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第15章
彼女の決意(2)
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流奈はそっと椅子に座り直して、震える唇でゆっくりと話し出した。
「小さい頃から褒められるのが好きで、両親が喜ぶから手伝いもして妹の面倒も見た。偉いね、ありがとうって言われるのが嬉しかった」
流奈は訥々と話した。
昔のことを懐古するように、でもそれはどこか他人事のようにも感じられた。
ずっと言えずに溜め込んでいたことを話すのは、それ相応の覚悟と勇気が必要だ。
彼女が今どんな気持ちで話してるんだろうと思うと、胸の奥がギュッと痛くなった。
それをなんとか堪えながらも彼女の言葉を聞き逃さないように、しっかりと耳を傾ける。
「でも、そのうち私は〝お姉ちゃん〟としてしか見てもらえなくなった。なにかあるたびに、お姉ちゃんだから、って言われてた。頑張れって」
「…うん」
「私は私なりに頑張ってる。ただ両親が求めてるところまで行けないってだけ。学校の先生もそうだった。頑張れ、もっとできる――そればっかり」
ふと思い出す。
そういえば、7年前のあの時、流奈は自分に対しての評価が低かった気がする。
すごいことでも否定して、自分で自分を認めてあげていなかった。
「私はどこまで頑張ればいいの? どこまで行けば頑張ってるって認めてもらえるの? ――何度もそう思った」
人の頑張りは表面からじゃわからない。
結果が見えないことが頑張ってない、ということにはならない。
たとえ結果が出なくても、結果を出そうと努力した時間が必ずある。
その過程を想像もせずに結果だけ見てダメだと決めつけるなんて、したらいけない。
俺はそう思うのに、今まで流奈の周りにいた人達はそう思ってはくれなかったのか。
「頑張れ――その言葉は、私にとってはプレッシャーになった。そう言われるたびに頑張ってないって言われてる気がして、もっと頑張らなきゃって」
「………」
「つらいって思うのは私が弱いから、我慢が足りないからだ。そう思ったら、自分がダメな人間みたいで苦しくてたまらなくなった」
流奈の言葉が胸に突き刺さる。
彼女が自分のことを卑下するたびに、蔑むような言い方をするたびに苦しくなる。
大事な人がそんなふうに言われるのは、たとえそれが流奈自身の言葉でも嫌だ。
あぁそうか、流奈もずっとこんな気持ちだったんだ。
「どうしようもなくなって弱音を吐いても、誰もわかってくれない。それに追いつめられる気がして、死にたいって思うようになった」
環境は違っても、流奈も俺と同じように生きることを諦めかけていた。
だから、俺がすることや思ってることを肯定こそしなくても否定もせずにいてくれた。
それはきっと、そうしてしまったらその人の存在も否定することと同じだからかもしれない。
どこか同じ匂いを感じていたのは、同じふうに〝死〟を考えたことがあるからだったんだ。
「そんな時にあっくんが声をかけてくれたの。るーちゃんは頑張ってるよ、って言ってくれた」
「…俺、そんなこと言った?」
「うん。それが私にはすごく嬉しくて、すごく救われた。やっと認められた気がしたの」
何気なく言った言葉が、流奈の救いになった。
それだけで俺達が出会った意味はあって、……きっと再会した意味も。
7年前に流奈を救ったのが俺なら、俺を救えるのも流奈しかいない。
だから俺達は必然と出会い、そして惹かれた。
「あっくんの心臓が悪いことを知って、私よりもつらいのに笑顔で頑張ってる姿を見て、私は前を向こうって思えたの。また会えた時に胸を張れるようにって」
俺があの時あの場所になぜいたのか、よく思い出せない。
あそこに行ったのは確かあの一度きりで、あれ以来行く機会もなかった。
そんな中で流奈と出会えたのは、神様の思し召しだったに違いない。
「小さい頃から褒められるのが好きで、両親が喜ぶから手伝いもして妹の面倒も見た。偉いね、ありがとうって言われるのが嬉しかった」
流奈は訥々と話した。
昔のことを懐古するように、でもそれはどこか他人事のようにも感じられた。
ずっと言えずに溜め込んでいたことを話すのは、それ相応の覚悟と勇気が必要だ。
彼女が今どんな気持ちで話してるんだろうと思うと、胸の奥がギュッと痛くなった。
それをなんとか堪えながらも彼女の言葉を聞き逃さないように、しっかりと耳を傾ける。
「でも、そのうち私は〝お姉ちゃん〟としてしか見てもらえなくなった。なにかあるたびに、お姉ちゃんだから、って言われてた。頑張れって」
「…うん」
「私は私なりに頑張ってる。ただ両親が求めてるところまで行けないってだけ。学校の先生もそうだった。頑張れ、もっとできる――そればっかり」
ふと思い出す。
そういえば、7年前のあの時、流奈は自分に対しての評価が低かった気がする。
すごいことでも否定して、自分で自分を認めてあげていなかった。
「私はどこまで頑張ればいいの? どこまで行けば頑張ってるって認めてもらえるの? ――何度もそう思った」
人の頑張りは表面からじゃわからない。
結果が見えないことが頑張ってない、ということにはならない。
たとえ結果が出なくても、結果を出そうと努力した時間が必ずある。
その過程を想像もせずに結果だけ見てダメだと決めつけるなんて、したらいけない。
俺はそう思うのに、今まで流奈の周りにいた人達はそう思ってはくれなかったのか。
「頑張れ――その言葉は、私にとってはプレッシャーになった。そう言われるたびに頑張ってないって言われてる気がして、もっと頑張らなきゃって」
「………」
「つらいって思うのは私が弱いから、我慢が足りないからだ。そう思ったら、自分がダメな人間みたいで苦しくてたまらなくなった」
流奈の言葉が胸に突き刺さる。
彼女が自分のことを卑下するたびに、蔑むような言い方をするたびに苦しくなる。
大事な人がそんなふうに言われるのは、たとえそれが流奈自身の言葉でも嫌だ。
あぁそうか、流奈もずっとこんな気持ちだったんだ。
「どうしようもなくなって弱音を吐いても、誰もわかってくれない。それに追いつめられる気がして、死にたいって思うようになった」
環境は違っても、流奈も俺と同じように生きることを諦めかけていた。
だから、俺がすることや思ってることを肯定こそしなくても否定もせずにいてくれた。
それはきっと、そうしてしまったらその人の存在も否定することと同じだからかもしれない。
どこか同じ匂いを感じていたのは、同じふうに〝死〟を考えたことがあるからだったんだ。
「そんな時にあっくんが声をかけてくれたの。るーちゃんは頑張ってるよ、って言ってくれた」
「…俺、そんなこと言った?」
「うん。それが私にはすごく嬉しくて、すごく救われた。やっと認められた気がしたの」
何気なく言った言葉が、流奈の救いになった。
それだけで俺達が出会った意味はあって、……きっと再会した意味も。
7年前に流奈を救ったのが俺なら、俺を救えるのも流奈しかいない。
だから俺達は必然と出会い、そして惹かれた。
「あっくんの心臓が悪いことを知って、私よりもつらいのに笑顔で頑張ってる姿を見て、私は前を向こうって思えたの。また会えた時に胸を張れるようにって」
俺があの時あの場所になぜいたのか、よく思い出せない。
あそこに行ったのは確かあの一度きりで、あれ以来行く機会もなかった。
そんな中で流奈と出会えたのは、神様の思し召しだったに違いない。
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