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第四章 伝説編

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毛布だ

毛布も欲しい

冷えてくアルの身体を早く温めてくれ


レオは血だらけの手でアルの頬を撫でる。

「直ぐだからな…もうすぐだから、…もうちっと頑張ってくれよ…なあ、アル…」

蒼くなっていくアルの唇に触れながらレオは何度もうわ言の様にそう繰り返した。

いつの間にか消えた黒い巨大な暗雲。

そしてその先からうっすらと光を纏った一頭の白馬が歩いてくる。

その背中には他の馬には類を見ない、神々しい翼が生えていた。

「あれはまた――」

マークの目を未だ塞いだまま、カムイはその白銀色に光る馬を見つめ呟いた。

「あの光はあれの仕業か――?」

敵なのか味方なのか?

だだ、オドロしいあの魔物を見た後だけに、あれには味方であって欲しいと切に願ってしまう。

その馬はアルの元までくると傷ついたアルを悲しげに見下ろした。

「アルはどうした!? 大丈夫か!?」

城から馬を走らせてルイスが到着した。後ろには担架を積んだ荷馬車を率いている。

ルイスは地面に座りこんだレオの背中に目を向けた。
「すごい傷だ、早く馬車に――…!っ」

そう言ってレオの前に回り込むと膝に抱えられたアルを見て言葉を無くした。





「ア…ル……」

なんて傷だ――


それ以外の言葉が出なかった。

ルイスは直ぐアルの側に膝を落とした。

信じられない程の深い傷を追っている。

「意識はあるのか…」

ルイスは恐る恐るレオに尋ねた。

「隊…長さ…」

ルイスの声を聞いて、アルがうっすらと重い瞼を開けた。

「喋るなアル…」

そう言ってアルの唇を遮るルイスの指先が震えている。
アルの手を握っていたレオの手を、今度はアルが握り返した。微かにこもる指先の力をレオの肌が感じる。レオは自分からも強く握り返した。

アルは唇を塞がれながらも口を開いた。

「子供達…お願……」

「わかった…わかったから…っ…」

「居なく…らない…って言ったのに……あた…し…っ…嘘つい…っ…ごめ…ねって…伝え…」

「嘘はついてないっ! 大丈夫だ、お前は大丈夫だからっ…生き抜くことを諦めるなっ!」

まるで腹を立てたようにルイスは大声を出した。

アルの声を聞いて目を塞がれたまま、マークが暴れる。

「アルっ? なに言ってるの!? だめだよそんなこと言っちゃっ…っ…」





目の前で何が起こっているのか分からない。だだ、聞いたことのない、アルの弱々しい声と言葉に不安が押し寄せる。

アルは小さな呼吸を繰り返していた。

もっと言葉を伝えたいのに声が出ない。

声を出すってこんなに力の要ることだったんだ…

赤ちゃんの大きな産声は元気な証拠。今更ながらその意味が始めて心から理解できた。


力のない瞳でルイスに微笑みかけると、アルは声にならないまま唇だけを動かした。

「アルっ――…」

唇の動きを見て、ルイスはアルの名を呼んだ。



   “みんな、大好き…”



もっと沢山あった。

お願いしたいことも、伝えたい想いも、沢山沢山あった。


それを一言にまとめた精一杯の言葉だった。



レオの腕に抱かれた細い肩が最後に大きく呼吸すると、アルの瞳は微笑んだまま静かに閉じていた――













何処からともなく現れた



流れる星の如く人目を釘付け

そして

地上に散った――


人々の希望


そう

少女は希望そのものだった――










       完






天地を捧げよ

~ 第五章へと続く ~

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