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ルイジアス殿下が帰ったあと、私は母や弟たちに、マーク王子の来訪予定を告げた。
 父はまだ帰って来ていないが、多分皇城で聞いていることだろう。

 家族は皆、驚き、弟たちはあからさまに嫌な顔をしていた。
 母や弟たちに残った精神的苦痛は、すぐには治らない。
 パーティに参加するのは、父と私だけで良いだろう。

 まずは心のリハビリから始めてほしいと思う。
 

 この国に来てから、私は家族の為に何が出来るかを考えた。
 そして、精霊たちとも相談し、考えついたのが精霊の癒しの力で母や弟たちの心や体調を整えていくことだった。
 
 家族の為に毎日花茶を入れたり、加護付きの草花でお菓子などを作った。
 母は随分と体調が良くなってきていたのでまずは一安心だ。
 また、捕まっていた頃の恐怖を思い出して、時々夜中に泣き叫ぶルディックには、心が穏やかになるよう、ポプリで作った枕で休んでもらうようにした。
 最近は泣き叫ぶことも無く、朝までぐっすり眠れているようで、毎日元気一杯だ。
 一見何事も無いように見えるルアンも、本当は慣れない国に来て、もうすぐ帝国の学園にも入学する為、常に緊張して疲れているようだ。
 だから私は、緊張が解れるようにルアンの部屋に、植物から抽出して作ったアロマオイルを焚いて、香りでリラックスしてもらった。
 ちなみにこのアロマオイルは、私を含め家族全員がお気に入りで、入浴する時や、お茶などにも数滴垂らして使っている。
 今後、与えられた領地の植物を使って、侯爵家の特産品としてアロマオイルを使った商品を作って売り出せば、いい収入源になるのではないかしら?
 この帝国で、ちゃんと地盤を築いて生きていく為にもちゃんと家族と相談して決めて行かないと。
 その為には、堂々とこの国で生きていく事を、王国にも知らしめなければならない。
 
 流されるままに、この国に来て、この先も姿を見せないままひっそりと生きていくなんてごめんだわ。

 マーク王子が来訪した時、その時に決着をつけよう。


 私はそう固く自分に誓った。






 そして、マーク王子がカルスティン帝国到着日となり…………



 マーク王子はカルステイン帝国に着いた時、あまりの祖国との違いに驚きを隠せなかった。
 天候に恵まれ、空気は澄んでおり、青々とした緑に溢れる草木や、色とりどりの花が咲き乱れている。
 帝都内は、品物も豊富で活気に溢れ、そこに暮らす人々の表情も明るい。

 長雨が降り出す前の王国も、このような感じであった事を思い出し、悔しくて歯噛みする。
 
 (ルナリアがいた時は、我が国もこんなに自然に恵まれていたのに! 何がなんでもルナリアを連れ戻してみせる! 
 そして帝国からの救済支援を受けて王国を復興し、以前の活気溢れる国に戻さなくては!)
と、マーク王子は強い決意を固めた。




 帝都内ある皇城に到着したマークを、ルイジアスが迎え入れた。


「やぁ、随分と久しぶりだね、マーク王子。
 元気にしてたかい?」

「久しぶりだと!?
……あ、いや。
……これはルイジアス皇太子。相変わらずお元気そうで何よりです。この度は急な訪問にも関わらず快く受け入れて頂き、ありがとうございます」

「そんな堅苦しい挨拶はいらないよ。昔は私の方がよくそちらに訪問させてもらっていたからね」

 にこやかに答えるルイジアスに、マークはつい訝しげに見てしまう。


 (何が久しぶりだ! 先日王国に来ていたのをなかった事にするつもりだな!
 そうやってルナリアとの関係を隠すつもりだろうが、そうはいくか!)
 
 そう考えているマークに、
「今日は疲れただろう? 歓迎パーティの用意があるんだ。陛下への謁見は後日にしてもらう予定にしてある。
 色々な話は歓迎パーティの後という事で、今日はゆっくり身体を休めてくれ。出来る限りのもてなしはさせてもらうよ」
と、ルイジアスは好意的に接する。

 その言葉通り、豪華な晩餐から、快適な客室などで、マークはもてなされていた。

(本来の僕は、このような待遇が当たり前だったのだ! 国があんな状態にならなければ、今でもこことそう変わらぬ待遇で過ごせていたのに!)

 数日後には、マークをもてなす歓迎パーティも開かれるとの事。
 ルイジアスの意図は分からないが、そのパーティでこの国の他の貴族たちとも交流を持ち、ルナリアの行方と支援要請の手助けをしてもらおうと考えていた。
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