上 下
304 / 312
第五章 冒険編

7

しおりを挟む


「何があった?」

古の地図を指差しながらアルは目だけで訴えてくる。三人は近付くとアルの指先に視線を落とした。

「──!」

ハッとしたルイスにアルはねっ!と顔を向けた。

写した地図に記された古の文字の地名──
そして、その下にある現代語に訳された文字。ロイドはそれをなぞりながら口にした。

「名もなき村に通ずる道──っ…」

まさかと、口を覆ったルイス達にレオは聞き返した。
「地図からみたら城の裏手だな?…これがどうした?」

「大樹の根元だ…アルが謎を解いて見つけ出した入り口が裏庭の大樹の根元にあるっ!」

「根元!?なんだそりゃ?」

「──とにかくいってみるぞ!!」

足りない説明にレオは何も理解できぬまま、皆の後をついて行った。

「たしか、湖の壁画に浮いていた文字には“道が開かれる”って書いてあったな」

ルイスにうん、とアルは答えた。

「おかしいとは思ったんだよ──大樹の地下道の奥は行き止まりにしちゃやけに広々として天井も高かったしな…っ…何か起きてる可能性は多いに有り得る!」

足を早める男達にアルは必死についていく。脚の長さに差がありすぎて歩幅が足りなすぎる。



急ぎ足で向かっていると何処からか声が聞こえてきた。

ルイス達は無意識に耳を澄ませる──

「しっしっ!あっちにいけよ!!なんだこの馬っ!?」

何か一人で競り合っているような声だ。

馬という単語にルイス達は何故か顔を見合わせる。

声のした先はたしか大樹がある辺りだ。
急いで向かうとルイスはその騒ぎの主に声を掛けた。

「待て。その馬に手を出すな──!」

ルイスの声に振り返るとその者はルイスに気付き、直ぐに敬礼する。


「隊長!!──…っとロイドさん…っ」

名前を小さく呟かれ、ロイドの顔がうげっと歪んだ。

「ここの警備担当か?」

「はい!47番 少年新精鋭部隊所属! ニコル・ジョンソンっ…只今、こちらの警備にっ…」

「わかった!御苦労だったな。もうさがっていいぞ」

「え──」


「ここに要る必要はもう無いと言った。二度はない──下がれっ!!」


「──…っ…はいっ」

納得いかないままニコルは回れ右をする。



有無を言わさぬ隊長の命令に逆らえず、ニコルはロイドを名残惜し気に目に止めて走って行った──


静かになると、ルイスは目の前の白馬を見てポツリと呟く。

「……翼がなくなってる」

「翼……って?」

「ああ、ホントだな…まるで普通に戻ってる──ティールだよな?コイツ…」

疑問を浮かべたアルにロイドはそう返していた。レオは腕を組んでティールを見据えるように仁王立ちしている。

アルは近付くとそっとティールの頭を撫でた。

黒い刃を受け、自分が倒れた直後に闇の王に立ち向かい蹴散らしたという神の化身──

自分の代わりに皆を守ってくれた……


「ありがとう」

アルはティールの顔に頬擦りしながら目を閉じると短い額のたてがみを優しく撫でる。

その瞬間ティールはぶるりと大きく身震いをしてみせた。

「危ないアルッ」

ロイドは咄嗟にアルを引寄せて胸に庇う。

その場で大きく前足を上げるとティールは高く嘶き、白銀の翼を皆の前にひけらかした──

ふあさりと伸びた銀糸のたてがみ。長い前髪が鼻の先に微かに掛かる。

「──…綺、麗…」

あまりの美しさにアルは思わずそう漏らした。

「はっ、正体現したな」

レオは次に何が起きるのかと待ち構えニヤリとした。



神の化身の姿となったティールはアルを見つめる。

「神の従者──そして三の勇者達よ──地下道へ降り、最深部までつき進むがいい──……」

「──…最深部?…やはり、何かあるんだな!?」


尋ね返したロイド達に答えぬまま、入り口の前を塞いでいたティールは先へ急げと言わんばかりに道をあける。


アルの剣でしか開けられなかった筈の大樹の根元にある扉──

それはアル達を歓迎するかのように独りでにゆっくりと開いていった。

「行けばわかるってことか」

呟いたルイスはよしっと声を上げ、一番に扉を潜った。

最後尾から入ってきたレオは螺旋階段を降りながら地下道全体を見回す。

「これは元からあったのか?それとも湖の遺跡みたいに突然湧きやがったか?」


「それはわからん──…この大樹自体が二千年以上もの時を生きてきている…俺達が見付けた時は入り口の扉は最初からあった。……扉の鍵を開ける謎をアルが解いただけだが……」


光りゴケの洞窟のアーチを抜けるとルイスはレオの質問に答えていた口を途中で止めた。

最深部へと辿り着いたルイス達は辺りを見回す。

「さあ──っ…一体この後はどうしたらいいんだろうな…」



予想に反して何も起こっていない地下道最深部──

ルイスは溜め息をついて腰に手を当てた。

アルやロイド達は辺りを歩き回る。

「これはなんだ?」

紋章が画かれた肌色の大理石の床。その真ん中にポツンとある腰程の高さの石柱、そこに近付くとレオは尋ねながら平らな上に手を乗せて寄り掛かった。

「最初ここに着たときにその上に伝承の書物があったの…」

アルは遠くから答えながら振り返り、石柱の上に置かれたレオの手にハッとした。

無骨な手の甲が蒼く光りを放つ。

釘付けになったアルの視線に気付き、レオもそれに目を向けて声を上げた。

「ははあ…次の鍵はこれだな」

ルイスとロイドも近付くと当たり前のようにその上に手を乗せた。

石柱の上に並んだ三人の手の甲が勇者としての刻印の色を眩く放ち始める──

「まだ何か足りないらしいな…」

ロイドが言うとルイスがアルに目配せした。

アルは無言で頷く。そして前に透明の壁で保護されていた書物を手に入れた方法を試みるように剣を構えていた。

石柱の側にある大理石の床に画かれた紋章の図。その真ん中にある亀裂にアルは剣先を真っ直ぐに立てて当てがうと、スーッと挿し込んでいく──


皆が見守る中で、柄まで剣が突き刺さる。

「…!?っ…きゃ…」

「──うわ…っ…来たかっ…」

急に激しく揺れだした地下内でアルとルイス達は咄嗟に身を低くした。

身構えながら天井や壁を確認する。強い揺れだが崩れる様子はみられない。

床に刺した剣に掴まりしゃがみ込むアルの傍に行くと、ロイドはアルを庇うように胸に抱いた。

一体、この揺れは何だ。まるで国一つが崩れても可笑しくはないほどの地震だ。

下手に口を開くと舌を噛みそうになる。皆は歯を食い縛り、揺れが収まるのをじっと待つ。

「……っ…これか!? 城であった地鳴りってえのは!?」

レオが険しい表情を見せながら辺りを見渡し吠えるように口にした。

波打つように大きい揺れが徐々に小さくなっていく。だがまだ油断は出来ない。そう構える四人の考えとは裏腹に、揺れは突然ピタリと収まっていた。

「──……止まったか…」

額に汗を滲ませルイスは呟く。立ち上がるべきかをどうかを判断する前にゆっくりと皆と顔を見合わせていると、周りを囲む石の壁が静かに動き始めた。

ズズズ──…と石が擦れる音だけがする。

まるでトランプのカードでも切るように、縦長に分列した壁が右へ左へとからくりの如く移動する。

その大きな壁が両脇に畳まれていくように収まると、真ん中が開開き、奥には文字の刻まれた扉が現れていた──。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クビになったアイツ、幼女になったらしい

東山統星
ファンタジー
簡単説明→追放されたから飯に困って果物食ったら幼女になった。しかもかなり強くなったっぽい。 ひとりの不運なナイスガイがいた。彼はラークという名前で、つい最近賞金首狩り組織をクビになったのである。そしてなんの因果か、あしたの飯に困ったラークは美味しそうなりんごを口にして、なんと金髪緑目の幼女になってしまった。 しかしラークにとって、これは新たなるチャンスでもあった。幼女になったことで魔術の腕が爆発的に飛躍し、陰謀とチャンスが眠る都市国家にて、成り上がりを果たす機会を与えられたのだ。 これは、『魔術と技術の国』ロスト・エンジェルスにて、ラークとその仲間たち、そしてラークの恋人たちが生き残りと成り上がりを懸けて挑み続ける物語である。 *表紙はAI作成です。 *他サイトにも載ってるよ

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...