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第五章 冒険編
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・
宰相は白き神の使者達と話し合った後、急ぎで大臣達を集め会議を開いて帝国を後にしたのだ。
「しかし、よろしかったのですか?宰相様までが国を離れて…」
鄭尚は戸惑いながら口にした。
「我が国は重臣達に任せてある。何よりも先にせねば成らぬこと…それは神の従者を守ることだ」
静かにそう語ると宰相は竹筒の水をまた口に含みブラシを手にした。
平地とはいえ、旅の疲れは溜まるものだ。休ませていた馬にブラシを掛けながらマッサージを施すと、馬はもっと、と言わんばかりにしっぽをはためき催促を繰り返す。
国の帝(てい)になっても自ら行動する。そんな泥臭い所が好きだ。
鄭尚は部下に交じって自分の馬の世話をする宰相を尊敬の眼差しで見つめた。
国を治める者はこう在るべきだ。
威張り散らせば威厳が保たれると勘違いしていた前帝とは比べものにならない。
剛の中に柔を併せ持つ逸材──
我が乳兄弟ながら鼻が高い。
鄭尚はもう何も言わず自分も馬にブラシを掛け始めた。
・
豊かな暮らし、小さいながらも平和に育まれ発展を遂げた街並み。
突如に現れた謎の闇のに飲まれ、今はその面影すら見当たらない。
神の従者亡き今、世界各地でまた異変が現れていた──
──天空の要塞
その昔、かつてそう呼ばれた国があった。
難攻不落の国、雲も間近の高く突き出した大きな山の頂上。その上に建てられた国は回りを巨大な岩石と滝に囲まれ堅く守られていた。
行き来するには正門と外界を結ぶただ一つの道しかない。その為に攻め落とすことは不可能とされ、襲撃を受けたことがなかった。
争いとは無縁の国。
知らぬ者達は皆がそう口にした。
だがそれは、その国の者達にとっては夢のまた夢…
他国の襲撃を受けぬ代わりに、国内では日々、権力争いが勃発していたのだ。
強奪のような税の取り締まり。豊かなのは城の上層部に蔓延るダニのような領地主達ばかり。
民から根こそぎ巻き上げて、国王からの慈悲を乞う。
敵国の居いない平和な国。生ぬるい湯に浸かりきったように、国を動かす力のなかった歴代の王達は傘下につく領地主にいいように利用されていた。
・
「もう我慢ならん!」
男は拳を強く震わせて、誰にともなくそう言葉を投げつけた。
「このような争いがいつまで続くのかっ…」
堪らず絞り出した声が詰まった。
薄くランプの光りを灯した家の中で、数人の男達が重い表情を浮かべている。
肉付きのいい顎を擦りながら体格のいい男がぼそりと言った。
「まあ…わしもそろそろ限界だがや。この国をこのままにするわけにはいかん」
「ああ、バルギリー…やはり我々で手を打つしか道はないのだな」
男の胸元に下げられた銀の十字架がキラキラとランプの火を小さく反射する。
静かに会話が交わされ、そこにいた皆の顔がゆっくりと頷いた。
庭師のバルギリーに、教会の神父ハワード、そして、街一番の腕利きの大工の棟梁 ワーグと小さな学校の理事長 メアリー女史 この四人が偽りの平和な国に革命を起こした。
バルギリーが名乗りを上げるとそれを筆頭に国の若者が集まり義勇軍が立ち上げられた。
腐敗した政治とそれに巣食う権力者達。
その国の有り様に嫌気のさしていた国の兵士達はあっさりと義勇軍に寝返り、否応なしにこの国は民達のものとなったのだ。
・
制圧した国王達を尻目に、バルギリー達は国の一番高い講堂に立ち大きな窓から外の民衆に向けてこの国の旗を手折った。
「この国の歴史を忘れるな!くだらぬ争いに奪われた命を忘れるな!この国はたった今、滅んだのだ!!我々の手で終結の時を迎え、そして今こそ、新たな歴史の始まりを刻む!!」
ハワード神父は声を高らかにして叫び、バルギリーの手を取った。
