13 / 17
第一章 禁じられた森で
第十二話 思い立ったが吉日
しおりを挟む
翌日も、その次の日も、さらにその次の日も。みよは物憂げな表情のままだった。
時折、何かを考え込み、明日花と茂が談笑している中でも口を噤んでいる姿が見えた。
明日花はみよが心配で、数日の間、外出を止めた。リビングで夏休みの宿題を進めつつ、みよの様子を観察していた。そろそろ夏休みの宿題を進めなければ、とは考えていたので、ちょうどいいと言えば、ちょうど良かった。
「おばあちゃんはおじいちゃんに任せて、明日花は遊んできてもいいんだぞ」
「ううん……でも、夏休みの宿題も進めないとだし」
「明日花はえらいなあ」
茂は感心したように頷いた。明日花は頬を緩ませるも、キッチンにいるみよが視界に入り、もやもやとした気持ちが募った。
おばあちゃんが暗いと、調子が狂っちゃう。それに、司くんのことも、おばあちゃんに聞きたい。
明日花は下唇を突き出した。ううむ、わたしはどうすべきか。
しばらく頭を悩ませていると、茂が息を漏らして笑う気配がした。孫が悩んでいる姿が面白いのだろうか。微笑ましい、とか思っているのかもしれない。何か、解せない。
気恥ずかしさも感じながら考え続けていると、唐突に閃いた。
そうだ、司くんに会いに行こう。
みよが司を知っているなら、司もみよを知っているかもしれない。みよに訊ねることができないのなら、司に訊いてみればいい。
「やっぱり、由香のところに行ってくるね」
テーブルに広げていた宿題の冊子を閉じると、明日花は椅子から立ち上がった。茂は驚いたように目を見開いた後、優しげに微笑んだ。
「ああ、いってらっしゃい。由香ちゃんによろしくな」
「いってきます!」
明日花は急いで家を出た。後ろめたい気持ちも少しはあったけれど、問題を解決できるかもしれない期待と、司に会いたい気持ちが勝った。
「明日も森にいるか」と聞いておいて、何日も森に行っていなかった。もし、司が待っていてくれたら、申し訳ないことをしてしまった。
「……待ってくれてるよね?」
忘れられていたら、悲しい。
森に向かっている途中、飲み物を持っていないことに気付き、自販機でスポーツドリンクを買った。少ないけれど、お小遣いを持ち歩いていて良かった。
それにしても、と明日花は目の前の自販機を見つめた。田舎町にある数少ない自販機。道の途中にぽつねんと立っている姿は、とても寂しそうに見える。ところどころ錆びているから、余計に。
やっぱり、一人は寂しいよね。
失礼かもしれないけれど、森の中に一人でいる司と重なった。司と話している時、司からは寂しさを感じなかった。でも、心の奥では、寂しいと思っているかもしれない。
明日花はスポーツドリンクをごくりと飲み込むと、駆け足で森に向かった。暑くて、どんどん体力が奪われていくけれど、そんなことよりも、早く司の元へ行きたかった。
汗と息切れが酷い。森に着いたものの、汗だくの状態で司に会いに行くのもどうなのかと考えた。汗臭いと思われないだろうか。司に「汗臭いよ。近寄らないで」と遠ざけられたら、立ち直るのに時間が掛かりそうだ。
森の中に入ると暑さが和らぎ、短く息を吐いた。再びスポーツドリンクを飲み、忙しなく胸を叩いていた鼓動が落ち着くまで待つ。
「よし、行こう」
声を出して、自分を奮い立たせた。今から司に会って、みよが司を知っていることを伝える。それを聞いて司がどんな反応を見せるのかが、少しだけ怖かった。
時折、何かを考え込み、明日花と茂が談笑している中でも口を噤んでいる姿が見えた。
明日花はみよが心配で、数日の間、外出を止めた。リビングで夏休みの宿題を進めつつ、みよの様子を観察していた。そろそろ夏休みの宿題を進めなければ、とは考えていたので、ちょうどいいと言えば、ちょうど良かった。
「おばあちゃんはおじいちゃんに任せて、明日花は遊んできてもいいんだぞ」
「ううん……でも、夏休みの宿題も進めないとだし」
「明日花はえらいなあ」
茂は感心したように頷いた。明日花は頬を緩ませるも、キッチンにいるみよが視界に入り、もやもやとした気持ちが募った。
おばあちゃんが暗いと、調子が狂っちゃう。それに、司くんのことも、おばあちゃんに聞きたい。
明日花は下唇を突き出した。ううむ、わたしはどうすべきか。
しばらく頭を悩ませていると、茂が息を漏らして笑う気配がした。孫が悩んでいる姿が面白いのだろうか。微笑ましい、とか思っているのかもしれない。何か、解せない。
