294 / 312
第五章 冒険編
5
しおりを挟む
・
宰相は白き神の使者達と話し合った後、急ぎで大臣達を集め会議を開いて帝国を後にしたのだ。
「しかし、よろしかったのですか?宰相様までが国を離れて…」
鄭尚は戸惑いながら口にした。
「我が国は重臣達に任せてある。何よりも先にせねば成らぬこと…それは神の従者を守ることだ」
静かにそう語ると宰相は竹筒の水をまた口に含みブラシを手にした。
平地とはいえ、旅の疲れは溜まるものだ。休ませていた馬にブラシを掛けながらマッサージを施すと、馬はもっと、と言わんばかりにしっぽをはためき催促を繰り返す。
国の帝(てい)になっても自ら行動する。そんな泥臭い所が好きだ。
鄭尚は部下に交じって自分の馬の世話をする宰相を尊敬の眼差しで見つめた。
国を治める者はこう在るべきだ。
威張り散らせば威厳が保たれると勘違いしていた前帝とは比べものにならない。
剛の中に柔を併せ持つ逸材──
我が乳兄弟ながら鼻が高い。
鄭尚はもう何も言わず自分も馬にブラシを掛け始めた。
・
豊かな暮らし、小さいながらも平和に育まれ発展を遂げた街並み。
突如に現れた謎の闇のに飲まれ、今はその面影すら見当たらない。
神の従者亡き今、世界各地でまた異変が現れていた──
──天空の要塞
その昔、かつてそう呼ばれた国があった。
難攻不落の国、雲も間近の高く突き出した大きな山の頂上。その上に建てられた国は回りを巨大な岩石と滝に囲まれ堅く守られていた。
行き来するには正門と外界を結ぶただ一つの道しかない。その為に攻め落とすことは不可能とされ、襲撃を受けたことがなかった。
争いとは無縁の国。
知らぬ者達は皆がそう口にした。
だがそれは、その国の者達にとっては夢のまた夢…
他国の襲撃を受けぬ代わりに、国内では日々、権力争いが勃発していたのだ。
強奪のような税の取り締まり。豊かなのは城の上層部に蔓延るダニのような領地主達ばかり。
民から根こそぎ巻き上げて、国王からの慈悲を乞う。
敵国の居いない平和な国。生ぬるい湯に浸かりきったように、国を動かす力のなかった歴代の王達は傘下につく領地主にいいように利用されていた。
・
「もう我慢ならん!」
男は拳を強く震わせて、誰にともなくそう言葉を投げつけた。
「このような争いがいつまで続くのかっ…」
堪らず絞り出した声が詰まった。
薄くランプの光りを灯した家の中で、数人の男達が重い表情を浮かべている。
肉付きのいい顎を擦りながら体格のいい男がぼそりと言った。
「まあ…わしもそろそろ限界だがや。この国をこのままにするわけにはいかん」
「ああ、バルギリー…やはり我々で手を打つしか道はないのだな」
男の胸元に下げられた銀の十字架がキラキラとランプの火を小さく反射する。
静かに会話が交わされ、そこにいた皆の顔がゆっくりと頷いた。
庭師のバルギリーに、教会の神父ハワード、そして、街一番の腕利きの大工の棟梁 ワーグと小さな学校の理事長 メアリー女史 この四人が偽りの平和な国に革命を起こした。
バルギリーが名乗りを上げるとそれを筆頭に国の若者が集まり義勇軍が立ち上げられた。
腐敗した政治とそれに巣食う権力者達。
その国の有り様に嫌気のさしていた国の兵士達はあっさりと義勇軍に寝返り、否応なしにこの国は民達のものとなったのだ。
・
制圧した国王達を尻目に、バルギリー達は国の一番高い講堂に立ち大きな窓から外の民衆に向けてこの国の旗を手折った。
「この国の歴史を忘れるな!くだらぬ争いに奪われた命を忘れるな!この国はたった今、滅んだのだ!!我々の手で終結の時を迎え、そして今こそ、新たな歴史の始まりを刻む!!」
ハワード神父は声を高らかにして叫び、バルギリーの手を取った。
