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第四章 伝説編
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しおりを挟むマークの見つめる先には、お人形を大事そうに抱えた小さな女の子が、こちらの様子を伺いながら、マークと同じようにリンゴ色に染まっていた。
モニカの妹のナッツだ。
意識し合う小さな二人を見てモニカもアルもフッと笑みを溢した。
「マーク。説明お願いできる?」
「あ、う、うん!!」
焦りながらマークは薬の飲み方をモニカに教える。トコトコと恥ずかそうに少しずつ近づいてくるナッツにチラチラと目をとられ、マークは声を緊張させていた。
「ねえマーク…」
アルはニヤニヤしながらマークに話掛け、モニカと目配せし合う。
「あの子可愛いよね。ナッツって言うんだよ」
「う…うん…」
マークは耳までぱぁっと赤くなった。
微笑ましい小さな恋の蕾を見つけたような気分で、アルとモニカは照れ合う可愛い二人を見つめ、笑みを浮かべていた。
「じゃあ…ありがとう」
「うん、また薬は持って来るから」
見送るモニカにアルは答える。薬を渡したら直ぐにおいとまするつもりでいたのに、思わぬ小さな恋の発見についつい、長居をしてしまった。
そのせいで、小さな恋の蕾はだいぶ膨らんだようだ。
・
別れを惜しんで見つめ合うおませな二人にアルも苦笑いが溢れる。そしてモニカはそんなアルを、ものうげな瞳で見ていた…
「じゃあ…これで…」
…って、
その顔はまさか!?
アルはモニカを振り向きハッと目を見開いた。
そう、そのまさかだったのだ…
「ねえディーア…」
きたっ!?…
「お別れのキスは…」
やっぱり………
頬を染めて首を傾げ潤んだ視線を投げ掛ける。そんなモニカにアルは戸惑う。
「は…はは…きょ、今日は子供達が居るし~…」
何かを理由にと頭を掻きながら目を游がすアルの隣で、うぷっと突然、マークの息詰まる声が聞こえた。
…っ!?
マーク!?
その声の漏れた口はナッツの唇によって、強引に塞がれている。
マークまでもがこの、大胆な姉妹の餌食になってしまっていた…
「じゃ、じゃあ…またっ!」
モニカの頬に素早くキスをして、ひきつる愛想笑いを向けるとアルは放心状態のマークを抱え、逃げるように馬車に駆け込んだ。
動き出した馬車にほっと息を整える。見送るモニカ達にもう一度笑みを向け手を振ると、アルはそのまま窓枠にもたれた。
・
…やっぱり姉妹だわ…
毎度この調子じゃあ、先がおもいやられちゃう・・・
はぁーっとため息が漏れる。
隣に目をやるとアルは思わずプッと吹き出していた。
「大丈夫?マーク?…」
真っ赤な顔で魂の抜けきったマークを眺め、アルは城に着くまでの間ずっとパタパタと茹で騰がったマークを扇いであげた。
夕方迄はまだ、時間がある。アルは城に辿りつくと草刈りに追われているルイス達の元を訪れた。
隊に指示を出しながらも、日頃からの感の良さなのか、背中に近づく気配にルイスは振り返る。
「ああ、アルか」
「――どう?進んでる?」
「まぁ、何とかな。とりあえず邪魔になりそうな草木は払った。予定の時刻までには間に合うだろう…」
ルイスはアルの肩を抱き誘導すると近くのヘリに腰掛けた。
座り込んだルイスの隣にアルも腰を下ろす。
「アル…」
ルイスはアルに呼びかけた。
普段より締まった声音に何となく緊張が走る。
ルイスは口元で手を組むと静かに口を開いた。
「実際に、謎を解明できたとして何が起こるかは予測できない。
この間の湖の遺跡の件もあるしな…
一応、万全の体制で挑むが、お前も気は抜くなよ」
・
ルイスの真剣な横顔にアルも思わず生唾を飲み込む。
今から起こることが何なのか――
誰しもが知り得ないことだから…
膝に置いた手の平が微かに汗ばむ。
怯えてちゃイケナイっ!!
謎を解き、前に進まなくては!―――
それがあたしにしかできないことならっ…
アルもルイスと同じ方向を真っ直ぐ見据え唇を結んだ。
「隊長さん…」
「…?」
アルの呼びかけにルイスは顔を向けた。
「大丈夫。
…大丈夫だよ。
何が起きても―――」
「――!…」
アルはふふっと笑みを浮かべ目を細めた。
「だって…皆一緒だもん。
皆一緒に頑張るんだもの…」
そうでしょ?…そう言って無邪気に顔をほころばせたアルにルイスもふっと、緊張気味の表情を和らげる。
「あたしは皆が居るから平気!
怖くなんかない!!」
いいんだそれで…
たとえ、強がりでも…
皆が居るから…
守りたいものがそこにあるから―――
怖いなんて言ってられない―――
・
「だから大丈夫だよ。
ふふっ…精鋭の隊長さんは案外、怖がりだ?…」
「なに!?…」
日頃のお返しなのか、アルはからかいながらルイスの顔を覗き込む。
そんなアルに一瞬、ムキになったルイスだったのだが…
「大丈夫。
…あたしが守ってあげる!!」
「──…っ」
「ちゃんと…あたしが守ってあげるから…」
アルにそう呟かれた瞬間、ルイスは吐く息を飲み込んでいた。
「………アル」
一瞬、胸が詰まった。
まさかそんな言葉を言われるとは思っていなかった…
微笑み掛ける優しい瞳。なのに強さも持ち合わせ、輝きを惜し気もなく放つ。
「……っ…」
喉元がなぜか熱をもつ──
まずった…
…これじゃ…っ…
ルイスは密かに眉根を寄せた
このままじゃ俺は完全に…っ……
思わず唇を噛み、襲ってくる胸の痺れをルイスは耐えた。
気を抜くと顔が歪みそうになる。
アルはふと、覗き込む自分から視線を外したルイスを気に掛けてそっとルイスの手に自分の手を重ねた。
「──……」
「大丈夫…」
優しい囁きと体温がじんわりと伝わる…
ルイスは咄嗟に下を向き、悔し気な表情を浮かべていた。
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