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報連相が足りません
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こんな形での君との婚姻は望んでなかったと、旦那様から悔恨に満ちた声で告げられたのは、初夜のこと。
まぁ、そういわれても仕方ないかなと思う。何故なら、私の評判は王都では地を這う程、酷かったからである。真実の愛の邪魔者、学園が設立された以来の最低な鼻つまみ者、下位貴族や平民を見下す傲慢な悪役令嬢、ありとあらゆる悪名の称号を三年間で獲得したのだから、我ながら胸を張って自慢にしていい位に見事だと思う。悪い意味で。
これでも、三年間悪名を返上しようと一応努力はしたのだ。
しかし先祖代々の由緒ある悪人顔なのが悪かったのか、やることなすこと全て悪く受け取られてしまい、全てが徒労に終わったことを思い出して遠い目をする。
在学中も殆ど顔を合わせたことがない婚約者に愛されていないのにつきまとっていると陰口を叩かれたり、婚約者の最愛の教科書を破ったり廊下で転ばせたりと地味な嫌がらせをした挙げ句に階段から落としたと糾弾されたり、上位の成績を取ればカンニングだと抗議されたりと、本当に大変だったのだ。本当に婚約者の最愛が邪魔なら、今頃自分の手を汚さずに物理的に地上から消してるわと何回呆れたことだろうか。
最終的には、どこまで自分の名前が失墜するのか密かに楽しんでいたのは、ここだけの内緒の話である。
そもそも、こんなことになってしまったかというと、時を遡ること、幼少期まで戻る。
五歳の時に、私は運命の出会いを果たした。
今となっては、良かったのか悪かったのか解らないけれど。
運命は、金髪碧眼の麗しき王子様の姿をしていた。当時、五歳の自分が、家族以外で初めて見た麗しい顔に衝撃を受けたまま、深く考えずに婚約の提案に乗ってしまったのが運の尽き。
十年後、真実の愛を見つけた婚約者に悩まされるなら、絶対に婚約しなかったのにと五歳の自分の頭を殴ってやりたい。
悩まされると言っても、学園に入る前は権力と財力で無理やり婚約を勝ち取ったと言われ忌み嫌われていたから年に一度顔を合わせればいい位の疎遠だったし、顔を合わせる度に露骨に冷遇されれば愛想が尽きるし、学園に入ってからは真実の愛の相手とべったりだったから、直接的には困っていない。寧ろ困っていない所か、お好きにどうぞ状態だったし。学園内では、「婚約者に見向きもされない哀れな女」とは言われていたけれど、こちらも見向きもしていなかったのだから、お互い様というもの。
困っていたことと言えば、何故か在学中に婚約解消してくれなかったことと、お花畑脳の婚約者の母親が「卒業パーティーには婚約者が必要なのよ」と力説して反対していたことだけど、きっと絶対あの断罪ショーを親子共々したかっただけに違いない。
元々身分の低かった婚約者の母親が学園で見初められて、真実の愛を成就させ王妃になったのは劇になる程に有名な話で。この時、婚約者の母親を虐めた罪で断罪された挙げ句に婚約破棄をされたのが、私の母上の姉である伯母様である。伯母様は『妖精姫』と呼ばれた銀髪紫目の絶世の美女だったのだが、悪役令嬢として断罪された後は国外追放されて行方知れずになっていた。
別に母上の実家も手をこまねいていたわけではない。
娘が卒業パーティーで国外追放を言い渡されたと知らされたお爺様と伯父様が慌てて学園に向かったものの、すでに時は遅し。今は陛下の側近によって伯母様はどこかに捨てられていた後だったのだ。それ以来、お爺さまと伯父様も伯母様を探し続けている。
そのこともあって、私は伯母様の二の舞にならないように、兄だけではなく脳筋のお爺さまと同じく顔は麗しいけれど脳筋の伯父様にみっちりと鍛えられていたのだった。お前は少し抜けている所があるからとたたき込まれた、あの地獄の日々は、今も考えたくない。
因みに、母上も伯母上と同じ位の美女なのだが、惜しむらくはその麗しい容貌は脳筋の兄にしか引き継がれなかったことだろう。幼い頃から父似の悪役顔を嘆き兄の繊細で麗しい容貌に憧れていた五歳の私が、婚約話に思わず頷いてしまったのも仕方ない話なのである。決して、私が面食いというわけではない。
今回婚約が結ばれたのも、表向きは過去の婚約破棄で距離が開いた王家とお爺様の関係を少しでも良くする為とは言われているけれど、きっと絶対に当家を完膚なきまでに潰すつもりなのだろう。もしくは、私を断罪した後に実家には非がないことにして恩に着せる気かもしれない。母親の身分が低い婚約者には、私の実家の後ろ盾が必要な筈だから。その証拠に、私に施される筈の王妃教育は王妃自ら「まだ早い」と止めていて、未だ行われる様子はない。