「多くの民を率い、果敢に挑んだこのバルギリーこそ皆の、この新国の王として相応しい!バルギリーを国王として迎えようじゃないか!」
ハワード神父のその掛け声に講堂の元に集まった民衆達から歓喜の声が溢れた。
だがバルギリーは天に向けて掲げられた手を静かに下ろしたのだ。
民衆の歓声はざわめきと変わった。
バルギリーは一歩前に出た。
「皆聞いてくれ!」
ざわめきはピタリと治まった。
「わしは国王なんて柄じゃねえがや!それに、もうこの国に王なんてもんは入らねえ。わしはそう思う。この国は皆の国だ!!これからは皆で造っていくのが一番じゃねえかって思うだが…この国に住むのは皆じゃねえか?わしは逆に聞きてえがや。これからどうしたこの国は良くなっていく?皆はどう思う?」
・
王にと推薦されたバルギリー自らの問い掛けに民衆は黙ったままだった。
だが小さな声が民衆の群れの中から叫んだ。
「わたし本が読みたいの!友達も皆が学校に行けるようになったらすごくうれしい!」
少女の声が聞こえると、次々に民達が口を開いた。
「お婆ちゃんの病気の薬が高過ぎて買えないよ、どうしたらいいの」
「僕たちは仕事が欲しいんだ!畑だけでは収入が限られてくる。作物が育つまでの間、何の仕事をすればいいのか…」
次々に上がる民衆の声に、バルギリー達は目を見開いた。
その立場になって見なければ気付くことさえ出来なかった問題が次々と浮かび上がる。
確かな民衆の声。
この声こそが国を創り、そして変えていく。
今こそがその時。支配なき国が誕生し、民が国を創り上げていく新しい政治が試される。
今度は大工の棟梁、ワーグが一歩前に出た。
「よしわかった!皆の願いを皆で叶えて行こうじゃないか!だが、家を建てるのと同じように何事も順序が大事だ。それぞれの意見をまとめて、叶うように俺達が設計して行こう!」
こうして新しい国創りへの一歩を踏んだ。
宰相は白き神の使者達と話し合った後、急ぎで大臣達を集め会議を開いて帝国を後にしたのだ。
「しかし、よろしかったのですか?宰相様までが国を離れて…」
鄭尚は戸惑いながら口にした。
「我が国は重臣達に任せてある。何よりも先にせねば成らぬこと…それは神の従者を守ることだ」
静かにそう語ると宰相は竹筒の水をまた口に含みブラシを手にした。
平地とはいえ、旅の疲れは溜まるものだ。休ませていた馬にブラシを掛けながらマッサージを施すと、馬はもっと、と言わんばかりにしっぽをはためき催促を繰り返す。
国の帝(てい)になっても自ら行動する。そんな泥臭い所が好きだ。
鄭尚は部下に交じって自分の馬の世話をする宰相を尊敬の眼差しで見つめた。
国を治める者はこう在るべきだ。
威張り散らせば威厳が保たれると勘違いしていた前帝とは比べものにならない。
剛の中に柔を併せ持つ逸材──
我が乳兄弟ながら鼻が高い。
鄭尚はもう何も言わず自分も馬にブラシを掛け始めた。
・
豊かな暮らし、小さいながらも平和に育まれ発展を遂げた街並み。
突如に現れた謎の闇のに飲まれ、今はその面影すら見当たらない。
神の従者亡き今、世界各地でまた異変が現れていた──
──天空の要塞
その昔、かつてそう呼ばれた国があった。
難攻不落の国、雲も間近の高く突き出した大きな山の頂上。その上に建てられた国は回りを巨大な岩石と滝に囲まれ堅く守られていた。
行き来するには正門と外界を結ぶただ一つの道しかない。その為に攻め落とすことは不可能とされ、襲撃を受けたことがなかった。
争いとは無縁の国。
知らぬ者達は皆がそう口にした。
だがそれは、その国の者達にとっては夢のまた夢…
他国の襲撃を受けぬ代わりに、国内では日々、権力争いが勃発していたのだ。
強奪のような税の取り締まり。豊かなのは城の上層部に蔓延るダニのような領地主達ばかり。
民から根こそぎ巻き上げて、国王からの慈悲を乞う。
敵国の居いない平和な国。生ぬるい湯に浸かりきったように、国を動かす力のなかった歴代の王達は傘下につく領地主にいいように利用されていた。
・
「もう我慢ならん!」
男は拳を強く震わせて、誰にともなくそう言葉を投げつけた。
「このような争いがいつまで続くのかっ…」
堪らず絞り出した声が詰まった。
薄くランプの光りを灯した家の中で、数人の男達が重い表情を浮かべている。
肉付きのいい顎を擦りながら体格のいい男がぼそりと言った。
「まあ…わしもそろそろ限界だがや。この国をこのままにするわけにはいかん」
「ああ、バルギリー…やはり我々で手を打つしか道はないのだな」
男の胸元に下げられた銀の十字架がキラキラとランプの火を小さく反射する。
静かに会話が交わされ、そこにいた皆の顔がゆっくりと頷いた。
庭師のバルギリーに、教会の神父ハワード、そして、街一番の腕利きの大工の棟梁 ワーグと小さな学校の理事長 メアリー女史 この四人が偽りの平和な国に革命を起こした。
バルギリーが名乗りを上げるとそれを筆頭に国の若者が集まり義勇軍が立ち上げられた。
腐敗した政治とそれに巣食う権力者達。
その国の有り様に嫌気のさしていた国の兵士達はあっさりと義勇軍に寝返り、否応なしにこの国は民達のものとなったのだ。
・
制圧した国王達を尻目に、バルギリー達は国の一番高い講堂に立ち大きな窓から外の民衆に向けてこの国の旗を手折った。
「この国の歴史を忘れるな!くだらぬ争いに奪われた命を忘れるな!この国はたった今、滅んだのだ!!我々の手で終結の時を迎え、そして今こそ、新たな歴史の始まりを刻む!!」
ハワード神父は声を高らかにして叫び、バルギリーの手を取った。
「多くの民を率い、果敢に挑んだこのバルギリーこそ皆の、この新国の王として相応しい!バルギリーを国王として迎えようじゃないか!」
ハワード神父のその掛け声に講堂の元に集まった民衆達から歓喜の声が溢れた。
だがバルギリーは天に向けて掲げられた手を静かに下ろしたのだ。
民衆の歓声はざわめきと変わった。
バルギリーは一歩前に出た。
「皆聞いてくれ!」
ざわめきはピタリと治まった。
「わしは国王なんて柄じゃねえがや!それに、もうこの国に王なんてもんは入らねえ。わしはそう思う。この国は皆の国だ!!これからは皆で造っていくのが一番じゃねえかって思うだが…この国に住むのは皆じゃねえか?わしは逆に聞きてえがや。これからどうしたこの国は良くなっていく?皆はどう思う?」
・
王にと推薦されたバルギリー自らの問い掛けに民衆は黙ったままだった。
だが小さな声が民衆の群れの中から叫んだ。
「わたし本が読みたいの!友達も皆が学校に行けるようになったらすごくうれしい!」
少女の声が聞こえると、次々に民達が口を開いた。
「お婆ちゃんの病気の薬が高過ぎて買えないよ、どうしたらいいの」
「僕たちは仕事が欲しいんだ!畑だけでは収入が限られてくる。作物が育つまでの間、何の仕事をすればいいのか…」
次々に上がる民衆の声に、バルギリー達は目を見開いた。
その立場になって見なければ気付くことさえ出来なかった問題が次々と浮かび上がる。
確かな民衆の声。
この声こそが国を創り、そして変えていく。
今こそがその時。支配なき国が誕生し、民が国を創り上げていく新しい政治が試される。
今度は大工の棟梁、ワーグが一歩前に出た。
「よしわかった!皆の願いを皆で叶えて行こうじゃないか!だが、家を建てるのと同じように何事も順序が大事だ。それぞれの意見をまとめて、叶うように俺達が設計して行こう!」
こうして新しい国創りへの一歩を踏んだ。
10
お気に入りに追加
730
あなたにおすすめの小説
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる