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第二章
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※※※
鮮やかな色のタペストリーの何枚もかかっている広い部屋のテーブルの上には、豪華な料理の数々がずらりと並んでいた。シチューとパンからは湯気が立ち、ローストチキンは食欲を誘う匂いを漂わせていた。
「……美味しい……!」
アイリーンは自然と声を漏らした。どれを食べても美味しく、頬が溶けてしまいそうだ。
彼女の言葉を聞き逃さず、エドガーはふっと穏やかな表情を浮かべた。
「そうだろう。我が家のシェフは腕がいいんだ。この野菜も領民が無農薬で育ててくれたものだ」
「サンドリッチ領では他にはなにを作っているのですか?」
「ここは王都からも距離があるから、基本的には自給自足だ。豚や馬、鶏などの家畜の飼育はもちろん、小麦も生産している」
「今度、時間のある時に農作物づくりを見学してもよろしいですか?」
アイリーンは向かい合って座るエドガーに尋ねた。
「もちろん、構わない。土いじりが好きなのか?」
「ええ。今までは継母にみっともないと言われて、やらせてもらえませんでした」
継母はアイリーンがやることなすことすべてにケチをつけて禁止した。仕方なくアイリーンは継母に見つからぬようにこっそり庭師と共にガーデニングを楽しんでいた。舞踏会だお茶会だという華やかな社交の場よりも、絵を描いたり、土いじりをしたり、本を読んだり、刺繍をする穏やかに流れる時間が好きだった。
「土いじり以外にもやりたいことはあるのか?」
「やりたいこと……そうですね……。絵を描くのは好きです。実家では暇さえあれば絵を描いて過ごしていました」
「そうか、どんな絵を描くんだ?」
「風景画が主でしたが、似顔絵を描くのが特に好きでした。使用人の顔を描いてプレゼントすると、喜んでもらえたので」
「そうか。俺もいつかあなたに絵を描いてもらいたい」
「わたしの絵で良ければぜひ」
興味を持って話を聞いてくれたエドガーにアイリーンは柔らかく微笑んだ。
「他にはないか? 実家ではやれなかったことでもいい」
聞かれて真っ先に思いついたのがお菓子作りだった。
「エドガー様は甘い物はお好きですか?」
「ああ。甘い物には目がない」
「そうですか。では、お菓子作りがしたいです」
アイリーンは目を輝かせた。料理や菓子を作るのは昔から好きだった。実母が生きている時には、一緒に菓子を作って使用人に振る舞った。みんなが笑顔で嬉しそうに作った菓子を食べてくれる姿を見るのが好きだった。
母の死後も菓子作りを続けた。けれど、父が再婚後、一人で作った菓子を継母とソニアに振る舞うと、二人は一口も食べずに全て捨ててしまった。貴族の令嬢が良い子ぶって労働者じみたことをするなと叱責されてからは一度も作っていない。
「あっ……、ですが、やはり体裁がよろしくないようでしたら、この話はなかったことに――」
「分かった。菓子作りが行えるように話を付けておこう」
「本当に……よろしいんですか?」
「ああ。アイリーンは今までたくさん我慢してきたんだろう。ここでは、存分あなたの好きなことをしてくれ」
「ありがとうございます。ですが、こんな風に甘やかされてばかりでは申し訳なくなります。エドガー様の為にわたしもなにかしたいです。なにかわたしにできることはありませんか?」
出会ってから今まで、エドガーにしてもらってばかりでなにも返せていないことをずっと歯がゆく思っていた。
アイリーンは切実な表情で尋ねた。
鮮やかな色のタペストリーの何枚もかかっている広い部屋のテーブルの上には、豪華な料理の数々がずらりと並んでいた。シチューとパンからは湯気が立ち、ローストチキンは食欲を誘う匂いを漂わせていた。
「……美味しい……!」
アイリーンは自然と声を漏らした。どれを食べても美味しく、頬が溶けてしまいそうだ。
彼女の言葉を聞き逃さず、エドガーはふっと穏やかな表情を浮かべた。
「そうだろう。我が家のシェフは腕がいいんだ。この野菜も領民が無農薬で育ててくれたものだ」
「サンドリッチ領では他にはなにを作っているのですか?」
「ここは王都からも距離があるから、基本的には自給自足だ。豚や馬、鶏などの家畜の飼育はもちろん、小麦も生産している」
「今度、時間のある時に農作物づくりを見学してもよろしいですか?」
アイリーンは向かい合って座るエドガーに尋ねた。
「もちろん、構わない。土いじりが好きなのか?」
「ええ。今までは継母にみっともないと言われて、やらせてもらえませんでした」
継母はアイリーンがやることなすことすべてにケチをつけて禁止した。仕方なくアイリーンは継母に見つからぬようにこっそり庭師と共にガーデニングを楽しんでいた。舞踏会だお茶会だという華やかな社交の場よりも、絵を描いたり、土いじりをしたり、本を読んだり、刺繍をする穏やかに流れる時間が好きだった。
「土いじり以外にもやりたいことはあるのか?」
「やりたいこと……そうですね……。絵を描くのは好きです。実家では暇さえあれば絵を描いて過ごしていました」
「そうか、どんな絵を描くんだ?」
「風景画が主でしたが、似顔絵を描くのが特に好きでした。使用人の顔を描いてプレゼントすると、喜んでもらえたので」
「そうか。俺もいつかあなたに絵を描いてもらいたい」
「わたしの絵で良ければぜひ」
興味を持って話を聞いてくれたエドガーにアイリーンは柔らかく微笑んだ。
「他にはないか? 実家ではやれなかったことでもいい」
聞かれて真っ先に思いついたのがお菓子作りだった。
「エドガー様は甘い物はお好きですか?」
「ああ。甘い物には目がない」
「そうですか。では、お菓子作りがしたいです」
アイリーンは目を輝かせた。料理や菓子を作るのは昔から好きだった。実母が生きている時には、一緒に菓子を作って使用人に振る舞った。みんなが笑顔で嬉しそうに作った菓子を食べてくれる姿を見るのが好きだった。
母の死後も菓子作りを続けた。けれど、父が再婚後、一人で作った菓子を継母とソニアに振る舞うと、二人は一口も食べずに全て捨ててしまった。貴族の令嬢が良い子ぶって労働者じみたことをするなと叱責されてからは一度も作っていない。
「あっ……、ですが、やはり体裁がよろしくないようでしたら、この話はなかったことに――」
「分かった。菓子作りが行えるように話を付けておこう」
「本当に……よろしいんですか?」
「ああ。アイリーンは今までたくさん我慢してきたんだろう。ここでは、存分あなたの好きなことをしてくれ」
「ありがとうございます。ですが、こんな風に甘やかされてばかりでは申し訳なくなります。エドガー様の為にわたしもなにかしたいです。なにかわたしにできることはありませんか?」
出会ってから今まで、エドガーにしてもらってばかりでなにも返せていないことをずっと歯がゆく思っていた。
アイリーンは切実な表情で尋ねた。
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