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第五章 冒険編

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湖の石橋を渡ると遺跡の入口付近に落ちていた宝剣を見つけ、アルはそれを手にする。

そして地下へと降りた。

中を一度見回すと、ロイド達はルイスから聞いていた、壁に大きく浮かんだ壁画を眺めた──

「これか──」

「ああ…」

ルイスは抱っこしていたユリアを地面に降ろして壁画に近づく。

「俺はよく見なかったから前にあったかどうかはわからないが…」

「前はなかった」

ロイドの言葉にルイスははっきりと返す。そして壁を見て何かに気付いた。

ルイスは三体の神獣の壁画の真ん中を見て呟く。

「──また、何か浮かんでる…」

ルイスの声を聞いて周りを探索していた皆が集まっていた。
ルイスはマークを呼んだ。

「マーク、読めるか?」

傍に来たマークを抱き抱える。
古の文字らしきもの。マークはそれとにらめっこをした。

「うんと……

“光の剣を天に掲げ
認めの刻印を己が守護神の三の眼にかざせ

さすれば道が開けよう”」

「道……?」

「うん、そう書いてあるよ」

ルイスに聞かれてマークは答えた。

「三の眼って……」

「“三の眼”ってのはここだ」


顎に手を添えて考えるルイスに、レオは自分の額の真ん中を指さして見せた。



「チャクラだな、精神を司り真実を見極める眼。俺たちは三の眼をアジナって呼んでるが──この壁画の守護神それぞれの額に俺たちの右手をかざせってこったろ…」

「なるほどな…やってみるか」

ルイスの言葉にみんな頷いた。

三角形を結ぶように描かれた三体の守護神の壁画の前に三人は立つ。

それぞれが守護神の“三の眼”と呼ばれる額に認めの印を刻んだ右手をかざすとアルは宝剣を鞘からゆっくりと引き抜いた──

少しばかりの緊張が漂う。



“さすれば道が開かれよう”



それは一体どこへ通じる道なのか?

剣を天に掲げた先に何が起きるのか──


何一つわからぬまま確かめなければならない。


アルはごくりと喉を鳴らす。

そして剣の先を天に掲げた──


三人の刻印が輝き始め、アルの剣の柄に付いていた宝玉も眩く光を漏らす。

赤、青、緑、その輝きはアルの掲げた剣先へと集まり一つに重なった。

その光はやがて静かに消えていく……


「……・・・」

一分の沈黙がその場を支配していた。

「どうだ、なにか起きたか?……」

痺れを切らして壁画に手をあてたままレオが振り返る。

アルと子供達はゆっくりと首を横に振った。



その頃──

ルバール城の会議室でどよめきが起こっていた。


「おおっ…」

「──…っ…これは一体、何ごとだっ…」



暫しの休息を取った宰相、そしてセラス。それからレオを抜いた各国の領主、カムイ達を交え会議室で円卓を囲んでいた者達は地底から響く地鳴りに席を咄嗟に立ち上がり身構えた。

ゴゴゴゴ──…と城が揺れ、地盤が擦れ合う様な音が建物に伝わる。


「慌てるでない──」 

ただ一人──

微動だにすることなく椅子に腰掛けたまま妃奈乃は言った。


「…事がやっと動き始めたようじゃ──」

白き神の生まれ変わり。神仙の妃奈乃は静かにそう呟き笑みを浮かべる。

妃奈乃に諭され国王もその場にいた者達もゆっくりと椅子に腰を据え直し、暫くして地底からの地響きはパタリと鎮まりかえっていた──




「取り合えず引き上げるか…」

遺跡の地下では勇者として選ばれた証しの刻印とアルの剣が光った以外、何も変わった様子は窺えなかった。

ルイスの号令で、アル達は遺跡の地下から引き上げる。

そして馬車に乗り、城を目指す一行を、星の散らばる夜空から一頭の白馬が見守っていた……。




「いったい昨夜の揺れは何だったのか──

今朝、街の様子を窺えば民の者は皆、口を揃えて地震のような揺れは何もなかったと申したそうだ。

たしか、貴殿達も揺れは感じなかったと言っておったな?」


早朝から開かれた会議で昨夜、城を揺るがした地鳴りについて話し合いが進められていた。

ブランデール国王は同じ頃、遺跡にいたルイス達に帰ってくるなり訊ねたがルイス達は不可解な表情で首を横に振るばかりだったのだ。


「妃奈乃は事が動き始めたといっておったがどういう意味かは何も語らなかった…」

カムイは腕を組み静かに語る。

「──…街に異変がなければ問題はこの城内のどこかにあるということか?」

ルイスも溜め息をつきながら腕を組む──

「タイミング的には俺達が遺跡の壁画で道を開く儀式をした時間と重なっているようにも思うが…」

「うん、そうだね…」

ルイスの呟きにアルも頷く。


「城を──…今一度、隈無く調べてみるしかあるまいな」


ブランデール国王の言葉に勇者として選ばれた三人とアルが腰を上げていた。



「しかし、この城が揺れるくらいの地鳴りなら街も揺れてるはずなんだがな。一体何が起こってやがんだ!?」

レオは歩きながら疑問をぶつける。
ルイス達は城の書庫へと脚を向けていた。
たどり着くと、ルイスはその一番奥の鍵の掛かった重厚な扉を開けて資料を手にして出てくる。

「取り合えず闇雲に捜しても埒があかない。広いからどの順番でいくか話し合おう──」


ルイスは手にした資料をパサリとテーブルに放った。
城内の地図と細部まで詳しく描かれた地図が数枚並んでいる。
その中には古のルバール大国の写しの地図も含まれていた。

アルは以前、名もなき村の場所を知りたいとルイスに執務室に呼ばれ、見せてもらったことのあったその地図をテーブルの隅で一人広げていた。
男三人は城内の見取り図に集中している。

「地下水路から行ってみるか?」

「地下か…たしかいろんな仕掛けがあった筈だが動き出してたらかなりやばいな…」

ロイドの提案にルイスは二の足を踏む──

二千年の歴史を紡いだ城だ。戦に備え様々な仕掛けがあることはルバール国の古事記にも書かれている。


「──…動いたならぶっ壊すしかねえだろ?」

大剣を肩に担ぐとレオはニヤリと笑った──

「なら──、行ってみるか…アルは危ないから…」

「あった──!」

ルイスの言葉をアルが遮っていた。

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