極東のアンブローズ

そうすみす

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第一章

6 攻めろと言われても、付け入る隙が見出せない。

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 政府や保安局がどうかかわってこようと、アンブローズであるわたし達のやる事は変わらない。
 
 紅衣貌ウェンナック退治たいじ。それがない日はひたすらお稽古けいこ
 
 なので、今日もオフィス地下にある演習室で訓練中。
 
 演習室はテニスコート十面分程度の広さで、天井てんじょうかべゆかも灰色のコンクリート製。換気用かんきようダクトがあるだけでまどはない。
 
 聞いた話では、オフィスとして使用しているこの建物自体、戦中せんちゅうまでは反戦団体のアジトになっていたらしい。きっと、ここで秘密の決起けっき集会とかおこなっていたのだろう。
 
 何はさておき、今は訓練の真っ最中さいちゅう。集中しなくては。
 
 ヘルメットと防具プロテクターを身に着け、木剣ぼくけんを手に、ノエル先輩と打ち合っていた。
 
 練識功アストラルフォース無しでの、純粋じゅんすいちからのみの剣術けんじゅつ練習である。練識功で筋力を強化すれば、木剣など簡単にれてしまうので。
 
 こうして地の力をきたえることで、練識功を発動はつどうしたさいの力の底上そこあげ効果が期待きたいできるのだ。
 
 上から下から横から、そしてななめからも、ノエル先輩の打ち込みは容赦ようしゃなくおそって来る。
 
 最近、ようやく受けてはらってかわしてと、かなり対応できるようになってきたが、一月ひとつき前までは惨憺さんたんたる有り様だった。
 
 「紗希、お前からもめろ! 防御ぼうぎょだけじゃ相手は倒せないぞ!」
 
 軍曹からげきが飛ぶ。
 
 攻めろと言われても、付け入るすき見出みいだせない。
 
 ノエル先輩はアンブローズに五年近くもいるのだ。まだ三か月程度のわたしとでは、実力の差は歴然れきぜんである。
 
 「ノエルも、腕の力だけじゃなくて、もっと腰と背中から振れ! それじゃすぐにバテるぞ!」
 
 今度はノエル先輩にも指導が入った。
 
 わたしから見れば相当レベルが高いノエル先輩でも、軍曹のにはまだまだ欠点だらけなのだろう。
 
 軍曹の言葉を意識したのか、一瞬、ノエル先輩の太刀筋たちすじにぶった。
 
 わたしはかさず手首を回転させて剣先をしばくように回し、ノエル先輩の木剣をからめ飛ばした。
 
 よし、もらった!
 
 わたしは大上段だいじょうだんに木剣を振り上げ、大きなストライドで一気にみ込む。
 
 ノエル先輩は軽いステップで半歩左へけてしゃがみ、右脚をわたしの足元にすべり込ませた。
 
 いわゆる足払あしばらい。
 
 いきおいの乗ったわたしは前方ぜんぽうへつんのめり、そのまま豪快ごうかいに三回前転した。
 
 とっても痛い。
 
 立ち上がろうとしたわたしの頭を、ノエル先輩の持つ木剣がコーン! と打った。
 
 速い。わたしが床を転がっている間に木剣を拾ったのだ。
 
 「よし、ストップ!」
 
 軍曹がパンパンと手を鳴らし、ブレイクを掛ける。
 
 ノエル先輩が右手を差し出してきたので、わたしはその手を取って立ち上がった。
 
 やっぱり優しいなぁ。それに強いしイケメンだしさわやかだし♥
 
 「ノエル。わざと武器を落として相手を油断させるのはいい作戦だったが、相手が複数いたら通用しないから気をつけろ。それと紗希、小器用こぎようなのは結構だが、自分より背の高い奴を相手に大上段で構えるな。そうでなくても攻撃は低く鋭くが基本だ。それに、お前さんの動きを見ていると、ノエルに勝てないのが前提ぜんていで立ち合っているように感じる。思い込みで自分の限界げんかいを決めるな」
 
 わたしのうちなるあきらめさえも、軍曹はお見通みとおしだった。
 
 「じゃあ少し休憩きゅうけいだ」
 
 軍曹は演習室をあとにし、階段を上って行った。
 
 わたしとノエル先輩はヘルメットと防具をはずし、演習室のすみにあるベンチに座ってポットからコップに水をそそいだ。

 階段上のドアがバタンと閉まり、軍曹の足音が小さくなっていった。
 
 「ねえ、紗希ちゃん」
 
 足音が遠ざかったのを待ちねたように、ノエル先輩が切り出した。
 
 「軍曹、最近せたと思わない?」
 
 「わたしも……そんな気がしてました」
 
 勘違かんちがいしないでほしい。憧れのノエル先輩にその場のノリで話を合わせたわけではなく、わたしも本当にそう思っていたのだから。
 
 痩せたと言うかこけたと言うか……? それほど極端きょくたんにではないのだが、健康的に引きまったのとも違う、おかしな痩せ方。
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