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壊れた歯車
76話
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「あれ?広場ってここですよね?」
「うむ。私もここじゃと思うのだが…」
パリスとヴォルディアがそう言いながら周りを見る。
広場の手前にて…
「のう…アリスよ…ほんとに我も行かないとダメなのか?」
食材が詰め込まれて丸々とした大きなお腹のクレアがアリスに引き摺られながら広場にいる龍人を見て言う。
「当然だよ!私の友達に約束したからね!拒否権なんて無いわよ?」
アリスがクレアを引き摺りながら言う。
「嫌なのじゃが…とても嫌なのじゃが…って、我、さっきめいいっぱい食べたと言うのに引き摺られるって…どんだけ馬鹿力なんじゃ…」
「伊達に英雄と呼ばれてないわよ。ほら、さっさと立って歩きなさい。それともそのお腹を引きちぎられたいのかしら?」
「んな、殺生な…そんな事をされてしまうと死んでしまうのじゃ。」
クレアは胃空間収納を使って胃の中身を胃空間に入れて、お腹を元に戻すと渋々と言った雰囲気を出しながら自分で歩き始める。
「にしても、ほんとに便利な能力よねぇ…私には使えないから憎たらしいわ~…肉だけに。」
「あれ?なんだか、とても悪寒がするのじゃが…」
「…」
アリスの理不尽な正拳突きがクリティカルヒットして動けないクレアの腕を引っ張りながら広場に来る。
「お待たせしましたー!アリスです!」
「アリスなのか?!ドレスを着ていた時とは随分雰囲気が変わったのう?」
生地の薄い真っ赤なTシャツと黒っぽい短パンを履いたヴォルディアが驚いた様子で言う。
「ヴォルディアさんもシンプルで男のk…じゃなくて、かっこいい感じになりましたね!」
「おい。今、男の子っぽくとか言おうとしたじゃろ!」
「ヴォルディアさんはどちらかと言えば、男の娘な感じじゃないです?」
「うっさい!元から女じゃわい!」
ヴォルディアはそう言いながら、元の調子を取り戻したクレアを見る。
「うわっ…」
クレアがあからさまに嫌な顔をした事でヴォルディアはこのだらしない服装の女性がクレアだと気がついた様だ。
「レッカ…いや、今はクレアじゃったな。」
ヴォルディアが子を見る優しい母の眼差しをクレアに向ける。
「…そうだな。」
クレアはどことなく気まずそうな目をしていた。
「うむ。元気そうにしておるようで何よりじゃ!」
ヴォルディアがそう言って腰を屈めさせたクレアの頭を撫でる。
「…」
クレアは一瞬ビクッと身体を震わせていたが、少しだけ嬉しそうに尻尾を揺らしながら撫でられていた。
「数年前に旅に出る!と言って、急に家を出て行った時は2日もすれば戻ってくるじゃろうと思っておったが…」
ヴォルディアは自分の背丈よりも大きくなったクレアを見る。
「こんなにも大きく、そして強くなったのじゃな。よく頑張ったのじゃ。」
クレアは恥ずかしそうに頬を赤くして、ヴォルディアの手を退けて立ち上がると顔を背ける。
「私一人の力じゃないのじゃ。アリスの契約龍になるまでの私では成長も何も無かったのじゃ。ただのんびりと気ままな日々を過ごすだけだった…でも、アリスと出会ってからは違う…」
クレアがアリスを見る。
「私もヒトとして、こやつと暮らしてみたいと思えた。龍人ではなく、ただ1人のヒトとして…だな…」
クレアが少しだけ考える様な仕草をして、すぐに頭を掻きながら言う。
「あ~…ここでなんか良い事でも言えたら、格好がついたのじゃがな。だが、アリスは私の自慢のご主人だ!だから…その…心配するな!」
クレアが最後に堂々と言うとヴォルディアは「ククッ」と笑いをこぼす。
「元より我はお前の心配などせぬ。お前は我の自慢の娘なのじゃよ。何処に出しても恥ずかしくない様に教育しておるし、力も強いし、我が心配する事など何も無いのじゃよ。」
ヴォルディアはクレアに負けないくらいの自信満々なドヤ顔で堂々と胸を張る。
「ハハッ!母様には敵わないな。」
そんな事を言っているとルナがやってくる。
「ごめーん!遅れちゃった!…って、なんかヴォルちゃんとこの娘から良い感じな雰囲気出てない?」
ルナがヴォルディアとクレアを指さして言う。
ヴォルディアが呆れたようなジト目でルナを見る。
「お主と言うやつは…」
「え?なんで、ルナちゃんが空気読めてないみたいな目をされてんの…ルナちゃんショック!」
ルナがわざとらしくガックリと肩を落とす。
「ルナって、どっかで聞いた事があるような…」
クレアは首を傾げながら言う。
クレアがルナを呼び捨てにした事でルナが一瞬でクレアの頭を鷲掴みにして地面に埋める。
