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フェイト・ギフテッド=トゥインタ(前)

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~はじめに~

1ヶ月以上投稿出来なくて、マジすんませんでした。

言い訳をしますとですね、マジでリアルがクソ忙しくなって、栄養ドリンクと眠眠打破ガブ飲み状態だったんですよ…(ガブ飲みは胡蝶しのぶもビックリな誇張表現ですけど…)

☆な☆の☆で☆(←うわ、これうぜぇw)

今回は前編と後編の二話構成で前編には半分くらいアリスちゃんたちのお話を入れてます。

後編にも何か追加で書きます(タブンネ)

良かったら、読んでいってねっ!

そして、感想もくれると嬉しいな~…なんて…

では、本編へGO!

…ほーんつってな。



~本編~


この世界が誕生して何億何万何千の時が経ち、生命が進化した果ての時代…

まだこの世界に能力や魔法が無く、妖精や悪魔も無い。

この世界の人々はたった1柱の全知全能の神のみを信仰していた。

この世界には産まれながらにしてを背負う者がいた。

この世界のヒトは種族を問わずにそれを「背信者そむくもの」として扱い、その存在を恐れ、排除しようとする動きが強かった。

もまた背信者の一人であり、産まれながらにして罪を背負って生きていた。

白く輝く長い髪、緋色に輝く眼、背は高く、胸部には彼女の年齢を考えれば…いや、人としては過剰なほど立派な膨らみがあり、その密度の高い谷間には彼女が罪を背負う者だとわかる黒い紋章があった。

その者の名前は「メルト」と言う。

メルトは産まれてから、しばらくは普通の子と同じ様に生活していた。

いや、この場合はさせてもらっていたが、正しいのだろう。

彼女の両親は有力な貴族だった。

彼女の両親はこの時代の住民としては異端な「悪行を犯してないなら、例え背信者であろうともヒトとして受け入れよう。」と言う考え方をしていた。

その考えのおかげで背信者として産まれた一人の娘もまた普通の子として暮らせていたのだ。

だが、それを良しとしない者たちもいるわけで、背信者の娘を残して、娘の家族は娘の目の前で皆殺しにされ、娘は街の嫌われ者に早変わりし、娘の深き憎しみによって力が暴走し、街を、ヒトを、周囲の全てを消し去るまで、娘はありとあらゆるところから石を投げられ、罵声を浴びせられた。

その為、娘はヒトを嫌う様になった。

これはそんな娘がヒトと関わりを完全に絶って、8年がたった日のことだ…


「ふわぁ…」

私は少し固めのベットから身体を起こす。

「んう~…くわぁ…」

身体を伸ばして、これから動き出すのだと脳に認識させる。

「もうあれから10年…か…」

私は自作のカレンダーのような魔道具を見て、そんな事を思考する。

「…」

私は嫌な記憶を振り払う様に頭を振る。

「アッペルでも食べるか…」

私はアッペルと言う真っ赤な果実を異空間から取り出して、愛用しているナイフで皮を剥いて食べる。



アッペルはパイナップルとリンゴが合わさったような味と見た目をしている。



「うん。美味しい」

私は自然の恵みに感謝して「ごちそうさま」と手を合わせる。

そして、部屋の中の物を全て異空間に収納して、住処にしていた家を出る。

「そろそろ、別の場所に移ろっと…あいつらみたいなのに見つかるとあの時みたいになるかもしれないし…」

私はそんな事を呟いて家を破壊する。

「ここが見つかった時にこんな人気のないところに家があると不自然だもんね。」

私はそそくさとその場を離れ、薄暗い森の中へと入る。

「しばらくは野宿かな?」

私はそんな事を考えながら、山が見える方を目指す。



こうして、私のヒトを避けたアテのない旅をするのは8年目だ。

初めの2年は定住地を決めていたのだが、その場所がたまたま近くにあった集落のヒトに見つかり、昼は子供たちのイタズラ、夜は大人たちの夜襲が半年に渡って、ほぼ毎日繰り返されて居たため、寝不足も酷いものになっていた。

その為、私は夜襲が行われなかった日を見計らって、近くのヒトの集落と思わしき集落を魔法と能力を使って一夜にして全てを消滅させ、別の土地へと旅をすることにした。

これが私のヒトを避けたアテのない旅の始まりだった。



私はいくつもの夜を過ごし、山の麓にたどり着いた時だった。

「あれは…」

私の目戦の先に居たのは今にも死にそうな長い袖の服を着た猫耳の生えたヒト…猫人ねこびとの黄金色の長い髪の女の子を見つける。

「あの子も私と同じ背信者…なのかな?」

私は関わらないようにしようと後退する。

「べキッ!」と枝を踏んだ音がしたと同時に女の子がこちらを見た為、女の子のハイライトの無い亜麻色あまいろの目と私の目が合う。

女の子の目に明るさが出て、女の子が弱々しく手を伸ばす。

それを無視出来るほど、私の心は死んでなかった。

私はその女の子の傍に寄り、回復魔法を使って女の子の身体の傷を癒す。

「あの…ありがとうございます!」

女の子は動ける様になったと同時に頭を下げてお礼を言う。

「別にお礼を言われるほどの事じゃないわ…」

私はそれだけを言って立ち去ろうとすると女の子に服の袖を掴まれる。

「あの…お名前をお伺いしても?」

「メルト」

「メルトさん…ですか?」

女の子が確認する様に繰り返すので、私は小さく頷いて肯定する。

「あの…私はキリエと言うんですけど、メルトさんに聞きたい事があるんです…」

キリエは私の胸の紋章を指さす。

「それって、背信者の紋章ですか?」

私は無意識に少し身構える。

「あ、ごめんなさい…それが悪いって言いたいんじゃないんです…私も似た様な紋章がありますので…」

キリエはそう言って服の左の袖を捲り上げる。

そうしてキリエの左腕に自分と同じ黒い紋章がある事を確認する。

「あんたも背信者だったのね」

私がぽつりと言うと女の子は少し安心した様子で頷いて袖を戻す。

「そうなのです。私もメルトさんと同じ背信者なので、村を追われたんです…」

話を聞くとキリエは産まれてからすぐには紋章は現れず、8歳の誕生日を迎えた今朝、突然紋章が浮かび上がったせいで、村の全員から攻撃される様になってしまい、命からがら逃げ出して来た…というわけなんだそう。

私はキリエの話を聞いて、急いでこの場を離れないといけないと思考する。

「それなら、私は逃げるわ。じゃあね!」

私はキリエが掴んでいた裾を強引に引き剥がして森の中へ逃げ込む。

振り返る事もせずにただひたすらに走って逃げた。

そうして、しばらく逃げていたのだが…

「はぁ…はぁ…まさか、追い抜かれるとは…」

目の前には怒った表情のキリエが居た。

「ちょっと、こんな子供を置いて逃げるなんて酷いんじゃありませんか?」

開口一番にそんな事を言われて私は唖然としていた。

「…はぇ?」

思わず間抜けな声を出してしまった私にキリエは言う。

「なんて間抜けな声を出しているんですか!…と、そんなことはどうでも良くてですね!」

キリエは「ビシッ」と音が聞こえそうなほど勢いよく指をさす。

「良いですか?まず、ヒトとして~…ガミガミガミガミ…」

そこから、キリエの怒涛の叱責が小一時間ほど続く。

私はほとんど聞き流していたので、少し眠くなってきていた。

キリエはそれを察した様に私を見て言う。

「と・に・か・く!危険なところに子供を置いて逃げるのは恥ずべき事ですよ!私だから、良かったものの、これが私じゃなかったら死んでたかもしれないんですよ?いくらヒトに嫌な事をされたとしても罪のない子供を置いて逃げるのは良くないですよ!って、聞いてるんですか?!」

私はめんどくさいと感じて、キリエから顔を逸らす。

「アンタと私は違う。アンタは運が良かっただけよ。」

キリエが何か言おうとしてたのを無視して、私はそのまま森の中を進む。

しばらく歩いていると…

「ぐぅ~…」と背後から腹の虫が鳴く音が聞こえる。

するとその音の発生源が言う。

「メルトさん、休憩しませんか?さすがにちょっと疲れましたし…」

「着いてこいなんて言った記憶は無いわよ?」

「むぅ…そんな意地悪を言う人には美味しいお肉もあげませんからねっ!」

「美味しいお肉?」

私は思わず「美味しいお肉」に反応してしまう。

「そうですよ。そんじょそこらの野生動物の肉とは違う脂の乗った柔らかくて美味しいお肉です!それに私の能力の中で育てたみずみずしくて美味しいお野菜もあるんですからね!ほら、このキューリなんて、特に甘くて美味しいんですからね!」

