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しおりを挟む鼓動の激しさが電話の向こうの英二に聞こえてしまいそうだ。
それくらいに胸が高鳴っているのがわかる。
理央は白い喉をごくりと鳴らし熱い吐息を英二にバレないように静かに吐き出した。
「理央…どうした…」
「………」
「嫌なら別に構わない」
――!
「……あっ…待って!」
あっさりと電話を切り掛けた英二に理央は戸惑いを払い、とっさに叫んでいた。
英二は電話を耳に充てたまま、ニヤリと微笑する。
「なんだ…ヤリたいのか?」
「……っ…」
「どうした? ん?…」
含み笑う低い声。
また…バカにしてるっ
理央はそう思いながら顔を真っ赤にして悔しそうに唇を噛んだ。
「ヤ、ヤリたい…なら…っ」
「あ? よく聞こえないが?」
「英二がヤリたいならやって“あげてもっ”いいよっ!」
ふんっ…これならどうだっ
「………」
挑戦的な理央の口振りに一瞬閉口した英二だったが途端に電話を顔から離し、腹を抱え込んだ。
プッ…溜らん!
意地っ張りな理央が可愛くてしょうがない。
ベッドの上で裸のままムキになってる理央が英二からは丸見えだ。
・
「ああ……そうか…プッ…」
「……!?」
目尻に滲む涙を手の平で押さえながら笑いを堪えた英二の声が震えている。
理央は電話の向こうの英二の様子に耳を傾けながら目を丸くしていた。
英二は緩む頬を操り必死に口を開く。
「じゃあ…今回はやめておこうか。理央も遊びでそっちに居る訳じゃないしな…クッ」
え…
「じゃあな…“俺は理央と”ヤリたかったが、…今回は帰って来るまでお預けだ」
……え!?
「仕事頑張れよ…」
――!
待っ…
英二の声が遠くなりかける。
珍しく優しい英二の言葉。
滅多に聞けない柔らかな声…
携帯を充てていた耳が熱くなる。
理央は遠ざかっていく英二に泣きそうな声で呼びかけた。
「待って英二!…待っ…て」
英二は震える理央の声に電話口で黙ったまま笑みを浮かべる。
理央は無言の英二に弱々しく言葉を掛けた。
「英、二…」
「ああ…」
「僕も……」
「………」
「僕も英二とっ…ヤリた、い…」
「………」
「英二とっ…ヤリたいっ!!………我慢なんかできないよっ!」
大好きな英二へ吐き出した理央の想い。
悔しさと切なさが同時に理央を襲ってくる。
・
そんな理央の素直な言葉に英二は微かに笑みを浮かべた。
「そうか……でもお前の言葉は何故か信用できないな」
「っ?…なんでさ!?」
「なんで…って言われてもな・・・」
英二はジラしながらクスクスと笑う。
「理央…お前は浮気性だからな」
「な!?…」
「浮気性で…オマケに淫乱ときたもんだ……」
「―――!」
「そっちではもうとっくに若社長の誰かさんに可愛いがって貰ったんじゃないかって…」
「――なっ、に…言って」
言葉が詰る。
「あー…何って? 別に何もないならいいが…」
「――…っ…」
「ないんだろ? 何も…」
「ないよ…」
危ない目には会ったけど、今回は寸前で助かった…
偶然の事故か何かは分からない。でもあの時銃弾が撃ち込まれなければ確実にまたヤラレてたはず…
理央は英二にうしろめたさを感じながら小さく呟いていた。
「そうか……だったら、淫乱なお前も我慢しっぱなしって訳だ…」
「っ…い、淫乱淫乱って何度も言うなっ…」
英二のバカ!!
「ククッ…そうか…でも当たってるだろ?」
「そんなことないっ…」
「いいや…お前は淫乱の塊だ…言葉だけで直ぐに濡らす」
・
「いつも触れる前から濡らしてるだろ? 下着を剥いだら糸を引くのは誰だ? あ?」
……っ!
「…い、と…なんか引いてな…っ…」
普段は引き締まっている口角をニヤリと緩ませる英二を理央は想い浮かべた。
意地悪な言葉責めに煽られながら理央は自身を包み込む手の動きを早めていく。その先端からは透明な液体の雫が糸を引いてシーツの上に次々に落下していた…
「今、濡らしまくってんだろ…理央」
「違っ……っ…」
はぁ…ゾクゾクする…
理央は英二の低い囁きに白い肌を痺れさせる。
鼻でふっと笑う英二の呼吸が携帯を通して理央の耳郭を震わすと英二は試すように言った。
「………じゃあ、触って確かめてみろ…」
「…っ……」
「服の中に手を突っ込んでみろよ…あ?」
焚きつけるような口調の後にキン! と言う耳障りのいい高級ジッポの響きと着火音が聞こえた。
煙草をふかし、英二が命令してくる…
「下を全部脱いで…どうなってるか確かめてみろ…」
「……わ…かったよ…」
いつの間にか二人のセックスの前戯は始まっていた……
始めから裸の理央にわざと脱衣を促すと、理央は演じながら呼吸を荒くしていく
・
「……脱…いだよ…っ…」
セックスをする時のいつもの声、そして強引な口調。ただそれだけで躰中が敏感に反応を示す。
ビクビクと脈を打ち跳ねる理央の自身…
理央は唾を飲み込むと英二の次の命令を待ち望んだ。
「脱いだか……ならどうなってる」
「…っ……どうって…」
「お前のそこがどうなってるか言ってみろ」
「……っ…」
「詳しく説明してみな…」
「なんでそんな意地悪ばっか…」
「いいから言ってみろ…」
………っ…
「濡れてるだろ……」
「……濡…れて…なんか…っ…まだ濡れてなんかないよ…」
隠し切れない熱い息が理央の唇を震わせる。
欲しいっ早く英二が欲しいっ!
言い掛けた言葉を理央は、下唇を噛んで塞き止めた。
「まだ濡れてない?…はっ、そうか。じゃあじっくり濡らしてやるよ」
――!
え!?
英二の言葉に胸が揺さぶられた。
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