「多くの民を率い、果敢に挑んだこのバルギリーこそ皆の、この新国の王として相応しい!バルギリーを国王として迎えようじゃないか!」
ハワード神父のその掛け声に講堂の元に集まった民衆達から歓喜の声が溢れた。
だがバルギリーは天に向けて掲げられた手を静かに下ろしたのだ。
民衆の歓声はざわめきと変わった。
バルギリーは一歩前に出た。
「皆聞いてくれ!」
ざわめきはピタリと治まった。
「わしは国王なんて柄じゃねえがや!それに、もうこの国に王なんてもんは入らねえ。わしはそう思う。この国は皆の国だ!!これからは皆で造っていくのが一番じゃねえかって思うだが…この国に住むのは皆じゃねえか?わしは逆に聞きてえがや。これからどうしたこの国は良くなっていく?皆はどう思う?」
・
王にと推薦されたバルギリー自らの問い掛けに民衆は黙ったままだった。
だが小さな声が民衆の群れの中から叫んだ。
「わたし本が読みたいの!友達も皆が学校に行けるようになったらすごくうれしい!」
少女の声が聞こえると、次々に民達が口を開いた。
「お婆ちゃんの病気の薬が高過ぎて買えないよ、どうしたらいいの」
「僕たちは仕事が欲しいんだ!畑だけでは収入が限られてくる。作物が育つまでの間、何の仕事をすればいいのか…」
次々に上がる民衆の声に、バルギリー達は目を見開いた。
その立場になって見なければ気付くことさえ出来なかった問題が次々と浮かび上がる。
確かな民衆の声。
この声こそが国を創り、そして変えていく。
今こそがその時。支配なき国が誕生し、民が国を創り上げていく新しい政治が試される。
今度は大工の棟梁、ワーグが一歩前に出た。
「よしわかった!皆の願いを皆で叶えて行こうじゃないか!だが、家を建てるのと同じように何事も順序が大事だ。それぞれの意見をまとめて、叶うように俺達が設計して行こう!」
こうして新しい国創りへの一歩を踏んだ。
宰相は白き神の使者達と話し合った後、急ぎで大臣達を集め会議を開いて帝国を後にしたのだ。
「しかし、よろしかったのですか?宰相様までが国を離れて…」
鄭尚は戸惑いながら口にした。
「我が国は重臣達に任せてある。何よりも先にせねば成らぬこと…それは神の従者を守ることだ」
静かにそう語ると宰相は竹筒の水をまた口に含みブラシを手にした。
平地とはいえ、旅の疲れは溜まるものだ。休ませていた馬にブラシを掛けながらマッサージを施すと、馬はもっと、と言わんばかりにしっぽをはためき催促を繰り返す。
国の帝(てい)になっても自ら行動する。そんな泥臭い所が好きだ。
鄭尚は部下に交じって自分の馬の世話をする宰相を尊敬の眼差しで見つめた。
国を治める者はこう在るべきだ。
威張り散らせば威厳が保たれると勘違いしていた前帝とは比べものにならない。
剛の中に柔を併せ持つ逸材──
我が乳兄弟ながら鼻が高い。
鄭尚はもう何も言わず自分も馬にブラシを掛け始めた。
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豊かな暮らし、小さいながらも平和に育まれ発展を遂げた街並み。
突如に現れた謎の闇のに飲まれ、今はその面影すら見当たらない。
神の従者亡き今、世界各地でまた異変が現れていた──
──天空の要塞
その昔、かつてそう呼ばれた国があった。
難攻不落の国、雲も間近の高く突き出した大きな山の頂上。その上に建てられた国は回りを巨大な岩石と滝に囲まれ堅く守られていた。
行き来するには正門と外界を結ぶただ一つの道しかない。その為に攻め落とすことは不可能とされ、襲撃を受けたことがなかった。
争いとは無縁の国。
知らぬ者達は皆がそう口にした。
だがそれは、その国の者達にとっては夢のまた夢…
他国の襲撃を受けぬ代わりに、国内では日々、権力争いが勃発していたのだ。
強奪のような税の取り締まり。豊かなのは城の上層部に蔓延るダニのような領地主達ばかり。
民から根こそぎ巻き上げて、国王からの慈悲を乞う。
