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18章 大切なひと(前編)

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切るにも切れず晴樹は呼び出し音の鳴る電話を耳にあてた‥



「モスモス? 兄さん?」


『──…』


「はれ、兄さん?

モスモス!!?」


『──…なえ…』

「…うん、どったの?」


『今、一人?



‥‥‥彼氏は?』


「今、家だょ?

大ちゃんは帰ったけど‥」


『フッ‥‥』


思わず笑いが漏れた…


『…へぇ……彼氏って聞いたら夏目の名前が出てくるんだ?…』


「‥う‥//‥」




‥だから言わんこっちゃねぇ‥


聞かなきゃよかった──!


『いつの間に付き合ったんだ‥‥‥

“兄さん”には報告もなしか?』



自分で言いながら胸が痛む‥‥


「‥ごみん

今日からです‥‥‥」


『今日?

‥‥‥‥


そか‥よかったな』


「……」


『じゃあもう、俺はお払い箱だ?』


「え!?」


『これからのことは彼氏にしてもらえよ‥じゃな。』
―プツ―ツ―

‥兄さんっ?


──えぇ!?‥そんなっ…


苗は突然の縁切り宣告に呆然としていた‥





‥なんで急に!??



はっ!!まさかっ‥


兄さんの萌え画像が流出してしまったとか!?


どうしよぅ‥‥

‥謝らねばっ──




苗は大慌てで晴樹の携帯にかけ直した

─着信─
[苗]


「……っ…」


晴樹は鳴り出した携帯を確認するとマナーモードに切り替えポケットにしまった──



「チーフ、テキーラ入れて‥‥」


晴樹はそう言うと立て続けに三杯飲み干しテーブルに突っ伏した‥



‥もぅいい‥‥‥





苗じゃなくても‥‥‥









───!!ッ‥‥




俺じゃなくてもいいアイツなんか要らねぇ!!!





「それだけ飲んで酔えないならこれ以上何飲んでも無理だぞ‥‥‥」


チーフはそう言ってテーブルに伏せる晴樹に水を差し出す



そして、顔を上げた晴樹の表情に驚いていた。


「どうした?そんな情けない顔して‥‥
お前らしくないな、いつもの余裕はどうした?」


悲痛な表情のまま歯を食いしばる晴樹にチーフは発破をかけるように語りかけた。



「余裕!?


そんなもん、とっくの昔にない!!!」


晴樹はチーフの出した水を押し退け訴えるように叫んだ




初めて本気で欲しいと思った人を‥

意図も簡単に捕られてしまった‥‥‥




自分でどうしていいかわからない──




アイツは──

夏目は苗に自分の気持ちをはっきり伝えてる‥



そして俺は……


受け入れて貰えないことだけを考え、それに怯えて気持ちを伝えることができなかっただけ‥



受け入れて貰えないなら
“兄さん”としての立場で傍に居れればいい‥‥


そう思った結果がこれだ‥



実際、苗が他の男と居ることが耐えられない!!


今日初めてそれを目の当たりにしてわかった感情──


夏目はもう、ただの男友達じゃないっ…

苗にとってアイツは特別になった‥‥‥


恋人という特別な存在に‥












もう、ほんとに傍には居られない‥‥‥




‥苗‥‥‥ごめんな…



なんでも頼れっつったけど‥‥‥



たぶん俺は見返りを期待する‥‥‥



無条件でなんて何もしてやれねぇから…


だから、‥‥‥


お前ももう俺に頼るなよ‥





テーブルに片肘をつき、伏し目がちに遠くを見つめる晴樹にチーフは再度水を差し出す


そして、ため息をつきながら晴樹はそれをグイッと飲み干した──


「お前はイイよ

どんな状態でも女がほっとかねぇんだから‥‥」




チーフがそう言った途端、晴樹の肩に小麦色に焼かれた女の細い腕が置かれた


「晴樹一人で飲んでるの?よかったらボックス行かない?」


色目を使ってくる女に晴樹も不敵な笑みを返す


「ボックスだったら行かない──」

氷りの入った空のグラスをカランと回しながら、同じように色目を投げ掛け口端でニヤリとほくそ笑む


その表情を読んで女は嬉しそうに晴樹に耳打ちした‥


「じゃあ、

ウチで飲み直す?…//」 


晴樹は目だけで合図を返すと席を立ち、女は浮かれながら晴樹の腕に絡んでいた‥



「行ってらっしゃい‥」

チーフはそんな二人にため息交じりに声をかける


‥ほんと、引く手数多(アマタ)で羨ましいよお前は──


ただ、色目を使う表情も笑顔も感情の込もっていないことはチーフにも丸わかりではあった‥‥‥



‥まぁ一人でいるよりは気も紛れるだろ?



チーフはそんなことを思いながら、晴樹の飲み干したボトルを下げた──。












―シュボッ!


ベッドに横になってる隣で女がタバコに火をつけていた‥


「俺にも‥」


「‥やめたんじゃなかったっけ?」


手を差し出す晴樹に女は言う



女はそういいながらもう、一本のタバコに火をつけ晴樹に渡した


暗い部屋で二本タバコの火と晴樹のジーンズのポケットに入れた携帯がチカチカ光る‥


「ねぇ晴樹?さっきから携帯光ってるけど、出なくていいの?」


女の言葉に仕方なしに晴樹は携帯を手にとった──


着信──17件


「‥‥‥」


その内の12件が苗からだった。しかも、一分間隔で着歴に残っている‥‥‥


‥嫌がらせか!?



晴樹は思った。



あとは、ラブホに置き去りにしたお嬢とその他の毎回、意味もなく電話をよこす女達‥



そして、留守電には2件の文字が‥


[留守番センターに接続します──]

晴樹は携帯を耳に当てた。

ピ〰〔ちょっと晴樹ぃ!どこ行ったのよ!!これでデートの約束済んだなんて思ってないでしょうね!?ほんとっ勝手な‥〕ピ〰



「‥‥‥」


留守録の時間が足りなかったらしい──



[もう一件──‥]


ピ〰〔兄さん‥‥〕


「……っ…」

留守録からは今にも泣き出しそうな苗の声が聞こえてきた‥‥



〔兄さん‥ごみんね。〕




[留守電の再生を。消去する場合は‥]



晴樹はため息をつきながら消去ボタンを押した──

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