6 / 41
第一章
6 攻めろと言われても、付け入る隙が見出せない。
しおりを挟む
政府や保安局がどう関わってこようと、アンブローズであるわたし達のやる事は変わらない。
紅衣貌の退治。それがない日はひたすらお稽古。
なので、今日もオフィス地下にある演習室で訓練中。
演習室はテニスコート十面分程度の広さで、天井も壁も床も灰色のコンクリート製。換気用ダクトがあるだけで窓はない。
聞いた話では、オフィスとして使用しているこの建物自体、戦中までは反戦団体のアジトになっていたらしい。きっと、ここで秘密の決起集会とか行っていたのだろう。
何はさておき、今は訓練の真っ最中。集中しなくては。
ヘルメットと防具を身に着け、木剣を手に、ノエル先輩と打ち合っていた。
練識功無しでの、純粋に地の力のみの剣術練習である。練識功で筋力を強化すれば、木剣など簡単に折れてしまうので。
こうして地の力を鍛えることで、練識功を発動した際の力の底上げ効果が期待できるのだ。
上から下から横から、そして斜めからも、ノエル先輩の打ち込みは容赦なく襲って来る。
最近、ようやく受けて払って躱してと、かなり対応できるようになってきたが、一月前までは惨憺たる有り様だった。
「紗希、お前からも攻めろ! 防御だけじゃ相手は倒せないぞ!」
軍曹から檄が飛ぶ。
攻めろと言われても、付け入る隙が見出せない。
ノエル先輩はアンブローズに五年近くもいるのだ。まだ三か月程度のわたしとでは、実力の差は歴然である。
「ノエルも、腕の力だけじゃなくて、もっと腰と背中から振れ! それじゃすぐにバテるぞ!」
今度はノエル先輩にも指導が入った。
わたしから見れば相当レベルが高いノエル先輩でも、軍曹の眼にはまだまだ欠点だらけなのだろう。
軍曹の言葉を意識したのか、一瞬、ノエル先輩の太刀筋が鈍った。
わたしは空かさず手首を回転させて剣先をしばくように回し、ノエル先輩の木剣を絡め飛ばした。
よし、もらった!
わたしは大上段に木剣を振り上げ、大きなストライドで一気に踏み込む。
ノエル先輩は軽いステップで半歩左へ避けてしゃがみ、右脚をわたしの足元に滑り込ませた。
いわゆる足払い。
勢いの乗ったわたしは前方へつんのめり、そのまま豪快に三回前転した。
とっても痛い。
立ち上がろうとしたわたしの頭を、ノエル先輩の持つ木剣がコーン! と打った。
速い。わたしが床を転がっている間に木剣を拾ったのだ。
「よし、ストップ!」
軍曹がパンパンと手を鳴らし、ブレイクを掛ける。
ノエル先輩が右手を差し出してきたので、わたしはその手を取って立ち上がった。
やっぱり優しいなぁ。それに強いしイケメンだし爽やかだし♥
「ノエル。わざと武器を落として相手を油断させるのはいい作戦だったが、相手が複数いたら通用しないから気をつけろ。それと紗希、小器用なのは結構だが、自分より背の高い奴を相手に大上段で構えるな。そうでなくても攻撃は低く鋭くが基本だ。それに、お前さんの動きを見ていると、ノエルに勝てないのが前提で立ち合っているように感じる。思い込みで自分の限界を決めるな」
わたしの内なる諦めさえも、軍曹はお見通しだった。
「じゃあ少し休憩だ」
軍曹は演習室を後にし、階段を上って行った。
わたしとノエル先輩はヘルメットと防具を外し、演習室の隅にあるベンチに座ってポットからコップに水を注いだ。
階段上のドアがバタンと閉まり、軍曹の足音が小さくなっていった。
「ねえ、紗希ちゃん」
足音が遠ざかったのを待ち兼ねたように、ノエル先輩が切り出した。
「軍曹、最近痩せたと思わない?」
「わたしも……そんな気がしてました」
勘違いしないでほしい。憧れのノエル先輩にその場のノリで話を合わせたわけではなく、わたしも本当にそう思っていたのだから。
痩せたと言うかこけたと言うか……? それほど極端にではないのだが、健康的に引き締まったのとも違う、おかしな痩せ方。
紅衣貌の退治。それがない日はひたすらお稽古。
なので、今日もオフィス地下にある演習室で訓練中。
演習室はテニスコート十面分程度の広さで、天井も壁も床も灰色のコンクリート製。換気用ダクトがあるだけで窓はない。
聞いた話では、オフィスとして使用しているこの建物自体、戦中までは反戦団体のアジトになっていたらしい。きっと、ここで秘密の決起集会とか行っていたのだろう。
何はさておき、今は訓練の真っ最中。集中しなくては。
ヘルメットと防具を身に着け、木剣を手に、ノエル先輩と打ち合っていた。
練識功無しでの、純粋に地の力のみの剣術練習である。練識功で筋力を強化すれば、木剣など簡単に折れてしまうので。
