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第4章
二人の場所(6)
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すると、流奈は掴んだ手を離したと思ったら、ギュッと抱き着いてきた。
初めてのことじゃないとはいえ動揺して、思わずそのまま尻餅をついてしまった。
お尻に鈍い痛みが走るものの、自分よりも流奈のことが心配だった。
今の拍子にケガをしたりしてないか、と。
「…っわ、悪い。大丈夫か?」
流奈はその問いかけには答えず、強く抱き着いたままで離れようとしない。
彼女の柔らかい肌を感じるだけで、またどうしようもなくドキドキする。
もしかして、そんな俺の反応を知っていてからかっているのだろうか。
「……流奈?」
俺はどうすればいいかわからず、とりあえずそのまま頭をくしゃりと撫でた。
サラサラしていて気持ちいい。
そういえば女の頭を撫でるのは流奈だけだな――なんて、ふとそんなことを考えた。
「やっぱり、あっくんていいよね。すごく好き」
「……そりゃどーも」
ぶっきらぼうに言うと、流奈は肩を揺らして笑った。
俺が照れ隠しでそう言ったことにきっと彼女は気付いていて、でもそれ以上はなにも言わなかった。
「また会ってくれる?」
嫌だって言っても、また今日みたいにホースの水を撒いて俺を呼び出すくせに。
もし俺が流奈を避けたとしても、彼女のことだからどうせ近づいてくるくせに。
それをたったの少しも嫌だと思ってないから、流奈と同じ時間を過ごすんだ。
「……気が向いたら」
「うん、いいよそれで。あっくんに会えるだけで私はすごく嬉しい」
「……ふうん、変なヤツ」
それ以上の言葉は見当たらない。
体をそっと離すと、流奈は無邪気に笑うからドキリと胸が高鳴った。
それは気のせいだと無理やりに押しやり、なんでもないふうを装うだけ。
女と付き合ったことのない自分には、女とのうまい接し方もわからない。
行動もそうだし言葉も、自分が流奈に対してしていることが正しいのかどうなのか。
「じゃあ、またね、あっくん」
俺を振り回すだけして、流奈はいつもと変わらずに笑ってスカートを翻して行った。
ふわりと揺れたスカートから白い足が覗き、それを見ないように目を逸らした。
流奈がいなくなって一人になると、一気にしんとなったような気がする。
その中でも彼女のシャンプーの残り香がある気がして、なんとも言えない気持ちになる。
ただ、他の人にはなにも感じないようなことが流奈だと心が反応してしまう、というだけ。
「ルナレインボー、か」
もう見えなくなった虹を見るように空を仰げて、そっと小さく呟く。
流奈の名前の由来。
今まで月虹とか興味なんてなかったのに、同じ〝月〟を持つ彼女といるうちに気になり出した。
夜に一人で空を見ると、ふっと流奈のことを思い出したりして、なにしてるかなって考えたりして。
なんて、流奈にそんなことを言ったらまたいろんな意味で振り回されるだろうから、絶対に言ってやらないけど。
出会ってから数日、俺の中で流奈といられる時間は貴重に思えるようになった。
流奈といる時は気楽で安心して、本当の自分でいられるような気がしたから。
「見てみたい、な」
死にたい、と思った。
そしたら楽になれるって思ったのに。
流奈との何気ない一言が俺の気持ちを少しずつ変えて、なにも見えなかった明日を見たいと思ってしまった。
ないはずの未来を、希望を、ほんの少しの可能性に期待したくなったんだ。
初めてのことじゃないとはいえ動揺して、思わずそのまま尻餅をついてしまった。
お尻に鈍い痛みが走るものの、自分よりも流奈のことが心配だった。
今の拍子にケガをしたりしてないか、と。
「…っわ、悪い。大丈夫か?」
流奈はその問いかけには答えず、強く抱き着いたままで離れようとしない。
彼女の柔らかい肌を感じるだけで、またどうしようもなくドキドキする。
もしかして、そんな俺の反応を知っていてからかっているのだろうか。
「……流奈?」
俺はどうすればいいかわからず、とりあえずそのまま頭をくしゃりと撫でた。
サラサラしていて気持ちいい。
そういえば女の頭を撫でるのは流奈だけだな――なんて、ふとそんなことを考えた。
「やっぱり、あっくんていいよね。すごく好き」
「……そりゃどーも」
ぶっきらぼうに言うと、流奈は肩を揺らして笑った。
俺が照れ隠しでそう言ったことにきっと彼女は気付いていて、でもそれ以上はなにも言わなかった。
「また会ってくれる?」
嫌だって言っても、また今日みたいにホースの水を撒いて俺を呼び出すくせに。
もし俺が流奈を避けたとしても、彼女のことだからどうせ近づいてくるくせに。
それをたったの少しも嫌だと思ってないから、流奈と同じ時間を過ごすんだ。
「……気が向いたら」
「うん、いいよそれで。あっくんに会えるだけで私はすごく嬉しい」
「……ふうん、変なヤツ」
それ以上の言葉は見当たらない。
体をそっと離すと、流奈は無邪気に笑うからドキリと胸が高鳴った。
それは気のせいだと無理やりに押しやり、なんでもないふうを装うだけ。
女と付き合ったことのない自分には、女とのうまい接し方もわからない。
行動もそうだし言葉も、自分が流奈に対してしていることが正しいのかどうなのか。
「じゃあ、またね、あっくん」
俺を振り回すだけして、流奈はいつもと変わらずに笑ってスカートを翻して行った。
ふわりと揺れたスカートから白い足が覗き、それを見ないように目を逸らした。
流奈がいなくなって一人になると、一気にしんとなったような気がする。
その中でも彼女のシャンプーの残り香がある気がして、なんとも言えない気持ちになる。
ただ、他の人にはなにも感じないようなことが流奈だと心が反応してしまう、というだけ。
「ルナレインボー、か」
もう見えなくなった虹を見るように空を仰げて、そっと小さく呟く。
流奈の名前の由来。
今まで月虹とか興味なんてなかったのに、同じ〝月〟を持つ彼女といるうちに気になり出した。
夜に一人で空を見ると、ふっと流奈のことを思い出したりして、なにしてるかなって考えたりして。
なんて、流奈にそんなことを言ったらまたいろんな意味で振り回されるだろうから、絶対に言ってやらないけど。
出会ってから数日、俺の中で流奈といられる時間は貴重に思えるようになった。
流奈といる時は気楽で安心して、本当の自分でいられるような気がしたから。
「見てみたい、な」
死にたい、と思った。
そしたら楽になれるって思ったのに。
流奈との何気ない一言が俺の気持ちを少しずつ変えて、なにも見えなかった明日を見たいと思ってしまった。
ないはずの未来を、希望を、ほんの少しの可能性に期待したくなったんだ。
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