どうあがいても、私の行く末に待っているのはありし日の国王夫婦を再現したような断罪ショーの生け贄一択で。
私は王妃の望むお花畑展開のために捧げられた生け贄なのである。
今考えれば、在学中に婚約者の最愛が見つからなかったら、王妃はどうするつもりだったのだろうとは思うけれど。まぁ、お花畑だったし、自分のような『運命の出会い』があると思っていたのだろう。とは言え、実際に『運命の出会い』があったのだから、悪運が良すぎる。
それにしても、来たるべき断罪ショーに備えて、国王夫婦が真実の愛を実らせた以来市井で流行っている平民や下位貴族と高位貴族の恋愛小説を集めて家族で研究し、将来の国外追放や娼館落ちも視野に入れて、脳筋の兄と一緒に身体を鍛え、高級娼婦のお姉さんを教師に呼んでは手練手管を学び、この日のために準備していたのに、なんでよりによって所謂白い結婚エンドなのだろうか。相手だって、初婚なのに婚約破棄された傷物令嬢を押しつけられても困るだろうに。
と、ここにはいない元婚約者に、心の中で抗議したくなる。
定番の高齢ヒヒ親父の若い後妻でもないし、私を娶ることで何かうまみがあったとしても初夜にああいう態度を取るしかないよねと、傷物令嬢を押しつけられたお相手さんには同情しかない。
因みに、実家の家族関係は悪くない。
だから、収集した恋愛小説で良くあるように、ヒロインを虐めつくしたからと親兄弟に見捨てられたり、元々実家で冷遇されていたり、謎の義妹に家族が陥落して居場所がないとかはしていないのが、不幸中の幸いの筈だったのに。
何で迎えの馬車に乗ったのに気がついたら見知らぬ所に連れて行かれてしまったのだろうか。
何で初対面の相手と婚約者の最愛を虐げた罪の罰として、届け出のみの『白い結婚』をしているのだろうか。
その上、何でその『白い結婚』の相手が、元婚約者と目と髪の色以外はそっくりなのだろうか。
疑問が疑問を呼び、とうとう朝までまんじりともしなかったのは言うまでもなく。
次の朝、寝不足で最悪な顔をしている私に旦那様は「領地に戻ってくれないか」と言ったのだった。どうやら、『白い結婚』をさせられる上に、領地に追いやられるらしい。いいのか悪いのか全く解らない。
それはそれとして、この旦那様。あなたはいったいどこの誰なのでしょうか。
まぁ、そういわれても仕方ないかなと思う。何故なら、私の評判は王都では地を這う程、酷かったからである。真実の愛の邪魔者、学園が設立された以来の最低な鼻つまみ者、下位貴族や平民を見下す傲慢な悪役令嬢、ありとあらゆる悪名の称号を三年間で獲得したのだから、我ながら胸を張って自慢にしていい位に見事だと思う。悪い意味で。
これでも、三年間悪名を返上しようと一応努力はしたのだ。
しかし先祖代々の由緒ある悪人顔なのが悪かったのか、やることなすこと全て悪く受け取られてしまい、全てが徒労に終わったことを思い出して遠い目をする。
在学中も殆ど顔を合わせたことがない婚約者に愛されていないのにつきまとっていると陰口を叩かれたり、婚約者の最愛の教科書を破ったり廊下で転ばせたりと地味な嫌がらせをした挙げ句に階段から落としたと糾弾されたり、上位の成績を取ればカンニングだと抗議されたりと、本当に大変だったのだ。本当に婚約者の最愛が邪魔なら、今頃自分の手を汚さずに物理的に地上から消してるわと何回呆れたことだろうか。
最終的には、どこまで自分の名前が失墜するのか密かに楽しんでいたのは、ここだけの内緒の話である。
そもそも、こんなことになってしまったかというと、時を遡ること、幼少期まで戻る。
五歳の時に、私は運命の出会いを果たした。
今となっては、良かったのか悪かったのか解らないけれど。
運命は、金髪碧眼の麗しき王子様の姿をしていた。当時、五歳の自分が、家族以外で初めて見た麗しい顔に衝撃を受けたまま、深く考えずに婚約の提案に乗ってしまったのが運の尽き。
十年後、真実の愛を見つけた婚約者に悩まされるなら、絶対に婚約しなかったのにと五歳の自分の頭を殴ってやりたい。
悩まされると言っても、学園に入る前は権力と財力で無理やり婚約を勝ち取ったと言われ忌み嫌われていたから年に一度顔を合わせればいい位の疎遠だったし、顔を合わせる度に露骨に冷遇されれば愛想が尽きるし、学園に入ってからは真実の愛の相手とべったりだったから、直接的には困っていない。寧ろ困っていない所か、お好きにどうぞ状態だったし。学園内では、「婚約者に見向きもされない哀れな女」とは言われていたけれど、こちらも見向きもしていなかったのだから、お互い様というもの。
