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☆*:.。. o番外編o .。.:*☆

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「終わったらお茶煎れてやる」


「お茶……もしかしてここで立てちゃうかね」


「まさか。普通に煎れるよ」

苗はホッとしていた。

東郷家でお茶と言われると態々茶室に呼ばれて受けるはめになる。

今までがそうだった為、悟のお茶の誘いに苗は敏感に反応していた。


…だいたい、あーんなちっこい和菓子一個で何分お茶を待たなきゃなんないだかねっ…んとにもうっ…


口を尖らせて段ボールを縛る苗を悟は笑いながら見ていた。

「苗の好きな“餅まん”もあるから」

「うそ、餅まん!?」

苗の目がキラキラしていた。

苗の田舎の駅にしかないお土産。“餅まん”モナカの皮に豆大福を挟んだだけのシンプルな饅頭なのだが、苗の大好物でもある。


付き合いの長い悟はしっかりと苗のツボを押さえていた。

鼻唄を歌い出した苗は手際よく段ボールを纏めてとっとと片付けを済ませる。

「いただきっ!」

ウキウキしながらお茶が並ぶソファに座った苗の隣に、悟も腰を下ろした。

やたらに距離が近い。

だが苗はそんな事は気にも止めず嬉しそうに餅まんを頬張る。

悟は肘を長い脚に当てると頬杖をついて苗を見つめた──




「苗──…」

「ん?」

「粉付いてる──」

「──…っ」


振り向いた苗の口の端を濡れた舌が撫でていた…


驚きで苗の目が見開く。

悟は頬杖を付いたままニッコリと笑っていた。

「どうだった…」

「……──どっ、どうとはいったい…」

悟に舐められた口の端がヒヤリと冷たくなる。

なんだか違う。

今までの悟の雰囲気とはガラリと変わった声。

苗はおどおどしながら目を反らす。

「結城さんとの初夜…うまくいった?…」

「──…っ」

悟は頬杖付いていた顔で苗に向けて赤い舌を見せるとニヤリと笑った…



…も、餅まんの味がっ──


味がしないだょっ…



苗は餅まんを見つめ冷や汗を吹き出す。

大好きな餅まんの味さえもわからない。苗はそのくらい今の悟に怯えていた。


“浮気するなよ──” 


…し、しないよ兄さんっ!
苗っ、浮気なんかしてないだょっ!!…



ベットで抱き締めながら言った晴樹の言葉が苗の脳裏でエコーする。


一人で慌てる苗を楽しそうに眺めていると悟は光る苗の携帯電話に目をやった。

液晶画面に晴樹の名前が点滅している──

それを見ると悟は口端に小さく笑みを含んだ。




「でないの?」

「えっ……」

「……俺、出てやろうか」

悟はけしかける様に苗に言った。電話を手にした悟から苗は慌てて奪い返す。

苗はピッと受話ボタンを押した。

「もしもし、苗?」

「──な、なに兄さんどしたのっ…」

「……?…どしたのって…」

苗の返し方に晴樹は疑問を浮かべた。

「今、仕事終わって家に着いたんだよ。苗はなにやってんだ?」

「な、苗っ!?…苗はねっ…いまっ、あのっ…」

悟ちゃんとこだって言って怒られないだろうか!?

苗は咄嗟にそんな事を考えた。

それもそのはず──
ついこの間、初夜の日に逃げ出した際、悟のマンションに身を潜めた苗は“独り暮しの男の部屋に隠れるなんて何事だっ!”そう晴樹に怒鳴られている。

「なえ?…」

電話口でどもる苗に晴樹は眉を潜めていた。

「結城さんこんばんわ。今、そっちは夜中ですよね」

「──…!」

……悟!?

狼狽える苗の電話に口を寄せて悟はあっさりとそう切り出していた…

悟のとった行動に、苗は目を見開いたまま固まっていた。

悟は苗の握っている携帯に口を寄せたまま晴樹に話し掛ける。


携帯を持っている苗の手を上から握ると、言葉を掛けながら悟の手は苗の腰に回っていた…




「一緒にいるのか…」

低い声音が携帯から響いてくる。


「ええ、引っ越しの荷ほどきが終わったんで、後片付け手伝ってもらったんです。今、ちょうど一息ついたとこでした。な、苗!」


悟はそういって苗に電話を預けた。

「──っ!?」
…ええ!?このタイミングで返すの!?──




苗はまたもや焦った。


携帯を持つ手は解放されたが腰に回った手はまだそのままだ。

「苗──」

「な、な、なに兄さんっ」

「まだ、片付けは時間かかりそうか」

「…っ…んなことないよっ!もう終わってお茶菓子食べてるっ!」


「茶菓子?」

「うんっそうそうお茶菓子っ!…っ…ははっ…」


「──…」

……茶菓子…食うのになんでそんなに焦ってんだコイツ…



……──っ…なんかおかしいっ!


苗の携帯を握る手に嫌な汗が滲む。

晴樹の電話口から聞こえるトーンは会話を交わす度に低くなっていく。

悟はまた苗の携帯に口を寄せた。

苗の口元に寄せた受話口に悟の唇が接近する。

近すぎる悟の声の音量は携帯を耳にする晴樹にも違和感を感じさせていた。




「いま、田舎から届いた“餅まん”食べてるんですよ」

「餅まん?…」

「ええ、苗の大好物です。な、苗!」


「う、うんっそうなんだょっ……苗の大好物でさっ…──!っ、ぅあっ…」


…ぅあっ…?


堰切って話す苗の語尾の声に晴樹は引っ掛かる。


苗は思わず漏れた声を止めるように自分の口を手で塞いだ。

「これ、すごく美味しいんですよ…モチモチしてて…」

「──…!」

電話口からピチャリと濡れた音が晴樹の耳に届く。

口を塞いだ苗の頬っぺたに甘く噛みつきながら、悟は晴樹を静かに挑発していた。


「なえ…」

晴樹は悟を無視して苗に話し掛けた。

「手伝い済んだならっ…茶菓子なんか食わずにすぐ帰れっ!!──」

「はいっっ!」

苗はその言葉に返事を返して立ち上がると一目散に玄関に向かう。

悟は溜め息をつくとそんな苗に笑みを浮かべて頭を掻いた。


玄関に座り込み靴をもたもたと履く苗の肩を悟は叩く。

「苗、これ」

「──っ」

またっ──…


振り向いた苗はしゃかんだ悟にまともに唇を奪われていた。

「新商品だから皆で食べて」

唇を放して笑顔を向けると、悟は何事もなかったように苗に抹茶味と書かれた餅まんの包みを手渡していた。

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