敵国の居いない平和な国。生ぬるい湯に浸かりきったように、国を動かす力のなかった歴代の王達は傘下につく領地主にいいように利用されていた。
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「もう我慢ならん!」
男は拳を強く震わせて、誰にともなくそう言葉を投げつけた。
「このような争いがいつまで続くのかっ…」
堪らず絞り出した声が詰まった。
薄くランプの光りを灯した家の中で、数人の男達が重い表情を浮かべている。
肉付きのいい顎を擦りながら体格のいい男がぼそりと言った。
「まあ…わしもそろそろ限界だがや。この国をこのままにするわけにはいかん」
「ああ、バルギリー…やはり我々で手を打つしか道はないのだな」
男の胸元に下げられた銀の十字架がキラキラとランプの火を小さく反射する。
静かに会話が交わされ、そこにいた皆の顔がゆっくりと頷いた。
庭師のバルギリーに、教会の神父ハワード、そして、街一番の腕利きの大工の棟梁 ワーグと小さな学校の理事長 メアリー女史 この四人が偽りの平和な国に革命を起こした。
バルギリーが名乗りを上げるとそれを筆頭に国の若者が集まり義勇軍が立ち上げられた。
腐敗した政治とそれに巣食う権力者達。
その国の有り様に嫌気のさしていた国の兵士達はあっさりと義勇軍に寝返り、否応なしにこの国は民達のものとなったのだ。
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制圧した国王達を尻目に、バルギリー達は国の一番高い講堂に立ち大きな窓から外の民衆に向けてこの国の旗を手折った。
「この国の歴史を忘れるな!くだらぬ争いに奪われた命を忘れるな!この国はたった今、滅んだのだ!!我々の手で終結の時を迎え、そして今こそ、新たな歴史の始まりを刻む!!」
ハワード神父は声を高らかにして叫び、バルギリーの手を取った。
「多くの民を率い、果敢に挑んだこのバルギリーこそ皆の、この新国の王として相応しい!バルギリーを国王として迎えようじゃないか!」
ハワード神父のその掛け声に講堂の元に集まった民衆達から歓喜の声が溢れた。
だがバルギリーは天に向けて掲げられた手を静かに下ろしたのだ。
民衆の歓声はざわめきと変わった。
バルギリーは一歩前に出た。
「皆聞いてくれ!」
ざわめきはピタリと治まった。
「わしは国王なんて柄じゃねえがや!それに、もうこの国に王なんてもんは入らねえ。わしはそう思う。この国は皆の国だ!!これからは皆で造っていくのが一番じゃねえかって思うだが…この国に住むのは皆じゃねえか?わしは逆に聞きてえがや。これからどうしたこの国は良くなっていく?皆はどう思う?」
・
王にと推薦されたバルギリー自らの問い掛けに民衆は黙ったままだった。
だが小さな声が民衆の群れの中から叫んだ。
「わたし本が読みたいの!友達も皆が学校に行けるようになったらすごくうれしい!」
少女の声が聞こえると、次々に民達が口を開いた。
「お婆ちゃんの病気の薬が高過ぎて買えないよ、どうしたらいいの」
「僕たちは仕事が欲しいんだ!畑だけでは収入が限られてくる。作物が育つまでの間、何の仕事をすればいいのか…」
次々に上がる民衆の声に、バルギリー達は目を見開いた。
その立場になって見なければ気付くことさえ出来なかった問題が次々と浮かび上がる。
確かな民衆の声。
この声こそが国を創り、そして変えていく。
今こそがその時。支配なき国が誕生し、民が国を創り上げていく新しい政治が試される。
今度は大工の棟梁、ワーグが一歩前に出た。
「よしわかった!皆の願いを皆で叶えて行こうじゃないか!だが、家を建てるのと同じように何事も順序が大事だ。それぞれの意見をまとめて、叶うように俺達が設計して行こう!」
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