私はキリエからキューリを受け取って食べる。

「…ッ!美味しい!」

パリッとしっかりとした食感と共に口いっぱいに甘味が広がるが、その甘さもくどくなく、上品な甘さが味覚を通じて脳に幸せを感じさせる。

私は街でも食べた事が無いくらい美味しいキューリに心を奪われてしまった。

キリエはメルトの幸せそうな顔を見て言う。

「私と居れば、こんなに美味しいものが、いつでも食べられますよ!なんたって、私の異能いのうはこうした食を生産する事に特化していますからね!これだけでもメルトさんが私を連れて行く利点は大きいでしょう?それに私も強いメルトさんに守ってもらえれば身の安全が確保出来ますし、一石二鳥でしょう?どうです?これなら、もうなんて言えないでしょう?」

ドヤ顔で自信満々に言うキリエは応えはわかっていると言いたげに無い胸を張る。



異能とは後の時代に能力スキルと呼ばれるようになる能力の総称で、技能や種族の特殊能力も含まれる。

そして、それが固有能力ユニークスキルになると権能けんのうと呼ばれるようになり、この時代では権能の中に魔法や呪術も含まれており、数少ない選ばれた者にしか扱う事が出来なかったんだそう。



「悔しいけど、キリエのこのキューリは美味しかったし、今の私にとっては唯一の楽しみである食を充実させられるキリエの能力には魅力を感じざるを得ないわ。」

「フフン♪そうでしょう!そうでしょう!それに一人では出来る事が限られますからね!私が出来ない事はメルトさんが…メルトさんが出来ない事は私がやればアテのない旅も少しは楽しくなるでしょう?」

「はぁ…アンタの言う通りになるのは癪だけど、こんなに美味しいものが毎日食べられるなら、特別に連れて行ってあげるわ。感謝する事ね。」

「アハハ!よろしくお願いしますね!」

こうして、メルトのたった一人の旅は終わり、新たにキリエと言う仲間が加わる事になった。

その後も8年ほどアテのない旅をしていたある日…

「メルトさん!起きてくださーい!ご飯冷めちゃいますよ~」

木の上で寝ているメルトにキリエが言う。

「うい~…」

メルトは眠そうに木の上から飛び降りると「くわぁ~」とか言いながら大きな欠伸をしていた。

「今日はブラックポークのステーキもありますよ。それと、エンペラーチキンの唐揚げとキューリのデラックスパフェも作ってますよ。」

メルトは「キューリのデラックスパフェ」の言葉を聞いてキラキラと目を輝かせながら用意した食卓に座る。

「早く食べよう。今すぐ食べよう。」

メルトは待ち遠しいと言わんがばかりにフォークとナイフを持った手でテーブルを叩いていた。

「もう少しだけ待ってください。今、スレイがソルトベリーを採取しているところなのです。」

スレイはメルト達が旅をして、6年目でキリエが助けた短い金髪で青い瞳の背信者の魔族だ。

スレイの紋章はお腹にある。



スレイは魔族なので、本来なら魔素か魔力が無いと消滅してしまうのだが、スレイの場合は魔族以外のヒトと同じように食事で生きるのに必要なエネルギーを確保できる為、魔素や魔力が無くても生きていけるらしい。
ちなみにこの時代の魔族とヒトの違いは魔力で生きるか、摂食で生きるかの違いだけだった為、魔族もヒトと似た様な考え方をし、魔法も使えなかった。
呪術に関してはアリスたちの時代でも魔族には扱えないと言われている。

後の時代に発覚したのだが、魔族は身体能力がヒトよりもかなり強いが、逆に精神的にはヒトよりかなり脆く、呪術の呪いが自身を蝕む要素になる為、扱いたくても扱えないのだそう。
これによって、魔族たちの中に実力主義が浸透していったと言われている。



「遅くなった。」

そんな事を言いながら、籠いっぱいのソルトベリーとほとんど瀕死の状態で全裸の白く長い髪の赤い眼の兎人うさぎびとの少女を抱えた魔族が戻って来る。

メルトがその特徴的な耳を見て、すぐに無意識的に胸の辺りを見る。

キリエよりは膨らみがあるが、まだまだその膨らみが小さい事から、幼い個体だろうと思われる。

「スレイさん、おかえりなさーい!」

 キリエが振り返ってスレイを見ると同時にスレイの腕に抱き抱えられた兎人に気がつく。

「酷い怪我じゃないですか!メルトさん、早く治療してあげてください!」

「え~…デラックスパフェは~?」

「そんな事言ってる場合では無いでしょう!ほら、早く!」

キリエがメルトの腕を引っ張ってスレイに抱えられた兎人の前までメルトを連れてくる。

「はぁ…まーた、面倒なものを拾ったわね…」

メルトは兎人の右腕の紋章を見ながら回復魔法を使う。

「コイツ、スレイたちと同じ紋章ある。スレイ、コイツの世話する。メルト、コイツも連れて行って良いか?」

スレイがメルトに言う。

「どうせダメだと言っても聞かないでしょ…まあ、めんどうだけど、キリエを黙らせるよりはマシだから良いわよ。」

メルトが諦めた様子で言うとキリエが勢いよく言う。

「ちょっと!それはどういう意味ですか?!」

「そだなー!キリエ、頑固?だもんな!」

「スレイさんまで?!」

そんな事を言い合っていると…

「う、う~ん…」

兎人の少女が目を覚ます。

「ここは…」

メルトが雑に全裸の兎人にフードのついたローブを投げ渡す。

「細かい事は後よ。いつまでもボケっとしてないで、さっさとそれを着なさい。」

「あの…えっと…」

メルトはさっさと食卓に戻る。

「キリエ、早くパフェを出してちょうだい。私の肉はそいつにあげるわ。」

「全くも~…メルトさんは食べる事しか考えてないんですから…スレイさん、ソルトベリー預かりますね。」

「うん!スレイも食べるの楽しみだ!チビッコ、お前も早く椅子に座れ!メルトは怒ると怖いぞ!」

「あ、えっ…はい。」

兎人はスレイに促されるままに用意された席に座る。

少しして、キリエがアツアツの肉をメルト以外の前に置いて、メルトにはいつもより大きなキューリのデラックスパフェが置かれる。

メルトはデラックスパフェが目の前に置かれると同時に先程までの不機嫌そうな表情から一変して幸せそうに口いっぱいにパフェを頬張っていた。

「うんうん!甘いものはサイコーだね!キリエの作る料理はなんでも美味しいけど、特に甘いものは格別に美味しい!絶妙なバランスの甘さと私の好みを熟知した食材選びもグッドだよ!」

メルトはとても幸せそうにキリエのデラックスパフェを褒め讃える。

「私とメルトさんはもう8年以上のつきあいですからね。そりゃ、嫌でもわかるようになりますよ。まあ、嫌ではないんですけど。」

キリエは当然だと言いたげにそんな事を言いながらもどこか誇らしげに胸を張っていた。

まあ、その胸は相変わらず、断崖絶壁ではあったが…

「そう言えば、キリエはメルトとつきあいが長いンだな!」

「そうですねぇ…思い返せば、あの時にたまたまメルトさんに気がつけて良かったと思ってます。もしあの時、メルトさんが木の枝を踏んでなければ、私は死んでいたでしょうね。」

