初心者女子

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第一章  吸収期女子編

第ニ十一話  舞台裏

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ブースの影からステージを見ているボク
一般の部の撮影もそろそろ終わりだ
ほんわかムードで撮影が進んでいるとボクは思っていたのだが、それはボクの幻想だったようだ

にこやかに彼に向けて微笑んでポーズをとる女子達、それをにこやかに見守る彼
だが、そこには男子には知る由がない女子達の壮絶な争いが笑顔に込められている

私のほうが可愛いでしょ?

と彼氏そっちのけで写真に納まる者
負けじとポーズをとり、撮ってアピールをする者
更にはカメラマンに私を撮れと半ギレの者

なんて醜くて、自分勝手な生き物なんだ
とボクは青ざめた顔でステージから目をそらす

これは・・女子による女子の為の戦争・・
そう感じたボクはふと紗良の言葉を思い出す

こっからはライバルだから・・容赦しないよ

こう言う意味だったのか・・
とボクのまだ知り得ない敵対女子の怖さを知ってしまった

とりあえずボクは落ち着こうとテーブルにお茶を取りに行ったのだが、こちらもかなりピリピリしたムードが漂っている

元男だったボクは誰も知らないが、読モをしている女子、セミプロで仕事をしにきている女子がここに集っている、ド素人のボクを入れて10人が幽閉されていた

女子は万人キャピキャピしてるもんだと思っていたボクはさっきの光景も相まって、戦場に投げ出された子羊状態だ
こんな時にリキがいればな・・と男女別のブースを少し恨むボク

お茶を持つ手が勝手に震えている・・

落ち着け!落ち着くんだボク!相手がどんな女子であろうと、今日のボクは完全無敵の完全体女子なんだぞ!戦う前に敗れるな!戦場でボクの生き様を見せつけてから倒れろ!

脳内でオネプラちゃんが今日一番の気合でボクを鼓舞している

なんとか平静を取り戻したボクはステージの方から拍手している音に気づき、もう一度ブースの影からステージを覗いてやる

「はい!もう一回ポーズ決めて!」

ノリにノッたカメラマンが知ってる顔の2人を中心にシャッターを押しまくっている
周りにいるカップル達は呆然とその光景を見ているようだ

「最後!彼に向けて最高のポーズと表情で!」

フラッシュが光ると同時に手を伸ばし、いじらしい、でも楽しそうな顔をした紗良の姿がボクの目に飛び込んできた
その瞬間、またステージの周りで拍手が鳴り響いて二人を祝福している

戦場に咲いた一輪の華のごとく可憐に、そして強くたくましい、ライバルと言った女子達を紗良は強引にではなく、周りを笑顔にさせることでアッサリと占領宣言をしてしまっていた

なんか・・すごい・・女子は醜くて自分勝手な生き物じゃない奴もいる

その光景を見た瞬間、ボクの脳内でボクが纏っている浴衣を着た若かりし日の千夏お母さんが幼いボクに向けてモデル歩きを披露している
そんなお母さんが幼いボクにほくそ笑みながら話しかける

「男のあなたがモデルになるかはわからないけど、お母さん凄いモデルだったのよ?よく見てて、こうやって歩くと凄くキレイに見えるでしょ?歩き方だけじゃない、表情や身体の使い方、呼吸も重要よ?でも1番は何より自分が楽しむこと!そうするとね、自然と周りも楽しくなっちゃうんだよ?モデルって素敵なお仕事だと思わない?」

そういえば・・昔ボクに見せてくれてた・・
モデルの仕事・・
そうだ・・
紗良が見せてくれたみたいに・・
お母さんが教えてくれたみたいに・・
ボクも周りを笑顔にできるモデルがやりたい・・!

脳内でお母さんがボクに微笑んでくれている
ふと、いつの間にか瞑っていた目を開けると一般の部は終わり、次のモデルの部の準備が始まっていた

次はボクの番か・・

そう思ったが先程の動揺はボクにはない

サァーっと芝生を撫でる風がボクの身体を吹き抜けていった

風がとても心地良い、心もなぜか穏やかだ

お母さんの教えを取り込んで根底に眠っていたモデルの血が無意識にボクを支配する

ボクは今日のステージ目一杯楽しんでやる!みんなを笑顔にしてやる!
と控え気味に微笑んだところでモデルの1人がボクに声をかけてきた

「ねぇあなた、見ない顔だけど新人かしら?」

ゆっくりとモデルの方を向いてボクは一礼をする

「紹介がまだでしたね、私は千秋といいます、akiとでも呼んでもらえればいいですよ?あなたは?」

ボクの落ち着き様に虫の居所が悪かったのか強めの口調でボクに歯向かってきた

「ふんっ!あんたの名前なんかどうでもいいわ?それより新人の癖にいい浴衣着てるじゃない?」

そう言って不敵な笑みを浮かべたモデル
すると突然後ろに隠し持っていた水をボクにかけようと手を出してきた
スッと元男の瞬発力でモデルの腕を掴んでやる
そしてボクは笑みを浮かべながらモデルに言ってやる

「こんなことしないと私に勝てなくて?しょうもないモデルしかいないのかしら?あっ、ごめんなさい?貴方プロではなくてセミプロでしたっけ?まぁこの程度ではそれが貴方の限界かしらね?」

ぐぐっとモデルの腕を横に跳ね除けながらボクはモデルに顔を近づける
焦ったモデルの顔がボクの笑みの餌になり魔性の微笑みを間近で見せつけてやる

「よく聞いておくといいわ・・モデルはそんな安っぽい感情で出来るような仕事じゃない!場の雰囲気を見て・・現場の人の達の気持ちを汲んで・・それを自分でまとめ上げて初めていい仕事ができるの!そんなこともわからないのに・・この私に先輩ズラしないで!」

そんなボクの行動をみて、青ざめて恐れおののく先輩モデル
後ろで座っていたモデル達も見てみぬふりをしている

そう、今のボクに敵はいないのだ
目的はただ一つステージでみんなを笑顔に!




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