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第12章
臓器移植(1)
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「実は臓器移植ネットワークから連絡があったんだ。臓器提供者が現れたとね」
それは脳死した誰かの心臓を移植する、ということ。
そうすれば、16歳までしか生きられないと言われた俺でももっと生きることができる。
その話を聞いた両親は驚きながらも、「よかった」と言って手を取り合って涙を流している。
この日が来ることをずっと前から、それこそ俺が生きるのを諦めていた時から望んでいた。
だけど俺はまだ頭が追いついていなくて、それを本当に喜んでいいのかわからずにいた。
臓器提供者にも家族はいて、たくさん悩んで考えてその決断をしたと思う。
本当なら体に傷をつけるのは嫌なはずなのに、それでも臓器提供という道を選んだ。
でも、自分が生きるためとはいえ、そのことを喜んでしまったら誰かの死を望んでいたのと同じようで。
「適合するかどうかは見てみないとわからないし、したとしても拒絶反応や合併症、感染症が起こらないとも限らない。もし移植をすると言うのなら、1時間以内に連絡しないといけない」
1時間以内――そのあいだに臓器移植を受けるのか受けないのか、決めないといけない。
自分の体のことを考えれば、悩むまでもなく受けるのがいいとわかっているけど……。
「…少し、考えさせて下さい」
あまり時間がないのはわかっていても、そんなすぐに決断が出せるようなものじゃない。
そこには人の死、人の悲しみや苦しみがあるんだから安易にできるわけがない。
臓器移植が俺の命を繋ぐものだとしても、俺の未来に繋がることだとしても。
「っ、蒼月!?」
そう言うと思わなかったのか母さんは大きな声を上げて、どうして、と言う目で見てくる。
今まで散々心配や迷惑を掛けてきた。
臓器移植をすればそれは軽減されるし、想ってくれる人達のためにはそれがいいことなのかもしれない。
だけどそれでもすぐに答えが出ない、出せない。
「手術をすればもっと生きられるのよ? 16歳までじゃなくて、きっと高校も卒業できる」
「………」
「なにを迷うことがあるの? 私は…っ、私達はずっとこの日を待っていたのよ?」
「…うん、わかってる」
「それじゃあ――」
ごめん、それでもすぐには無理だ。
そこに人の死が関わっている以上、俺はその人やその家族のことを考えないといけない。
死にたくないから、生きたいから、という理由だけで、臓器移植を受けて本当にいいのか。
それはまるで脳死したその人を利用しているようで、そんな自分が悪い人間みたいで。
「母さんや父さんの気持ちはわかってる。手術をしないと、俺は死ぬんだってことも」
生きたい――その気持ちに嘘偽りはなくて本音で、流奈と一緒にいたいと思ってる。
ちゃんと自分の気持ちを伝えれば、彼女はきっと可愛く笑って喜んでくれる。
その顔が、見たい。
でも、それは自分の都合じゃないのか?
大切な人を亡くすだけでもつらいのに臓器移植なんて、本当にいいのか?
そういう思いがぐるぐる巡って、同じところを行ったり来たりしている。
臓器提供者が見つかった、ラッキー、これで死なずに済む――そう思えたらよかった。
「でも、少しだけ考える時間が欲しい」
納得して答えが出せるまで。
こんな気持ちで仮に臓器移植を受けたところで、きっと苦しくなるだけ。
やるならやるでいい、ただ自分の気持ちに整理をつけてからしたい。
そうしないと、臓器移植を受けて生き延びたことを後悔しそうになるから。
それは提供してくれた人、その家族に対して申し訳ないから。
「わかった。ギリギリまで待つから納得できる答えを出しなさい」
杉野先生はそう言って、病室から出ていった。
それは脳死した誰かの心臓を移植する、ということ。
そうすれば、16歳までしか生きられないと言われた俺でももっと生きることができる。
その話を聞いた両親は驚きながらも、「よかった」と言って手を取り合って涙を流している。
この日が来ることをずっと前から、それこそ俺が生きるのを諦めていた時から望んでいた。
だけど俺はまだ頭が追いついていなくて、それを本当に喜んでいいのかわからずにいた。
臓器提供者にも家族はいて、たくさん悩んで考えてその決断をしたと思う。
本当なら体に傷をつけるのは嫌なはずなのに、それでも臓器提供という道を選んだ。
でも、自分が生きるためとはいえ、そのことを喜んでしまったら誰かの死を望んでいたのと同じようで。
「適合するかどうかは見てみないとわからないし、したとしても拒絶反応や合併症、感染症が起こらないとも限らない。もし移植をすると言うのなら、1時間以内に連絡しないといけない」
1時間以内――そのあいだに臓器移植を受けるのか受けないのか、決めないといけない。
自分の体のことを考えれば、悩むまでもなく受けるのがいいとわかっているけど……。
「…少し、考えさせて下さい」
あまり時間がないのはわかっていても、そんなすぐに決断が出せるようなものじゃない。
そこには人の死、人の悲しみや苦しみがあるんだから安易にできるわけがない。
臓器移植が俺の命を繋ぐものだとしても、俺の未来に繋がることだとしても。
「っ、蒼月!?」
そう言うと思わなかったのか母さんは大きな声を上げて、どうして、と言う目で見てくる。
今まで散々心配や迷惑を掛けてきた。
臓器移植をすればそれは軽減されるし、想ってくれる人達のためにはそれがいいことなのかもしれない。
だけどそれでもすぐに答えが出ない、出せない。
「手術をすればもっと生きられるのよ? 16歳までじゃなくて、きっと高校も卒業できる」
「………」
「なにを迷うことがあるの? 私は…っ、私達はずっとこの日を待っていたのよ?」
「…うん、わかってる」
「それじゃあ――」
ごめん、それでもすぐには無理だ。
そこに人の死が関わっている以上、俺はその人やその家族のことを考えないといけない。
死にたくないから、生きたいから、という理由だけで、臓器移植を受けて本当にいいのか。
それはまるで脳死したその人を利用しているようで、そんな自分が悪い人間みたいで。
「母さんや父さんの気持ちはわかってる。手術をしないと、俺は死ぬんだってことも」
生きたい――その気持ちに嘘偽りはなくて本音で、流奈と一緒にいたいと思ってる。
ちゃんと自分の気持ちを伝えれば、彼女はきっと可愛く笑って喜んでくれる。
その顔が、見たい。
でも、それは自分の都合じゃないのか?
大切な人を亡くすだけでもつらいのに臓器移植なんて、本当にいいのか?
そういう思いがぐるぐる巡って、同じところを行ったり来たりしている。
臓器提供者が見つかった、ラッキー、これで死なずに済む――そう思えたらよかった。
「でも、少しだけ考える時間が欲しい」
納得して答えが出せるまで。
こんな気持ちで仮に臓器移植を受けたところで、きっと苦しくなるだけ。
やるならやるでいい、ただ自分の気持ちに整理をつけてからしたい。
そうしないと、臓器移植を受けて生き延びたことを後悔しそうになるから。
それは提供してくれた人、その家族に対して申し訳ないから。
「わかった。ギリギリまで待つから納得できる答えを出しなさい」
杉野先生はそう言って、病室から出ていった。
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