「ルナ様と呼べ。愚民。」
ルナが威圧的な目でピクリとも動かないクレアを見下していた。
「おい。そやつは我の娘のクレアじゃ。手を退けろ。」
ヴォルディアも威圧的に低い声で言う。
「ほう?この無礼な娘が…か?王族としての躾がなっとらんようだが。」
「畜生風情が生意気な…」
まさに二人は一触即発と言う様子で睨み合う。
パリスはちょっと焦った様な表情をしていた。
クレアがルナに抑えられたままの頭を地面からあげる。
「えっ…」
ルナが驚いた様に目を見開く。
「あー…びっくりしたのじゃ…」
クレアが重そうに目線を動かしながら言う。
「とりあえず、このままじゃどうにもならんから、手を退けてもらえるとありがたいのじゃが…」
「あ、はい…」
ルナがあっさりと手を退けた事にヴォルディアも驚いた様子で目を見開いていた。
「お主の気分を害してしまったみたいでごめんなさいなのじゃ」
クレアが丁寧に頭を下げる。
「…私もいきなり埋めて悪かったですね。」
ルナが落ち着いた様子で謝る。
「いや、私が主の名を気安く呼んで気分を害させたのが悪かったのじゃろう?お主は悪くない。」
クレアはルナにそう言うとヴォルディアの方を向く。
「私はこの通りピンピンしておるから、母様も怒りを収めてくれぬか?」
クレアが落ち着いた様子でそう言うとヴォルディアは「はぁ…」と大きくため息をついて言う。
「お前が良いなら良いのじゃが…」
完全に毒が抜かれた蛇の様なヴォルディアとルナの様子を見てクレアがアリスに言う。
「私は帰るのじゃ。」
「ごめんね…クレア…」
アリスがそう言うとクレアはコテンと首を傾げる。
「アリスは何もしておらぬじゃろう?」
クレアはそう言ってスタスタと帰っ…
「待ちなさい!」
ルナが大声でクレアを呼び止める。
「このままタダで貴方を帰す訳にはいきません!貴方にも私に付き合ってもらいますわよ!せめて、迷惑をかけた分、しっかり付き合いなさい。」
ルナが真剣な眼差しでクレアの背中を見る。
クレアは頭だけをルナに向けるとイタズラっぽく舌を出して言う。
「やなこった。」
クレアはそのまま前を向いて、今度こそ帰ろうと足を踏み出した瞬間にまるで地面に縫いつけられたかの様にピタリと足が止まる。
「私に付き合いなさいと言ったでしょう?こっちに来なさい。」
ルナは絶対に逃がすものかと目で訴えていた。
「…」
クレアは何も言わずにバキバキと音を立てて魔力の枷を力ずくでぶっ壊しながら、身体をルナに向ける。
「私は借りは残さず返します。貴方にはそれを受け入れる義務があります。だから、再度申し上げます。」
ルナは真っ直ぐな思いを乗せる。
「私に付き合いなさい。いえ…」
ルナが頭を深く下げる。
「私に付き合ってください!お願いします!」
クレアがニヤリと意味ありげに笑う。
「なら、こうしよう。お主が私に勝てば、お主に付き合う。」
そして、クレアは挑発するかの様にニヤニヤと笑って言う。
「もちろん、強制はせぬがな!」
ルナ以外の全員が目を丸くしながら、クレアを見る。
「良いでしょう…」
ルナはニヤリと笑って顔を上げる。
「この勝負、虚現の道化の名にかけて全力で受けて立ちます!」
クレアが一瞬でルナの目の前に現れて右の拳をぶつけ、ルナはそれを左腕でガードしていた。
周囲には衝撃波による凄まじい風が巻き起こり、冒険者やたまたま通りがかった人たちによる野次馬…もとい、見物人が集まり始め、通りすがりの商人がその見物人相手に商売を始めていた。
パリスが周囲に被害が出ないように結界を展開する。
「良い返事だ!」
そのまま後ろに飛び退いて、クレアの全身が灼熱と共に真っ白な鱗に包まれる。
同時に兎族の変身能力でルナの足が毛深くなり、力強くなる。
「拳をぶつけるだけで血が滾る…この気持ちの高ぶり…」
クレアが白く輝く炎を拳に纏わせて構える。
「私は今、最っ高に楽しいぞ!」
ルナがどこからともなく短剣を取り出して左手に持って構える。
「すぐにその感情を敗北に塗り替えてあげます!」
そして、二人同時に動き始める。
「くらえ!龍帝炎熱斬!」
クレアの燃え盛る爪がルナを貫こうと迫る。
「心眼!スクラッチジョーカー!」
ルナの素早く的確な剣撃がクレアの爪と激しく打ち合う。
「ならば、これでどうじゃ!龍帝炎熱派!」
クレアが全身から熱風を解き放つ。
「なかなかやりますね。私も負けてられないです!」
ルナは熱風に身を焼かれながら無数の魔法陣を展開する。
「弾ける痛みを味わいなさい!リフレクションジョーカー!」
回避不能の魔力の槍がクレアに突き刺さり、ルナの身体に蓄積されたダメージを倍にして与える。
「グッ…今のはなかなか効いたのじゃ。」
