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第四章 伝説編

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…こっちの二つはただの石ころってことか?…


いぶかし気な表情を浮かべると、レオはきらきらと輝くその石を指先で掻き出すように壁から取り外した。

コロンと簡単にレオの手の平に転がり落ちるその青い石を、レオは目の位置でじっくりと眺め声を洩らす。

「綺麗な石だ…

よし!  これはアルにプレゼントだな!」


アルの喜ぶ顔を思い浮かべているとレオは自分の手の平を、驚いた様に見ていた。大事に手にしていた青い石。その石が青い光りと一緒にレオの手の中に吸い込まれて行く…


「な…………」


予想もしない出来事に、レオは言葉を失っていた…





「おい!!  蓋が開いてるぞっ…やっぱり誰か入り込んだんじゃ!?」

「隊長に知れちゃ大変だ!」


草原で見張りの隊員達が慌てふためき走り回る。
消えた石を追うように手の平を凝視するレオの耳にはそんな外の騒ぎが入らなかった…



…な…なんだ!?
一体どうなって…!?

レオは生まれて初めて戸惑いを覚えていた…



「中にまだ居るかもしれん!…お前ら、見てこいよっ…」

「何で俺達がっ!?」

隊務でありながらも互いに仕事を押し付けあう。



しかし、何らかの不備があったなら早急に対処しなければならない…

問題が起きてからでは隊長にどんな目に遇わされるか……



入り口で、暗い中を覗くと任務を請けた隊員二人は顔を見合わせコクンと頷き合った。


「よ、よし、じゃあ一緒に…」

「ああ…っ」


若い隊員達は覚悟を決めた様に遺跡の底へ繋がる階段に同時に足を踏み込んだ。その途端に中からの風圧で身体が吐き出される──


「こ、れは一体…」


後ろに構えていた隊員が飛ばされた二人と台座を交互に見ながら唖然としていた。


「何をやってる?」


突然掛けられた声に隊員の身体が一瞬で凍りついていた…

「持ち場はどうした?  何かあったのか、そこで?…」

「いや…あのっ…それがっ…」


「どうした?…報告があるなら率直に申せ…時間の無駄は懲罰の対象だぞ」

―――!?…

しどろもどろで口を開いた隊員は我が上司の言葉に眼を見開くと、即座に姿勢を正し、敬礼を向けた。身体の脇で伸ばした指先がつい恐怖で震える!


「しっ…侵入者が居た模様であります!!」


「なにっ!?」
上擦る声を張り上げ鬼隊長に報告すると、一瞬吊り上がったルイスの顔つきに隊員は脅えていた。



「侵入者がまだ中に居るのか!?」

「いや、あの、それを確認しようとしたのですが…
中に入ることができなくて…」


「中に入れない?」


部下の言葉を半信半疑に聞き入れるとルイスは退けとばかりに部下を押しやり台座の中を覗く。そして足を踏み入れた…

その瞬間に隊員達は青ざめる!

ルイスは振り向き様に

「俺に嘘をつくとは大した根性だ…」

そう言うとふっと不敵に笑い背中を向けて

「懲罰房行きだな…」と小さく呟いた。







…一体どうなっちまってんだ?―――

青い石の吸い込まれていった手の平をジッと見つめる。手の平を返してみたとて、裏から出てくる様子はない…

遠くに放してみたり、鼻の先につく程近づけてみても、普段の自分の手の平で、痛くも痒くもなかった。

そんなレオの目に、ぼんやりと緑色の光線が映り込む。


レオは目の前にかざした手をとっさに退かした。


「今度は緑かよ…」


壁を見て呟く。

青い石と同じように、壁に埋まっていた石が一つだけ、緑色に輝いていた──


…取れねえな……


カリカリと指先でひっ掻いてもさっきの青い石のように簡単に手にすることが出来ない。




取ることの出来ない石を間近で見つめる──

そんなレオの耳に階段を降りる人の足音が聞こえてきた。
暗がりの壁際に身を寄せるとレオはとっさに影を潜める…

「誰か居るなら姿を見せろ」

カツンとブーツの踵を響かせながらランプで照らすと静かな声で呼び掛ける。

ルイスは隅々に目を凝らしながら腰の長剣に手を伸ばした。

身構えながら、辺りに気を配る…

近付いてくるルイスの足音とランプの光り。

レオは大きな背を、壁に更に擦り付ける。

これ以上は無理だな…

そう思うと同時にルイスの足音がふと、遠のいて行った…



「なんだこれは…」

壁に食い入るように魅入る…


こんな石…前にはなかったはずだが……



そっと緑に光る石の表面を指先で撫でるルイスを片隅から覗くとレオはおお!と驚きの声を上げた。

「取れやがったのか!?」

表面を撫でた途端、コロンとルイスの手に勝手に転がり落ちた石。声を張り上げて堂々と姿を現したレオを認識すると、構えた剣をルイスは鞘にしまい直した。


「侵入者とはお前か?  何時から盗賊まがいのような真似を始めたんだ?」



厭味を言うルイスにレオはうるせえ!!そう吠えた。


「それよりもその光る石を見せてみろっ」


レオはルイスの手を鷲掴むと強引に引き寄せ開かせた。

その瞬間二人は息を止める。

「…っ…ない──?!」

「なんだ…一体何処にいきやがった?」

ルイスは手をひらひらと振って見せる。

落としてしまったのかと足元をランプで照らすルイスの肩をレオは掴んだ…


「下には落ちてねえぜ…紛れもなくお前が手にしたのを俺様は見たからな」


「じゃあ…お前がスッたのか」

「──…っ…何がなんでも俺様を盗賊扱いしたいらしいな?  あん!?」


レオはルイスの肩に手を回し、顔を近付けた。そして自分の手の平を突き出す。

「俺様もついさっき、同じことを目の辺りにしたばっかりよ! 石は落ちちゃいねえ…… この手の中に吸い込まれるようにして消えていきやがった…」

「消えた?」

「ああ…まあ、そんなことを信じるかどうかはお前の勝手だがよ……」


ルイスはそう言って急に表情を変えたレオに目を向けた。

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