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メガネスーツ女子とジャガイモとトイレ問題
頁44:伝説級とは 1
しおりを挟む「ひろっさんおはーっス」
「おはようございます。飲み過ぎで体おかしくなったりしてませんか?」
しれっと朝の挨拶を交わす。
「目の前に見えてる物が現実じゃなかったら多分おかしくなってると思うが…お前さん達にも見えてるよな?」
「え? 何が?」
「何の事でしょう?」
「堂々と嘘を吐くんじゃないよぉぉぉぉぉ!!」
ちっ。流石にそこまで騙されてはくれないか。
「私達もさっき起きたばかりでして…。そしたらこんな物が現れてて、彼と何が起きたのかって話していたんですよ」
「お前さん達の国でも分からない現象なのか?」
「『私達の国』と言うか、一晩でこんな樹が育ったり大きな石が現れていたらどこだって大騒ぎですよ…」
「むむ…そりゃそうだな。そうか…こいつは『樹』って言うのか…」
ひろしさんは樹と石をぺたぺた叩いたり触ったりして調べている。ああ、『杉』は登録したけれど『樹』という括りは未登録だったっけ。
「何の変哲も無い『 』と石、だよなぁ…? なんだってこんな…」
さて、どうしようか。すると神々廻さんがそっと私をつつく。無言で彼を見るとなにやら自分を指差し、サムズアップ。
何か策があるという事だろうか?
あまりにも自信満々そうにしているので取り敢えず任せてみる事にした。
「ひろっさん…もしかしたら、なんだケドさ…」
「うん?」
テンション落とし目で切り出す神々廻さん。
「これはウチの国っていうかオレのばっちゃんから聞いた昔話なんだけど…」
「昔話…?」
そう来たか。
「死んだ人達を弔った後にゴクマレに現れるモノってのがあるんだって。なんでそんなモノが現れるのかはハッキリしてないみたいだケド…共通しているのは敵対生物に襲われたり不慮の事故で死んでしまった人の埋葬後らしいヨ…」
「なん…だって…!?」
ひろしさんがゴキュッ!と生唾を飲み込む音が聞こえた。
どれだけ大量に飲み込んだのだろう。音がすごい。
「生前とても幸せだったり未練が大きい人の魂が抱える悲しみや苦しみを吸い込んで浄化する為に、一気に大木に成長する樹の噂をオレも聞いた事があるんだヨね…」
「じゃあ…この樹が…!? 確かに死んだあいつらは毎日そりゃ楽しそうにしてたし…しょういちの奴は息子の事を…」
うん? しょういちさん、という名前には聞き覚えがあった。
確かよしこさんが言っていた、犠牲になった夫婦の旦那さんの名前が確か…。
「なら、隣のこのデカい石は───」
「下手に触らない方がイイよ! それはきっと……集まり集まって固まった… 怨 念 の 結 晶 だと思う…!!」
「ヒィッ!」
…何と言うか、冒涜もいい所だ。本当にごめんなさい。
「ど、どうしたらいい!?」
「祈るのじゃ…! 安らかにお眠り下さい、私達を見守っていて下さい、この村をお守り下さい…と!!」
要求してばっかりか。それとその口調なによ。
「そして、その石は鎮魂と感謝の気持ちを込めて磨くのじゃ…! 邪な気持ちで磨けば災いが降りかかるじゃろう…!!」
「けど磨く為って言っても触っても大丈夫なのか!?」
「ダマらっしゃい!! 言い訳していいワケ!?」
「は、ハイすいません!! 村人全員で毎日の日課にしますッ!!」
私は一体何を見せられているのだろうか。駄洒落まで聞かされて。
「──────ハッ…? お、オレちゃんは一体…? ひろっさん、もしかしてオレ…なんかやっちゃいました?」
「にーちゃん、まさか覚えてないのか…?」
「覚えて…? そういやァ『光り輝く誰か』がオレちゃんの中に入って来たような…ハテ??」
「な…なんてこった…! こりゃあ…お告げだ……! にーちゃんに降臨した『 』のお告げだぁぁぁぁ!!!」
ひろしさんはそう叫びながら走って行ってしまった。
叫びの中に無音が挟まっていたけれど、確か昨日もよしこさんから『 』の思し召し、という言葉を聞いた。恐らくは同一の物だろうか。前後の文章からするに宗教的な匂いがする。現在の世界にも信仰的な概念があるという事だろうか?
ひろしさんの足音が遠のいて、辺りに一時の静寂が舞い戻る。
「へへっ、ドーヨ? オレちゃんの演技は!」
「30点」
「馬鹿な!?」
やり過ぎ。
「大事にしてどうするんですか。収拾付かなくなりますよこれ」
「そんなァ…。ちなみに何点中?」
「2000点」
「赤点以下ジャン!?」
はぁ…。私だって彼に任せてしまった以上は責任がある。ならば虚構を現実にしなければ。
「神々廻さん、【承諾】お願いします。早く本を開いて!」
「え? あ、ハイ!」
言われるがまま【辞典】を開く彼。
システムメッセージの先頭に表示された【提案】の意味を理解してくれるだろうか。
「あ…。えと、承☆諾!」
「うるさいです!」
《 個体名/植物:リバース・ツリー が承諾され、世界に登録されました。》
名を得た樹がギシッと軋んだ気がした。いや、間違いなく揺れ動いている。
ぼやけた輪郭は鮮明さを増し、幹が、枝葉が、その名の意味を現すかの様に柔らかくも力強さを感じる形へと姿を変えていった。
(次頁/44-2へ続く)
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