キリエがそんな事を言うとメルトはめんどくさいと全面に押し出した表情で言う。

「おかげでとてもめんどうな事になったわ。まあ、今はそんな事どうでも良いけど…」

メルトは残りのデラックスパフェを頬張って幸せそうに頬を緩ませていた。

「なーなー!メルトー!」

スレイがやけに真剣な表情でメルトに言う。

「…なによ?」

普段のメルトならブチギレていたところだが、スレイの真剣な表情を見てグッと堪えた様子だった。

「今のとこロ、メルトの所にだんダんと背信者が集まってるダロ?」

「えぇ、とても面倒な事にね…」

メルトはなんとなく察した様子で「はぁ…」と大きくため息をつく。

「メルトなら、全部言わなくてもわかると思ウけど、スレイたち、背信者は嫌われてルと同時に恐レられているんだよな?」

スレイは静かに目を瞑るメルトを見る。

メルトは何も言わなかったが、それは肯定に繋がると感じた。

キリエと兎人もその言葉の意味を理解していた。

「スレイたち、このままだとヒトが軍隊を率イてコロシに来る…きっと…そうなル…」

スレイは静かに首を振る。

「メルト、この先…スレイたち、背信者はドウしなければいけないと思ウ?」

スレイは目を閉じたままのメルトの顔をじっと見る。

「私は…」

メルトは静かに目を開ける。

「私は私の平穏な日々を壊す者は許さないわ…それが例え、この世界の神だったとしてもね。」

どことなくメルトから激しい感情を感じる。

それがなにを意味するのか…

メルトは兎人以外の全員に向けて言う。

「キリエ、私とスレイで敵は殺すわ。あんたは他の背信者たちの情報を集めなさい。そして…」

メルトが兎人を見る。

「アナタはキリエのサポートをしなさい。アナタのその脚ならば可能でしょう?」

メルトの鋭く確かに感じる信頼の感情は幼い兎人にも理解出来た。

「は、はい!期待に応えられる様に精一杯頑張ります!」

兎人はビシッと背筋を伸ばして言う。

「えぇ、頑張ってちょうだいね…えっと…」

メルトは兎人の名前を聞くのを忘れていた事を思い出す。

「あ、えっと…ボクはセリスです。」

兎人改め、セリスが名乗ってない事に気づいた様子で言う。

「改めて、私はメルトよ。」

「私はキリエです。」

「スレイはスレイって名前だ。」

それぞれの自己紹介が終わり、メルトたちはそれぞれの紋章を見せる。

セリスが紋章に気づいて声を出す。

「そうだ!メルトさん、ボクに考えがあるんですけど、良いですか?」

「考え…ですか?」

キリエが興味ありげに言う。

メルトは小さく頷いて、続きを促す。

「ボクたち、背信者って、と言われていますよね。」

「そうだナ。スレイも罪人は出ていケと虐げられてきタな。」

キリエとメルトも同じだった。

正確にはメルトは紋章があっても、初めから虐げられていたわけではなかったが、それでも虐げられてきたことには間違いなかった。

「だったら、それを利用して、ボクたちに罪の名を与えてみませんか?」

キリエとスレイの二人は首を傾げていた。

「ほう…私たちが罪を背負っている事を利用して…か…」

メルトが興味ありげに言う。

「はい。どうせ何やったって罪人として扱われるなら、もういっその事、罪を名乗ってしまえば、それを異能として権限させる事が出来ると思ったんです。何より罪の名があれば、ボクたちが反撃をした際にボクたちに手を出す事は危険だとよりよくヒトに伝えられると思うんです。それこそ原初の生命の罪七つの大罪に準えて罪を名乗れば、ヒトの記憶により強く残ると思うんです。」

セリスがそう言うとメルトがニヤリと笑って言う。

「七つの大罪に準えて…か…面白いじゃないか!七つの大罪と言えば、憤怒イラ強欲アバリア傲慢スペジア嫉妬インヴィー色欲ルゥリア怠惰プグリッチ…最後に暴食グラトニー/悪食グラの7種類があげられるな。それと暴食と悪食は同一のものとしても別物としても扱われているな。
 この場合は暴食と悪食は別物として考えるか…悪食は七つの大罪より高位のに分類しよう。」

メルトがそう言うとセリスが頷く。

「逆に七つの大罪の対になる美徳とされているものは、憤怒は忍耐、強欲は慈善、傲慢は謙虚、嫉妬は感謝、色欲は純潔、怠惰は勤勉、暴食は節制ですね。
これを踏まえて、ボクたちの能力にはそれぞれの対応する美徳で無効化されると言う弱点を追加しましょう。」

「なるほどね。その美徳を弱点とする事で大罪の力を底上げする、いわば縛りの要素を追加すると言うわけね。」

メルトがそう言うとキリエとスレイも合点がいったと言う表情をしていた。

「だったら、その七つの力の源である原点として、原罪セブルスを追加しませんか?その原罪に大罪は逆らえないとする事でより、私たち大罪の力をあげるなんてどうでしょう?
例えば、が、原罪から離れれば離れるほど、無効化能力を受け付けなくなる能力の効果が弱くなるとかも縛りに入れてしまいましょう!」

キリエがそう高らかに宣言する。

「おー!キリエは頭良いな!後は罪を名乗るに当たってだけど…」

スレイが7等分した紙を出す。

「この7つを纏める使が、使事でありとあらゆるモノを破壊する武具の召喚を出来る様にしてはどうだ?
例えば、憤怒なら「憤怒の炎剣」みたいに自身に適性な大罪の武具を呼び出すとかな!」

スレイが紙を動かしながら説明するとセリスが楽しそうに言う。

「さすがです!最後にメルトさんからはなにかありますか?」

皆の視線がメルトに集まる。

メルトは少しだけ考える様に目を閉じて、再び目を開いて言う。

「私たち大罪側については無いが、美徳側にも大罪と同じように縛りを入れて強化する事で縛りによる相対強化を行うのはどうだろう?
例えば、が、事が確定し、対応していない場合は能力の効力が落ちるようにして、それぞれの美徳の能力が大幅に強化されるが、大罪の武具に覚醒を追加する。
事でそれぞれの能力の大幅な強化をしよう。」

「おー!良いですね!私たち大罪と敵対する美徳が大罪と逆の仕様になるのも面白いです!それと、私たち大罪側には元締のような存在がいて、美徳側には居ないのもいいですね。より対比の構図が出来て世界に馴染みやすいと思います。」

キリエが賛成の意を示すと共に2人も頷く。

こうして、背信者によって、がこの世界に定義され、背信者=大罪の名を冠するモノには大罪の紋章ギルティアが発現し、それを収める役目として美徳の紋章ルーリアが発現するヒトが現れるようになる事になる。

「では、役割を決めましょう!原罪はメルトさんが担当するとして、ボクはルゥリアの能力…を担当したいのですが…」

セリスがそう言うとキリエがセリスの胸を見ながら言う。

「その身体で色欲は無理があるんじゃないです?それこそ、強欲がいいと思いますけど…」

「そうですね。確かにキリエさんと同じ様な体型では色欲は難しかったですね。ですが、ボクは色欲に当てはめられる生物の兎要素があるので、ボクが適任だと思ったんですけど…」

「フフン♪ただ要素があるだけでは足りませんよ!私の様に大人の魅力があってからの色欲でしょう?」

キリエとセリスの言い合いにスレイが呆れた様子で言う。

「正直、どっちもガキっぽいぞ。まあ、スレイは憤怒の能力…サタンを担当したいけどな。一応、スレイは龍魔族だし、憤怒の生物に龍が居るから良いだろう?」

「じゃあ、スレイは憤怒ね。ま、私が原罪でなければ、スレイは別の担当になったかもしれないけど…」

「あはは!それもそうだな!」

スレイがトントン拍子で決まり、キリエとセリスは言い合いをまだしていた。

メルトはこのままでは埒が明かないと思い始めていた。

「お前たち!」

メルトが言うとキリエとセリスの言い合いも止まる。

「くだらない争いをするんじゃない!お前たちが決めないなら、私が決めるぞ!」

キリエとセリスは「その手があったか!」と言う様な表情をする。

「キリエ、お前は食に詳しく、食に関する能力があるから、暴食の能力、ベルゼブートの担当だ。セリスは強欲の能力、マーモンの担当だ!見た目の要素だけなら、色欲のアスモデュスだが、私は中身で考えた方がいいと思うし、私を強制的に原罪担当にした事から強欲を担当してもらおうと思う。異論は無いな?」

キリエとセリスは2人で顔を見合せて笑う。

「ホントに…メルトさんは面白い方ですね。」

セリスが笑いながら言うとキリエも笑って言う。

「この短時間で人を見極める能力もそうですが、役割の割り振りも適切ですね。セリスさんがメルトさんを原罪とするのも納得です。後は4人…ですかね?」

スレイが何かを考えている様子で首を傾げていた。

「何か言いたそうね、スレイ?」

メルトがそう言うとスレイは一瞬ビクッと身体を震わせて言う。

「いやぁ…原罪ってさ、大罪の王様…なんだろ?でも、罪の名が無いのは良いのかなって思ってさ…逆に原罪に大罪の能力を持たせると無効化されない大罪が出来るから、そこの縛りがどうなるのかわかんなくてさ…ここもきっちりと定義した方が良くないか?」

