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第三章 近付く距離
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薄っすらと目を開けると、顔に朝陽を感じた。
身体がダルい。まるで激しい運動をしたあとのようだ。
眩しい光に照らされて目を細めると、昨日のことが思い出される。
接待を終えてタクシーに乗り込んだあと、酔っぱらった私は伍代さんの家で……。
「え。ちょっと待って」
誰に対して「待って」と言っているのか分からないけど、人間は焦ると「ちょっと待って」と自分に言い聞かせてしまうようだ。
見覚えのない真っ白な天井。首を右側に向けると、壁一面がガラス張りになっていた。
今度は左に向けてみる。ベッドサイド寝台が置かれている。
昨日の記憶がありありと蘇ってくる。そうだ。この寝台の中から彼は避妊具の箱を取り出して……。
「あぁぁぁ……やってしまったぁぁ」
ベッドの上で頭を抱えて悶絶する。
夢だったらどんなによかっただろう。
私は昨日、自らの意思で嫌っていたはずの伍代智哉に抱かれたのだ。
人一倍理性的だと自負している私が、分別もなく流されるままに会社の上司と一夜の関係を持ってしまうなんて……。
腰ほどの高さにあるチェストの上には私が昨日着ていた洋服が綺麗に畳まれていた。
あの後、彼は疲れ果ててウトウトする私に「裸じゃ風邪ひくよ」とネイビーのセットアップを着させてくれた。
さらに私が眠気眼でトイレに向かっている間にびしょ濡れだったシーツをささっと交換してくれた。
私はそのまま眠り、今に至る。
いくら背の高い私でも彼の男物の服はブカブカで袖の部分が余っている。
着ている服からふわりと漂う甘いムスクの匂いに私は動揺する。
そういえば昨日、彼に抱かれているときにも同じ香りがした。
熱い一夜を思い出して顔が火照る。
彼との営みは、正直に言えば最高だった。彼のテクニックがあったのは間違いないけれど、身体の相性が良かった。抱きしめられるとしっくりくるし、心も体も満たされていくのを感じた。
あれがセックスなのだとまざまざと見せつけられた気分だった。
すると、突然部屋の引き戸が開かれて伍代さんが姿を現した。
「おはよう。体はどう?つらくない?」
「おはようございます。……大丈夫です」
グレーのパーカーにスラックスというラフな出で立ちのせいでいつもと雰囲気が違う。
普段の彼は、細身のスーツを着こなし磨き上げられた高級そうな革靴を履いている。
エリートサラリーマンのイメージが強い分、プライベートのラフな彼の姿に動揺してしまう。
普段はセンターパートにカチッとセットしている髪を無造作におろしているせいで、まるで別人みたいだ。
家ではこういう格好するんだ……とそんなバカげたことを考えてしまう。
すると、彼は私の元へ歩み寄ると、ベッドに腰掛けた。
もちろん、彼の家のベッドのようだし、腰掛けること自体はなんら悪いことではない。
けれど、その距離感がおかしいのだ。
隣に寄り添うようにピッタリと座った彼は、私の腰に腕を回してグッと引き寄せた。
身体がダルい。まるで激しい運動をしたあとのようだ。
眩しい光に照らされて目を細めると、昨日のことが思い出される。
接待を終えてタクシーに乗り込んだあと、酔っぱらった私は伍代さんの家で……。
「え。ちょっと待って」
誰に対して「待って」と言っているのか分からないけど、人間は焦ると「ちょっと待って」と自分に言い聞かせてしまうようだ。
見覚えのない真っ白な天井。首を右側に向けると、壁一面がガラス張りになっていた。
今度は左に向けてみる。ベッドサイド寝台が置かれている。
昨日の記憶がありありと蘇ってくる。そうだ。この寝台の中から彼は避妊具の箱を取り出して……。
「あぁぁぁ……やってしまったぁぁ」
ベッドの上で頭を抱えて悶絶する。
夢だったらどんなによかっただろう。
私は昨日、自らの意思で嫌っていたはずの伍代智哉に抱かれたのだ。
人一倍理性的だと自負している私が、分別もなく流されるままに会社の上司と一夜の関係を持ってしまうなんて……。
腰ほどの高さにあるチェストの上には私が昨日着ていた洋服が綺麗に畳まれていた。
あの後、彼は疲れ果ててウトウトする私に「裸じゃ風邪ひくよ」とネイビーのセットアップを着させてくれた。
さらに私が眠気眼でトイレに向かっている間にびしょ濡れだったシーツをささっと交換してくれた。
私はそのまま眠り、今に至る。
いくら背の高い私でも彼の男物の服はブカブカで袖の部分が余っている。
着ている服からふわりと漂う甘いムスクの匂いに私は動揺する。
そういえば昨日、彼に抱かれているときにも同じ香りがした。
熱い一夜を思い出して顔が火照る。
彼との営みは、正直に言えば最高だった。彼のテクニックがあったのは間違いないけれど、身体の相性が良かった。抱きしめられるとしっくりくるし、心も体も満たされていくのを感じた。
あれがセックスなのだとまざまざと見せつけられた気分だった。
すると、突然部屋の引き戸が開かれて伍代さんが姿を現した。
「おはよう。体はどう?つらくない?」
「おはようございます。……大丈夫です」
グレーのパーカーにスラックスというラフな出で立ちのせいでいつもと雰囲気が違う。
普段の彼は、細身のスーツを着こなし磨き上げられた高級そうな革靴を履いている。
エリートサラリーマンのイメージが強い分、プライベートのラフな彼の姿に動揺してしまう。
普段はセンターパートにカチッとセットしている髪を無造作におろしているせいで、まるで別人みたいだ。
家ではこういう格好するんだ……とそんなバカげたことを考えてしまう。
すると、彼は私の元へ歩み寄ると、ベッドに腰掛けた。
もちろん、彼の家のベッドのようだし、腰掛けること自体はなんら悪いことではない。
けれど、その距離感がおかしいのだ。
隣に寄り添うようにピッタリと座った彼は、私の腰に腕を回してグッと引き寄せた。
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