一話完結ミステリー

夢と金の価値観

「父さんが……」
　通報を受け、警察車両が一軒家の前に停まった。
　警部は、家の中に入ると、そこには飛び散った血痕のそばに倒れている男性と、その横で顔を伏せ泣いている男性の姿があった。そして、窓ガラスが割れており、家の中にガラス片が飛び散っていることにも気づいた。

　男性が少し落ちついた後、警部は事情聴取を始めた。
「あの、ご自身のお名前と、遺体発見時の様子をお話しいただけませんか？」
「は、はい……私は石川健といいます……私は、自分の部屋で昼寝をしていました……そしてリビングのほうからガラスが割れた音がして、駆けつけたら、父さんが血を流して倒れていたということです」
　すると警部のもとに刑事が駆けつけた。
「亡くなったのは石川健さんの父親の、石川大輔さん、死因は、首の動脈を刃物で切られたことによる失血死だそうです」
　ふと、警部は健の手に、傷があることに気づいた。
　
　すると刑事が警部に話しかけた。
「石川健さんの自部屋から、凶器で使われたと思われる包丁が見つかり、その包丁から石川健さんの指紋と、石川大輔さんの血痕が検出されました」
　警部は健のほうを向いた。
「どういうことか説明してもらいましょうか？」
　
　警部が詰め寄ると、観念したのか健は話し始めた。
「この前、父は、遺産は俺に渡さず、国に全額寄付するって言ったんだ……別に、それだけだったらよかった……だが、俺は遺産を全額渡す代わりに、漫画家になるのをやめてくれと言われ、夢をあきらめたんだ……それなのに……あいつは……」
　こうして健は逮捕され、漫画家の夢はどこか遠くに行ってしまった。