キリエとセリスが「確かに」と言う様に手をポンと叩く。

「そこは安心しなさい。これから原罪に対する条件をつけるところよ。」

メルトはそう言うとスレイの7等分した紙を合わせる。

「まず、これが原罪が存在しない場合の大罪の名を冠する者たちよ。それぞれに罪の名は無く、罪の能力も行使出来ないわ。
ただし、美徳側は王となる者が居ないから、美徳側はこのデメリットを受けないわ。」

そして、メルトは真ん中に少し大きめの石を置いて、合わせた紙を7等分にする。

「そして、大罪の名を冠する者たちは原罪が現れた時に特定の条件を達成した場合に能力を発現する。
ただし、大罪の能力の所持者によっては原罪が覚醒するまで、能力が使えないか、ある一定の条件下でなければ、能力を使えないものとする。
これらの条件は7とする。」

そして、メルトは深呼吸する。

「そして、大罪の名を冠する者たちの中に原罪は含まれるわ。ただし、その場合には次の条件を全て達成する必要があるわ。
 1、過去に原罪の力に発現していない事。
 2、魔族を含めたヒトである事。
 3、固有能力ユニークスキルを持っている事。
 4、大罪の名を冠する者たちに悪を感じない事。
 5、この世界の言語を喋れる事。
 6、正反対の性質を持つ事。
 7、大罪(原罪)として覚醒しても暴走しない事。
この7つの条件に当てはまるものが原罪となる事が可能である。1、3、6以外で全て当てはまる場合は大罪になれるわ。これにより、私にも正反対の何かを発生させる必要が発生するわよ。」

メルトはキリエを見る。

まるで、キリエにその性質を決めろと言わんがばかりの目線だ。

「これって、能力でも大丈夫ですか?」

メルトは静かに頷く。

「では、メルトさん…」

キリエはほんの少しだけ考える素振りを見せて言う。

「メルトさんはブローンノワールの能力があります。これらの能力は8つの色から構成されます。
ルージュヴールードレンヌヴェルドヴィオンドルェンブローンノワールの8色です。

そして、それぞれに固有の能力と序列があり、ノワールは序列1位、ブローンは序列8位、ヴィオンは序列2位、ヴールーは序列4位、ルージュは序列5位、ドルェンは序列3位、ヴェルドは序列6位、ドレンヌは序列7位が始まりの序列となり、それぞれの強さで序列が変化します。

そして、黒の能力は生命の殺害、ありとあらゆるモノの破壊に特化しており、白の能力は生命の再生、ありとあらゆるモノの修復に特化しているものとしましょう。

赤は火や熱を自在に操り、青は水や冷気を自在に操り、黄は電気や明るさを自在に操り、緑は草木と大地を自在に操り、紫は重力と毒素を自在に操り、金は時と空間を自在に操り、白と黒以外の色の能力を受けない中立の存在になってもらいましょう。

白と黒には追加の能力として、自身の色に塗りつぶして、新しく色を書き換える事が可能な能力もつけましょう。
この色の能力は属性を纏う事になり、魔素プラムとして世界を満たし、それらを魔力プリマとして変換する事で属性魔法キャラフマディアを扱えるようにしましょう。」

キリエは淡々とそう定義した色を世界に広がらせる。

セリスが思いついたように言う。

「なら、魔素を生み出し、世界に力を流すものとして悪魔が居て、魔素を魔力に変換し、ヒトに力を与えるものとして妖精がいる事にしてはどうでしょう?
悪魔と妖精は互いに互いを抑制する働きがあるが、原初の悪魔として悪魔王レーヴァテインと原初の妖精として妖精王シルフィードは互いに互いの影響を受けず、黒と白の性質を与えましょう。」

セリスがそう言うとこの世界に悪魔と妖精が生成される。

こうして、私は世界に対し、特殊能力ブレミアスキルを発動して世界を作り変えた。

そう…これは半分とは言え、大罪の能力をフルに活かした能力…

世界を満たし、改変する現実へ告げる大いなる罪の権限グラウンディア・ギルシアード』だ。

これが原罪の真の能力、姿と言う能力だ。

そう…メルトが原罪であると決定した瞬間から、この世界は世界樹と原罪の2つの力によって支配される事になる。

やがて、背信者たちは意図しない形で外側より来る終焉を司る者クトゥリアを生み出していた事になるとは誰も思っていなかっただろう。

力には代償がつきものだ。

もっとも、この世界の人がそれを知る事になるのは勇者がこの世界に現れてからとなるが…

「こんなもんで良いかな?」

メルトが出た案を情報として纏めて言う。

「私はこのくらいでいいと思いますよ。」

「ボクももう無いです。」

「スレイももう無いぞ!」

「では…制約付与エンチャントルーラー!」

この世界に制約が付与された。

「そんじゃ、私たちも動き始めるかな…」

メルトがそう言うと背信者たちは行動を開始する。

己の平穏を脅かすモノに粛清の一手を叩き込む為に…

そして、これがこの時代の文明が一つを残して全て滅びるまで続く激しい破壊に発展するとは誰も…そう…本当に誰も思わなかっただろう…

それから、数年後…

メルトたち、背信者は原罪のメルトを含めて8人が揃っていた。

「メルト…今日は何の日か覚えてる?」

そう言ってメルトに話しかけるのは、月の明かりに照らされて輝く銀の長い髪、黄金の翼のある龍人族の少女だ。

胸部は鎧に囲まれてわからないが、大きく膨らんだ形の鎧の形状からかなりの厚みがある事は想像に容易い。

「クラインか…あの日からもう2年なのね…時が経つのは早いわ…」

メルトはゆっくりと立ち上がる。

「メルト…あんまり無理はしないでね…」

クラインが倒れそうになったメルトを支える。

2年前、メルトは病に侵されていた。

この当時では不治の病とされており、詳細不明の病だった。

ただ一つ言えるのは、それは感染力が低いと言うことだけだった。

「大丈夫よ…クライン…ちょっと立ちくらみしただけ…」

メルトは足元がふらつきながらも自分で歩く。

メルトが扉を開けて外に出ると…

「メルトさん、お身体は大丈夫なのですか?」

断崖絶壁の胸部と低い身長で少女と見間違いそうな大人の女性、キリエがメルトを心配そうに見る。

「その声は…キリエね…」

メルトが手を伸ばす。

「メルトさん…」

キリエがメルトの手を取るとメルトは少しだけ安心した様に微笑む。

メルトの両眼は黒い包帯で覆い隠されていた。

メルトの左眼は病に侵されており全く視力が無く、右眼は魔眼としての力を抑える為に隠しておかなくてはならなかった。

それ故にメルトは視界を無くしていると言っても過言ではなかった。

「キリエ、あの場所まで連れて行ってちょうだい。」

メルトはここからとてつもなく遠い出会いの場所の事を言う。

「了解です…ですが、あまり無理はなさらないでくださいね…」

「私を誰だと思ってるのかしら?例え目が見えなくなってもそんじょそこらのヒトでは手も足も出ないわよ。」

「はぁ…そういう事を言ってるわけでは無いのですが…」

キリエは見送りに出て来たクラインに言う。

「では、クラインさん、出かけてきますね。」

キリエはそう言うとメルトと手を繋いだまま転移テレポの魔法を使う。

「あれ?メルトは出かけたのか?」

右肩から斜め左の脇腹までの切傷の痕が目立つ女性…スレイが言う。

時が経ち、成長した身体はまさにサキュバスとして完成された大人の女性の身体だと言えるだろう。

そして、その背中に生えた漆黒の龍の翼は彼女が龍人とサキュバスとの混血種である事を理解させる。

「そうよ。場所はいつものところ。」

クラインが淡々と言うとスレイは小さな声で耳打ちをする。








前編~完~(ハロウィンターイム(もう世界はポッキーの日だよっ!!それも書いてる途中で過ぎたけど!))


