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第四章 伝説編
16話 守護神の書・後編
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・
土の湿った香りが漂ってくる。洞窟のような地下道をくぐり抜け、細長い通路を少し歩くとアルとルイスは広い場所に辿り着いた。
光りゴケで眩しいくらいに照らされたその空間を見渡し、アルは声をあげた。
「これって…」
広く仕切られた空間。中央には、何かが描かれた直径五メートル幅の円形の石床があった。
そして真ん中には石柱のテーブルがポツンと立っている…
二人はその中央に走り寄った。
「ねえ、これ…」
アルはテーブルの上にあった物を発見してルイスと顔を見合わせた…
茶色い革の表紙には、あの神の湖の遺跡で見た三体の獣の絵が描かれている。
そして、足元にはアル達の村の紋章が彫られていたのだ。
「これがあるってことは…
間違いなくコヨーテの謎は説かれたって訳だ」
「そうだね…
名も無き村に関係しているのは確かだと思う…んだけど……」
…あれ?
何かにふと気づき、しゃがみ込むルイスに答えながら、アルは古びた書物に伸ばした手を不思議そうに眺めていた。
・
「どうした?」
足元の紋章を調べていたルイスが、自分の指先を庇うように見つめているアルの異変に気付き覗き込むと
「本に触れないの…ほら…」
「―――!?」
アルは答えながら再び書物に手を伸ばした。
その手が空中でぴたりと止まる。
確かに見えない何かで遮られているようだ。書物は触れる事を拒むようにアルの手を何かで隔てていた…
ルイスはその様子を眺め、腕を組み眉間に皺を寄せる。
「やっぱり鍵か…」
「鍵?…」
「ああ…紋章の真ん中に鍵穴“らしい”ものがある。
ただのひび割れかと思ったが…物は試しだ」
ルイスはアルにそう促した。口を結び緊張気味に頷くとアルは再び剣を構える。
また何が起るとも知れない。ルイスは辺りを警戒しながらアルの背後にピタリと寄り添った。
床に向けて真下に剣先を構える。アルはゴクリと喉を鳴らすと鍵穴らしき裂目にゆっくりと剣を突き刺した。
滑るように飲み込まれていく刃をルイスはしっかりと見届け耳を澄ませた。だが、鍵の外れた音は何もしない…
・
失敗か?…
静かな周りを確認し、何も起らぬ事を見定めるとルイスはアルから放れ、書物に手を伸ばす。
アルはルイスのその行動を黙って見守っていた。
長い指先が革の表紙に触れる―――
「やった!!―――」
何の障害もなく書物を手にしたルイスを見てアルは手放しではしゃいだ。
「マーク博士の出番だな」
本をパラパラと捲るとルイスは呟いた。
通路はこの場で行き止まり。これ以上進める道は何処にもない―――
今、手にしている本をマークに解読してもらい、新たな道を捜し出すより他ならない。
二人は書物を手に入れると勇み足で地下道を後にした。
「まだ、少し降ってるみたい…」
ぬかるんだ地上に出て雨空を見上げる。小降りになった雨を手の平で確認しながらアルは雨避けのフードを被り直した。
水浸しの足元がちょっと冷たい。冷えた足元に体温を奪われアルは急に襲ってくる寒気から体を庇った。
「──!?」
「寒いか?
エバにあったかい飲み物でも煎れてもらおう…」
肩を擦る手に温かみが伝わる…
アルの手の上にルイスは自分の手を重ね、そっと肩を抱き寄せた。
・
自然に抱かれた肩に大人の男の余裕を感じる。
滲み出す優しさに先程の警戒心もなく、アルは素直にルイスに笑顔を向けていた…
何気なく見つめ合い微笑みを交わす二人。
…?!