気恥ずかしさも感じながら考え続けていると、唐突に閃いた。
そうだ、司くんに会いに行こう。
みよが司を知っているなら、司もみよを知っているかもしれない。みよに訊ねることができないのなら、司に訊いてみればいい。
「やっぱり、由香のところに行ってくるね」
テーブルに広げていた宿題の冊子を閉じると、明日花は椅子から立ち上がった。茂は驚いたように目を見開いた後、優しげに微笑んだ。
「ああ、いってらっしゃい。由香ちゃんによろしくな」
「いってきます!」
明日花は急いで家を出た。後ろめたい気持ちも少しはあったけれど、問題を解決できるかもしれない期待と、司に会いたい気持ちが勝った。
「明日も森にいるか」と聞いておいて、何日も森に行っていなかった。もし、司が待っていてくれたら、申し訳ないことをしてしまった。
「……待ってくれてるよね?」
忘れられていたら、悲しい。
森に向かっている途中、飲み物を持っていないことに気付き、自販機でスポーツドリンクを買った。少ないけれど、お小遣いを持ち歩いていて良かった。
それにしても、と明日花は目の前の自販機を見つめた。田舎町にある数少ない自販機。道の途中にぽつねんと立っている姿は、とても寂しそうに見える。ところどころ錆びているから、余計に。
やっぱり、一人は寂しいよね。
失礼かもしれないけれど、森の中に一人でいる司と重なった。司と話している時、司からは寂しさを感じなかった。でも、心の奥では、寂しいと思っているかもしれない。
明日花はスポーツドリンクをごくりと飲み込むと、駆け足で森に向かった。暑くて、どんどん体力が奪われていくけれど、そんなことよりも、早く司の元へ行きたかった。
汗と息切れが酷い。森に着いたものの、汗だくの状態で司に会いに行くのもどうなのかと考えた。汗臭いと思われないだろうか。司に「汗臭いよ。近寄らないで」と遠ざけられたら、立ち直るのに時間が掛かりそうだ。
森の中に入ると暑さが和らぎ、短く息を吐いた。再びスポーツドリンクを飲み、忙しなく胸を叩いていた鼓動が落ち着くまで待つ。
「よし、行こう」
声を出して、自分を奮い立たせた。今から司に会って、みよが司を知っていることを伝える。それを聞いて司がどんな反応を見せるのかが、少しだけ怖かった。
2
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
そのバンギャ、2度目の推し活を満喫する
碧井ウタ
ライト文芸
40代のおひとり様女性である優花には、青春を捧げた推しがいた。
2001年に解散した、Blue RoseというV系バンドのボーカル、璃桜だ。
そんな彼女は転落事故で死んだはずだったのだが、目を覚ますとなぜか20歳の春に戻っていた。
1998年? Blue Roseは、解散どころかデビュー前だ。
それならば……「追うしかないだろう!」
バンギャ魂に火がついた優花は、過去の後悔もやり直しつつ、2度目の推し活に手を伸ばす。
スマホが無い時代?……な、なんとかなる!
ご当地グルメ……もぐもぐ。
行けなかったライブ……行くしかないでしょ!
これは、過去に戻ったバンギャが、もう一度、自分の推しに命を燃やす物語。
<V系=ヴィジュアル系=派手な髪や化粧や衣装など、ヴィジュアルでも音楽の世界観を表現するバンド>
<バンギャ=V系バンドが好きな女性(ギャ、バンギャルともいう) ※男性はギャ男(ぎゃお)>
※R15は念のため設定
「嫉妬に苦しむ私、心はまさに悪役令嬢」ー短編集
『むらさき』
ライト文芸
私はあるニュースを見て、読んで、嫉妬あるいはそれに近い気持ちを抱いていた。どういうことなんだ...アルファポリスさん。
「株式会社嵐」設立って...その所在地が恵比寿ガーデンプレイスタワーってさ...
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。
春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。
それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。
にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる