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1章 きっかけ
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苗は食材の入った丸に一の文字のマークが印されたビニール袋をガサガサと揺らしながら、ボーイに促されるまま席に着いた。
スーパーでおばちゃん達と死闘を繰り広げ、そしてこの合コン場所まで休むことなく突っ走ってきた苗は額に大粒の汗を吹き出していたせいか、サイドからなびいた乱れ髪が一房‥おでこに横一直線で張り付いている…
・・・──っ
晴樹はゴクリと唾を飲む──
…強烈なインパクトの持ち主だな‥
晴樹は苗の行動に目を奪われていた。
ふぅ、と一息つきながら中島の隣に腰掛けた苗は額の髪には気づきもせずに満足そうに語りかける。
「よかった、中ちゃん!まだ、いっぱい料理ある!どれ食べた?どれがお勧め?」
「苗‥」
恥ずかしそうに下を向く中島に気づかず苗はキラキラとした目でソワソワしていた。
「お勧めなら俺がとってあげるからおいで…」
晴樹は斜め向かいに座った苗の額に張り付いた髪に目を奪われながら言った。
… えぇ!晴樹さん苗にばっかり‥ずるいよっ
そんな、中島の心中も知らず苗は晴樹の後を喜んでついて行く
料理の前までくると晴樹はウェイターにお勧め料理を盛り付けてもらっていた。
・
「これ、うまいよ!俺のお勧め!」
晴樹はそう言うとウェイターから受け取った皿を苗に手渡す…
「これはなに?何味のパスタ?」
苗は皿に盛り付けられたパスタを食いいるように見つめた…
黄色いクリームのようなもので和えてある‥
‥なんだろう‥
苗は匂いを嗅いでいる
「毛ガニの蟹ミソ和えクリームパスタだよ…」
警戒するようにパスタの匂いを嗅ぐ苗に晴樹は説明した
「毛ガニの蟹ミソ和えクリームパスタ…
名前が‥ながい………」
苗のクリクリおめめがキラキラと輝く。
「‥‥な、長いな…っ」
どこかしら興奮気味の苗に晴樹は戸惑っていた
名前が長いとイタリアンチックで上品な響きっ‥‥
苗は食せずともこのパスタがお気に入りになってしまった
そして、パスタを眺め立ちすくむ苗の額に晴樹は手を伸ばす
「──!っ…」
「…髪の毛がさっきからずっと張り付いたままだ…どうしても、気になるからとらせてくれ‥」
「あぁ、これは何から何まで‥‥‥ありがとございます」
…いやっなに苗ったら!後からきて美味しいとこ取りだらけじゃんっ‥‥‥よしっあたしも!
二人の姿を目で追っていた中島は思い切って行動を起こした!
・
目の前にある自分の飲み物の入ったグラスに手をかけると、回りについた水滴で額を濡らしサイドの髪を横になびかせ張り付けた!
― カタン!
「はっ──!
どうしたの中ちゃんっ?」
席に戻ってきた苗は驚く
「貞子みたいだよ!?
恐いょっ!!」
苗に指摘され中島は静かに髪をとかした‥
そして、隣の友達は肘で小突く…
「苗はあのキャラだから
なり振りおかしくても馴染んじゃうけど、あんたは綺麗系なんだから馬鹿なことはやめてよ──///」
そう、中島はとりあえずクール・ビューティー系の部類に入る顔立ちだったのだ。
目の前では晴樹がビビりながらこちらを見ている
「だって‥あたしも晴樹さんに髪を……」
ボソッと呟く中島に苗はお構いなしに語りかける
「ねぇ、中ちゃん!
もぅ、自己紹介した?
あたし由美に頼まれてんだよね~
いい男いたら紹介してってさ…
…な~んかこう‥見てもみんな似たり寄ったりだね~」
苗はキョロキョロと周りを物色してからパスタを一口食べて騒いだ
「ぬぉっ…
なにコレっ!?マジ旨っヒットだょ!
兄さん、最高っす!」
・
苗は晴樹に向かってグッ!と親指を立て合図を送った
「あ、ああ…ありがとう‥
そんなに喜んでもらえると勧めたかいがあるよ」
美味しそうにパスタを頬張る苗を見て食事に全然、手をつけていなかった晴樹もとりあえず自分のパスタに手をつけた…
「中ちゃんも食べた?コレ?」
「いゃ、あたしはまだ…」
「中ちゃん?‥だっけ?君もパスタ食べる?…
ちょっと待ってな!取ってきてあげるから」
「えっ、そんな悪いです!自分で取りに行きますからっ」
「遠慮することないよ。
今日は君らはゲストで俺達はホストなんだから…」
晴樹はそれだけいうと中島のパスタも取りに行ってくれた。
「ちょっと‥苗っ…
なに晴樹さんコキ使ってんのよっ」
中島は小さな声で苗を責める…だが、苗は一向に気にしちゃいない…
「え、だってこっちから頼んだ訳じゃないしぃ
今ゆったじゃん
“君らはゲストで俺達はホストだ”って
…こんな時は甘えた方がいいんだって!」
苗はそう いいながら、あいかわらずパスタを食しつつ周りを物色している
「苗…あんたってホント、妙なとこで肝座ってるよね…感心するよ」
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