不思議小話 ピンキリ

そうすみす

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第5話 電話の向こうの名人は……?

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 これは親戚の女性(Uさん)から聞いたお話。

 Uさんが小学校低学年の頃、ファミリーコンピューター、いわゆるファミコンのとあるゲームを攻略するT橋名人という凄い人がいた。

 Uさんもその頃ゲームが大好きで、そのT橋名人にあこがれていた。

 ある日、Uさんが学校から帰ると、近所に住む一学年の下の幼馴染みの男の子H君が、こんなことを言ってきた。

 「Uちゃん、僕、T橋名人の電話番号教えてもらったんだ。一緒に電話で話そうよ!」

 「ええー! ホント⁉ 行く行く! ちょっと待ってて!」

 Uさんはランドセルを自宅に置くと、H君の家へ大喜びで素っ飛んでいった。

 この辺り、もう昔のことなので、Uさんの記憶もかなり曖昧あいまいらしい。H君がどこの誰からそのT橋名人の電話番号を教えてもらったのかを、その時に聞いたのかどうか、あるいは聞いたが忘れてしまっただけなのか、よく覚えていないとのこと。

 さて、UさんはH君の家へ行き、早速二人で一緒にダイヤルを回した。ちなみに、この時代はまだダイヤル式の黒電話も少なくなかった。

 何度かコール音が鳴り、電話が取られる。

 はい、もしもし、と男性の声。

 二人とも顔を見合わせ、興奮のあまり叫びそうになったが、何とか落ち着いて、H君から話し出した。

 「こ、こんにちは。初めまして。T橋名人ですか?」

 「そうだよ。電話ありがとう」

 「あの……十六連打、どうやってできますか?」

 と、今度はUさん。

 すると、T橋名人は笑いながら答えてくれた。

 「練習したんだよ。君達、名前は? 何年生? どこに住んでるの?」

 嗚呼ああ! 我々は今、憧れのT橋名人と言葉を交わしている! 

 二人とも嬉しくなり、自分の名前と学年、それに住所も教えた。

 「後で会いたいです! いつ会えますか⁉」

 Uさんがたずねた。

 その時、H君の母親が帰ってきた。

 「あ、お帰りなさい」

 「こんにちは。お邪魔してます」

 「? 二人とも、誰とお話ししてるの?」

 H君の母親が訊ねてきた。

 「T橋名人だよ! お母さんも話してみて!」

 H君が母親に受話器を渡した。

 H君の母親は受話器に耳を当てたが、??? な表情で首をかしげ、受話器を返してきた。

 「繋がってないけど?」

 『え?』

 今度はUさんとH君が首を傾げた。

 受話器を耳に当てたが、もう切れていた。

 結局、相手が何者だったのか、未だ謎のままである。
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