アル?――――
雨避けのコートで良く見えない。なにやら急ぎ足で食堂へと向かう二人組の姿を見つけてロイドは立ち止まった。
一緒に居たのは間違いなくルイスだ―――
連れの顔は確認できなかったが背格好はたぶん、アルに違いない…
ロイドは二人が消えた方向を見つめると馬小屋に踵を返した。
初めてだ…
ルイスのあんな顔はっ…
小雨の中、泥を跳ねるブーツを気にも止めずロイドはルイスの表情を思い浮かべていた。
見守るように優しい眼差しを注ぐ…
あの表情(かお)はどう見てもアルのことをっ―――
噛み締めた奥歯がギリっと軋んだ。
二人きりで何をしてたのかが無性に気になるッ
アルに気があることを知ってしまった以上は、ルイスがどんな誤魔化しを言っても気は置けない。なんとなくそんな予感はしていた…
だがあの表情は…
本気だ──
ロイドは濡れた前髪を掻き上げると瞳に困惑の色を宿していた。
・
まだ、昼を過ぎたばかりだというのに館内の通路にはランプがともされていた。遠い空の向こうでは、時折走る稲光が暗い雨空を不気味に照らしている。
ルイスとアルは食堂の椅子に隣り合わせで腰掛けると古びた分厚い本を開いた。
「この挿絵からして、恐らくは神獣について記されているんだろうな」
ルイスの呟きにアルも無言で頷いていた。
ページを捲っていると、今までの伝承の書物よりも図解付きの箇所が多く見受けられる。読めない文字の部分は勢い良く飛ばし、挿絵を見つける度に二人は顔を乗り出して覗き込んだ。
その度に二人の髪が触れ合う…
ルイスの柔らかな金糸の感触がこそばゆい。
アルはルイスの髪が触れた自分の毛先を指先でそっと流した。
ふわりとした余韻が地肌に残ったままだ。ふと、真剣な表情で本を見つめるルイスに視線がいった…
柔らかそう…
綺麗なプラチナブロンドの前髪がルイスの整った鼻筋に微かに掛かる…
アルは流した自分の髪の感触を確かめるようにくしゃりと揉んだ。
しっかりめの質感に、アルの唇からため息漏れる。
「なんのため息だ?」
「え?…あ、いや、別に…」
土の湿った香りが漂ってくる。洞窟のような地下道をくぐり抜け、細長い通路を少し歩くとアルとルイスは広い場所に辿り着いた。
光りゴケで眩しいくらいに照らされたその空間を見渡し、アルは声をあげた。
「これって…」
広く仕切られた空間。中央には、何かが描かれた直径五メートル幅の円形の石床があった。
そして真ん中には石柱のテーブルがポツンと立っている…
二人はその中央に走り寄った。
「ねえ、これ…」
アルはテーブルの上にあった物を発見してルイスと顔を見合わせた…
茶色い革の表紙には、あの神の湖の遺跡で見た三体の獣の絵が描かれている。
そして、足元にはアル達の村の紋章が彫られていたのだ。
「これがあるってことは…
間違いなくコヨーテの謎は説かれたって訳だ」
「そうだね…
名も無き村に関係しているのは確かだと思う…んだけど……」
…あれ?