クレアが少しだけ顔を顰めて言うとルナはニヤリと笑う。
「ならば、とっておきを見せてあげます!」
ルナはそう言ってバック転で後退すると魔力を高める。
「ヒールジョーカー!」
ルナが高らかに宣言すると同時にみるみるうちにルナの身体が癒えていく。
「回復魔法持ちか…厄介じゃな。」
クレアが龍の翼を出しながら言う。
「じゃが、私の方が火力は上じゃな!相手が回復魔法持ちなら、それを超える火力で焼き尽くすのみ!」
クレアの周囲の温度が急激に上昇する。
「さすがにこれだけの熱風じゃ、相殺するので手一杯になっちゃいそうね。」
「ふはは!どうせそんなことなど微塵も思っておらぬくせによく言うわい!」
「うふふ…それはどうかしらねぇ?」
ルナがずっと溜めていた魔力を解放する。
「スピリットジョーカー!」
道化の仮面をつけた女性のオーラがルナの背後に現れたかと思うとそのまま霧となってルナの身体を覆うと同時にルナの右手に道化の仮面が現れ、それを自分の顔につける。
「アハハ!最高のショーを初めまショー!」
ルナがそう言うと同時に左手の短剣を白い玉に変えて地面に叩きつける。
同時に煙が出て、すぐに煙が無くなった。
「アハハ!これなら」
「手数も増えて」
「どの私がどれかわからなくて」
「大混乱間違い無しね!」
全員別の方向から現れた4人のルナが息ピッタリに決めポーズをする。
「それで私を出し抜いたつもりか?小細工など、龍の前では通用せんぞ。」
クレアが3m程の龍人の姿に変化し、全能力が大幅に上昇する。
「龍帝の力…侮ったな!」
クレアが燃え盛る爪で四方に分かれた4人全てのルナを同時に切り裂く。
「「「「アハハハ!幻影の様に溶けゆくの~」」」」
4人のルナが霧となって消える。
「…」
クレアが静かに動きを止める。
『こっちだよ!』
短剣を突き出したルナがクレアの背後から現れる。
クレアはそれを避ける素振りを見せなかったが、短剣を突き出したルナがクレアに剣が突き刺さる瞬間に霧になる。
何度かその剣を突き刺さる瞬間に消えるを繰り返していた。
正直、鑑定でも使わないとわからない状態になっていたが、クレアはまるで本体が来るのを待っていると言わんがばかりに集中していた。
『アハハ!これでトドメだよ!』
ルナがクレアの正面から短剣を突き出して、今までと同じように突撃する。
まるで光の速さだったルナの突き出した左手の短剣が自分の喉元に刺さる直前でクレアがルナの腕を掴んで止めていた。
「言ったじゃろう?龍に小細工は通用せんぞ。」
そして、クレアの背後から飛んできた短剣を空いてる右手の人差し指と中指で挟んで受け止めると同時に在らぬ方向へ投げ返す。
「おっとと…見えてないはずなのに凄いね!」
クレアに腕を捕まれたままのルナが霧散し、クレアが短剣を投げ返した方からルナが現れる。
「お主の実体は2体。お主と今、霧になったお主の分身じゃな。他はただの幻影じゃ。」
クレアがそう言うと仮面をつけてないルナが「パチパチパチー」と言いながら拍手する。
同時に見物人の中からも大歓声や拍手が飛び交い、商人も俄然やる気を出していた。
それと同時に勝敗が着いたので見物人も解散していった。
「すごいすごい!一発でルナちゃんの能力を見破っちゃうなんて、ほんとにすごいよ!もしかして、前にも似た様な能力持ちと戦った事があるのかな?」
クレアは自身の右眼を指差す。
「龍の目には真しか映らんよ。じゃから、本来なら幻影の攻撃も受ければ脳が勘違いして刺された箇所が痛むが、龍の目には幻影は映らぬから痛みもない。」
クレアは元の大きさに戻るとパリスを指さして言う。
「ルナ殿の能力では、私の相手は分が悪い戦いじゃな。」
アリスとヴォルディアが驚いた様にパリスを見る。
「アッハハ!クレアちゃんはほんとに凄いね!」
仮面をつけてないルナが霧散すると愉快に笑うパリスから霧が出てパリスの姿を覆うと同時に霧が晴れてルナが現れると同時に結界も解除する。
「は…?」
「えっ…?」
ヴォルディアとアリスが驚いた様子でルナを見る。
「同じ龍人のヴォルちゃんは騙せたのにクレアちゃんは騙せなかったから驚いたわ♪」
ルナがもう一人のルナに言う。
「ジョーカー、皆に自己紹介しなさいな。」
ルナがジョーカーと呼んだ方のルナが右手で仮面を外すとジョーカーの身体を霧が包んで晴れると同時にルナに非常によく似た兎族が現れる。
ルナに非常にそっくりな外見だが、背丈はルナの胸あたりで髪色は青の青い瞳の右手に道化の仮面を持った女性が現れる。
「アリス様、ヴォルディア様、改めてお初にお目にかかります。私は舞姫ルナ様の能力の一つである、道化でございます。」
ジョーカーが仮面を持った右手を左に動かしながら、姿勢よくお辞儀をする。
