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しおりを挟む国王とマーク王子の言い争いが続く中、ルナリアははっきりと2人に告げた。
「今更ですわ。謝ってもらう必要はありません。わたくしは国外追放のままで結構ですわ」
そう言った後、私は精霊王様に願い出た。
「精霊王様、わたくしは母や弟たちが心配なのです。それにわたくしを全力で守って下さったルイジアス殿下の怪我の具合も心配で……お力をお借り出来ませんか?」
『大丈夫だ。すでに精霊たちに守らせて、お前の家族はみんな無事にこの場より抜け出しておる。
その者と共に家族の元まで、飛ばしてやろう。着いた先で、精霊たちが持っている花を煎じて傷口に塗ればよい。癒しの力が働いてすぐにでも良くなるだろう』
精霊王様のその言葉に、ホッと胸を撫で下ろす。
「良かった。では精霊王様、よろしくお願いいたします。ルイジアス殿下、もうしばらく我慢して下さいませね」
「こんな傷、全然大丈夫だ。気にしなくていい。それよりも一刻も早くシュナイダー殿や母君達と合流しよう」
『我もこの場にもう用はないから、すぐに立ち去るとしよう。
では飛ばすぞ』
そうして、私達はその場から姿を消した。
「消えた……」
「いなくなった……」
突然目の前に居た人物たちが忽然と居なくなったことに、皆、目を疑った。
そして、ある変化に気付く。
「あ……雨が……」
「止んでいた雨が、いつの間にかまた……」
祭儀場に居た観衆の誰かがそう言った。
ルナリア達がこの国に来てから、小降りになり、祭儀場にいた時には久しぶりに雨は止んでいた。
しかし、ルナリアや精霊王が居なくなった途端に再び降り始めた雨。
その真実に気付いた時にはすでに遅く……。
「あの女の人が精霊王の愛し子……」
「俺たちは、あの人の家族になんて事を……」
「王家に俺たちは騙されたんだ!」
「そうだ! 元を辿ればマーク王子があの人を国外追放なんかするから悪いんだ!」
「そうだ! 王家のせいだ!」
民衆の怒りが、その場にいたマーク王子に矛先を向け非難が集中し始める。
「なっ! 衛兵たち! 城に戻るぞ! 私を守れ!」
そう言って、マーク王子はその場をそそくさと去っていく。
王族席に居た陛下達も一旦城に引き上げる事とし、そのまま祭儀は中止となった。
ルナリア達は王都の外れの、とある屋敷に着いていた。
「ここは?」
私の問いにルイジアス殿下が答える。
「ここは、カルステイン帝国の諜報員が使う屋敷だ。ここにはカルステインの者しかいないから安心していい」
「そうなのですね。精霊王様がここに送ってくれたという事は、お母様たちはここに無事に着いているって事ですよね。
あら? 精霊王様は?」
「ここには来られなかったようだな。姿がみられない」
「そうなのですね……。お礼を言いそびれてしまいましたわ……」
「大丈夫だ。ルナリア嬢なら精霊王様にまた会えるだろう?
さぁ、今は母君たちに会いに行こう」
ルイジアス殿下がそう言って、屋敷の中に案内してくれる。
そこに入ると、捕まっていた母や、弟たちが父と共にいた。
「お母様!」
私は泣きながら母に駆け寄って抱きついた。
「ルナリア! 心配してたの!
大丈夫? 怪我はしてない?」
お母様は自身を気にせず、私を心配する。
その言葉に、涙が止まらない。
「ごめんなさいお母様! 私のせいで酷い目に遭わせてしまった……」
そして、隣りにいる弟たちにも目を向ける。
「ルアン、ルディック。貴方達も本当にごめんなさい。怖かったよね?」
私の言葉に弟たちは、私に抱きつく。
「姉様! 姉様が死んだと思った時の方が怖かったよ!」
「僕、怖かったけど、姉様のせいじゃないって分かってるもん!」
とても怖い思いをしただろうに、健気に私を気遣ってくれる。
そんな母や弟たちを助け出す事が出来たことに、父やルイジアス殿下を始め、協力してくれた全ての人に感謝した。
もちろん、助け出すきっかけを与えてくれた精霊王様や精霊たちにも。
『あの雷や雨風は、ルナの気持ちが僕達みんなに伝わったからだよ』
『森の木々達にも伝わって、木々が暴れたんだ~』
『精霊王様も助けてくれたしね~』
精霊たちの言葉に、無意識とはいえ、自分の力が怖くなる。
あの暴風雨で、被害を受けた民達の事を思うと、罪悪感でいっぱいになるが、それと同時に祭儀場で見た狂気的な民衆の姿がよぎると、複雑な気持ちにもなる。
そんな私の心情が分かったのだろう。
「ルナリア嬢。今は、母君や弟君たちを無事に助け出せた事だけを喜ぼう。
これから貴方の家族と共に帝国まで行き、家族の安全を確保してから、この王国の民を助けるかどうかを考えればいいさ」
ルイジアス殿下が、私に寄り添ってそう言ってくれた。
「はい、ルイジアス殿下。殿下も本当にありがとうございました。
さっそく傷薬を作りますので、殿下も身体を休めて下さいませ」
そう言って、精霊たちに手伝って貰いながら、ルイジアス殿下用の傷薬を作成する。
また、やつれてしまったお母様や弟たちの為にも、以前アンナちゃんに作った、花ゼリーを作って、元気を取り戻してもらおうと思った。
「あまり、ここではゆっくりしてられない。悪いが一刻も早くここを発ち、カルステイン帝国に向かおう」
父の言葉に皆が頷き、準備が出来次第カルステイン帝国に向けて出発することとなった。
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