~おもいでの園と時の神殿~

「アリスさん、トリックオアトリート!です!お菓子をください!」

そう言って、アリスの部屋の前に現れたのはゴーストの仮装をした長い耳の兎族の少女…パリスだ。

「あ、もうそんな時期か…」

アリスは壁にかけてる日付を示す魔道具を見る。

「ごめんね。パリスちゃん、お菓子の用意忘れちゃって…」

「ガーン!」と音が聞こえそうなほどショックを受けた表情をするパリスが言う。

「そんなぁ…じ、じゃあ、イタズラ…しないとですね?」

パリスがそう言ってイタズラの用意をしていると…

「…?パリス…何してるの?」

「あ、リリアさん、トリックオアトリート!お菓子をください!」

「…?これでいい?」

リリアがポッケから黄色い飴を取り出して渡す。

「ありがとうございます!えっと…アリスさんへのイタズラは…」

パリスがそう言いながら準備を始めるとリリアが首を傾げながら日付の魔道具を見る。

「10月31日…ふ~ん…」

リリアは納得した様子で言う。

「はい!それでアリスさんはお菓子を持ってなかったので、イタズラの準備をしてたんです。」

パリスはそう言って小さな箱を持ってくる。

「アリスさん、受け取ってください!」

アリスはビックリ箱かな?と思いながら、リアクションを考えていた。

「…おっも!」

アリスは箱を受け取った両手を重力に引っ張られたかのように勢いよく下に下ろす。

「え?!そんなはず…」

パリスが心配そうな表情をしながら箱に触るとパリスが仕掛けたと思われる中身が飛び出す。

「ひゃっ!?…って、これはパリスが仕掛けたんでした。あれ?でも…重くない…ですね?」

可愛らしい悲鳴を上げて目を丸くして、箱を持って不思議そうに首を傾げながら箱を見るパリス。

「ニャハハ!イタズラのお返しだよ!」

アリスがニヤリと笑って言うとパリスが頬を膨らませて怒る。

「もー!ビックリさせないでください!」

「ごめんごめん!お菓子買ってあげるから、怒らないで?」

アリスも少しだけ雰囲気にノッてみようと「ヴァンパイア卿」の衣装を着る。

「フッフッフッ…我は常夜の王、ヴァンパイアぞ!…なんてね♪」

「おおー!アリスさんの衣装も素敵ですね!」

いつの間にか包帯まみれになっていたリリアが「ふわぁ…」とあくびをしながら言う。

「行ってらっしゃい…」

「あれ?リリアは来ないの?」

「うん…お墓の中に帰る時間…」

そんな事を言いながら、リリアがいつの間にか用意していたお手製の作り物のお墓の中に入る。

「いつの間に?!てか、リリア、絶対覚えてたでしょ!」

アリスが言うとリリアがお墓の中から言う。

「フフ…楽しい…」

リリアも楽しんでいる様だった。

「まあ、楽しんでるなら、良いんだけどさ。」

アリスは珍しく着いてこなかったリリアを置いてパリスと一緒に外に出る。

「アリスさん、アリスさん!皆さん、とても素敵な仮装をしてらっしゃいますね!」

「そうだね。私もこの街に来た時に着ていた衣装を引っ張り出してきて良かったよ。」

(アリスさんがこの街に来たのって確か何年も前のはずじゃ…えっと…これは…触れちゃダメですね。)

パリスがほんの一瞬遠くを見るような目をする。

「あ~!パリスちゃん、今絶対私の胸について考えたでしょ!」

アリスが「こんにゃろ~」とか言いながらパリスの頬を引っ張る。

「い、いひゃいれす!アリヒュひゃんのむにぇのこひょはかんぎゃへてまひぇんよ!(い、痛いです!アリスさんの胸のことは考えていませんよ!)」

「うっそだー!だって、顔に書いてたもん!」

アリスが頬を引っ張るのをやめて言う。

「えっ…そんなに顔に出てまし…あっ…」

「ほら!考えてたじゃん!」

「し、仕方ないじゃないですか!どうしても考えてしまう事だってあるでしょう?!」

「く~!いつか私だって、パリスちゃんよりも立派な身体になってみせるもん!」

「…頑張って下さい。」

そんな話をしながら、王都でも指折りのお菓子の名店に入る。

「いらっしゃーい!あら?また随分と可愛らしいお客様ね!」

店主の女性が楽しげに言う。

「店主さん、こんばんわ!」

「こんばんわ!」

アリスとパリスは店主に挨拶をして、店内を巡ってお菓子を選ぶ。

「あら?パリスさん!」

魔女の仮装をした妖狐族の少女…茉莉がパリスを見て言う。

「あ、茉莉さん!ハッピーハロウィンです!」

茉莉が私に気がついて言う。

「あら?パリスさんのお友達の方ですか?」

「私はアリスだけど…」

「え?アリスさん?ほんとに?!」

茉莉がとても驚いた様子で目を白黒させながら言う。

「そうだよ~!茉莉は魔女の仮装をしてるんだね!」

「うん!パリスさんはゴーストなのはわかるんですけど、アリスさんのはなんですか?…色白の王子様?」

若干すっとぼけた様な表情をしながら茉莉が言う。

「私のはヴァンパイア卿だよ!てか、本当に王子様がいる国で王子様の衣装って、仮装になるの?」

「ヴァンパイア卿か~…あ、ヴァンパイア卿って事は貴族ですから、敬語を使わないといけませんね!」

「茉莉?!ただの仮装だからね?!て言うか、アルフェノーツは元から貴族なんですけど!」

そんなやり取りをして茉莉も加えた私たちはお菓子を買って店を出る。

「それでヴァンパイア卿、今宵はギルドに行かないのですか?」

茉莉が「ククク」っと楽しそうに笑いながら言う。

「う~ん…先に茉莉の頭の治療が先かなぁ…」

アリスはたまたま近くにあった薬屋の看板を見ながら言う。

「あ、ひっどーい!茉莉ちゃんにそんな酷い事言うんだ~!」

「いつまでも馬鹿な事言ってるからでしょう…全く…」

「ぷく~」と音が聞こえそうなほど頬を膨らませて茉莉が言い、アリスがそれに対して呆れ顔で返す。

「いいもんいいもん!後でサラマンダー連れてくるもん…」

茉莉が拗ねた様に言う。

「茉莉、それだけはほんとにやめてね。」

真顔でアリスがガチトーンで言う。

「冗談だよ~…半分くらい。」

「半分は本気だったんですか!?」

茉莉がふざけ調子で言うとパリスがツッコミを入れる。

「ナハハ!まあ、茉莉さんはそんな事しないけどね。でも、変な感じはするよ。」

突然、茉莉はそんな事を行って地図を広げる。

「茉莉、その場所ってどの辺かわかる?」

「ん~…多分、この辺?」

王都のとある路地裏を茉莉が指を指す。

「その辺には何か特別なものは無かったはずだけど…」

アリスが考えるように首を傾げる。

「じゃあ、ついでに見回りもしていきませんか?もしかしたら、今の王都の雰囲気に誘われて来たものが居るかもしれませんし…」

「そうだね。茉莉、案内してくれる?」

「任せて!」

そうして、アリスたちはとある路地裏を目指して歩き始める。

しばらく茉莉の案内で進んでいると明らかに異質な魔力の流れを感じる。

「魔族…にしては、人間っぽい波長の魔力ね。」

アリスが言うとパリスが耳をピクピクと動かしながら言う。

「何か…おそらく、ヒトの声が聞こえます。」

「茉莉、パリスちゃん、何があるか分からないから慎重に進むよ。」

アリスがそう言って茉莉とパリスと共に路地裏に入る。

そのまま、茉莉の嗅覚、パリスの聴覚、アリスの魔力感知を使って、徐々に声の主に近づいていく。

「この先、曲がり角です。」

パリスが小さな声で言う。

「それじゃ、行くよ。」

アリスの合図と共に曲がり角を飛び出すと…

「キリエ…ではなさそうね…」

「はい。セリスの眼にも見慣れない服装の3人が見えます。」

両眼が黒い包帯で覆われた女性とパリスと同じ兎族の女性がいた。

兎族の女性の方はどことなくパリスに似た雰囲気があった。

包帯の女性がアリスの方を向いて言う。

「そこの原罪セブルスの力を持っている猫人ねこびとさん、ここがどこだかわかるかしら?」

アリスは直感的にこの包帯の女性が自分と同じ能力を持っていると理解する。

しかも、包帯の女性の方が強い事も理解する。

「ここはフィレスタ王国ですけど…あなた達は何者なんですか?一応、私はアリス・アルフェノーツって名前なんですけど…」

アルフェノーツの名前を聞いた包帯の女性が一瞬反応する。

「セリス、あの子…×××と同じ名前の子よね?」

「はい、メルトさん。おそらく、そのアルフェノーツで間違いないと思います。」

セリスと呼ばれた兎族の女性がメルトと呼んだ包帯の女性に言う。

包帯の女性は楽しげに微笑むとアリスの目の前まで移動して言う。

「私は貴方と同じ罪の王プシュマキアのメルトよ。」

メルトが名乗るとその隣に兎族の女性が移動して言う。

「私は強欲アバリアのセリスです。メルトさんの補佐をしております。」

セリスは淡々とそう告げる。

「プシュマキアにアバリア…確か古文書に原罪セブルス強欲ごうよくの名がその名で語られていたはず…となると、先程の猫人と言う呼び名を使う事からも過去から来た可能性があるのか?…いや、結論を出すにはまだ早いか…」

