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 私が目を開けると、そこは何処かの部屋の中だった。しかし、普通の部屋ではなく、周り一面がダイヤモンドで出来ているようにキラキラ光っている。だが、床はクッションフロアのように柔らかく温かい。応接セットようなものが置いてあるが、全てが見たことの無い素材で出来ており、素材の中に光が閉じ込められているような、不思議な光を放っていた。

 横に目を移すと、うつ伏せで倒れているルイジアスを見つけた。
「ルイジアス殿下!」
 慌ててルイジアス殿下に駆け寄ると、
『今は気を失っているだけだ。心配ない』
と、声が聴こえた。
 その声の方を見ると、そこには全身が神々しく光り、背中に翼をもった金色の長い髪とは瞳を持った1人の麗人が立っていた。

「……もしかして精霊王様でしょうか?」
 私の問いに頷く。

「そうだ。私はお前と逢うのを楽しみにしていたよ」
と、微笑みを浮かべながらそう言った。


「精霊王様、お初にお目にかかります。
 もしかして、精霊王様がわたくし達をここに呼んで下さったのですか?」

 私の言葉に肩を竦めながら、
「そっちの男を呼んだ覚えはないが、ルナリアに勝手に付いてきたみたいだな」
と、呆れている。

「お前がここに来たいと願ったのだろう?
ここは、お前たちで言う所の魔物の森だよ」

精霊王様がそう言った。

 私はその言葉を聞き、精霊王様に懇願した。

「精霊王様! お願いします! 父を、父をどうか助けてくださいませんか? 
 父たちは、わたくしを助け出そうとこの森に入ったそうなのです!
 どうか、お願いします!」

 精霊王様は小さくため息をついたあと、首を横に振る。
「ここは、古の頃より人間は不可侵としてきたのだ。これはロックウェル王国設立時に初代国王との約束の1つでもある。
 それを守る事で、人間に力を貸したのだ。
しかし、人間は忘れる生き物。
 入ればどうなるのか、それはその身で知ればいい。
 それを長い間、守ってきたからこそ、この森は今も、昔のままの状態を保っているのだ。
 例外は愛し子であるお前以外はないのだよ」

 私だけ例外って、何!?
 そんなの頼んでないわ!

 そんな私の気持ちをまるで弄ぶみたいに、精霊王様が意地悪な笑みを浮かべる。

「どうしてもと言うのなら、1人だけ助けよう。その場合、そこの気を失っている男も数に含まれていると思え。
 さあ、お前は誰を助ける?」

 そういって、私に答えを迫ってくる。


 私は、精霊王様の一方的な言葉に、ふつふつと怒りが湧いてきた。


 何が例外よ!
 何が愛し子よ!
 こんな人?の愛し子なら、こちらからお断りだわ!


 そんな時、横から殿下の声が聴こえた。

「うぅ……! ここは!? ルナリア嬢! 無事か!?」
 
 ルイジアス殿下は目覚め、すぐ私に聞いてくる。

「殿下、お目覚めになられたのですね? わたくしは大丈夫です。殿下は大丈夫ですか?」

「あぁ、私も大丈夫だ。……ここは? やたらと大きな光で眩しいのだが……」

 どうやら、ルイジアス殿下には精霊王様が見えていないようだ。

「精霊王様の部屋だそうです」

 私がそう答えると、ルイジアス殿下はとてもびっくりしていた。

「精霊王様の部屋!? 私には見えないのだが、もしかしてあの神々しい程の大きな光がそうなのか!?」

 どうやらルイジアス殿下には、光として見えているらしい。
 そのやり取りを見ていた精霊王様が、面白くなさそうに話し出す。

『もう気付いたのか。そこの者、我と愛し子との会話を邪魔するでない。
 さぁ、ルナリアよ。先程の返事を聞かせろ。誰を1人だけ助ける?』

「! 1人だけ? どういう事だ!?」

 どうやらルイジアス殿下は、精霊王様の声は聞こえているようだ。
 私たちの雰囲気を感じ取り、すぐに私の前に出て、精霊王様から私を庇うように、自分の背に隠す。

『……お前、会話の邪魔をするなと言っておるのに。お前も森に飛ばすか……』

 不機嫌そうに精霊王様がそう呟く。
 その言葉を聞いて、ますます私は精霊王様に怒りを感じた。


「分かりました。もう精霊王様には頼みません」

 無表情にそう答えた私に、精霊王様は目を見開く。
 そしてルイジアス殿下を見て、お願いをした。


「ルイジアス殿下、父を助け出したいのです。私に協力してもらえませんか?」

「もちろん。一緒に貴方の父君たちを助けに行くよ」
と、力強く頷いてこちらを見る。


「では、お邪魔致しました。貴方様とは二度とお会いすることはないと思います」

 精霊王様に向かってそう言った私は、さっそくこの部屋から出ようと出口を探すが、出口が見当たらない。
 精霊王様への怒りや、父に対する心配で心に余裕が持てない私は苛立ちで、どうにかなりそうだった。
 
「もう! 出口は何処ですか!?」
 そう言って思わず傍にあった木の枝を掴むと、木の枝が突然光を放ちながら、斧のような形に変形した。


 あら素敵。これで壁をぶち壊してやるわ。


 勢いよくそれを壁に向かって振り下ろそうとすると、
「わぁぁぁ! 待て! 意地悪が過ぎた!
 ちゃんと助けるから! そう怒るな!
 なんて物に変えるんだ!?」

 慌てて精霊王様が私を止めた。


「お前は本当に変わらない……いや、お前の前世の前世か? 初めて会ったお前の前世は、普段は優しくて穏やかだが、一旦キレると手がつけられなかった……」

 精霊王様が溜め息を付きながら、そう言った。

 私の行動に驚いていたルイジアス殿下は、精霊王様の言葉を聞いて、
「そういえばルナリア嬢は出会った時も、そうだったような……普段はお淑やかなのに、怒ると凄く恐い。どうやら、全然変わってないようだな」
と、笑っている。

 乙女に向かって失礼な。
 そういえば、前世の日本人だった時も、友人にそんな事を言われた気がする……。

 でも、そんな事より早く父を助けたい私は、それを聞き流す。

「では、精霊王様! 早く父たちをお助け下さいませ!」
と、叫んだ。


 ハァ~ッと大きな溜め息をついたあと、精霊王様が指をパチンと鳴らす。
 すると壁一面に、木々の蔓や枝に巻き付かれて苦しんでいるお父様たちの姿が映った。

「お父様!」

 そのまま、もう一度精霊王様が指を鳴らすと、巻き付いていたものが一斉に解け、それぞれを解放する。
 呆気に取られているお父様たちだが、命に別状はないようでホッとした。

「今からあの者たちの所に、お前たちを飛ばす。木々たちに町まで出る1本道を作らせるから、そこを通って森を出ればいい。
 カルステイン帝国とロックウェル王国、どちらに道を作る?」
 
 精霊王様のその言葉に、ルイジアスがすぐに「カルステイン帝国で」と返答する。

 それを聞いた精霊王様は頷き、
「それがいい。あの王国はもうすぐ駄目になるだろう」
 そう言った。

「駄目になる?」
 それを聞いた私は質問する。

 しかし、精霊王様はそれには答えず、
「ルナリア、一旦帰すが、お前の父親たちが落ち着いたら一度ここに戻ってこい。お前には色々話しておきたい事があるからな」

 そう言って指をパチンと鳴らす。

 気がつけば、私とルイジアス殿下は、呆然とその場に座り込んでいる父達の前まで飛んでいた。
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