「アッハハ!舞姫はエレちゃんが勝手に呼び出しただけじゃないか~」
ルナが照れ隠しするかの様に笑う。
「す、すみません…遅れました。」
パリスがカティーと共にやって来る。
「…」
カティーはいつも通りの無表情で白いワンピースを着ていた。
「うむ!カティーの服もバッチリじゃな!」
ヴォルディアがどこか誇らしげに言う。
「うんうん!パリスちゃんもカティーちゃんも可愛いね!」
ルナはウットリとした表情で二人を見ていた。
ヴォルディアはそんなルナを発情期の獣でも見るかの様な目で見ていた。
「失礼ですが、ルナ様、外でその様なお顔をなさるのは辞めた方がよろしいかと…」
ジョーカーは真顔でそう言う。
「ジョーカーよ。こやつにその自覚は無いぞ。」
ヴォルディアか呆れた様にジョーカーに言う。
「え?どう言う意味?」
言われている当の本人は自覚がないようだ。
「…ヴォルディア様の言う通りですね。」
ジョーカーが頭を押さえながら言う。
ルナはヴォルディアとジョーカーのやり取りに「なんだろ?」と言いながら首を傾げる。
「そう言えば、クレアは大きくなったよね?アレって…」
「そうじゃな。力加減で自由に大きさが変わるみたいなのじゃ。まあ、アレでも本来の力の4分の1も出てないのじゃがな…」
「…となると、本当に全力を出せる様になった時は大きさも相まって私でも敵わないくらい強くなりそうだね。」
「そうかのぅ?私からすれば、化け物じみた強さを持つアリスの手にかかれば、ちょちょいのちょいだと思うのじゃが…」
クレアはそんな事を言いながらアリスを見る。
「確かに私も強くはなったとは思うけど、そこまではまだ行けてないと思う。多分、今のクレアでも契約の制限無しで全力で来られたら危ないかも。」
「いや、アリスの方が圧倒的に強いじゃろ。能力も身体も私には越えられない壁があると思うのじゃ。と言うか、そうでなくては困るのじゃ。なんたって、私の自慢のご主人じゃからな!」
クレアはニッと満面の笑みで笑う。
「ズルいなぁ…そんな笑顔で言われちゃ、私は弱いですなんて言えないじゃないか~…」
アリスが照れる様に言うとクレアはドヤ顔で笑いながら言う。
「ワハハッ!こう言うのは言ったもん勝ちじゃよ。」
「うむ。さすが我が娘じゃ!よく言ったぞ!」
クレアがビクッとしながら振り向くとヴォルディアが嬉しそうにしており、その後ろで二人が微笑ましい笑みを浮かべていた。
カティーは無表情だったが、どことなく楽しそうな雰囲気を出していた。
「皆ー!こっちだよー!」
ルナが遠くの店の前でアリスたちを呼ぶ。
「あやつは相変わらず自由奔放で空気が読めぬのぅ…」
ヴォルディアがそんな事をボヤいてルナの元に歩き始める。
「ルナ様は我が道をゆく自由なお方ですからね…」
ジョーカーもヴォルディアについて行きながら言う。
「それじゃ、私たちも行こうか!」
「はい!」「うむ」
アリスがそう言ってルナの元に向かい始めるとパリスとクレアも頷いてアリスについて行く。
その日、ルナの手によってアリスたちの服が大量に増える事となったのであった。
ついでに運悪くルナが店から出た瞬間に目の前を通った茉莉もルナによる着せ替えショーの餌食になっていた。
「アッハハ!可愛い子を着飾るのは楽しいわね!」
ルナは満面の笑みで言い、その後ろの茉莉以外の皆は疲れた顔をしていた。
「よーし…次は…」
ルナが次はどこに行こうかとカバンの中から地図を広げた瞬間。
「あ、今日は特売がある日ですわね」
茉莉はそう言うとルナが反応を返す前に言う。
「では、茉莉はここで…皆さん、またお会いしましょうね!」
茉莉はそう言うとものすごい勢いで走って行く。
後日、茉莉は「ルナさんにはあまり会わないように気をつけたい」と言っていたとか。
「あっ…茉莉ちゃん!待っ…あぁぁぁぁぁぁぁ!」
ルナが慌てて追いかけようとするもカバンが開いたままだったのでカバンの中身を撒き散らしていた。
「やっちゃった…」
ルナはガックリと膝をつきながら、散らばったものを片付けていた。
「アリスよ。特売は今日じゃなくて、明日じゃろう?」
ヴォルディアがそっとアリスに耳打ちする。
「…そうね。」
アリスが「やられた~!」と言いたげな表情をする。
「上手いこと逃げられたってわけじゃな…」
ヴォルディアは呆れた様に肩を竦める。
「私は疲れたので帰るのじゃ…ジョーカーももう良かろう?」
「そうですね。クレア様、今日は私にお付き合いいただきありがとうございました。」
「うむ。今度はゆっくりご飯でも食べに行こうぞ。」
クレアが帰ると同時にジョーカーの姿が消える。
「クレアちゃんとジョーカーも帰っちゃった…」
ルナがどこか寂しそうに言う。