茉莉がブツブツと呪文のように呟きながら考える。

「えっと…メルトさんとセリスさんですね。パリスはパリスって名前です。今はアリスさんの秘書見習いとしてアリスさんのお傍で活動しています。こっちの妖狐族ようこぞくの方は茉莉さんです。」

パリスがそう名乗ると茉莉が「ハッ」と我に返った様子で言う。

「す、すまない…ちょっと考え事をしていたよ。」

茉莉は丁寧にお辞儀をしながら名乗る。

「私は姓を本間ほんま、名を茉莉まつりと申します。一応、冒険者兼学者として活動しておりますの。」

茉莉が名乗り終えるとメルトが言う。

「そう…私には何を言っているのか、さっぱりわからないのだけれど、こっちでは原罪を含めた罪の名を冠する者がヒトとして扱われている様で良かったわ。」

メルトが意味深な発言をするとセリスが言う。

「メルトさん、こちらが異世界である可能性を踏まえてもあまり余計な発言はなさらない方がよろしいのでは?」

メルトは茉莉の方を向いて言う。

「そこの妖人あやかしびと…茉莉だったかしら?アナタは学者?なのよね?アナタから見て、私たちはどう見えるかしら?」

茉莉は少し考える様な素振りを見せながら言う。

「う~ん…断定は出来ないけど、予想が正しければ私たちから見た古代の人なのではないかと思います。ただ私も詳しい訳では無いので間違っている可能性もあるんですけど…」

茉莉がそう言うとメルトがセリスの方を向いてほんの僅かにドヤ顔をしながら言う。

「ほら、茉莉もこう言ってるし、私たちは未来に来たのよ。だから、大丈夫よ。」

「メルトさん、茉莉さんも仰っていましたが、あくまでも予想の範疇でしか無いのですよ。故に余計な事は話さない方がお互いにとって良い可能性がありますよね?」

セリスが叱る様にメルトに言う。

確かにセリスの言う通りで、もしもここがメルトたちにとっては異世界になるとしたら、あまり不用意な発言は行うべきではないのだ。

発言の内容によっては、異なる世界に異なる知識を授けてしまうことで世界を混乱させてしまうかもしれないからだ。

「そんなに心配する事は無いわよ。いざとなれば、私の力で記憶を消せるもの。それにプシュm…原罪セブルスも居るのだから、大丈夫よ。それに…」

メルトがアリスの顔を見ている…と感じる。

「あの猫人は…ううん。アリスはとても優しい子よ。キリエよりも…ね。」

メルトが微笑みながら言う。

「はぁ…メルトさんの自由奔放さには頭が痛いですが、メルトさんが間違える事は無いですものね…」

諦め混じりにセリスが目を閉じて言う。

「そういう事よ。だから、大丈夫。大船に乗ったつもりでいなさいな。」

メルトが胸を張って自信満々に言う。

兎族ラビストのセリスよりも大きな胸部が強調される。

「アハハ…まあ、私もいろいろ知りたいし、原因が分かれば帰ることも出来るはずですから、しばらくは私たちと行動するのがいいと思いますよ。それに甘くて美味しいお菓子もありますからね♪」

アリスの「甘くて美味しいお菓子」に反応したメルトが目を輝かせたような表情で言う。

「甘くて美味しいお菓子ですって!セリス、このを私たちの拠点に連れて帰りましょ!毎日、甘くて美味しいお菓子が食べられるなんて夢の様だわ!」

「はぁ…そもそも帰る方法も無いのですが…それにそんな事をしたら、こちらの世界に力が無くなってしまいます。そうなると困るのはこちらの世界の方々なのですよ?」

「むぅ…セリスの貧乳ドケチ。」

メルトがあからさまに拗ねた様子で言う。

「はぁ…確かにメルトさんよりは無いですけど、貧乳では無いですし、並のヒトから見れば巨大そのものです。ついでに言えば、ドケチでもないですよ。」

セリスがムッと怒った様子で言う。

「…セリスさんで貧乳なのか…私なんて…」

アリスがあからさまに気にした様子で呟く。

明らかに場の雰囲気が暗くなる。

「…か、帰りましょうか!アリスさんの買ってくれたお菓子も食べたいですし!」

パリスが慌てて言うと茉莉も言う。

「そうね。私も師匠に会いにいく予定が出来たし、帰って支度をしないといけないしね。」

「…そうね。」

メルトはほんの少しだけ申し訳なさそうな声で言う。

そうして、大通りに出る頃にはアリスはすっかり気持ちを切り替えていた。

けど、リリアとともに常にアリスの傍に居たパリスにはまだ気にしている事はわかっていたが、それをあえて指摘することはしない。

「あ、メルトさんとセリスさんも増えたんだから、帰る前にもう一件どこかに寄っていかない?」

アリスが「キラキラ」と音が聞こえそうなほど目を輝かせて言う。

「フフッ…良いわねぇ…私は賛成よ。セリスも着いて来なさい。」

メルトも楽しそうに微笑みながら言う。

「また勝手にメルトさんは…まあ、どうせすぐには帰れないですし、良いですが…」

そんな事を言いながらもセリスもメルト同様…いや、それ以上ににんまりと頬を緩めており、とても期待している事が誰が見てもわかるようになっていた。

「アハハ!じゃあ、皆で寄り道だね!」

茉莉もノッて騒がしくしながらアリスの案内で目的の場所に行く。

そこは…

「えっと…茉莉さん、これは…」

パリスが何か言いたげに呟く。

「うん。どっからどう見ても冒険者ギルドだね。」

茉莉は淡々と言う。

「ギルド…って、何かしら?武装したヒトが多いのはわかったんだけど…」

メルトがほんの少し不安げに言う。

「メルトさんの言う通り、武装したヒトがいる場所のようですね。おそらく、冒険者?なるものたちの集まる場所なのでしょう。」

セリスがどことなく警戒する様に言う。

「ギルドはね、依頼を受けるだけじゃないんだよ。」

アリスはそう言ってギルドの扉を開けながら中に入っていく。

続いてパリスと茉莉も中に入る。

「私たちもついて行こうか。」

メルトが言うとセリスは黙って頷いて一緒に入る。

アリスに連れられて受付にならんで、アリスの番になる。

「あら?アリスさん、大勢で何をされるのですか?」

「ハディーさん、こんにちは!転移門を使って、に行きたいんですけど、大丈夫ですか?」

「ちょっと待っててくださいね…」

ハディーと呼ばれた受付の女性が奥の部屋に行く。

少し経って、ハディーが戻ってきて言う。

「大丈夫みたいですので、すぐにご案内しますね。」

ハディーに転移門に案内され、転移門をくぐり抜けると目の前が真っ白になり、浮遊感を感じる。

「わぁ…!」

浮遊感が無くなって、真っ白な景色の地面の上に立っているのを確認するとパリスのそんな声と共に美しい花畑が広がるのが分かる。

メルトもいつの間にか包帯を取っていた。

「ここは幻想の庭園と言って、思い出が集まる楽園と言われてるの!この綺麗な花畑のひとつひとつが誰かの楽しかったり、嬉しかった思い出でできているんだって!」

アリスが楽しげに言うとメルトとセリスにニコッと微笑む。

「綺麗ですね…メルトさん…って、あれ?」

セリスが驚いた様子でメルトを見る。

メルトが驚いた様子で両眼を見開いていたのだ。

「驚いたわ…私の左眼は病のせいで見えなかったのだけれど、今は見えてるし、右眼も魔眼の力を抑えるために包帯で隠していたのが嘘みたいよ。とても心地良い風を感じるし、まさにこの光景は楽園ね…」

