上 下
3 / 11

第三話

しおりを挟む
 休憩室の前まで到着し入ろうとすると、ドアが少し開いており、中から人の声がする。使用中だとアルベルト様を振り返るが、アルベルト様が、人差し指を口に当てて、静かにするよう伝えてくる。
 不思議に思っていると、中から男の人の声が聞こえてきた。
 そしてドアの隙間から、抱き合って口付けをしている2人の男性が見える。


「僕以外の男にあんなに愛想を振りまいて話すなんて。アーノルド、君にはキツいお仕置が必要なようだね」

「ごめんよ、ザカリー。許して……あっ!」

 そして、熱い抱擁を交わしながら、ソファに倒れ込んだ。

 ええええええ~!
 うそ~!こんな所で!?
 すごい場面を見てしまったぁ!

 ……って、ちょっと待って?
 アーノルド……アーノルド……
 えっ! 宰相おじ様!?
 あっ! 相手の人、迎えに来てた宰相補佐官だ!
 なんてこと!
 男色家だったの!? 
 しかも、受け身の方なの~!?

 
 あまりのショックに、私は口が開いたままその場を動く事が出来なかった。
 そんな私を、
「ジル、行くよ。ジルには刺激が強すぎる」
と、アルベルト様が私の手を引いて、その場から連れ出してくれる。

 ……でも。

「口が……! ジル、口が開いたまま……ククッ」
と、肩を震わせて笑いながらだったけれど!


 結局またパーティ会場に戻り、人混みを避けて休憩する為に、バルコニーに出た。

「飲み物を取ってくるね」

 アルベルト様がそう言って、中に取りに行ってくれる。
 私は夜風に当たりながら、それを待っていた。



「あら、ハミルトン伯爵令嬢じゃありませんの。こんな所で1人とは、アルベルト殿下に愛想でも尽かされたのかしら」
と、バーベラ・フェリス侯爵令嬢が、いつもの様に取り巻きを従えて、笑いながら話しかけてきた。
 
「……ごきげんよう。フェリス侯爵令嬢」

 一応挨拶をしておく。

 この方は、幼い頃、アルベルト殿下の婚約者候補として、私と共に名前が上がった方だ。
 私が婚約者に決まった事を、許せないらしい。あの頃から、私に色々の難癖を付けてくるのだ。

「アルベルト様は今、飲み物を取りに行ってくれているのです」

 私がそう伝えると、
「まぁ! 殿下を使うなんて、なんて身の程を弁えない方なんでしょう! 本当にアルベルト殿下がお気の毒ですわ!」

 そうでしょう皆様、と取り巻き達と蔑むように笑いながら言ってくる。

 懲りないなぁ。こういう時、必ずと言っていい程アルベルト様はやってくるのに。


「ジル、お待たせ。……何かあったの?」

 ほら来た。いつも絶妙なタイミング。
 
 そしてフェリス侯爵令嬢の姿を発見して、すぐにアルベルト様は警戒態勢を取る。

「フェリス侯爵令嬢、これは一体?」

「これはアルベルト殿下。ご挨拶申し上げますわ。別に何もありませんのよ。
 ハミルトン伯爵令嬢が、お1人でしたので、お声を掛けていただけですわ」

 フェリス侯爵令嬢が平然とした様子で答える。

「ジル、本当に?」

 アルベルト様の問いに、
「はい。お声を掛けて頂いただけですわ。
 今は

 シレッと答えると、フェリス侯爵令嬢は口元を扇で隠しながら、鋭く私を睨んでくる。

 そんな私達を見て軽く溜め息を吐いた後、
「では、私達はこれで失礼する。行こうか、ジル」

 アルベルト様は私をエスコートしながら、この場から離れた。


 結局、パーティ会場の中に戻り、そこで持ってきて頂いた果実水を飲んで、小休憩を取る。
「ジル、フェリス侯爵令嬢にまた意地悪されたんじゃないの?」
と、アルベルト様が心配そうに聞いてくる。

「大丈夫ですわ。気になさらないで下さいませ」

 笑顔で答える。
 うん、本当に大丈夫なんだよね。
 だって、幼い時からよ?
 しかも嫌味程度だし、そんなの慣れちゃうわ。

 それからも、適度にダンスをしたり、用意されてある軽食をつまんだりしながら、その日は帰宅した。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。

window
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。 幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。 一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。 ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。

性悪な友人に嘘を吹き込まれ、イケメン婚約者と婚約破棄することになりました。

ほったげな
恋愛
私は伯爵令息のマクシムと婚約した。しかし、性悪な友人のユリアが婚約者に私にいじめられたという嘘を言い、婚約破棄に……。

私はあなたの前から消えますので、お似合いのお二人で幸せにどうぞ。

ゆのま𖠚˖°
恋愛
私には10歳の頃から婚約者がいる。お互いの両親が仲が良く、婚約させられた。 いつも一緒に遊んでいたからこそわかる。私はカルロには相応しくない相手だ。いつも勉強ばかりしている彼は色んなことを知っていて、知ろうとする努力が凄まじい。そんな彼とよく一緒に図書館で楽しそうに会話をしている女の人がいる。その人といる時の笑顔は私に向けられたことはない。 そんな時、カルロと仲良くしている女の人の婚約者とばったり会ってしまった…

幼馴染の許嫁は、男勝りな彼女にご執心らしい

和泉鷹央
恋愛
 王国でも指折りの名家の跡取り息子にして、高名な剣士がコンスタンスの幼馴染であり許嫁。  そんな彼は数代前に没落した実家にはなかなか戻らず、地元では遊び人として名高くてコンスタンスを困らせていた。 「クレイ様はまたお戻りにならないのですか……」 「ごめんなさいね、コンスタンス。クレイが結婚の時期を遅くさせてしまって」 「いいえおば様。でも、クレイ様……他に好きな方がおられるようですが?」 「えっ……!?」 「どうやら、色町で有名な踊り子と恋をしているようなんです」  しかし、彼はそんな噂はあり得ないと叫び、相手の男勝りな踊り子も否定する。  でも、コンスタンスは見てしまった。  朝方、二人が仲睦まじくホテルから出てくる姿を……  他の投稿サイトにも掲載しています。

必要ないと言われたので、元の日常に戻ります

黒木 楓
恋愛
 私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。  前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。  その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。  森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。  数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。  そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。

王子様、あなたの不貞を私は知っております

岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。 「私は知っております。王子様の不貞を……」 場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で? 本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。

最後の思い出に、魅了魔法をかけました

ツルカ
恋愛
幼い時からの婚約者が、聖女と婚約を結びなおすことが内定してしまった。 愛も恋もなく政略的な結びつきしかない婚約だったけれど、婚約解消の手続きの前、ほんの短い時間に、クレアは拙い恋心を叶えたいと願ってしまう。 氷の王子と呼ばれる彼から、一度でいいから、燃えるような眼差しで見つめられてみたいと。 「魅了魔法をかけました」 「……は?」 「十分ほどで解けます」 「短すぎるだろう」

処理中です...