ちなみに先に出たパリスはカティーと一緒に買いたい物があったらしく、二人で仲良く商店街の方へと行っていた。
「うむ。私もここじゃと思うのだが…」
パリスとヴォルディアがそう言いながら周りを見る。
広場の手前にて…
「のう…アリスよ…ほんとに我も行かないとダメなのか?」
食材が詰め込まれて丸々とした大きなお腹のクレアがアリスに引き摺られながら広場にいる龍人を見て言う。
「当然だよ!私の友達に約束したからね!拒否権なんて無いわよ?」
アリスがクレアを引き摺りながら言う。
「嫌なのじゃが…とても嫌なのじゃが…って、我、さっきめいいっぱい食べたと言うのに引き摺られるって…どんだけ馬鹿力なんじゃ…」
「伊達に英雄と呼ばれてないわよ。ほら、さっさと立って歩きなさい。それともそのお腹を引きちぎられたいのかしら?」
「んな、殺生な…そんな事をされてしまうと死んでしまうのじゃ。」
クレアは胃空間収納を使って胃の中身を胃空間に入れて、お腹を元に戻すと渋々と言った雰囲気を出しながら自分で歩き始める。
「にしても、ほんとに便利な能力よねぇ…私には使えないから憎たらしいわ~…肉だけに。」
「あれ?なんだか、とても悪寒がするのじゃが…」
「…」
アリスの理不尽な正拳突きがクリティカルヒットして動けないクレアの腕を引っ張りながら広場に来る。
「お待たせしましたー!アリスです!」
「アリスなのか?!ドレスを着ていた時とは随分雰囲気が変わったのう?」
生地の薄い真っ赤なTシャツと黒っぽい短パンを履いたヴォルディアが驚いた様子で言う。
「ヴォルディアさんもシンプルで男のk…じゃなくて、かっこいい感じになりましたね!」
「おい。今、男の子っぽくとか言おうとしたじゃろ!」
「ヴォルディアさんはどちらかと言えば、男の娘な感じじゃないです?」
「うっさい!元から女じゃわい!」
ヴォルディアはそう言いながら、元の調子を取り戻したクレアを見る。
「うわっ…」
クレアがあからさまに嫌な顔をした事でヴォルディアはこのだらしない服装の女性がクレアだと気がついた様だ。
「レッカ…いや、今はクレアじゃったな。」
ヴォルディアが子を見る優しい母の眼差しをクレアに向ける。
「…そうだな。」
クレアはどことなく気まずそうな目をしていた。
「うむ。元気そうにしておるようで何よりじゃ!」
ヴォルディアがそう言って腰を屈めさせたクレアの頭を撫でる。
「…」
クレアは一瞬ビクッと身体を震わせていたが、少しだけ嬉しそうに尻尾を揺らしながら撫でられていた。
「数年前に旅に出る!と言って、急に家を出て行った時は2日もすれば戻ってくるじゃろうと思っておったが…」
ヴォルディアは自分の背丈よりも大きくなったクレアを見る。
「こんなにも大きく、そして強くなったのじゃな。よく頑張ったのじゃ。」
クレアは恥ずかしそうに頬を赤くして、ヴォルディアの手を退けて立ち上がると顔を背ける。
「私一人の力じゃないのじゃ。アリスの契約龍になるまでの私では成長も何も無かったのじゃ。ただのんびりと気ままな日々を過ごすだけだった…でも、アリスと出会ってからは違う…」
クレアがアリスを見る。
「私もヒトとして、こやつと暮らしてみたいと思えた。龍人ではなく、ただ1人のヒトとして…だな…」
クレアが少しだけ考える様な仕草をして、すぐに頭を掻きながら言う。
「あ~…ここでなんか良い事でも言えたら、格好がついたのじゃがな。だが、アリスは私の自慢のご主人だ!だから…その…心配するな!」
クレアが最後に堂々と言うとヴォルディアは「ククッ」と笑いをこぼす。
「元より我はお前の心配などせぬ。お前は我の自慢の娘なのじゃよ。何処に出しても恥ずかしくない様に教育しておるし、力も強いし、我が心配する事など何も無いのじゃよ。」
ヴォルディアはクレアに負けないくらいの自信満々なドヤ顔で堂々と胸を張る。
「ハハッ!母様には敵わないな。」
そんな事を言っているとルナがやってくる。
「ごめーん!遅れちゃった!…って、なんかヴォルちゃんとこの娘から良い感じな雰囲気出てない?」
ルナがヴォルディアとクレアを指さして言う。
ヴォルディアが呆れたようなジト目でルナを見る。
「お主と言うやつは…」
「え?なんで、ルナちゃんが空気読めてないみたいな目をされてんの…ルナちゃんショック!」
ルナがわざとらしくガックリと肩を落とす。
「ルナって、どっかで聞いた事があるような…」
クレアは首を傾げながら言う。
クレアがルナを呼び捨てにした事でルナが一瞬でクレアの頭を鷲掴みにして地面に埋める。
「ルナ様と呼べ。愚民。」
ルナが威圧的な目でピクリとも動かないクレアを見下していた。
「おい。そやつは我の娘のクレアじゃ。手を退けろ。」
ヴォルディアも威圧的に低い声で言う。
