狐、大活躍だったな!」
「すばしっこかったなあ」
『キャン!』
「よしよし、頑張ったなあ」

 あちこちから手が伸びてきて、代わる代わる撫でてくれる。
 えっへん。みんなに褒めてもらえて嬉しいな。鼻が上に向いちゃう。
 ランクアップ試験のときは、オレの仕事は「応援」って言ったけど、今は「一発芸」と「匂い探知」も加わった。さらに今回で「ロボ限定誘引剤」が増えたよ。

「噂の『居眠り狐』か。ロボに囲まれても呑気に寝てたらしいな。おまえ、大物だな。よしよし」
「可愛いなあ。ふわふわだなあ。起きてて偉いぞ」
「今日は起きてるのか。オレたちが、ロボより怖いってことじゃないよな? おやついるか?」

 ちょっと待って! それ、もしかしてオレの二つ名?! やめてよー。オレ、可愛くて賢い働き者の狐なのに、なんで居眠りなの!
 しかも、起きているだけで褒められるって、オレどれだけ居眠りしてると思われてるの!!
 不名誉な二つ名は許せないけど、そのナッツが入ったクッキーは食べてみたいから、ちょうだい。
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