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第一章
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仮面舞踏会当日。
アイリーンに用意されたのは、ソニアのお古のピンク色のロングドレスとサイズの小さなヒール靴だけだった。かたやソニアはこの日の為に仕立て屋にドレスを縫ってもらったようだ。襞のふんだんにあしらわれた黄色の豪奢なドレスだ。青と金色の小さな蝶の刺繍が入ったドレスは見る者の目を引く美しさがあった。
ネックレスやイヤリングなどの小物もすぐに高価なものであると分かる。着飾ったソニアとは対照的に、アイリーンの姿は貧相そのものだった。けれど、アイリーンが磨けば光る原石であると知っていた侍女たちは、アイリーンの髪を時間をたっぷりかけて綺麗に結い上げて、丁寧に時間をかけて化粧を施した。
そのおかげもあり、アイリーンは目を見張るような美女へと変貌を遂げた。残念ながら顔の傷は薄くなりさえしても、完全に隠すことは不可能だった。
アイリーンは自身の顔の傷をマイナスには捉えていない。そのため普段屋敷にいるときは隠すことなく堂々としているが、大勢の人前で晒すことに対しての配慮はあった。
自身の顔の傷の話題が持ち上がり、華やかな舞踏会を台なしして主催者であるイベルトン伯爵の顔を潰す気はさらさらなかった。
「ふふっ、その仮面をつけていれば男性も言い寄ってきてくれるかもしれないわね? でも、くれぐれもわたくしに声をかけてきたりしないでちょうだい。お義姉さまが家族だと知られたくないから」
「ええ、分かったわ」
憎まれ口のソニアを軽く流して、アイリーンは馬車を降りて颯爽と会場へ向かった。
アイリーンが舞踏会へ参加したいと申し出たのは、結婚相手を探す為ではなかった。子爵家の令嬢として生を受けた以上、一度ぐらい貴族として華やかな舞台を経験しておきたかったのだ。
アイリーンの国では貴族の娘でありながら年頃になっても社交界デビューしない場合、何らかの重大な問題があると考えられることが多い。その時期を逃せば、修道院へ行くか屋敷内で晩年を過ごすことが多い。その為、アイリーンはこの日を最後に、修道院へ入ろうと決めていた。
道徳や礼儀作法を改めて学び、世俗とは離れた生活を送るのだ。恵まれない人への奉仕活動や子供たちへ絵本の読み聞かせを行う。自分が誰かの役に立つことを、アイリーンは強く望んでいた。
仮面舞踏会はその名の通り、仮面をつけて身分素性を隠して行われる舞踏会だ。仮面による匿名性により羽目を外すことだってできる。
真剣に結婚相手を探す人もいれば、一夜限りの関係を持とうとする浮ついた気持ちの者も多くいる。
入口で紹介状の確認を済ませた後、イベルトン伯爵宛に用意してきたお礼の手紙を使用人へ預けた。アイリーンの存在は半ば社交界では忘れ去られたも同然の存在だった。クルムド子爵家の嫡女がソニアだと勘違いし、招待状もソニアの名前だけしか載っていないことも増えた。けれど、イベルトン伯爵家からの招待状だけは一度たりともアイリーンの名が消えることはなかった。
大広間に集められた招待客の中には、貴族だけでなく政治家や軍人まで数多くの人が集まっているようだ。大広間に入ると、音楽団が奏でた美しい音色が響き渡ってた。
煌びやかなシャンデリアが作る黄金色の光の下、アイリーンは喧騒に紛れて一人壁際に佇んでいた。
ホールの中央では何組かの男女が躍っている。その中に、ひと際煌びやかな赤いドレスを翻して踊る女性がいた。蝶が舞うように鮮やかなステップを踏む令嬢。仮面をつけていてもその美しい顔を頭に思い浮かべることができた。
艶やかな茶色の髪の令嬢に、男性陣はこぞって羨望の眼差しを向けていた。
アイリーンに用意されたのは、ソニアのお古のピンク色のロングドレスとサイズの小さなヒール靴だけだった。かたやソニアはこの日の為に仕立て屋にドレスを縫ってもらったようだ。襞のふんだんにあしらわれた黄色の豪奢なドレスだ。青と金色の小さな蝶の刺繍が入ったドレスは見る者の目を引く美しさがあった。
ネックレスやイヤリングなどの小物もすぐに高価なものであると分かる。着飾ったソニアとは対照的に、アイリーンの姿は貧相そのものだった。けれど、アイリーンが磨けば光る原石であると知っていた侍女たちは、アイリーンの髪を時間をたっぷりかけて綺麗に結い上げて、丁寧に時間をかけて化粧を施した。
そのおかげもあり、アイリーンは目を見張るような美女へと変貌を遂げた。残念ながら顔の傷は薄くなりさえしても、完全に隠すことは不可能だった。
アイリーンは自身の顔の傷をマイナスには捉えていない。そのため普段屋敷にいるときは隠すことなく堂々としているが、大勢の人前で晒すことに対しての配慮はあった。
自身の顔の傷の話題が持ち上がり、華やかな舞踏会を台なしして主催者であるイベルトン伯爵の顔を潰す気はさらさらなかった。
「ふふっ、その仮面をつけていれば男性も言い寄ってきてくれるかもしれないわね? でも、くれぐれもわたくしに声をかけてきたりしないでちょうだい。お義姉さまが家族だと知られたくないから」
「ええ、分かったわ」
憎まれ口のソニアを軽く流して、アイリーンは馬車を降りて颯爽と会場へ向かった。
アイリーンが舞踏会へ参加したいと申し出たのは、結婚相手を探す為ではなかった。子爵家の令嬢として生を受けた以上、一度ぐらい貴族として華やかな舞台を経験しておきたかったのだ。
アイリーンの国では貴族の娘でありながら年頃になっても社交界デビューしない場合、何らかの重大な問題があると考えられることが多い。その時期を逃せば、修道院へ行くか屋敷内で晩年を過ごすことが多い。その為、アイリーンはこの日を最後に、修道院へ入ろうと決めていた。
道徳や礼儀作法を改めて学び、世俗とは離れた生活を送るのだ。恵まれない人への奉仕活動や子供たちへ絵本の読み聞かせを行う。自分が誰かの役に立つことを、アイリーンは強く望んでいた。
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