「ほう?この無礼な娘が…か?王族としての躾がなっとらんようだが。」
「畜生風情が生意気な…」
まさに二人は一触即発と言う様子で睨み合う。
パリスはちょっと焦った様な表情をしていた。
クレアがルナに抑えられたままの頭を地面からあげる。
「えっ…」
ルナが驚いた様に目を見開く。
「あー…びっくりしたのじゃ…」
クレアが重そうに目線を動かしながら言う。
「とりあえず、このままじゃどうにもならんから、手を退けてもらえるとありがたいのじゃが…」
「あ、はい…」
ルナがあっさりと手を退けた事にヴォルディアも驚いた様子で目を見開いていた。
「お主の気分を害してしまったみたいでごめんなさいなのじゃ」
クレアが丁寧に頭を下げる。
「…私もいきなり埋めて悪かったですね。」
ルナが落ち着いた様子で謝る。
「いや、私が主の名を気安く呼んで気分を害させたのが悪かったのじゃろう?お主は悪くない。」
クレアはルナにそう言うとヴォルディアの方を向く。
「私はこの通りピンピンしておるから、母様も怒りを収めてくれぬか?」
クレアが落ち着いた様子でそう言うとヴォルディアは「はぁ…」と大きくため息をついて言う。
「お前が良いなら良いのじゃが…」
完全に毒が抜かれた蛇の様なヴォルディアとルナの様子を見てクレアがアリスに言う。
「私は帰るのじゃ。」
「ごめんね…クレア…」
アリスがそう言うとクレアはコテンと首を傾げる。
「アリスは何もしておらぬじゃろう?」
クレアはそう言ってスタスタと帰っ…
「待ちなさい!」
ルナが大声でクレアを呼び止める。
「このままタダで貴方を帰す訳にはいきません!貴方にも私に付き合ってもらいますわよ!せめて、迷惑をかけた分、しっかり付き合いなさい。」
ルナが真剣な眼差しでクレアの背中を見る。
クレアは頭だけをルナに向けるとイタズラっぽく舌を出して言う。
「やなこった。」
クレアはそのまま前を向いて、今度こそ帰ろうと足を踏み出した瞬間にまるで地面に縫いつけられたかの様にピタリと足が止まる。
「私に付き合いなさいと言ったでしょう?こっちに来なさい。」
ルナは絶対に逃がすものかと目で訴えていた。
「…」
クレアは何も言わずにバキバキと音を立てて魔力の枷を力ずくでぶっ壊しながら、身体をルナに向ける。
「私は借りは残さず返します。貴方にはそれを受け入れる義務があります。だから、再度申し上げます。」
ルナは真っ直ぐな思いを乗せる。
「私に付き合いなさい。いえ…」
ルナが頭を深く下げる。
「私に付き合ってください!お願いします!」
クレアがニヤリと意味ありげに笑う。
「なら、こうしよう。お主が私に勝てば、お主に付き合う。」
そして、クレアは挑発するかの様にニヤニヤと笑って言う。
「もちろん、強制はせぬがな!」
ルナ以外の全員が目を丸くしながら、クレアを見る。
「良いでしょう…」
ルナはニヤリと笑って顔を上げる。
「この勝負、虚現の道化の名にかけて全力で受けて立ちます!」
クレアが一瞬でルナの目の前に現れて右の拳をぶつけ、ルナはそれを左腕でガードしていた。
周囲には衝撃波による凄まじい風が巻き起こり、冒険者やたまたま通りがかった人たちによる野次馬…もとい、見物人が集まり始め、通りすがりの商人がその見物人相手に商売を始めていた。
パリスが周囲に被害が出ないように結界を展開する。
「良い返事だ!」
そのまま後ろに飛び退いて、クレアの全身が灼熱と共に真っ白な鱗に包まれる。
同時に兎族の変身能力でルナの足が毛深くなり、力強くなる。
「拳をぶつけるだけで血が滾る…この気持ちの高ぶり…」
クレアが白く輝く炎を拳に纏わせて構える。
「私は今、最っ高に楽しいぞ!」
ルナがどこからともなく短剣を取り出して左手に持って構える。
「すぐにその感情を敗北に塗り替えてあげます!」
そして、二人同時に動き始める。
「くらえ!龍帝炎熱斬!」
クレアの燃え盛る爪がルナを貫こうと迫る。
「心眼!スクラッチジョーカー!」
ルナの素早く的確な剣撃がクレアの爪と激しく打ち合う。
「ならば、これでどうじゃ!龍帝炎熱派!」
クレアが全身から熱風を解き放つ。
「なかなかやりますね。私も負けてられないです!」
ルナは熱風に身を焼かれながら無数の魔法陣を展開する。
「弾ける痛みを味わいなさい!リフレクションジョーカー!」
回避不能の魔力の槍がクレアに突き刺さり、ルナの身体に蓄積されたダメージを倍にして与える。
「グッ…今のはなかなか効いたのじゃ。」
クレアが少しだけ顔を顰めて言うとルナはニヤリと笑う。
「ならば、とっておきを見せてあげます!」
ルナはそう言ってバック転で後退すると魔力を高める。
「ヒールジョーカー!」
ルナが高らかに宣言すると同時にみるみるうちにルナの身体が癒えていく。