こうして地の力を鍛えることで、練識功を発動した際の力の底上げ効果が期待できるのだ。
上から下から横から、そして斜めからも、ノエル先輩の打ち込みは容赦なく襲って来る。
最近、ようやく受けて払って躱してと、かなり対応できるようになってきたが、一月前までは惨憺たる有り様だった。
「紗希、お前からも攻めろ! 防御だけじゃ相手は倒せないぞ!」
軍曹から檄が飛ぶ。
攻めろと言われても、付け入る隙が見出せない。
ノエル先輩はアンブローズに五年近くもいるのだ。まだ三か月程度のわたしとでは、実力の差は歴然である。
「ノエルも、腕の力だけじゃなくて、もっと腰と背中から振れ! それじゃすぐにバテるぞ!」
今度はノエル先輩にも指導が入った。
わたしから見れば相当レベルが高いノエル先輩でも、軍曹の眼にはまだまだ欠点だらけなのだろう。
軍曹の言葉を意識したのか、一瞬、ノエル先輩の太刀筋が鈍った。
わたしは空かさず手首を回転させて剣先をしばくように回し、ノエル先輩の木剣を絡め飛ばした。
よし、もらった!
わたしは大上段に木剣を振り上げ、大きなストライドで一気に踏み込む。
ノエル先輩は軽いステップで半歩左へ避けてしゃがみ、右脚をわたしの足元に滑り込ませた。
いわゆる足払い。
勢いの乗ったわたしは前方へつんのめり、そのまま豪快に三回前転した。
とっても痛い。
立ち上がろうとしたわたしの頭を、ノエル先輩の持つ木剣がコーン! と打った。
速い。わたしが床を転がっている間に木剣を拾ったのだ。
「よし、ストップ!」
軍曹がパンパンと手を鳴らし、ブレイクを掛ける。
ノエル先輩が右手を差し出してきたので、わたしはその手を取って立ち上がった。
やっぱり優しいなぁ。それに強いしイケメンだし爽やかだし♥
「ノエル。わざと武器を落として相手を油断させるのはいい作戦だったが、相手が複数いたら通用しないから気をつけろ。それと紗希、小器用なのは結構だが、自分より背の高い奴を相手に大上段で構えるな。そうでなくても攻撃は低く鋭くが基本だ。それに、お前さんの動きを見ていると、ノエルに勝てないのが前提で立ち合っているように感じる。思い込みで自分の限界を決めるな」
わたしの内なる諦めさえも、軍曹はお見通しだった。
「じゃあ少し休憩だ」
軍曹は演習室を後にし、階段を上って行った。
わたしとノエル先輩はヘルメットと防具を外し、演習室の隅にあるベンチに座ってポットからコップに水を注いだ。
階段上のドアがバタンと閉まり、軍曹の足音が小さくなっていった。
「ねえ、紗希ちゃん」
足音が遠ざかったのを待ち兼ねたように、ノエル先輩が切り出した。
「軍曹、最近痩せたと思わない?」
「わたしも……そんな気がしてました」
勘違いしないでほしい。憧れのノエル先輩にその場のノリで話を合わせたわけではなく、わたしも本当にそう思っていたのだから。
痩せたと言うかこけたと言うか……? それほど極端にではないのだが、健康的に引き締まったのとも違う、おかしな痩せ方。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)
排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日
冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて
スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる
強いスキルを望むケインであったが、
スキル適性値はG
オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物
友人からも家族からも馬鹿にされ、
尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン
そんなある日、
『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。
その効果とは、
同じスキルを2つ以上持つ事ができ、
同系統の効果のスキルは効果が重複するという
恐ろしい物であった。
このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。
HOTランキング 1位!(2023年2月21日)
ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)


せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる