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17マーク王子視点 ①

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 この頃、王国が荒れている。
 雨が降り続き、一向に止む気配がない。
 そのせいで、道はぬかるみ、土砂崩れも起きている場所もあり、流通がストップして市井は常に品薄状態だ。
 木々や作物も軒並み枯れ始め、最近では、流行病も国中に拡がりつつある。
 父である陛下は、この状況の対応に追われているが、良い解決策もなく民衆からの不満が募っており、常に不機嫌になっている。
 こんな状態では、愛しのアイーシャとの婚約を願い出ることは出来ない。

 せっかくルナリアを国外追放したのに、アイーシャとの仲もなかなか認めて貰えず、アイーシャからも、どうなっているのかと問われるばかりだ。
 早くしないと、他の連中にアイーシャを奪われてしまうというのに!

 アイーシャとは学園で、ある事をきっかけに出会った。初めて出会った時のアイーシャは、男爵家に養女として引き取られたばかりで、貴族令嬢のような洗練された礼儀作法は全く身に付けていなかった。
 しかし、それを補って余りある可憐さと、くるくる変わる表情の愛らしさに、僕はやられてしまった。
 しかも、胸が大きいのも魅力の一つだ!
 
 勉強や礼儀作法の練習も、一生懸命努力している姿は僕だけでなく、他の男連中の目をも奪ってしまう程で、数多くいるライバルの中から、ようやく勝ち取ってアイーシャを射止めたというのに。

 あの女を追放した事で、王太子の地位を弟に奪われてしまい、アイーシャとの仲もまだ陛下に認められていないなんて、こんなはずではなかった。

 大体、陛下の不機嫌な理由は、この非常時に本来対応すべきシュナイダー公爵がいないからだ。
 あの女を探しに魔物の森になんか入り、国を守らなければならない立場の公爵が、仕事を放棄するから!
 だからこのような事態になった今、陛下がその分を補う為に忙殺されているのだ!
 全くあの一家は疫病神だな!
 とりあえず、もう一度陛下に会って、アイーシャと婚約したいと願い出てみよう。


 そう思って、陛下を尋ねる。
「失礼します」

 部屋を入ると、陛下は宰相と真剣な表情で何やら話している。

「何だいきなり。何か報告でもあるのか?」

 陛下に鋭く見据えられて、アイーシャの事を言い出せる雰囲気ではない。
 
「い、いえ。この非常時ですので、僕にも何か出来る事はないかと思いまして」
 とっさに誤魔化してみる。

「そうか、ようやく王子としての自覚が出たようだな。」
 陛下の表情が少し柔らかくなる。
「まぁ、お前も話しを聞くがよい。宰相がこの事態に関する事を調べて来たのだ。」

 僕は陛下の言葉に頷き、宰相に目を向ける。

「マーク王子はご存知ですかな? 本来この地は人が住むには不向きであったことを。
 建国当初の史書にそのような事が書いてありました。
 もともとこの地は地形の問題により、雨が降ると洪水が起きたり、土砂災害の危険が多く、あまり人が居なかったそうです。
 しかし初代国王が、精霊の力を借りて災害の危険性を回避し、作物が生い茂る豊かな国にしたとあります」
と、宰相が説明した。

「精霊だと? ただのお伽噺だろう。そんなくだらないことを調べていたのか?」
 
「そうだとも。精霊などいるはずかない」
 陛下の言葉に僕も同意した。

 宰相は困惑した表情で、
「しかし地形的には、その史書にある通りである事が専門家の調べでわかりました。
 精霊の存在は、私も信じ難いことですが、何かしらの力が関わっていたのは確かかと」
と話す。

「何故今になって、その力とやらが働かなくなったのだ? その力とは何なのだ!」
 陛下は、原因がさっぱり分からずイラついている。

「分かりませんが、最近でこの国から何かが無くなったものはありませんでしたか?
 何かが壊れたとか、紛失したとか」

 3人で考えてみるが、一向に思い当たらない。
 その時、ふいにルナリアを思い出した。

「ルナリアが居なくなってから?」

 ポツリとその言葉が口を出る。
 そうだ、ルナリアを国外追放してから、雨が降り続けている。シュナイダー公爵が国を出て魔物の森に行った時は、既に雨が振り続けていたから、シュナイダー公爵は関係ないだろう。
 そう思いだすと、その考えが止まらなくなった。

「ルナリア嬢ですか? 確かあの娘が国外追放された時は、何も持たされずに出たとか。」

「小娘一人いなくなった所で、この災いが関係するとは到底思えない。
 それに例え何か知っていたとしたとしても、もう生きてはいまい。何かを聞き出す事も出来まいて」

 陛下の言葉に宰相は顔をしかめる。

「では、シュナイダー公爵はどうでしょう?
 彼なら何か知っているかも知れません。
 シュナイダー家は、王国設立当初より王家に仕えている家門。何かしらの資料などが家に残っているやも知れませんぞ」

 宰相の言葉に、陛下はニヤリと頷く。
「そうであるな。公爵がいない今、彼奴に聞くことも出来ぬ。ならば屋敷を調べて、何か隠しているものはないか探そうではないか。
 これは、王国の一大事に関わる事ゆえ、国王の権限にて、シュナイダー公爵家の家宅捜索を行なう事とする」

 その陛下の言葉に、願い出るチャンスだと思った。

「陛下! ぜひ捜索の指揮を僕に任せて頂きたい! もし、捜索にて今回の事態に関わる何かを見つけた暁には、褒美として僕の願いを聞き入れて欲しいのです!」

「お前の願いとは何だ?」

 僕が名乗り出てそう叫ぶと、陛下が聞いてくる。

「僕をまた王太子に戻して下さい! そして、アイーシャとの婚約を認めて頂きたいのです!」

 その願いを聞いて、陛下は暫く考えたあと、
「良かろう。もし、国に災いを齎した原因がシュナイダー家、もしくはルナリアにあるのならば、お前が国外追放したのは正統な判断だ。であるなら、王太子に戻る事もまた当然。そして、そのお前が選んだ娘ならば間違いはなかろう」

「ありがとうございます!」

 やった! 陛下の言質は取った!

「では、国民の不満も、シュナイダー公爵家に向けさせましょう。ルナリア嬢が国外追放を逆恨みして、我が国に呪いを掛けたと。
 そうすれば、国民の怒りは公爵家に向き、公爵家の悪事の証拠を掴む為に奔走するマーク王子殿下も、一目置かれますぞ」

 宰相の言葉に俄然やる気が出る。

 何がなんでも、この事態の原因を掴まなければ! 
 シュナイダー公爵があの屋敷にいない今なら、好きなように捜索出来る!
 何だったら、あの屋敷に残っている公爵夫人や、子供たちに問い詰めて、口を割らせればいいだろう!

 アイーシャ、待っててくれ!

 愛しいお前との未来を僕は守ってみせるからね!
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