「回復魔法持ちか…厄介じゃな。」
クレアが龍の翼を出しながら言う。
「じゃが、私の方が火力は上じゃな!相手が回復魔法持ちなら、それを超える火力で焼き尽くすのみ!」
クレアの周囲の温度が急激に上昇する。
「さすがにこれだけの熱風じゃ、相殺するので手一杯になっちゃいそうね。」
「ふはは!どうせそんなことなど微塵も思っておらぬくせによく言うわい!」
「うふふ…それはどうかしらねぇ?」
ルナがずっと溜めていた魔力を解放する。
「スピリットジョーカー!」
道化の仮面をつけた女性のオーラがルナの背後に現れたかと思うとそのまま霧となってルナの身体を覆うと同時にルナの右手に道化の仮面が現れ、それを自分の顔につける。
「アハハ!最高のショーを初めまショー!」
ルナがそう言うと同時に左手の短剣を白い玉に変えて地面に叩きつける。
同時に煙が出て、すぐに煙が無くなった。
「アハハ!これなら」
「手数も増えて」
「どの私がどれかわからなくて」
「大混乱間違い無しね!」
全員別の方向から現れた4人のルナが息ピッタリに決めポーズをする。
「それで私を出し抜いたつもりか?小細工など、龍の前では通用せんぞ。」
クレアが3m程の龍人の姿に変化し、全能力が大幅に上昇する。
「龍帝の力…侮ったな!」
クレアが燃え盛る爪で四方に分かれた4人全てのルナを同時に切り裂く。
「「「「アハハハ!幻影の様に溶けゆくの~」」」」
4人のルナが霧となって消える。
「…」
クレアが静かに動きを止める。
『こっちだよ!』
短剣を突き出したルナがクレアの背後から現れる。
クレアはそれを避ける素振りを見せなかったが、短剣を突き出したルナがクレアに剣が突き刺さる瞬間に霧になる。
何度かその剣を突き刺さる瞬間に消えるを繰り返していた。
正直、鑑定でも使わないとわからない状態になっていたが、クレアはまるで本体が来るのを待っていると言わんがばかりに集中していた。
『アハハ!これでトドメだよ!』
ルナがクレアの正面から短剣を突き出して、今までと同じように突撃する。
まるで光の速さだったルナの突き出した左手の短剣が自分の喉元に刺さる直前でクレアがルナの腕を掴んで止めていた。
「言ったじゃろう?龍に小細工は通用せんぞ。」
そして、クレアの背後から飛んできた短剣を空いてる右手の人差し指と中指で挟んで受け止めると同時に在らぬ方向へ投げ返す。
「おっとと…見えてないはずなのに凄いね!」
クレアに腕を捕まれたままのルナが霧散し、クレアが短剣を投げ返した方からルナが現れる。
「お主の実体は2体。お主と今、霧になったお主の分身じゃな。他はただの幻影じゃ。」
クレアがそう言うと仮面をつけてないルナが「パチパチパチー」と言いながら拍手する。
同時に見物人の中からも大歓声や拍手が飛び交い、商人も俄然やる気を出していた。
それと同時に勝敗が着いたので見物人も解散していった。
「すごいすごい!一発でルナちゃんの能力を見破っちゃうなんて、ほんとにすごいよ!もしかして、前にも似た様な能力持ちと戦った事があるのかな?」
クレアは自身の右眼を指差す。
「龍の目には真しか映らんよ。じゃから、本来なら幻影の攻撃も受ければ脳が勘違いして刺された箇所が痛むが、龍の目には幻影は映らぬから痛みもない。」
クレアは元の大きさに戻るとパリスを指さして言う。
「ルナ殿の能力では、私の相手は分が悪い戦いじゃな。」
アリスとヴォルディアが驚いた様にパリスを見る。
「アッハハ!クレアちゃんはほんとに凄いね!」
仮面をつけてないルナが霧散すると愉快に笑うパリスから霧が出てパリスの姿を覆うと同時に霧が晴れてルナが現れると同時に結界も解除する。
「は…?」
「えっ…?」
ヴォルディアとアリスが驚いた様子でルナを見る。
「同じ龍人のヴォルちゃんは騙せたのにクレアちゃんは騙せなかったから驚いたわ♪」
ルナがもう一人のルナに言う。
「ジョーカー、皆に自己紹介しなさいな。」
ルナがジョーカーと呼んだ方のルナが右手で仮面を外すとジョーカーの身体を霧が包んで晴れると同時にルナに非常によく似た兎族が現れる。
ルナに非常にそっくりな外見だが、背丈はルナの胸あたりで髪色は青の青い瞳の右手に道化の仮面を持った女性が現れる。
「アリス様、ヴォルディア様、改めてお初にお目にかかります。私は舞姫ルナ様の能力の一つである、道化でございます。」
ジョーカーが仮面を持った右手を左に動かしながら、姿勢よくお辞儀をする。
「アッハハ!舞姫はエレちゃんが勝手に呼び出しただけじゃないか~」
ルナが照れ隠しするかの様に笑う。
「す、すみません…遅れました。」
パリスがカティーと共にやって来る。
「…」
カティーはいつも通りの無表情で白いワンピースを着ていた。
「うむ!カティーの服もバッチリじゃな!」
ヴォルディアがどこか誇らしげに言う。
「うんうん!パリスちゃんもカティーちゃんも可愛いね!」
ルナはウットリとした表情で二人を見ていた。
ヴォルディアはそんなルナを発情期の獣でも見るかの様な目で見ていた。
「失礼ですが、ルナ様、外でその様なお顔をなさるのは辞めた方がよろしいかと…」
ジョーカーは真顔でそう言う。
「ジョーカーよ。こやつにその自覚は無いぞ。」
ヴォルディアか呆れた様にジョーカーに言う。
「え?どう言う意味?」
言われている当の本人は自覚がないようだ。
「…ヴォルディア様の言う通りですね。」
ジョーカーが頭を押さえながら言う。
ルナはヴォルディアとジョーカーのやり取りに「なんだろ?」と言いながら首を傾げる。
「そう言えば、クレアは大きくなったよね?アレって…」
「そうじゃな。力加減で自由に大きさが変わるみたいなのじゃ。まあ、アレでも本来の力の4分の1も出てないのじゃがな…」
「…となると、本当に全力を出せる様になった時は大きさも相まって私でも敵わないくらい強くなりそうだね。」
「そうかのぅ?私からすれば、化け物じみた強さを持つアリスの手にかかれば、ちょちょいのちょいだと思うのじゃが…」
クレアはそんな事を言いながらアリスを見る。
「確かに私も強くはなったとは思うけど、そこまではまだ行けてないと思う。多分、今のクレアでも契約の制限無しで全力で来られたら危ないかも。」
「いや、アリスの方が圧倒的に強いじゃろ。能力も身体も私には越えられない壁があると思うのじゃ。と言うか、そうでなくては困るのじゃ。なんたって、私の自慢のご主人じゃからな!」
クレアはニッと満面の笑みで笑う。
「ズルいなぁ…そんな笑顔で言われちゃ、私は弱いですなんて言えないじゃないか~…」
アリスが照れる様に言うとクレアはドヤ顔で笑いながら言う。
「ワハハッ!こう言うのは言ったもん勝ちじゃよ。」
「うむ。さすが我が娘じゃ!よく言ったぞ!」
クレアがビクッとしながら振り向くとヴォルディアが嬉しそうにしており、その後ろで二人が微笑ましい笑みを浮かべていた。
カティーは無表情だったが、どことなく楽しそうな雰囲気を出していた。
「皆ー!こっちだよー!」
ルナが遠くの店の前でアリスたちを呼ぶ。
「あやつは相変わらず自由奔放で空気が読めぬのぅ…」
ヴォルディアがそんな事をボヤいてルナの元に歩き始める。
「ルナ様は我が道をゆく自由なお方ですからね…」
ジョーカーもヴォルディアについて行きながら言う。
「それじゃ、私たちも行こうか!」
「はい!」「うむ」
アリスがそう言ってルナの元に向かい始めるとパリスとクレアも頷いてアリスについて行く。
その日、ルナの手によってアリスたちの服が大量に増える事となったのであった。
ついでに運悪くルナが店から出た瞬間に目の前を通った茉莉もルナによる着せ替えショーの餌食になっていた。
「アッハハ!可愛い子を着飾るのは楽しいわね!」
ルナは満面の笑みで言い、その後ろの茉莉以外の皆は疲れた顔をしていた。
「よーし…次は…」
ルナが次はどこに行こうかとカバンの中から地図を広げた瞬間。
「あ、今日は特売がある日ですわね」
茉莉はそう言うとルナが反応を返す前に言う。
「では、茉莉はここで…皆さん、またお会いしましょうね!」
茉莉はそう言うとものすごい勢いで走って行く。
後日、茉莉は「ルナさんにはあまり会わないように気をつけたい」と言っていたとか。
「あっ…茉莉ちゃん!待っ…あぁぁぁぁぁぁぁ!」
ルナが慌てて追いかけようとするもカバンが開いたままだったのでカバンの中身を撒き散らしていた。
「やっちゃった…」
ルナはガックリと膝をつきながら、散らばったものを片付けていた。
「アリスよ。特売は今日じゃなくて、明日じゃろう?」
ヴォルディアがそっとアリスに耳打ちする。
「…そうね。」
アリスが「やられた~!」と言いたげな表情をする。
「上手いこと逃げられたってわけじゃな…」
ヴォルディアは呆れた様に肩を竦める。
「私は疲れたので帰るのじゃ…ジョーカーももう良かろう?」
「そうですね。クレア様、今日は私にお付き合いいただきありがとうございました。」
「うむ。今度はゆっくりご飯でも食べに行こうぞ。」
クレアが帰ると同時にジョーカーの姿が消える。
「クレアちゃんとジョーカーも帰っちゃった…」
ルナがどこか寂しそうに言う。
ちなみに先に出たパリスはカティーと一緒に買いたい物があったらしく、二人で仲良く商店街の方へと行っていた。
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