メルトは自分でも気がつかないうちに涙を流して、とても嬉しそうに言う。

「ここ居る時はその人が一番幸せを感じる姿になると言われているわ。」

そう言うアリスもどこかの制服を着た姿に変わっていた。

パリスは以前アリスに買ってもらったバニーの服を来た姿に変化しており、セリスは変わらず、メルトは白いワンピース姿のお嬢様みたいな姿に変わっていた。

メルトは言う。

「これは…私がまだの服装だわ…あの頃の私には不幸はなかったの…ただ一つ、自らの両親が殺されるまでは…」

メルトは淡々とそう告げる。

そして、指を指す。

「あの家はここには無いもの…」

メルトの指の先を見ると一件の古ぼけた悲しげな雰囲気の木造の建築物があった。

「先程までは無かったはず…ですよね?」

パリスが言うとアリスとセリスも頷いて同意する。

「あの中に楽園を脅かすものがいるわ。もし向かう意志があるなら、気をつける事ね。」

メルトはアリスに言い聞かせるように言う。

「行きましょう。ここはこの世界のヒトの思い出が集まる場所だし、皆の思い出を壊させる訳にはいかないもの…!」

アリスがそう言うとパリスも頷いて同意する。

「メルトさん、私も…いえ、私たちも着いて行った方が良いのでは無いでしょうか?私もこの綺麗な世界を壊されたくは無いですし…」

メルトはセリスの言ったことを肯定するように歩みを進める。

そして、誰も居なくなったその場所から、一輪の花が顔を出す。

「…私は…」

その花は…少女になる。

「私は…!」

少女は古ぼけた家に入った4を追いかける。



家の中に入ったアリスは目の前に座っている影を見て言う。

「茉莉…?」

影はその問いに応える様に振り向くと青白い月の光に照らされてその全容が明らかとなる。

「…誰?」

赤く長い爪がある事以外は茉莉と全く同じ姿の感情の無い目をした少女が感情を感じさせない無機質な声で言う。

「茉莉!」

突然、茉莉の声が背後から聞こえたと思ったら、もう一人の茉莉によく似た少女がそこにいた。

「茉莉…そうだ。私は茉莉だ。お前たちの後ろに居るのも…茉莉だ。」

茉莉が真っ赤で鋭く尖った爪をぼんやりと白く輝く茉莉に向ける。

「茉莉!」

輝く茉莉が真っ赤な爪の茉莉を呼ぶ。

「私の名を気安く呼ぶな。私はお前たちの…茉莉と言う少女の闇だ。お前たちの様に表に出る事の無い心の闇。その深淵が私だ。」

真っ赤な爪の茉莉が真っ黒な5本の尾を現しながら言う。

「私は憎しみ、悲しみ、恨み、妬み、絶望…その全てだ。」

闇が部屋中を覆い尽くす。

そして、2人の茉莉の間、その上には尻尾の無い茉莉が眠っているかのように浮遊していた。

アリスたちはその茉莉の元に行こうとするが、闇が纏わりついて進めない。

「やめておけ。私を殺すまで、お前たちは茉莉の身体に触れる事すら許されぬ。」

真っ赤な爪の茉莉が淡々と言う。

輝く茉莉が言う。

「茉莉、皆を解放して!貴方はそんなヒトじゃ無いはずよ!」

「クククッ…クハハハハハ!」

真っ赤な爪の茉莉が笑う。

「茉莉…いや、お前は勘違いしている。私は茉莉の中の闇…つまりは負の感情さ。」

「そうか!ここが人の心に干渉して幸せな頃の姿を見せる場所だからか!」

アリスが言うと真っ赤な爪の茉莉が言う。

「そうだ。そして、頭のいい貴方なら、もうわかっているだろうが、我々妖狐はそれぞれの尾に力が宿っている。それは感情から複雑に枝分かれした心として権限するのだ。そして…」

真っ赤な爪の茉莉が輝く茉莉に指を指す。

「お前以外は全てがこの茉莉の闇からなる力だ。だから、私の尾の方が多いし、お前では私を殺せない。」

輝く茉莉が悲しそうな目をする。

「茉莉」

アリスが真っ赤な爪の茉莉に近づいて優しく抱きしめる。

「アリス…何をしている?これから殺し合いをすると言うのに…」

真っ赤な爪の茉莉がアリスに言う。

「貴方の鼓動を感じてるの。貴方も茉莉の中の一人なんだってわかったから…」

「何を言って…」

「茉莉、私はどんな茉莉でも茉莉は茉莉だと思ってるし、それは他の人でも一緒だよ。だからさ…」

アリスが真っ赤な爪の茉莉の目を見る。

「殺し合いをするなんて悲しい事言わないでよ。私たち、仲間でしょう?」

「平和ボケしたお嬢様らしい発言だわ。」

真っ赤な爪の茉莉は尻尾を伸ばしてアリスに襲いかかる。

「アリスさん!」

パリスが叫んでもアリスは動こうとしなかった。

そして、パリスの手が間に合わず、茉莉の尻尾がアリスの背中を貫く寸前で止まる。

「…何故避けない。」

真っ赤な爪の茉莉がアリスに言う。

「茉莉が仲間を傷つけるわけ無いのは、同じ茉莉である貴方が一番よく知っているでしょう?」

「とんだバカお嬢様だわ。」

「アハハ!でも、楽しいでしょ?」

「知った事かよ。」

アリスが真っ赤な爪の茉莉に微笑むとぶっきらぼうに応えた真っ赤な爪の茉莉が粒子状になると同時に尻尾の無い茉莉が目の前に現れて、染み込むように粒子が茉莉の中に入っていき、白い光が視界いっぱいに広がると6が現れる。

そして、白い光と共に周りを覆っていた闇が消え去る。

輝く茉莉がパリスと共にアリスの元に駆け寄って来る。

「アリスさん!」

パリスがそのままアリスにギュッと抱きつく。

「パリスちゃん、ちょっと苦しいよ…」

アリスが苦笑しながら言う。

「無茶をした罰です!絶対に離しませんからね!」

涙目のパリスがギュッと抱きしめる力をほんの少しだけ強くする。

「パリスちゃん…」

アリスが困った様に笑うとメルトたちもアリスたちの傍に来る。

「アリスさん…茉莉を…ううん…私を信じてくださってありがとうございます。」

輝く茉莉は笑顔でそう言うと粒子となって消え、6本の尾の茉莉の中に入る。
こうして、3人の茉莉は7本の尾の1人の茉莉に戻って、真っ白な景色に包まれる。



「あ、アリスだ!おーい!こっちこっちー!」

いつの間にか元の花畑に戻っていたアリスたちに可愛らしい浴衣を着た茉莉が7本の白い尾と一緒に両手を大きく振って呼びかける。

アリスたちは顔を見合わせて頷くと茉莉の方へと駆け寄って行く。

「なんだか、前よりも良い顔するようになったね。」

アリスがそう言うと茉莉は不思議そうに首を傾げながら言う。

「そうかな?でも、アリスがそう言うなら、多分そうなんだろうね。」

私たちはしばらく花畑で花冠を作ったりして楽しんだ後に戻って来ると朝焼けが街を照らしていた。

「あれ?そんなに長く居たつもりは無かったけど…」

そう思っているとメルトが言う。

「セリス、目の前が真っ暗よ。なんにも見えないわ。」

メルトがわざとらしく手を前に出しながら言う。

「メルトさん、私たちは街に戻ってきたのですよ。早くこっちに来てください。他の人の邪魔になりますよ。」

セリスが冷たく言い放つと「ムゥ…」と頬を膨らませながら、メルトがやってくる。

「セリスのドケチ…」

「あ、貧乳が無くなってますね。学習能力はまだあったみたいで良かったです。」

「ふわぁ~」とセリスがあくびをする。

「セリス、怒ってる?」

メルトが言う。

「いいえ、怒ってませんよ。」

そうは言うが、明らかに怒っていそうな雰囲気を出していた。

「セリス、私を騙せると思わない方がいい。君の事は誰よりも…痛たた!痛い痛い!」

メルトが何かを言い終わる前にセリスがメルトの腕を抓る。

「理由がわかってるなら、言わせようとしないでください。そう言うのは人の神経を逆撫でする行為ですよ。」

メルトを叱る様にセリスが言う。

「だってぇ…セリスちゃんが冷たいんだもん…」

メルトが言うとセリスは露骨に「はぁ…」と大きなため息をついて言う。

「アリスさん、ちょっと聞いてもらっても良いですか?」

「私で良ければ…」

アリスがちょっと困惑した様子で言うとセリスが話し始める。

「まず今朝の事なんですけど、まだ陽が昇る前から起きてるんですよ。それだけならまだ良いんです。でも、自分が目が見えないのを良いことに私を起こすんです。見えなくてもわかるのにですよ。しかし、そこまでなら、まだ私も怒りませんし、むしろお役に立てて嬉しいと思うんですが、問題はここからです。」

