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第四章 伝説編

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「兄じゃが俺に頼み?」

またも驚いた顔を見せるカインにレオは滅多に見せない真剣な目を向けた。


一番の気掛かりがある…


俺様がこの問題に掛りっきりになっちまったら守ることはどうしても難しくなる――


最近やけに綺麗になっちまったし…

めちゃくちゃいい匂いもしやがる!!―――


「カインっ!」


レオは名前を叫ぶと険しい表情でカインを見据えた。

「アルに……害虫が寄らないよう見張っててくれ!!」


「………」



どんな頼み事かと思いきや……。
力むレオの言葉にカインは呆気に取られながらただ頷いていた……。













「ほほう…もう、着きおったか…さすがじゃの。フエっフェっ…」


“しとしと”と降り止まぬ雨の音の中、山頂に戻った師匠は笑いを溢していた。二等身の身体では座っているのか立っているのかが分かりずらい…

座布団の上に居る様子からしてたぶんに正座をして居るのであろう。そんな師匠の背後にはほっそりとした身体に上下、真っ白の袴を纏った黒髪の女が立っていた…

「当たり前じゃぞえ。

わらわを誰じゃと思うとる?」

高めの声で女は師匠の背中を見下ろした。


「まあ、そう意気がると無理が祟るぞ…
何気に息が上がっておるようじゃし…」


「ふんっ…今回はちと距離が在りすぎたのじゃ…
未夢のお陰で事なきを得たが…

お主も相変わらずの様じゃのう……」

山の頂にポツンと建てられた小さな一軒家。

肩に掛かる漆の艶を帯た長い髪をサラリと振り払うと、女は師匠の茶室を眺め苦笑う。

壁の至るところには若い女の淫らな肖像画が貼りまくられている…


「こりゃっ妃奈乃!!  何をしておる!?  ワシの活力の源じゃぞっ」

ぺりっと一枚肖像画を剥がし掛けた女の行動を慌てて師匠は止めていた。

谷を越え山を越え…
北の地からこの地へ辿り着くにはまだ日が掛る…

凡人の歩みならそうだろう…
だが、女には其れを物ともしない力があった………


生きる化石となりつつある師匠と親しげな物言いをする…。この女もまた、謎多き存在なのかも知れぬ。


「それはさておき、とりあえず茶でも飲め」


師匠はそう言って座布団を勧め、妃奈乃の為に茶をたてた…

「わらわの弟子は未夢と共に山神の元へ真っ直ぐ向かわせておる。もうそろそろ着くであろう…」



妃奈乃は手前にコトンと置かれた湯飲みを手にしてそれをゆっくりと口に含んだ。

「フエ…山神とな……

我ら一族を未だ山神と呼ぶのはお主らだけじゃ…」


「山神は山神…うぬらが山神の名に恥じるような行いを何一つ為ておらぬことは篤と承知…

目先の事ばかりに気を取られ何が正義かも理解ができぬ…

人は都合の良いように騒ぎ立てるのが好きな生き物ぞえ…低俗な輩こそ“賊”と呼ぶにふさわしい」

美しい女の毒舌に師匠はさもおかしそうな笑みを浮かべ茶をすすった。

「西の地の者は先、辿り着いた様じゃ…なら、後は南の地の者のみじゃな…」


「…それがちと心配ぞえ…他の地の皆(みな)が早々と無事に着けるよう祈りを捧げておったのじゃが…

南の地への祈祷がちと届き難かった…」

少し難しい表情を浮かべ、静かに語ると妃奈乃は熱い茶で喉の渇きを潤した。


「………西は一瞬の災難であったが、南は被害が今も続いてる様じゃ…なんら、強い妨害の壁があるやもしれんのう……」




「ならば、弟子達が辿り着いたら わらわも合流して未夢と二人でもう一度祈りを捧げてみようぞ…」


「うむ…娘の力を借りた方が確かじゃろう…」

師匠は毛に埋もれた目を伏せて深く頷いていた…。











「おう、こっちだ急げ」

静けさに包まれた草原の闇をガサガサと這い回る影が三体…

「うへっ冷てぇ!」

「ばかやろう!  静かにしろやい!!」

草の茂みに紛れ、木から滴る雨露で濡れた首を拭う男に罵声が飛ぶ。

「てめぇこそ声がデカイってんだ」

コソッと叱りつけた男は湖の向こうに佇む遺跡に視線を向けた。

精鋭隊の警備の縄をくぐり抜け、三人のゴロツキは辺りを警戒するランプの灯かりから身を庇う。

「アニキ…

あそこにお宝があるって噂…ほんとだと思いますかい?」

「まあ、全くのでたらめって訳じゃねえだろう…
じゃなきゃ、精鋭が見張ってるもんか…」

「もし宝が見つかりゃ頭領に直ぐ報告だ!
そしたら毎日の仕置きから解放してくれるに違いねぇ!!」

三人はぼそぼそと話すと痛む股間を庇う様に手で抑えた。




見張りの包囲網の脇をくぐり湖に身を沈める…

「しかし、お前いい方法知ってたな!」

「いや~へへっ…前に読んだ、ジャポン見聞録とかいう本に載ってたんでい。
なんかニンジンとか言う奴らの技らしいけど何かに使えるかもってメモっといたんだよ」


得意気に語ると木の包を口にくわえ、プクプクと顔を水中に潜らせた…
暗い湖を泳ぐと水面を微かに波立たせ、三人はのそりと遺跡の沖に這上がる。


「これか…」


服の水気を搾りながら半端に開かれたままの古い石の台座を見つけると、三人は辺りを見回し同時に中を覗き込んだ。

「真っ暗だな…」

「ああ、真っ暗だ…」

「夜だからな…」


誰も灯かりを用意していないことに今、気づいたようだった。


「とりあえず、入るだけ入ってみるか?」


三人で顔を見合わせ頷く。よしっと覚悟を決めて、一人が足を踏み入れようと勇んだ瞬間、その身体は何かに勢い良く弾き返されていた。

「おいっ大丈夫か!?」

「イテテっ…なんだこりゃ!? 一体どうなってやがる!?」

転がった仲間に駆け寄り台座の周りを警戒するように眺めると

「よし…じゃあ次は俺がっ」

次の男は生唾を飲み身を構えた。

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