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しおりを挟む「なにがっ…」
「…あ?」
「わかったってなにがっ!?…ヒック…っ」
泣き崩した顔で理央は英二を睨みつける。酔った上でのシャックリなのか、泣いた上でのしゃくり上げなのか…
理央は肩で息をして、アルコールの回った力の入らぬ腕で、英二を何度も叩いていた。
「わかったなんてっ…テキトーこいてっ…っ…英二は全然わかってないじゃんかっ…」
がむしゃらに腕を振り回したせいで息が切れる。止まらなくなった涙を何度も拭う姿がまるで癇癪を起こした子供のようだ。
「あっ!?…」
英二は理央の両腕を掴むと乱暴に引き寄せ、前のめりになった理央に顔を寄せた。
「黙って聞いてりゃ言ってくれるな…あ?」
至近距離で自分を見据える獣。どこかで怒りを押さえたような冷酷な黒い瞳の中に囚われる。
「何もわかってない?…じゃあなんだ? お前は俺のことをわかってるのか?…どうなんだ…」
「―――…っ」
威圧して声を凄ませる。睨み返しながらも微かに怯える理央を英二は静かに見つめていた。
──夕方、食事に出掛ける前に部下から入った情報が蘇る。
「ボス、理央さんの仕事のスポンサーの件ですが…」
・
「ああ、調べがついたか。どうだった?」
着替える理央をダイニングで待ちながら、スポンサーの男の内情が記された紙を部下から受け取り英二は葉巻をくゆらせる。
「あの大手衣料のブランシェって高級ブランド会社を買収して、新規ブランドを立ち上げた化粧品メーカーの社長ですね…」
「…買収、か……」
足を組んで紙面に目を通すボスに部下は情報をかいつまんで伝える。
「売り子から乗し上がった叩き上げのかなりのやり手のようです…会社のデータを取り寄せて社長の写真も一番下の紙にコピーしておきました」
「写真?」
英二は一番下の紙を引き出した。
「いかにも化粧品会社の社長って感じです。どこかでみたことあると思ったら、最近若手実業家とか騒がれて良くテレビで視る顔でした」
…若手………
英二はカラーコピーされた写真に目を向けた。
営業ようの笑みを浮かべ、センスの良さからか紹介された年齢よりもかなり若く見える。
それに元モデルか? とも思えるほどイイ男だった。
…叩き上げ
ふ…一癖も二癖もありそうだな…
ピエール・ジョルダン…ね…
ピエール……名前からして胡散臭い…
・
「やり手か…おおかた、売り子時代にどこぞの御夫人方をコマシて乗し上がったんだろ? いわゆるコイツは違う“ヤリ手”だ。売ったのは化粧品以外だろう…」
英二はふん、とあしらうとくだらん。とでも言いたげに手にした紙をテーブルに放った。
…しかしこんなに若いとは……
英二はテーブルの上に広がった社長の写真を見つめ口元に手を当てた。
“爺いにもそんな顔を見せたのか?”
相手は爺いじゃなかったんだな…
若手実業家。34歳…
自分とそう年も変わらぬ男。
なぜか…
それが気に入らない…
「今回の新規ブランド名で売り出す香水のイメージモデルに理央さん一点絞りで事務所にオファーを出したようです。たぶん専属モデルになるんじゃないでしょうか…」
…専属?…
そう部下から伝えられた言葉が英二の耳の奥にずっと根付いたままだった。
「…専属か……一体なんの専属なんだかっ…」
「っ…あ、痛っ……英っ…んっ!」
低い声で皮肉ると細い理央の腕を捕らえていた英二の手に力が入る。
その痛みに顔をしかめた理央に、英二は荒々しく唇を押し付けていた。
・
「…ふ……っ…ん…やめっ」
無理矢理に重ねた理央の唇に、英二は舌を滑り込ませ理央の自由を奪い去る。
劣情の波。いつにも増して激しい英二の攻めに、理央は泣きながら強引なキスを受けていた。
英二の熱い唇が、濡れた理央のシャツの上を這っていく…襟首から伝い、少しずつ下に降りると英二は微かに尖っている理央の乳首に歯を立てた。
「やっ…あっ…やめっ…」
キリっと小さなシコリを強く噛まれて吸われる。
荒い英二の息遣い。
濡れた生地を隔てた愛撫に理央は強く目を閉じていた。
「いっ…や…っ…」
…やだっ…今日の英二はなんか凄く嫌だっ――
理央は必死にもがく。着衣の上から理央の下半身を大きな手で包み、乱暴に擦り上げる英二の行為に理央は本気で抵抗を繰り返していた。
久し振りにありついた獲物のように理央に食い付く。強引なりにも、いつもの英二らしい冷静さが窺えない。
「やだっ…やめてよ英二っ!…やだっ!!…今日の英二とはヤリたくないっ…」
―――!…
「…………」
「……ヤリたくない…っ…」
一瞬、緩んだ英二の捕縛。
「ひっ…く…ヤリたくな…いっ…よ…っ」
英二は理央の叫び声に躰を放した。
・
涙を溢れさせ、怯えるように身を丸める理央を見つめると英二は強いため息をつき首の後ろを掻いた。
「………泣くな理央…」
理央…そう名前を囁き蹲る理央の頭を撫でる。
いつもの泣き方とちょっと違う理央の様子に英二はしまった、とばかりに顔をしかめていた…
「いやだっ!!…いや…だ…っ…」
触れてくる英二の手を泣きながら夢中で払う。
英二が優しくしていることにも気づかずに理央は肩を震わせていた。
「理央……」
理央の耳元に唇を付けると何度も軽くキスをする。
「やめっ…っ…もうっ…英二とはシタくなっ…っ…ひっく…」
「それはダメだ…」
「―――…っん…」
英二は涙で濡れた理央の顔を自分に向けると今度は優しく唇を塞いだ。ぷはっと息苦しさから逃れるように理央は顔を振り英二を一瞬拒む。
そんな理央の顔を捉えると、英二はまた唇を優しく重ねた。
「ん…――っ…」
「理央……」
「あっ…っ…んっ…」
「どうしたい?…」
英二の低く響く優しい声音。熱い舌が耳郭をなぞり、理央の肌に痺れを送る
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