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双龍の刺客:ゼルシア

9話

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俺は目の前で戦う2人を見る。

マリアとグレンだ。

グレンが勝負を挑もうとして、マリアが拒否していたところでグレンがマリアに斬りかかった為、マリアが応戦したのだ。

だが、実力は武器を構えてすらいないマリアが圧倒的に上だった。

グレンは明らかにボロボロになっており、マリアは涼しい顔をして立っていた。

「行くぜ!奥義…」

グレンの刀が文字通りの紅に燃え上がる刃になる。

マリアは特に避けようとはせず、ただ相手を見る。

「大文字!」

グレンが大の字に斬りかかる寸前でマリアが体勢を低くする。

魔法拳パライズ!」

痺れの魔法を纏ったはっけいでグレンを弾き飛ばし、痺れの効果でグレンを動けなくする。

マリアは「ふぅ…」と息を吐く。

「貴方と私では力の差があり過ぎます。今の私が武器を使わなかったのは、貴方を殺すつもりはなく、このくらいが貴方にはちょうど良いと判断した為です。何より、これから背中を任せる相手にいきなり斬りかかる無礼は許されるものでは無いですよ。」

グレンは痺れのせいで身体をピクピクと震わせている。

「それ…でも…俺は…」

グレンは痺れているにも関わらず、声を出す。

それは並大抵の冒険者では出来ない芸当だが、グレンは根性だけでそれを可能にしていた。

マリアはグレンの前に座って諭すように言う。

「納得がいかないようですね。なら、せっかくなので勝負をしませんか?この修行の期間でどっちが強くなれるか勝負しましょう。貴方の根性だけは人一倍優れたものだと思っていますし、貴方ならすぐに私を超える剣聖となるでしょう。だけど、私は全身全霊を持って貴方が強くなるよりももっと早く、もっと高く、飛んでみせますよ。」

