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第2章 神の大地と自由への解放

焔の獅子と氷の狼 Ⅰ (said:ザイン/フォルティス)

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ワアァァァ…

歓声が波のように轟き、闘技場を揺らす。

『狼牙族フォルティス選手、今大会注目ルーキー虎尾族キティウス選手に容赦の無いラッシュ、ラッシュ、ラッシュ、ラッシュぅー!!!!』
『出る杭は徹底的にボコる!!!冷徹のグラキエスは健在だあぁー!!!!』

歓声が、実況が、選手同士がぶつかり合う音の全てが壁を隔てた様に遠い。

フォルティス・グラキエス。狼牙族代表であり、私の親友…。

狼牙族の中でも氷の属性スキルを継承する氷狼グラキエス一族は、部族戦争中その苛烈で容赦の無い攻撃から"冷徹のグラキエス"と呼ばれた。その一族の中で…フォルティスはある種異質だと言えた。

己達の研鑽にしか興味の無いグラキエスの中にあって、その見た目や立ち振舞いに似合わず好奇心旺盛で、しょっちゅう里を出ては国内外を旅していた。そのくせ誰よりも強さに貪欲で誰よりも強く、狼牙族の誰にも文句は言わせなかった。

戦う事を避け続ける変わり者の私を、それも1つの戦い方だと笑う様な奴だった。

後にも先にもフォルティスと拳を交わしたのは、30年前にシルヴィアを得るために出場した部族対抗武闘会…あの決勝、ただ1度だけ……。

『キティウス選手立ち上がれなぁーーーーい!!!!!』

響き渡る実況の声と割れんばかりの拍手と歓声に、急激に意識を引き戻されて視線を向けると、虎尾族の青年が倒れ伏しフォルティスが高々と拳を天に突き上げていた。

『シルヴィア杯、個人戦優勝はぁーー狼牙族、フォルティーース・グラキエスぅーーーー!!!!』

声高な宣言に、歓声が更に大きくなるその中で…フォルティスと目が合った。高々と上げられた手がゆっくりと私を指差す。

『おっと、フォルティス選手どこを…あーっと!王だ、ザイン王を指差して………吠・え・たぁーーーー!!!!』

響き渡る咆哮。

それは、この場においては挑戦を意味する。

耳が痛いほどの静寂が闘技場を支配し、観客の全てが、フォルティスが私の反応を待っていた。闘志をその眼に宿してフォルティスは笑った。

ならば、全ては拳で問おう。

玉座から立ち上がり、フォルティスを見据え…天に向かって咆哮を上げた。








『ザイン王が応えたぁぁーーーー!!!!』

ザインの決意を秘めた咆哮と爆発するような歓声を浴びながら、安堵の息が口から溢れた。

恐らく、それがしの所業の大半が彼奴あやつの耳に入っている筈だ。既に自身の身体の主導権すらこの手には無く、この戦いさえ彼の者の手中…それでもザインとの決着を着けたい…彼奴の手で直接裁かれたいと願うのは、某のエゴに過ぎない。

「………酷い…親友もあったものよ……。」

予定に無い試合の為、準備を行う旨を伝える案内を聞きながら、届くはずもない呟きを溢してザインに背を向け、選手専用通路へと戻った。

「…………。」

その暗がりに小柄な影があった。

「文句でも?」

目深に被ったフードから見るにかの者の連絡係か何かかと思い、不機嫌に問うとその影は肩を震わせた。

「………なんで…」
「?」

絞り出された声は、痛みに耐える様に震えた…聞き覚えのある少女の声だった。

「なんで"渇望の呪爪"なんて受けたんですか?」
「…………貴様、何者だ…?」

呪爪を知っているのは某と彼の者のみ…警戒しながら問うと、影はゆっくりと顔を晒した。

白金の髪、朝焼けの瞳、既に濁って役に立たなくなりつつある某の眼精霊眼でも解る強く、清浄な光。その全てが某の記憶とは違う…だがその少女を某は知っていた。

「勇者、か…?」

死んだと伝え聞いた勇者の目は…怒りと悲しみと戸惑いの色を含んで某を見ていた。

「…答えてください……渇望の呪爪それを受けて、どうなるか…知らない訳じゃないでしょう?」

漆黒に染まりつつある自身の爪を見る。

「あぁ…」
「じゃあ、なんで…?」
「愚かさ故…」

ぎゅうっと手を握りしめた。

「彼奴に肩を並べる程に…いや、越える程の力を望んだが故……実に浅慮で愚劣極まりない。」

歪む顔を片手で覆い、浮かぶ自嘲の笑みを吐き出した。

「自らを破滅に導く事も、彼奴を最も苦しめる事も解っていながらかの者を手を取り、挙げ句自らの意思ではこの身体さえ自由にならぬ…実に、実に愚かな事よ。」
「………フォルティスさん…」

顔を上げ、勇者を見つめる。勇者は……きっと某が言うだろう言葉が解っているのだろう、ぐっと眉根にシワを寄せた。

「手出し無用…その上、彼等に邪魔をさせるなってわけですね。」
「……真にかたじけない。」

不機嫌そうに溜息を吐いた勇者は、大股に近づいてくると某の胸に手を当てて目を瞑った。

「…勇「黙ってて。」」

遮る様に言われ、黙ること数分…目を開いた勇者が拳でトンッと胸を叩いた瞬間、何かが割れる音と共に身体が暖かい空気に包まれた。

「今のは…」
「…これで鎮守の森の時みたいに身体の主導権を奪われることはないはずです。身体も回復しておきました。」
「……感謝する。」
「捕まってた妹さんも…助けてあります。衰弱はしてますが、命に別状はないって…今は王宮で保護されてます。」
「重ね重ね、恩に着る。」

妹の事も彼奴の元なら心配は無かろう。某が暴走したとて、目の前の勇者がいる限り大事に至る事は無いであろう。

「ムカつく…」

ぽつりと呟いた勇者は、強い眼光で某を睨み上げた。

「後顧の憂いは無くなった、ザイン様との戦いが終われば思い残すことは無いって顔!散々迷惑かけて後始末は全部他人任せ?!本当、あったまくる!!」

返す言葉もなかった。

「言っておきますけど、私は諦めが悪いんですっ!この対価は絶対払わせますからね!」

覚悟しろ!と怒鳴ると、勇者は足音も荒く通路の奥へと消えていった。

「……必ず救うと…言ってるようなものではないか…」

ぽつりと溢した言葉は、通路に反響しながら消えた。


――――――――――――――――――――――――――

丸々1ヶ月以上空いてしまいました…(´д`|||)
お気に入り数も増えてて、何だかもう有り難いやら申し訳ないやら…(´;ω;`)

ここから数話、ザイン王とフォルティスさんの話となります。むしろ黒猫庵の表現力との闘いです(>_<)

もう少し早くお届け出来るように頑張ります。
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