リュッ君と僕と

時波ハルカ

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一日目

焚き火

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 少し笑い合った後、リュッ君とユウキは再びお互いを見合った。

 青い☆は、相変わらず、二人を照らして、くるくる回りながら浮いている。

「さて、すっかり日も暮れたし、さっさと始めるか」
「うん!」

 ユウキが立ち上がろうと視線を移動すると、その☆もユウキの視線の動きに合わせるかのように、一緒に動いて付いてきた。

 ☆の動きに気付いたユウキが一瞬、あれ?っと、不思議に思ってじっと☆を見つめた。ユウキは、右へ左へと、いろいろな方向に向いてみると、やはりユウキの動きに付いていくかのように、その☆も右へ左へとふわふわと浮かんで、ユウキの向く先を淡い光で照らしてくれた。

 一緒に動く☆の動きを見つめるユウキの表情がみるみる明るくなっていく。

「わああ!すごーい!すごい!付いてくるよ!これ」

 その様子を見て、リュッ君は、感心したように、へええ、と唸った。

「こりゃすごい、お前の動きにちゃんと合わせてくれるのかな?ユウキちょっと試してみろ」
「うん!」

 ユウキが答えると、額の先に浮かぶ☆に手のひらを向けてみる。

 ☆は手のひらの方に、すーっと、寄って来ると、その手にまとわり付くようにらせんに軌道を描いてふわりと移動した。

 ゆっくりと手を移動させるユウキ。すると、☆もフワフワとついてくる。そんな☆の動きを見て楽しくなったユウキは、踊るかのように腕を広げ、くるくる回りながら石畳の上に降り立った。ユウキの動きに合わせて☆が青い光を放って空中を乱舞する。ユウキは楽しそうに笑いながら、☆の光をあたりに振りまいて、くるくると回転した。

「うん。こいつぁ便利だな。これで暗いところも見ることが出来るな。ユウキ」
「うん!」

 ひとしきり☆の動きを試した後、リュッ君のほうに向き直り、☆を額の前に戻して、リュッ君が居る場所まで戻ってきた。そして、リュッ君に手を伸ばして、背中に担いで再び境内の石畳に降りて行った。

 ユウキに背負われたリュッ君が背中越しに話しかけてくる。

「あまり、遠くに行かずに、社の周りから手頃な薪を集めよう。あまり大きなものはいらないからな」

 顔の前に浮かぶ☆の明かりを頼りに、社の周りに広がる雑木林に向かって歩き出すユウキが、リュッ君に問いかける。

「大きくないほうがいいの?」
「そうだな、手ごろで折れるくらいのものがいい。大きすぎると火がつきづらい。あと湿っていたりするとこれも火付きが悪いからな。手頃な大きさで乾いているほうがいい。最初の薪の組み方で火のもち方が違うからな。きれいに組めるように手ごろな薪を集めるように気をつけろ」
「うん!分かった!」

 木が茂った場所あたりにつくと、ユウキは意気揚々と薪を集め始めた。ほんとに大丈夫か?といぶかしむリュッ君だったが、とりあえず、ユウキのぐずついた様子が治まったことにホッとして、今は背負うがままにされていた。

 ユウキがてきぱきと薪を拾っては集めていく。

 ある程度まで木の枝を集め終えて、石畳の上に一山作ると、おもむろにユウキはリュッ君をおろして、その口のようなふたを開けた。

「リュッ君も手伝ってね」
「お、おいまて、ユウキ!もがふふふ」

 有無も言わさずリュッ君の口を開き、手早く薪を一杯に突っ込むユウキ。口を薪にふさがれたリュッ君がはげしくむせる。そんなリュッ君を、よいしょっ、と背負うと、自分も両手一杯に薪を持って、意気揚々と歩き出した。

 拝殿の前に戻ってきたユウキは、胸に抱えていた薪を地面に落とした。その後、背中に背負っているリュッ君をさかさまに振り、口いっぱいに詰め込んでいた薪をガラガラガラ、と吐き出させた。

「げほっごほっごほっ」

「大丈夫?リュッ君」
「すまん、次は勘弁してくれ…」

 リュッ君を脇に置いて、一人で木の枝を集め始めるユウキ。結構な山が木の枝できたところで、リュッ君がユウキに声を掛けた。

「この辺でいいだろう、次は火をつきやすくするために、かまどを作ろう。丁度いいくらいの石を幾つか持ってきて、壁を作るんだ」
「石ってどのくらいの?」
「両手で抱えられるくらいのかな?」
「リュッ君の中に入るくらい?」
「すまん、それも、勘弁してくれ…」