何かにふと気づき、しゃがみ込むルイスに答えながら、アルは古びた書物に伸ばした手を不思議そうに眺めていた。
・
「どうした?」
足元の紋章を調べていたルイスが、自分の指先を庇うように見つめているアルの異変に気付き覗き込むと
「本に触れないの…ほら…」
「―――!?」
アルは答えながら再び書物に手を伸ばした。
その手が空中でぴたりと止まる。
確かに見えない何かで遮られているようだ。書物は触れる事を拒むようにアルの手を何かで隔てていた…
ルイスはその様子を眺め、腕を組み眉間に皺を寄せる。
「やっぱり鍵か…」
「鍵?…」
「ああ…紋章の真ん中に鍵穴“らしい”ものがある。
ただのひび割れかと思ったが…物は試しだ」
ルイスはアルにそう促した。口を結び緊張気味に頷くとアルは再び剣を構える。
また何が起るとも知れない。ルイスは辺りを警戒しながらアルの背後にピタリと寄り添った。
床に向けて真下に剣先を構える。アルはゴクリと喉を鳴らすと鍵穴らしき裂目にゆっくりと剣を突き刺した。
滑るように飲み込まれていく刃をルイスはしっかりと見届け耳を澄ませた。だが、鍵の外れた音は何もしない…
・
失敗か?…
静かな周りを確認し、何も起らぬ事を見定めるとルイスはアルから放れ、書物に手を伸ばす。
アルはルイスのその行動を黙って見守っていた。
長い指先が革の表紙に触れる―――
「やった!!―――」
何の障害もなく書物を手にしたルイスを見てアルは手放しではしゃいだ。
「マーク博士の出番だな」
本をパラパラと捲るとルイスは呟いた。
通路はこの場で行き止まり。これ以上進める道は何処にもない―――
今、手にしている本をマークに解読してもらい、新たな道を捜し出すより他ならない。
二人は書物を手に入れると勇み足で地下道を後にした。
「まだ、少し降ってるみたい…」
ぬかるんだ地上に出て雨空を見上げる。小降りになった雨を手の平で確認しながらアルは雨避けのフードを被り直した。
水浸しの足元がちょっと冷たい。冷えた足元に体温を奪われアルは急に襲ってくる寒気から体を庇った。
「──!?」
「寒いか?
エバにあったかい飲み物でも煎れてもらおう…」
肩を擦る手に温かみが伝わる…
アルの手の上にルイスは自分の手を重ね、そっと肩を抱き寄せた。
・
自然に抱かれた肩に大人の男の余裕を感じる。
滲み出す優しさに先程の警戒心もなく、アルは素直にルイスに笑顔を向けていた…
何気なく見つめ合い微笑みを交わす二人。
…?!
アル?――――
雨避けのコートで良く見えない。なにやら急ぎ足で食堂へと向かう二人組の姿を見つけてロイドは立ち止まった。
一緒に居たのは間違いなくルイスだ―――
連れの顔は確認できなかったが背格好はたぶん、アルに違いない…
ロイドは二人が消えた方向を見つめると馬小屋に踵を返した。
初めてだ…
ルイスのあんな顔はっ…
小雨の中、泥を跳ねるブーツを気にも止めずロイドはルイスの表情を思い浮かべていた。
見守るように優しい眼差しを注ぐ…
あの表情(かお)はどう見てもアルのことをっ―――
噛み締めた奥歯がギリっと軋んだ。
二人きりで何をしてたのかが無性に気になるッ
アルに気があることを知ってしまった以上は、ルイスがどんな誤魔化しを言っても気は置けない。なんとなくそんな予感はしていた…
だがあの表情は…
本気だ──
ロイドは濡れた前髪を掻き上げると瞳に困惑の色を宿していた。
・
まだ、昼を過ぎたばかりだというのに館内の通路にはランプがともされていた。遠い空の向こうでは、時折走る稲光が暗い雨空を不気味に照らしている。
ルイスとアルは食堂の椅子に隣り合わせで腰掛けると古びた分厚い本を開いた。
「この挿絵からして、恐らくは神獣について記されているんだろうな」
ルイスの呟きにアルも無言で頷いていた。
ページを捲っていると、今までの伝承の書物よりも図解付きの箇所が多く見受けられる。読めない文字の部分は勢い良く飛ばし、挿絵を見つける度に二人は顔を乗り出して覗き込んだ。
その度に二人の髪が触れ合う…
ルイスの柔らかな金糸の感触がこそばゆい。
アルはルイスの髪が触れた自分の毛先を指先でそっと流した。
ふわりとした余韻が地肌に残ったままだ。ふと、真剣な表情で本を見つめるルイスに視線がいった…
柔らかそう…
綺麗なプラチナブロンドの前髪がルイスの整った鼻筋に微かに掛かる…
アルは流した自分の髪の感触を確かめるようにくしゃりと揉んだ。
しっかりめの質感に、アルの唇からため息漏れる。
「なんのため息だ?」
「え?…あ、いや、別に…」
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