上 下
228 / 312
第四章 伝説編

5

しおりを挟む

マークの見つめる先には、お人形を大事そうに抱えた小さな女の子が、こちらの様子を伺いながら、マークと同じようにリンゴ色に染まっていた。


モニカの妹のナッツだ。


意識し合う小さな二人を見てモニカもアルもフッと笑みを溢した。

「マーク。説明お願いできる?」

「あ、う、うん!!」

焦りながらマークは薬の飲み方をモニカに教える。トコトコと恥ずかそうに少しずつ近づいてくるナッツにチラチラと目をとられ、マークは声を緊張させていた。

「ねえマーク…」


アルはニヤニヤしながらマークに話掛け、モニカと目配せし合う。

「あの子可愛いよね。ナッツって言うんだよ」

「う…うん…」


マークは耳までぱぁっと赤くなった。


微笑ましい小さな恋の蕾を見つけたような気分で、アルとモニカは照れ合う可愛い二人を見つめ、笑みを浮かべていた。


「じゃあ…ありがとう」

「うん、また薬は持って来るから」


見送るモニカにアルは答える。薬を渡したら直ぐにおいとまするつもりでいたのに、思わぬ小さな恋の発見についつい、長居をしてしまった。

そのせいで、小さな恋の蕾はだいぶ膨らんだようだ。


別れを惜しんで見つめ合うおませな二人にアルも苦笑いが溢れる。そしてモニカはそんなアルを、ものうげな瞳で見ていた…

「じゃあ…これで…」


…って、
その顔はまさか!?




アルはモニカを振り向きハッと目を見開いた。

そう、そのまさかだったのだ…


「ねえディーア…」

きたっ!?…


「お別れのキスは…」


やっぱり………



頬を染めて首を傾げ潤んだ視線を投げ掛ける。そんなモニカにアルは戸惑う。


「は…はは…きょ、今日は子供達が居るし~…」


何かを理由にと頭を掻きながら目を游がすアルの隣で、うぷっと突然、マークの息詰まる声が聞こえた。


…っ!?
マーク!?


その声の漏れた口はナッツの唇によって、強引に塞がれている。

マークまでもがこの、大胆な姉妹の餌食になってしまっていた…


「じゃ、じゃあ…またっ!」

モニカの頬に素早くキスをして、ひきつる愛想笑いを向けるとアルは放心状態のマークを抱え、逃げるように馬車に駆け込んだ。



動き出した馬車にほっと息を整える。見送るモニカ達にもう一度笑みを向け手を振ると、アルはそのまま窓枠にもたれた。



…やっぱり姉妹だわ…
毎度この調子じゃあ、先がおもいやられちゃう・・・


はぁーっとため息が漏れる。

隣に目をやるとアルは思わずプッと吹き出していた。

「大丈夫?マーク?…」


真っ赤な顔で魂の抜けきったマークを眺め、アルは城に着くまでの間ずっとパタパタと茹で騰がったマークを扇いであげた。


夕方迄はまだ、時間がある。アルは城に辿りつくと草刈りに追われているルイス達の元を訪れた。


隊に指示を出しながらも、日頃からの感の良さなのか、背中に近づく気配にルイスは振り返る。

「ああ、アルか」

「――どう?進んでる?」

「まぁ、何とかな。とりあえず邪魔になりそうな草木は払った。予定の時刻までには間に合うだろう…」


ルイスはアルの肩を抱き誘導すると近くのヘリに腰掛けた。
座り込んだルイスの隣にアルも腰を下ろす。

「アル…」

ルイスはアルに呼びかけた。

普段より締まった声音に何となく緊張が走る。
ルイスは口元で手を組むと静かに口を開いた。


「実際に、謎を解明できたとして何が起こるかは予測できない。
この間の湖の遺跡の件もあるしな…
一応、万全の体制で挑むが、お前も気は抜くなよ」



ルイスの真剣な横顔にアルも思わず生唾を飲み込む。

今から起こることが何なのか――


誰しもが知り得ないことだから…


膝に置いた手の平が微かに汗ばむ。


怯えてちゃイケナイっ!!


謎を解き、前に進まなくては!―――


それがあたしにしかできないことならっ…


アルもルイスと同じ方向を真っ直ぐ見据え唇を結んだ。


「隊長さん…」

「…?」

アルの呼びかけにルイスは顔を向けた。


「大丈夫。

…大丈夫だよ。

何が起きても―――」


「――!…」

アルはふふっと笑みを浮かべ目を細めた。


「だって…皆一緒だもん。

皆一緒に頑張るんだもの…」

そうでしょ?…そう言って無邪気に顔をほころばせたアルにルイスもふっと、緊張気味の表情を和らげる。

「あたしは皆が居るから平気!
怖くなんかない!!」


いいんだそれで…

たとえ、強がりでも…

皆が居るから…

守りたいものがそこにあるから―――


怖いなんて言ってられない―――



「だから大丈夫だよ。

ふふっ…精鋭の隊長さんは案外、怖がりだ?…」


「なに!?…」

日頃のお返しなのか、アルはからかいながらルイスの顔を覗き込む。
そんなアルに一瞬、ムキになったルイスだったのだが…



「大丈夫。

…あたしが守ってあげる!!」


「──…っ」


「ちゃんと…あたしが守ってあげるから…」


アルにそう呟かれた瞬間、ルイスは吐く息を飲み込んでいた。



「………アル」


一瞬、胸が詰まった。


まさかそんな言葉を言われるとは思っていなかった…

微笑み掛ける優しい瞳。なのに強さも持ち合わせ、輝きを惜し気もなく放つ。


「……っ…」

喉元がなぜか熱をもつ──


まずった…
…これじゃ…っ…


ルイスは密かに眉根を寄せた



このままじゃ俺は完全に…っ……



思わず唇を噛み、襲ってくる胸の痺れをルイスは耐えた。


気を抜くと顔が歪みそうになる。
アルはふと、覗き込む自分から視線を外したルイスを気に掛けてそっとルイスの手に自分の手を重ねた。

「──……」

「大丈夫…」


優しい囁きと体温がじんわりと伝わる…

ルイスは咄嗟に下を向き、悔し気な表情を浮かべていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...