 再び境内を回って石を集めるユウキ。そしてそのまま境内の脇でかまどを作り始めた。

「さて、石かまどだが、真ん中にくぼみが出来るよう、囲いを作るんだ。ああ、風が弱いほうに通り道を作るんだぞ。木と木の間にちゃんと空気が通る様に気をつけて…そうそう、いいぞ」

 石組みかまどを自分なりにくみ上げたユウキが、リュッ君のほうを向く。どうだといわんばかりのその顔が、☆の明かりに照らし出されると、思わずリュッ君も苦笑いを浮かべた。

「さあ、次は薪の組み上げだ。その前に小さい小枝と葉っぱを取って、それぞれで分けて一山つくろう。数は多いほうがいいからな。」

 境内に木を折る音が一定のリズムで響く。この作業をそれなりにユウキも楽しんでいるようだ。折りながらちらちら伺うユウキに、「短めに細かく折って、長さもそろえるんだぞ」と、大きさや割り方にアドバイスや合いの手を入れるリュッ君。

 ひとしきり、細かい枝葉と薪がそろったところで、
「じゃあ、薪をくみ上げるぞ、まず、枯れ草と小枝、細かくて燃えやすそうなものを真ん中に山にして置いてみろ」
と、ユウキにリュッ君が言った。ユウキは頭をひねりながらも、自分なりに枝葉を山にして配置していった。

「うん、まあそんなもんかな。その草木の山を中心に、拾ってきた薪を放射状に置くんだ。ええと、まる~く並べて…。そうそう、あまりびっしり並べる必要はないからな。よし、その上に、ちょっと太いものも乗せて、そうそう、周りの石との距離を調整しようか、あまり離れすぎないように詰めておこう」

 お手製かまどを作り上げたユウキが、リュッ君のほうを伺う。

「よし、じゃあ、マッチで火をつけるぞ。あまり無駄に出来ないから、慎重に、もち手を練習するか。まずマッチ棒を一本取り出そう。先が丸まっている方をこすって火をつけるんだ」

 マッチ箱を開けて、中から一本、マッチ棒を取り出したユウキがしげしげとマッチ棒を見つめた。

「マッチ棒の火はすぐに消えてしまうから注意しろ。この火が消える前に、薪の下に置いた草木に火をつけるんだ。その後、その火に空気を送る。これは口でフーフーするんだ。そしたら、段々火が大きくなるから、これで焚き火の完成だ」

 ユウキが手にしたマッチ棒を慣れない手つきでつまみ、箱にこすりつけようとする。

「ああ、ちょっとまて。丸いほうをこすり付けやすいように、人差し指と親指でつまむんだ」

リュッ君に言われて、親指と人差し指でマッチ棒をつまむユウキ。

「うんそうだな、それで斜めにして、勢いよくしゅっ!とこすり付けてみろ。勢いが良くないと火がつかないからな」

 ユウキがマッチ棒をつまんで、先端の発火材をこすり付ける。何回かの挑戦の後、一度、ぼっ、と火が点いたが、すぐに消えて煙と化してしまった。

「おお、おしいおしい。折れたやつは薪の下の枝葉と一緒にしておけ。後で火がつきやすくなるからな。よし、もう一度だ。そう、斜めにして。ああ、いいね。勢いよく、1、2の3でやってみよう。よし、1、2の3!お、ついたついた。そのまま斜めにして、薪の下に放り込むんだ。ああ、投げ捨てちゃだめだ。消えちまったじゃねーか…」
「だって…熱いんだもん…」
「まあ、いまのでコツはつかんだろ。次は慎重に行こう。よし、いくぞ、1、2の3!よし、そのまま薪の下に持っていって。いいぞお…。火種が付いた。そのままフーフーして!フーフー!煙が出ているから、まだ大丈夫だ。そのまま!いいぞ、ほら、火が強くなってきたぞ!フーフー、よし、薪に火が移り始めた。そのまま、そのまま…」

 火が徐々に大きくなって焚き火の勢いが増して行く。☆が照らし出す青い光に混じって、境内に炎の光が広がっていった。火の粉がはじけて燃え上がるオレンジの光をうれしそうに見つめるユウキ。

「わああ、すごーい。やったー、僕やったよー。リュッ君」
「そうだなユウキ、えらいぞう。だけどな、焚き火はこれからが本番だ。脇にある薪をうまく使って、火の勢いを一定に保つんだ。強すぎず、弱すぎずだ。安定したら、その脇で一旦休もう」
「うん!わかった」

 境内と夜空を照らす焚き火の明かりに向き直り、薪を手に取るユウキ。

 炎が揺らいで傾くたびに、境内の影がゆらりと躍った。
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