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第四章 伝説編

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柔らかな頬に添えた親指の腹でアルの涙をぐっと拭う。

何故だか嬉しそうな笑みを浮かべるルイス。アルはそんなルイスに見つめられ無性に肌が熱を蓄えた。

や、だ…なんかすごく恥ずかしい…っ…

顔を背けたくてもそれが出来ない――


ルイスに頬をしっかりと捕らえられ、美形な顔が目の前になる。


…う……ちょっと…

いい加減に放してくれないかしら……


アルの気持ちをよそに、ルイスはそんなアルの顔を更に覗き込んだ。

「怪我なんかしてないよ…」

ボソッっと柔らかい声で囁く…


「何なら脱いで確かめるか?」


アルは目を見開いて必死に首をふった。

「クス…全然何ともないから気にするな…」


ギョッとするアルに、小さく笑ったルイスの目元が優しく下がる…


「アルはちゃんと守ってくれたよ…」

「…守った?……」



ルイスは頷きニヤリッと笑った。

「ああ…お前のクッションがちゃんと役に立ったしな…」

「―――!?な…
ちょっ…とどこ触って!?」


「ちょっと硬かったが…」
…やだっ信じられないこの人!!


胸元に一瞬触れたルイスの手に驚きアルはとっさに飛び退くと、そんなアルを見てルイスはまた、楽しそうに笑っていた。



胸あてでしっかりとカバーされた胸を、アルは庇いながらも腹を抱えるルイスを恨めし気に睨んだ。

「はあ…悪かったって!…

そんなに怒るなよ…な?」


笑い過ぎて疲れた顔でため息をつくと、ルイスはアルの肩をなだめるように叩いた。警戒して足の止まったアルの肩に手を回すとルイスはアルを誘導しながら足を先へと踏み進めていく。


…ほんっとに油断もスキもないんだから!


アルはルイスに肩を抱かれながら、胸を庇う腕に力を入れていた。

まだ何か言いたげに、頬を膨らませたまま前を向き歩くアルにルイスは視線を落とした。



…綺麗になった………



艶のある白い肌、開いたシャツの襟ぐりからは華奢な鎖骨が覗いている…
初めて出会った時の薄汚れたあのアルの姿は何処にもなかった。


子供達を守る為に必死で生きてきた少女…


自分は頼りにならないと、涙を流してまで自分を責める…


心までもが清らかで純粋で…

そして、美しい…



「ふ………
やっぱりもったいないな………」


「…ん? なに?」


「いや…何でもない……」


見上げるアルにルイスは微笑み返した。




アルに俺は似合わないな…



俺には…

もったいなさ過ぎる…



素直に人のことだけを想うことのできるアル…
その真っ直ぐさがルイスには眩し過ぎた。
ルイスはアルから視線を外すと悲しい笑みを浮かべていた。













「・・・なあ、ティム…」

「んー?  なんだ兄ちゃん?」


馬の飼料を積みながらロイドは度々腕を止めては考え事をしていた。

「さっき…


アルの声がしなかったか?…」


そう問いかけてきたロイドにティムは首を傾げて返した。

「そうか…」


…確かにアルの悲鳴のような声が聞こえた気がしたんだが……



ロイドの飼料を運ぶ手がまた止まる…


悲鳴………


――――!


「ティムっ!! ちょっと頼む!!」


「あっ…兄ちゃん!!」


ロイドは運びかけの飼料をその場に置くと突然、馬小屋を飛び出していった。


「頼むって…

オイラじゃあんな高いとこ積めないぞ!!」


ティムは遠ざかるロイドの後ろ姿に必死で叫んでいた…

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