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19章 恋の片道切符

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「・・・・・」


「おう苗‥どうした💧?
メシ食わねえのか?」


「・・・・・」


「‥‥おい?‥💧」


夕飯の仕度を済ませテーブルについた田中一家だったが、食事に手を付けない長女の様子を皆が気にかけていた。

苗は正座したまま村井から受け取ったタクシーチケットとデパートの商品券の束を眺め呆然としている‥


呼びかける満作の声は届いていないようだった‥



‥兄さん‥なんで…


『苗さん。晴樹さんが苗さんにコレをと‥
ちょっとこれから忙しくなるから晴樹さんは時間が取れないと。コレは自由に使って下さいって事で‥』


苗が帰宅した頃にちょうど現れた村井の言葉‥



‥そんなにあの娘につきっきりになっちゃうだね‥。

‥む‥


「‥‥むうぅ‥」


「‥‥💧?」


難しい顔をして唸り声をあげる長女を家族全員が見守っていた💧‥








―チャプン‥


「‥むぅぅ…」

湯気に包まれ浴槽の中‥

苗はあいもかわらず唸っている💧

苗は風呂から上がると今日の帰り際、口パクで晴樹に伝えたようにメールを打った。




♪~‥

ん‥?  苗…


不意に鳴り出したメール着信音‥

晴樹は携帯を手にしてメールを開く‥



兄さん商品券ありがとう!

ところで兄さん。
苗はこの間、見そびれた映画が見たいんだょっ
今度の土曜日も忙しいだかね?





「・・・・」



晴樹はベッドに横になったまま、開いた携帯を胸の上に伏せ考える‥


「‥映画‥か‥」


そしてボソッと呟いた…


日曜の昼には日本を発つ。そう、今度の日曜は水泳の都大会が行われる日でもあった‥


もう、会わない。‥そう決めたのに決心が揺るぐ…


せっかくの苗からの誘い‥


「‥俺を哀れんだ神様からの最後のプレゼントだったりしてな…」

晴樹はふっと声を洩らした。














「苗、準備はできたの?」


「うん‥これでいい?」


夕刻迫る午後…

鏡の前にいる苗の様子を咲子は覗く。

「あら、ちょうどよかったじゃない!
靴は玄関に出してあるわよ」


前の日に病院から生まれたばかりの次女を連れて帰ってきた母。咲子は出かける準備をする苗に様子を伺っていた…


『土曜日に晴樹クンと?‥』

『うん、映画見に行く。』



『あらそうなの?』

‥デートかしらっ?


晴樹と出かけることを苗から聞き、病院の帰りに二人はデパートに寄っていた。

『今回の苗ちゃんの発病の原因は〃恋患い〃ですよ。きっと!』


担当医からそう説明を受けオカンはニヤリとほくそ笑んだ‥


‥デートならおNEWの可愛いやつにしなきゃっ



苗のセンスには任せられないと、オカンは苗と新生児娘みのりをデパートの託児所に置き去り、ショッピングを満喫していたのだ‥




「ほらリップもぬって!!」


まるで自分が娘時代に戻ったようにウキウキしながらオカンは苗の身支度に精を出す💧

「お母ちゃん‥
これやっぱり短すぎじゃ‥💧」

「何言ってんの!このくらい短いうちに入らないわよ!!」


リップをぬりぬりしてくれている母親に、苗はもじもじしながらスカートの裾を引っ張り訴える‥


貰ったばかりの商品券を使いまくって仕入れた今日のお召し物は‥

デニムの膝上のスカートに、上はラブリーな薄手のセーター‥
そして用意された靴はロングブーツだった‥


「くっ─お母ちゃんチャックが上がらないょっ」

履きなれないブーツに戸惑いながら二人がかりでブーツに脚を詰め込む‥



「あ、晴樹クン来たみたいだわ」

新しすぎて革の伸びにくいブーツと格闘している二人の耳に晴樹の車のエンジン音が聞こえてきていた💧


「あ、兄さん!ちょっと待ってて」

玄関の前に着いたことを知らせる携帯の着信音‥

苗は電話に出るなり、そう返事を返す。

ブーツのチャックはまだ締められていなかった💧‥



「はぁ、ごみん兄さん!!」

───!

「………っ…


‥‥‥‥///💧」


苗が出てくるまで車に背を預けて寄りかかりながら待っていた晴樹は目の前に現れた少女に息を飲んだ。


「はあ、ブーツ履くって体力いるだねっ」


「‥‥‥💧‥//」


息をきらし、疲れた顔で話す少女に晴樹は無言で車の助手席を開けて中を勧める。そして何気に口元を隠した。

街に向かい走り出す車の中‥

晴樹は鼻歌を歌う苗をチラチラと盗み見た‥

「苗‥」


「‥ん?」


「今日はなんでまた…


そんな恰好してんだ💧//」


「‥‥‥

‥‥こ、れは‥お母ちゃんがっ…」


思わず我慢できずに訊いてしまった晴樹に苗は下をうつ向き口を開く‥



‥おばさんが💧?


「お、おかしい💧!?

やっぱ、着替えてくるょ!」

──‥!?

「ちがっ‥苗!」




信号待ちの車から降りようとする苗を晴樹は慌てて止める。

「苗ッそんな意味で言ったんじゃないって!!」

「‥‥?

ほんとに?」

「ああ‥」

「ほんとにおかしくない?」


「ああ‥

に‥───」


「に?」


「似‥

‥‥合う‥よ‥//」


晴樹は苗を見つめると言葉を詰らせながら搾り出す‥

「・・・・‥

ほんとに?」


「あぁ‥//

可愛いから‥マジで///」


「‥かわいい?」

「‥//」

‥ダメだ💧


耐えらんねえ💧‥//


照りを増す晴樹の身体からは湯気が立ちかける‥

顔は恥ずかしさで真っ赤に染まっていた。


‥可愛い‥なんだ‥っ
そか‥//


苗は晴樹の言葉に安心しながらずり上がるスカートを気にしている‥


「‥苗、//💧
あんま気にするな。
そのくらいは見えてるうちに入んないだろ?
周り見てみろよ」



そう言って指差す先に目をやると超ミニで颯爽と歩くギャル達が目に写った‥

「ケツが見えてもお構い無しだろ皆💧‥」


晴樹にとって見慣れたギャル達の露出‥


ただ‥気にするなと言いつつも、見慣れていない苗の今日の服装は、気にならない筈がなかった‥

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