困っていたことと言えば、何故か在学中に婚約解消してくれなかったことと、お花畑脳の婚約者の母親が「卒業パーティーには婚約者が必要なのよ」と力説して反対していたことだけど、きっと絶対あの断罪ショーを親子共々したかっただけに違いない。
元々身分の低かった婚約者の母親が学園で見初められて、真実の愛を成就させ王妃になったのは劇になる程に有名な話で。この時、婚約者の母親を虐めた罪で断罪された挙げ句に婚約破棄をされたのが、私の母上の姉である伯母様である。伯母様は『妖精姫』と呼ばれた銀髪紫目の絶世の美女だったのだが、悪役令嬢として断罪された後は国外追放されて行方知れずになっていた。
別に母上の実家も手をこまねいていたわけではない。
娘が卒業パーティーで国外追放を言い渡されたと知らされたお爺様と伯父様が慌てて学園に向かったものの、すでに時は遅し。今は陛下の側近によって伯母様はどこかに捨てられていた後だったのだ。それ以来、お爺さまと伯父様も伯母様を探し続けている。
そのこともあって、私は伯母様の二の舞にならないように、兄だけではなく脳筋のお爺さまと同じく顔は麗しいけれど脳筋の伯父様にみっちりと鍛えられていたのだった。お前は少し抜けている所があるからとたたき込まれた、あの地獄の日々は、今も考えたくない。
因みに、母上も伯母上と同じ位の美女なのだが、惜しむらくはその麗しい容貌は脳筋の兄にしか引き継がれなかったことだろう。幼い頃から父似の悪役顔を嘆き兄の繊細で麗しい容貌に憧れていた五歳の私が、婚約話に思わず頷いてしまったのも仕方ない話なのである。決して、私が面食いというわけではない。
今回婚約が結ばれたのも、表向きは過去の婚約破棄で距離が開いた王家とお爺様の関係を少しでも良くする為とは言われているけれど、きっと絶対に当家を完膚なきまでに潰すつもりなのだろう。もしくは、私を断罪した後に実家には非がないことにして恩に着せる気かもしれない。母親の身分が低い婚約者には、私の実家の後ろ盾が必要な筈だから。その証拠に、私に施される筈の王妃教育は王妃自ら「まだ早い」と止めていて、未だ行われる様子はない。
どうあがいても、私の行く末に待っているのはありし日の国王夫婦を再現したような断罪ショーの生け贄一択で。
私は王妃の望むお花畑展開のために捧げられた生け贄なのである。
今考えれば、在学中に婚約者の最愛が見つからなかったら、王妃はどうするつもりだったのだろうとは思うけれど。まぁ、お花畑だったし、自分のような『運命の出会い』があると思っていたのだろう。とは言え、実際に『運命の出会い』があったのだから、悪運が良すぎる。
それにしても、来たるべき断罪ショーに備えて、国王夫婦が真実の愛を実らせた以来市井で流行っている平民や下位貴族と高位貴族の恋愛小説を集めて家族で研究し、将来の国外追放や娼館落ちも視野に入れて、脳筋の兄と一緒に身体を鍛え、高級娼婦のお姉さんを教師に呼んでは手練手管を学び、この日のために準備していたのに、なんでよりによって所謂白い結婚エンドなのだろうか。相手だって、初婚なのに婚約破棄された傷物令嬢を押しつけられても困るだろうに。
と、ここにはいない元婚約者に、心の中で抗議したくなる。
定番の高齢ヒヒ親父の若い後妻でもないし、私を娶ることで何かうまみがあったとしても初夜にああいう態度を取るしかないよねと、傷物令嬢を押しつけられたお相手さんには同情しかない。
因みに、実家の家族関係は悪くない。
だから、収集した恋愛小説で良くあるように、ヒロインを虐めつくしたからと親兄弟に見捨てられたり、元々実家で冷遇されていたり、謎の義妹に家族が陥落して居場所がないとかはしていないのが、不幸中の幸いの筈だったのに。
何で迎えの馬車に乗ったのに気がついたら見知らぬ所に連れて行かれてしまったのだろうか。
何で初対面の相手と婚約者の最愛を虐げた罪の罰として、届け出のみの『白い結婚』をしているのだろうか。
その上、何でその『白い結婚』の相手が、元婚約者と目と髪の色以外はそっくりなのだろうか。
疑問が疑問を呼び、とうとう朝までまんじりともしなかったのは言うまでもなく。
次の朝、寝不足で最悪な顔をしている私に旦那様は「領地に戻ってくれないか」と言ったのだった。どうやら、『白い結婚』をさせられる上に、領地に追いやられるらしい。いいのか悪いのか全く解らない。
それはそれとして、この旦那様。あなたはいったいどこの誰なのでしょうか。
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