グレンはニッと笑う。

「負け…ねぇ…ぞ!」

グレンは痺れながらも強気の姿勢を崩さなかった。

俺はグレンの治療をする。

手際よく、そして迅速な処置を…

そうしているとマリアがスッと立ち上がり、ここに来るまでの間で拾った剣に手をかける。

周囲がざわつき始める。

「前方に少なくともA級が5体、S級が2体、SS級が3体居ますね。他の方向からのモンスターの接近は無さそうです。」

マリアの察知能力は俺の察知能力よりも優れていた。

「戦闘態勢を整えろ!グレン、お前も行けるな?」

グレンは痺れの取れた身体を起き上がらせて言う。

「ゼルシアのおかげでバッチリだぜ!」

「数が多い…迅速に撃破しよう。上限解放リミットブレイク!」

マリアは遠くに影が見えたと同時に剣を抜いて、ほぼ音速で突っ走って行く。

「あ、おい!マリア!」

俺たちも慌ててマリアを追いかける。

「雷よ!魔法剣ギラ!剣技、一閃!」

マリアは光速をも越える的確な一振でA級とS級モンスターを全滅させる。

SS級モンスターの一体のグラスゴリラが自身の力で出現させた巨大な蔓のムチをマリアに向かって叩きつけようとする。

「遅い!魔法剣ファイア!」

マリアは難なく攻撃を避けて、火属性の高火力が上乗せされた剣技でグラスゴリラを討伐する。

「…っ?!」

突然、マリアが吐血して片膝をつく。

その隙を相手は見逃さなかった。

SS級モンスターのシルバージラフが鋼鉄の長い首を大きく振りかぶってマリアに向かって叩きつける。

「かはっ」

マリアは一瞬にして真後ろの大樹に叩きつけられる。

頭からも血を流しており、かなりのダメージを受けた様子だった。

俺はグレンに指示を出す。

「グレン!お前はマリアの援護を!俺はもう一体が合流する前に仕留める!」

グレンはシルバージラフに向き合って言う。

「俺に任せとけ!俺だって、冒険者なんだぞ!」

俺は遥か後方に居た最後のSS級モンスターの竜種:ギガントバーンと対峙する。

空を飛びながら移動していたギガントバーンが俺を視認して火球を放とうとする。

「させるかよ!水魔弾アクアバレット!」

水の力を込めた弾丸がギガントバーンの火球を撃ち抜いて消滅させる。

「ギャース!」

ギガントバーンは自慢の火球を破壊されて怒っているようだ。

俺の適性属性は炎だ。

だが、やつに炎は相性が悪過ぎる。

俺はさらに力を込める。

「これでどうだ!超水流弾ジェットアクアバレット!」

光速にも匹敵する速度の水の弾丸でやつの右翼を破壊する。

ギガントバーンは地に落ちてもこちらを見て威嚇する。

「ギャオギャオギャー!」

ギガントバーンが雄叫びをあげると同時に灼熱の業火がギガントバーンを包み込んで守る。

そしてそのまま左翼で羽ばたくと触れれば一瞬で溶かされそうなほど高温の熱風を撒き散らす。

「めんどくせぇやつだなっ!極大氷弾ギガアイスバレット!」

全てを凍てつかせる様な冷たい巨大な氷の弾丸を放つ。

氷の弾丸と熱風が激しくぶつかり合うせいで辺りに水蒸気の霧が発生して視界が悪くなる。

俺は探知サーチを使う。

「さーて…お相手さんはどう来るかなっと…」

俺は挑発ヘイトを使い、わざとやつに位置を感知させる。

これは一種のかけだった。

「そらよっと!火炎弾ファイアバレット!」

発射直後に最大火力になる様に調整した為、身体が焼けそうなほどの灼熱に襲われる。

そして、火炎弾は空中で燃え尽きるように消える。

「ギャアアアアアアス!」

そこに右翼が回復したギガントバーンが現れる。

「かかったな!痺れ玉パライズショット!」

痺れ効果のある玉が大量に発射され、ギガントバーンに襲いかかる。

「ギャオオオオオオオオ?!」

突然の奇襲にギガントバーンは為す術もなく痺れ状態になり、地に落ちる。

未だ抵抗しようとするギガントバーンの目に銃口を突きつける。

「悪ぃがテメーはここで終わりだ!超短距離確殺弾スーパーショートデス!」

ほんとに極めて限定的な状況下でのみ扱える絶対即死の必殺技を放つ。

魔力がごっそりと無くなる感覚と共にギガントバーンが完全に死亡した事を確認する。

「はー、疲れた。あの距離なら、絶対に殺せるかわりに即死効果で殺すと経験値にならねぇから、コスパはクソ悪いよなぁ…」

だが、今の俺にはこうでもしなければ、SS級モンスターを倒す事さえままならない。

「チッ…ともあろうものが情けねぇな…」

俺は目の前に転がるギガントバーンを見る。

固有種特有の変化も無い、ほんとにただの何の変哲もないギガントバーンだったのだ。

「…俺たちは治療も無限に出来るわけじゃねぇし、獲物の処理もしなきゃなんねぇから、無駄は極力避けねぇとな…でなければ、この島で6日を生き抜く事はおそらく無理だ。幸い、食料だけはモンスターを狩って何とかは出来るが…」

治療に役立ちそうな薬草を探知しようと範囲を広げる。

しかし、この辺りには治療に使えそうな物はなく、逆に毒性の強いものばかりであった。

「…となると、俺がここで消耗しきっちまったのは痛手だな。撃てても魔力のこもってないヘナチョコ弾くらいなもんだしな…いや、 魔力増強剤プリマチャージで気休め程度に回復させれば消費の少ない無属性弾なら、明日までもたせることは可能かもしれんが…」

俺がギガントバーンの処理をしながら、魔力増強剤で魔力を回復させていると探知にあるものが感知される。

「まずいな…この状況で災害級モンスターが追加で一匹、やって来ようとしてる。早くあいつらと合流して逃げなければ…」

俺は処理し終えた分だけをバッグに入れて、遥か後方で戦って居るであろう仲間の元へ走る。

「間に合ってくれよ…!」

ただただ全力で走る。
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