そこから、しばらくセリスの怒涛の愚痴ラッシュが続き、こちらの世界に来た原因を話す。



まずメルトが違和感を感じる場所があるとメルトの指示に従ってセリスが転移魔法を使って移動し、とある魔物が出ると噂の遺跡に着いた。

いつもと雰囲気が違うから気をつけようと言いながら、警戒しつつ違和感を放つ真ん中に鍵穴がある魔法陣が書かれた場所の近くまで来た。

付近に魔物が現れたので討伐してドロップした宝箱から鍵を取り出したメルトが魔法陣に走り出すのを見て、セリスも追いかけた。

そして、メルトが魔法陣の鍵穴と鍵を見てだと理解して、鍵穴に鍵を差し込もうとしていた時だ。

セリスがコケてメルトとぶつかり、そのまま鍵が鍵穴に入ると共に魔法陣が起動し、セリスたちが落ちた。

そして、気がつくとあの路地裏に居た。

わけも分からず困っているとアリスたちが飛び出して来た。

…と言うのが、アリスたちと出会うまでの状況だったらしい。



「そう言えば、何日か前からマリアとクレアとミーティアが出かけたきり戻って来てないよね?」

アリスがパリスに言う。

「そうですね。確かって大騒ぎしてましたよね。茉莉さんも一緒に居ましたので、茉莉さんが調べるまで待っててとお二人にお伝えしてたのが記憶にありますが…」

パリスが言うと茉莉も肯定する様に頷きながら言う。

「そうだね。私もその様に伝えたはずなんだけど…ミーティアさんが二人を連れて行ったのかな…う~ん…」

茉莉が考える様に腕を組んで首を傾げる。

「ん?待てよ…鍵穴に鍵が入ると発動するのだとしたら…」

茉莉がメルトを見る。

「メルトさん、鍵は持ってますか?」

「これ…かしら?」

メルトが服の胸部から鍵を取り出す。

「ちょっと借りますね。」

茉莉はメルトから鍵を受け取ると魔力分析をして鍵穴の場所を突き止める。

「魔力の流れ的には思っていたよりも近くにあるみたいですが、竜車ワイバーンを使わないとかなりの距離になりそうです。どうします?」

茉莉がアリスに言う。

「そうね…私の龍車ピロシキは定員が三人までだから、乗れないしなぁ…転移でも使えたら早いんだけど…」

「アリスさん、私であれば、転移を使えますので、場所を教えてもらえませんか?」

セリスが言うとアリスが頷く。

「じゃあ、ギルドの中では魔法を含めた能力の使用が禁止されてるから、外に出ようか。」

アリスがそう言うと他の4人も頷いて、アリスたちはギルドの外に出る。

「それじゃあ、茉莉、セリスさん、お願いするね。」

「あいよ」
「了解です。」

茉莉とセリスの左手が繋がれ、セリスが魔力を練る。

「…準備が出来ました。皆さん、私に掴まってください。」

アリスたちはセリスの指示通りにセリスに掴まるとセリスの転移が発動する。



白い光が視界から消えると共に身体の浮遊感が無くなる。

「着きましたよ。」

目の見えないメルト以外の皆が目の前に広がる景色を見てゴクリと喉を鳴らす。

メルトが懐かしむように言う。

「ここは時の神殿ね…私の時代から見ても超古代文明である文明による失われた技術エア・テクノと呼ばれる神殿よ…この文明では全てが科学で説明出来て、ありとあらゆる事を科学で行えたと言うわ。それも私たちが魔法と呼んでいるこの力もその文明の彼らは科学で再現可能だと言うの。」

メルトが今のこの世界の歴史書には全く記載の無い歴史を語る。

「失われた技術…もしかして、この世界にある起源不明の神殿って…」

茉莉が言うとメルトは頷く。

ものよ。」

メルトが確信を持った声で言う。

メルトはそう言うとセリスと共に魔法陣の中心に立つ。

「アリスちゃん、これから私が魔法陣を起動するにあたってお願いがあるの。」

メルトが真剣な表情でアリスに言う。

「はい!私に出来る事ならやりますよ。」

メルトはそれを聞いて嬉しそうに微笑むと鍵穴に鍵を差し込んで右眼を隠していた包帯を取る。

「アリスちゃん、全力で戦って、私たちに勝って!それが私たちが帰れる条件よ!」

メルトはそう言うと魔力を放って、衝撃を生み出す。

「…わかりました。」

アリスが背中に妖精の翼を出現させると共に異空間からエクスカリバーとジークフリートを取り出す。

「お二人も戦闘準備を整えてください。」

セリスが圧倒的な威圧感を放って2人に言う。

「か…来て!フェイルノート!」

パリスがそう言うとパリスの右腕に黒属性の魔力が宿る。

「妖刀アメノムラクモ…我が声に応えて顕現せよ。」

茉莉がそう言うと茉莉が刀を抜く動作を左手で行うと同時に妖刀が姿を現す。

「それじゃ、行くよ。」

メルトが言うと同時に周囲に結界が出現する。

そして、メルトが無数の魔法陣を展開して戦いが始まる。

「先手必勝!光よ。破壊しなさい。」

メルトの魔法陣から光の光線が発射される。

「詠唱破棄、応えて…エクスカリバー!」

アリスの振るったエクスカリバーから光の斬撃が発生し、光線と魔法陣を全て破壊する。

この時の衝撃に乗るようにして茉莉たちがアリスとメルトの戦いに巻き込まれないように距離を取り、そして3人も戦い始める。

「まだよ!深紅よ!我が障壁を焼き尽くせ!」

メルトから膨大な熱量が発せられる。

「海原の魔獣よ!我が声に呼応し、力を発せよ!タイダルウェイヴ!」

荒れ狂う大海原の波がメルトの熱を無力化する。

「続けて行きます!詠唱破棄、コメットサンダー!」

彗星の如く発射された雷がメルトを貫こうと迫る。

「全て返してやろう。虚言の鏡!ライアーリフレクション!」

メルトが雷を反射する。

アリスはその瞬間に発生した一瞬の隙をついてメルトの懐に潜り込む。

「一気に行きます!キャトリアス!」

完全に同時に4つの異なる斬撃がメルトを襲う。

「ペンタグラムの大盾!」

メルトは防御魔法でギリギリのところで防ぎ、距離を取りながら、魔法陣を展開する。

「第6の門解錠…顕現せよ。第6騎士、ゼクシオン!」

魔法陣から黒い鋼鉄の中身の無い騎士が現れる。

「ゼクシオン!私を護れ!」

メルトが言うと同時にゼクシオンは身体を霧散させて、メルトの周囲を漂った後、再構築されてメルトに適合する。

その間の隙を逃さまいとアリスが目の前まで迫っていた。

「まだまだ!秘剣<つばめがえし>!」

同時に7方向からの剣が振り払われる。

完璧な偽りの模倣パーフェクション・ライアー・アビリティション!」

同時に7方向の剣を受け流す。

「もっと早く、もっと強く、もっと多く!」

アリスの身体が精霊力に包まれる。

「限界を超える!強靭な願望フォルス・ウィッシュ!そして、上限突破リミットバースト!」

アリスの身体にさらなる力が溢れる。

「せやぁ!」

アリスの光すら置き去りにする剣技が繰り出される。

メルトもそれに合わせて余裕の表情で完全に受け流している。

「どうした!その程度じゃ無いだろ!もっと強く!もっと激しく!力を願え!」

メルトが叫ぶと同時にアリスの能力が爆発的に上がる。

「フェアリーバースト!」

アリスを中心とした精霊力の波動が至近距離でメルトに向けて放たれる。

幻影の選択イリュージョン・デザイド!」

メルトが一瞬で干渉不可能な幻影になった事でアリスの攻撃を回避し、続けてアリスが放った斬撃も回避する。

そして、アリスの背後でメルトが囁く。

冷酷な裁きコールドジャッジメント

メルトの振り上げた剣によって、アリスの背中から血飛沫が飛び出すと同時に氷がアリスの血液を介して傷口を広げるかのようにアリスの身体を割く。

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

アリスは一瞬にして、耐え難い痛み、命の危機を感じる。

そして、急速に奪われる身体の熱をなんとか維持しようとするが、その度に氷がアリスの身体を引き裂こうとする。

アリスの妖精の翼が消滅し、うつ伏せになって地面に倒れる。

アリスの眼から光が失われ、僅かな呼吸のみが残る。

「さてと…これで私の勝ちね。」

メルトがアリスの首に剣を振り下ろす!
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